肺がんのステージ別の症状と余命など解説

肺がんは治りにくいがんの一つといわれています。その背景に肺がんは早期発見が難しく、気付いたときにはステージが進んでいることが挙げられます。
「肺がんになったらどのような自覚症状があるのか」「ステージごとの余命を知りたい」といった不安を感じる方もいらっしゃることでしょう。
今回は肺がんについて、基本情報・ステージごとの症状や5年生存率・治療方法などについて分かりやすく解説します。ぜひ最後までチェックしてください。
目次
肺がんとは

日本において肺がんの罹患者数は、大腸がんに次いで2番目に多く、性別では男性・女性ともに4位です。2019年には126,548人の方が新たに肺がんにかかったと報告されています。肺がんに罹患した割合を年齢でみると、40歳代後半から年齢を重ねるごとに増加の一途をたどります。
参照:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
一方、肺がんの死亡者数については2020年に75,000人を超え、性別でみると男性では1位、女性においても2位です。男性の方が罹患者数・死亡者数ともに多く、女性の2倍となっています。
参照:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)
肺がんの特徴は、がん細胞が血液やリンパ液の流れに乗って、別の臓器に転移しやすいことです。肺がんの転移しやすい場所は、反対側の肺・脳・骨・肝臓・副腎が挙げられます。
肺がんの種類
肺がんの種類は、非小細胞肺がんと小細胞肺がんに分けられます。半数以上は非小細胞がんで、10~15%が小細胞がんです。それぞれの組織の特徴について解説します。
非小細胞肺がん
非小細胞肺がんは組織の特徴から次の3つに区分されます。
腺がん
- 全体の50~60%で肺がんのなかで最も多いタイプ
- 主に気管支の先から発生する
- たばこを吸わない人にも発生します
扁平上皮がん
- 全体の25~30%で2番目に多いタイプ
- 主に太い気管支から発生する
- たばことの関係が深いとされています
大細胞がん
- 全体の5%ほどの少ないタイプ
- 肺の奥の方から発症する
- 薬物治療や放射線療法が効きにくい
小細胞がん
- 全体の10~15%にみられるタイプ
- 肺の入口の太い気管支から発生する
- がん細胞の形が小さい
- 増殖がはやく転移しやすいため、悪性度が非常に高い
- たばことの関係が深いとされています
肺がんの原因
肺がんの発症と最も関連があるのはたばこです。喫煙者は非喫煙者と比べて、およそ4.5倍リスクが高まるといわれています。喫煙本数が1日20本以上と多いほど、喫煙開始年齢が早いほど高リスクです。
職業に起因することは、工場・建設現場・鉱山で働く人で、アスベスト・ラドン・ヒ素・クロロメチルエーテル・クロム・ニッケルに曝露された経験のある人では肺がんの危険性が高くなります。家族歴や大気汚染もリスクの一因と考えられていますが、はっきりと解明されていません。
肺がんのステージとは

ステージは病期のことで、がんの広がり具合や転移の有無などを表しています。肺がんではステージ0~ステージ4まで5段階に区分され、数字が大きくなるほど病状が進んでいることを示しています。
肺がんのTMN分類
肺がんのステージを決める指標にTMN分類があります。それぞれの要素は次の通りです。
T因子は、肺がん組織の大きさと、どこまで進展しているかを示したもので、全13段階に区分されています。N因子は、リンパ節へ転移しているか否か、どのリンパ節まで達しているかを示したもので、全5段階に区分されています。
M因子は、別の臓器へ転移しているか否かを示したもので、全4段階に区分されています。この3つの指標をもとに進行度を示すのがTNM分類になります。
肺がんのステージ分類
上記で解説したT・M・Nの3因子を組み合わせ、肺がんのステージをおおまかに区分すると下表の通りになります。
ステージ0 |
|
ステージ1 |
|
ステージ2 |
上記は認められるが、別の臓器への転移なし。 |
ステージ3 |
|
ステージ4 |
|
小細胞がんでは上記のステージ分類のほかに、次の分類も一緒に使用します。
限局型 |
|
進展型 |
|
肺がんのステージ別5年生存率

すべての肺がんについて、全体の5年生存率は44.4%です。どの種類の肺がんにおいても、転移がみられると5年生存率は著しく低下してしまいます。肺がんを早期発見・早期治療ができるように、継続したがん検診や人間ドックの受診が大切です。
すべての肺がんで、ステージごとの5年生存率は以下の通りになります。
ステージ1 | 81.5% |
ステージ2 | 51.0% |
ステージ3 | 28.6% |
ステージ4 | 8.0% |
非小細胞肺がんの5年生存率
非小細胞肺がんについて、全体の5年生存率は47.5%です。ステージごとの5年生存率は以下の通りになります。
ステージ1 | 82.2% |
ステージ2 | 52.6% |
ステージ3 | 30.4% |
ステージ4 | 9.0% |
小細胞肺がんの5年生存率
小細胞肺がんについて、全体の5年生存率は11.5%となり、ステージごとでは以下の通りです。
ステージ1 | 43.2% |
ステージ2 | 28.5% |
ステージ3 | 17.5% |
ステージ4 | 2.2% |
肺がんのステージ別の症状

肺がんには固有の症状がなく、早いステージでは自覚症状がほとんどみられません。何かしらの症状が現れるのは、がんがある程度大きくなってからです。肺がんになると、どのような症状がみられるのか、次から解説します。
初期症状
肺がんが肺の入口近くに発生すると、比較的早いうちから咳・痰・血痰があらわれます。しかし風邪や気管支炎でもみられる症状のため、多くの人が見落としやすいのです。
一方で、肺の奥から発生したがんでは、進行するまで目立つ症状はありません。がんが徐々に大きくなり、ステージが進むと、咳や痰に加えて胸の痛み・息切れ・動悸・発熱もみられるようになります。
進行がんの症状
肺がんのステージがいっそう進み、近くの臓器やリンパ節へ広がってくると次の症状が現れてきます。
- 声のかすれ
- 食べ物や飲み物を上手に飲み込めない
- 上半身のむくみ
肺がんが遠くの臓器へ転移するステージまで進むと以下の症状もみられます。
- 肩や背中の痛み
- 嘔吐や食欲低下
- 手足の麻痺やふらつき
- 呼吸困難
- 全身倦怠感
肺がんの治療方法

肺がんの治療方法には次の4つがあります。
- 手術
- 薬物治療
- 放射線治療
- 免疫療法
それぞれの治療方法について、以下より分かりやすく解説します。
外科手術
外科手術は、肺がんを確実に取り除いて根治させる目的でおこなわれます。
外科手術の手法
外科手術の手法には、開胸手術・腹腔鏡下手術があります。開胸手術は背中から胸部にかけて切開し、肋骨の間を開いておこないます。腹腔鏡下手術は、胸部に数ヶ所の小さな穴を開けて、小型カメラと手術器具を挿入して、モニター画像をみながらおこなう方法です。
腹腔鏡下手術のひとつに、ロボット支援下手術があります。手術部位を拡大して立体的に見えるカメラと可動域の広いロボットアームを用いて、より精密な手術をおこなうことが可能です。
外科手術の種類
手術の種類には、肺葉切除術・縮小手術・肺全摘術があります。肺には右肺と左肺があり、右肺は上葉・中葉・下葉の3つ、左肺は上葉・下葉の2つのエリアにわかれています。
肺葉切除術は、がんが含まれている肺葉(エリア)と周りのリンパ節ごと切り取る方法です。縮小手術では、肺を温存するために肺葉の一部だけ切り取ります。肺全摘術は、片方の肺と周りのリンパ節を切り取る方法です。
どの種類の手術をおこなうかは、がんの広がり具合や患者さんの体力を考慮して決められます。
薬物治療
肺がんの薬物治療で使われる薬剤は、細胞障害性抗がん剤・分子標的薬・血管新生阻害薬などがあります。細胞障害性抗がん剤とは、がん細胞が増殖するシステムに作用して、がんを減らしたり増殖を抑えたりする薬です。
分子標的薬は、肺がん細胞に特有の遺伝子やたんぱく質をターゲットにして、がんが増殖するのを抑えます。血管新生阻害薬は、がんに栄養や酸素を送るための新しい血管を作らないようにする薬です。血管新生阻害薬は単独ではなく、ほかの薬剤と併用するのが一般的です。
薬剤の選択は、ステージ・がんの性質・患者さんの全身状態をふまえて判断します。がんの性質を確認するために遺伝子検査やPD-L1検査がおこなわれるケースがあります。
放射線治療
放射線治療では、X線などの放射線をがんに照射して、がん細胞のDNAを傷つけることにより、がんを死滅させたり増殖するのを防いだりします。
放射線治療は3つの目的に分けられます。
1.根治的治療
がん細胞を死滅させて、治癒をめざす。
2.緩和的治療
がんが引き起こす痛みを鎮める。がん細胞が気道や血管を圧迫して起こる症状を和らげる。
3.予防的治療
がんの増大で生じる症状や別の臓器への転移を防ぐ。放射線治療は、単独でおこなわれるケースもあれば、薬物治療と併用するケースもあります。
免疫療法
免疫療法で保険適用されるものは、免疫チェックポイント阻害剤です。免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞が免疫細胞から攻撃されるのを回避するシステムに作用して、免疫機能を回復させます。
免疫チェックポイント阻害剤の適用には、がん遺伝子検査やPD-L1検査の結果が反映されます。単独で使用されたり、細胞障害性抗がん剤やほかの免疫チェックポイント阻害剤と併用したりします。
肺がんの種類による治療法の選択
肺がんの種類とステージごとの治療方法について表にまとめました。実際にはステージのほかに、患者さんの既往歴や体力・がんの性質・治療に対する希望を考慮し、総合的に判断します。
非小細胞肺がん
ステージ1・2では手術がメインとなりますが、患者さんの年齢や体力により手術がおこなえないケースでは放射線治療を適用することがあります。ステージ3では薬物治療と放射線治療の併用、ステージ4においては薬物治療や免疫療法が中心となります。
手術 | 薬物治療 | 放射線治療 | 免疫療法 | |
---|---|---|---|---|
ステージ1 | 〇 | △ | 〇 | ✕ |
ステージ2 | 〇 | 〇 | 〇 | △ |
ステージ3 | △ | 〇 | 〇 | △ |
ステージ4 | ✕ | 〇 | △ | 〇 |
小細胞肺がん
小細胞肺がんは、限局型か進展型によって適用できる治療が異なります。限局型では、がんの大きさによって手術もしくは放射線治療がおこなわれ、薬物治療も一緒におこなわれます。進展型では、薬物治療や免疫療法が中心です。両者を併用することもあります。
手術 | 薬物治療 | 放射線治療 | 免疫療法 | |
---|---|---|---|---|
限局型ステージ1・2A | 〇 | 〇 | 〇 | ✕ |
限局型ステージ1・2A以外 | ✕ | 〇 | 〇 | ✕ |
進展型 | ✕ | 〇 | ✕ | 〇 |
まとめ

肺がんは特徴的な初期症状がないため、気付いたときには進行がんになっているケースがよくみられます。肺がんの5年生存率は、ステージ4まで進むと著しく低下するため、がん検診や人間ドックで早期発見することが大切です。
肺がんの治療は、種類とステージによって適用できるものが異なります。近年は分子標的薬や免疫療法の登場により、生存期間がだんだん延びてきています。
納得して肺がんの治療を受けるためには、正確な知識と情報を得ることが必要です。主治医と十分相談しても、判断ができなかったり分からない点があったりしたときは、主治医以外の医療機関の医師から診断や治療方法について意見を聞くことができる「セカンドオピニオン制度」を活用してみてください。