がん治療における先進医療とは?選択する人の割合や費用、種類なども解説

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がん治療における先進医療とは?選択する人の割合や費用、種類なども解説

がん治療における先進医療とは?選択する人の割合や費用、種類なども解説

がん治療を検討する際、多くの場合に推奨される標準治療のほかに、標準治療とは異なるアプローチができる「先進医療」という選択肢があります。

先進医療は、厚生労働大臣が定める高度な医療技術を用いた治療法で、陽子線や重粒子線を使用した放射線治療から、抗がん剤の新しい併用療法までさまざまな種類があります。しかし、費用が高額になりやすく、受けられる医療機関も限られているなど注意が必要です。

今回は、先進医療の具体的な種類や費用、実際に選択する患者さんの割合について詳しく解説しましょう。

がん治療における先進医療とは?定義や標準治療との違い

がん治療における先進医療とは?定義や標準治療との違い

がん治療において、先進医療はどのように位置づけられているのか、定義や分類を解説します。また、標準治療との違いについても確認しましょう。

先進医療の定義

先進医療とは、厚生労働大臣が定める高度な医療技術を使用した、まだ保険適用されていない療養のことです。すでに認められている保険診療との併用が認められています。

それぞれの医療技術ごとに、基準を満たした医療機関において患者さんに対する治療をおこない、将来的に保険適用できるかどうか有効性や安全性を評価します。

先進医療における2つの区分

先進医療は「先進医療A」と「先進医療B」の2つに区分されています。

先進医療Aは、未承認・適応外の医薬品や医療機器を使用しない医療技術、または使用する場合においても治療をおこなう危険性が極めて低い医療技術が該当します。

先進医療Bは、未承認・適応外の医薬品や医療機器を使用する医療技術、または使用しない場合においては実施環境や有効性などを重点的に評価する必要のある医療技術が当てはまるのです。

先進医療と標準治療の違い

先進医療と標準治療の大きな違いは、保険適用されているか否かという点です。

先進医療は新しい医療技術を用いた治療ですが、有効性や安全性を評価している途中にあります。一方、標準治療は十分な科学的根拠に基づき、有効性や安全性が認められている点で、広く推奨されている治療になります。

がん治療における先進医療Aの種類

がん治療における先進医療Aの種類

がん治療における先進医療Aの主な種類と、それぞれの技術の内容について解説しましょう。

陽子線治療

陽子線治療は、放射線の1種である陽子線をがん組織に照射して、がんを死滅させる方法です。

陽子線は、これまで放射線治療で使われているX線と異なり、ある程度の深さで止まる直前にエネルギーを発する特徴があります。そのため、がん組織の場所に合わせて、陽子線の止まる深さを調整することで、周囲の組織へのダメージを最小限に抑えつつ、がんを攻撃することが可能です。

一部のがん種では保険適用されていますが、先進医療として適応されるのは以下のとおりです。

  • 脳腫瘍
  • 頭頸部がん(口腔・咽喉頭の扁平上皮がん)
  • 肺がん(ステージ1~ステージ2Aを除く)
  • 縦隔腫瘍
  • 肝細胞がん(一部)
  • 肝門部胆管がん
  • 胆道がん
  • 局所進行食道がん
  • 腎臓がん
  • 膀胱がん
  • 転移性がん

重粒子線治療

重粒子線治療は、放射線の1種である重粒子線をがん組織に照射して、がんを死滅させる治療法です。

重粒子線は、陽子線と似た性質があり、体内のある程度の深さで止まり、止まったところでエネルギーを放出します。がん組織の位置に合わせて、重粒子線の止まる場所を調節することで、がんを狙った照射が可能です。重粒子線は、陽子線と比べてがん組織を死滅させる力が強い特徴があります。

一部のがん種は保険適用されていますが、重粒子線治療の先進医療における適応は以下のとおりです。

  • 局所進行の非小細胞肺がん
  • 非小細胞肺がん(ステージ1~ステージ2A以外の早期がん)
  • 食道がん(ステージ1)
  • 肝臓がん(腫瘍径4cm未満)
  • 腎臓がん
  • 転移性がん

内視鏡的胃局所切除術

内視鏡的胃局所切除術は、腫瘍の長径が1.1cm以上、かつ3cm以下の胃粘膜下腫瘍に対して適応されます。

胃粘膜下腫瘍で現在おこなわれているのは、開腹手術または腹腔鏡下手術ですが、以下の問題点が挙げられています。

  • 傷口が大きくなる
  • 切除範囲が広くなる
  • がんが発生した部位によっては術後の食生活に影響がある

内視鏡的胃局所切除術では、全身麻酔下で口から内視鏡を入れます。内視鏡には鉗子口という操作器具を入れる入口があり、そこから電気メスを挿入してがんを切除します。さらに切除部分をクリップやワイヤーを用いて縫合するのです。

従来の方法と比べて、胃の切除範囲が小さく、お腹の皮膚に傷が残らないメリットがあります。

血中循環腫瘍DNAを用いた微小残存病変量の測定

血中循環腫瘍DNAを用いた微小残存病変量の測定は、切除可能な食道扁平上皮がんに対して適応されます。血液中に流れ出たがん細胞由来のDNA(ctDNA)を食道がん術後の再発率の予測因子として利用する方法です。

この方法では、がん組織を手術前の生検や手術のときに採取しておきます。血液は、治療前・術前化学療法後・術後1ヶ月・術後3ヶ月・術後6ヶ月に採取します。採取したがん組織と血液をそれぞれ調べて、データを突き合わせることでctDNAを検出し、再発リスクを評価するのです。

腹腔鏡下卵巣悪性腫瘍手術

腹腔鏡下卵巣覚醒腫瘍手術は、2025年3月1日より先進医療として開始された医療技術です。

婦人科がんにおける腹腔鏡手術は、子宮体がんや子宮頸がんにおいて保険適用されています。卵巣がんについてはまだ国内で保険適用されていませんが、海外では広く実施されているのです。

海外の症例では、従来の開腹手術と比べて以下のメリットが報告されています。

  • 手術によって傷つく範囲が小さい
  • 出血量が少ない
  • 手術後の痛みが少ない
  • 入院期間が短くなる

がん治療における先進医療Bの主な種類

がん治療における先進医療Bの主な種類

がん治療における先進医療Bの代表的な種類と、それぞれの技術の内容について解説しましょう。

術後のカペシタビン内服投与及びオキサリプラチン静脈内投与の併用療法

術後のカペシタビン内服投与及びオキサリプラチン静脈内投与の併用療法は、手術によって完全にがん組織を切除できたと判断できる、ステージ1~3の小腸腺がんに対して適応されます。

手術後に、術後化学療法としてカペシタビンとオキサリプラチンを併用する治療をおこないます。標準治療の手術のみの場合と比較して、がんの再発がない状態で生存できる期間が延びるかどうかを評価するのです。

S-1内服投与並びにパクリタキセル静脈内及び腹腔内投与の併用療法

S-1内服投与並びにパクリタキセル静脈内及び腹腔内投与の併用療法は、遠隔転移はしていないけれども、腹膜転移を伴う膵臓がんに対して適応されます。抗がん剤のS-1を内服し、パクリタキセルを静脈内に投与した上で、パクリタキセルを腹腔内にも投与する方法です。

この方法では、腹膜転移による腹水やお腹の張りの症状を軽くすることが期待されており、腹腔内にも抗がん剤を投与する方法の安全性や有効性を評価します。

術後のアスピリン経口投与療法

術後のアスピリン経口投与療法は、手術によってがん組織が完全に切除できたと判断される、ステージ3の下部直腸を除く大腸がんに対して適応されます。標準治療の術後補助化学療法に加えて、アスピリン100mg/日を毎日服用して、治療成績が改善するかどうかを評価します。

周術期デュルバルマブ静脈内投与療法

周術期デュルバルマブ静脈内投与療法は、肺尖部胸壁浸潤がん(化学放射線療法後のものであって、同側肺門リンパ節・縦隔リンパ節転移、同一肺葉内・同側の異なる肺葉内の肺内転移および遠隔転移のないもの)に適応されます。

肺尖部胸壁浸潤がんの標準治療は、手術前に化学療法と放射線治療をおこなってから、がんを切除する方法がおこなわれていますが、予後の悪いケースも多くみられます。周術期デュルバルマブ静脈内投与療法では、以下の治療成績の改善を評価するのです。

  • 手術前後に免疫チェックポイント阻害薬のデュルバルマブを投与する
  • 術前治療をおこなっても手術ができない場合にデュルバルマブを継続投与する

術前のゲムシタビン静脈内投与及びナブ-パクリタキセル静脈内投与の併用療法

術前のゲムシタビン静脈内投与及びナブ-パクリタキセル静脈内投与の併用療法は、70歳以上80歳未満の切除が可能な膵臓がん患者に対して適応されます。

抗がん剤のゲムシタビンの静脈内投与とナブ-パクリタキセルの静脈内投与を併用した治療法を手術前におこない、標準治療のゲムシタビンの静脈内投与とS-1の内服を併用した方法と比較します。生存期間が延びるか・手術前にどの程度効果があるかなど、高齢者における有効性や安全性を評価するのです。

がん治療で先進医療を選択する人の割合とメリット・デメリット

がん治療で先進医療を選択する人の割合とメリット・デメリット

がん治療で実際に先進医療を選択した人数を、医療技術ごとに確認しましょう。また、がん治療で先進医療を受けるメリットとデメリットについても解説します。

がん治療で先進医療を受けた人数

令和5年7月1日〜令和6年6月30日における先進医療の実績報告において、医療技術ごとの患者数は以下のとおりです。

【先進医療A】

陽子線治療827人
重粒子線治療442人
内視鏡的胃局所切除術28人
血中循環腫瘍DNAを用いた微小残存病変量の測定0人

【先進医療B】

術後のカペシタビン内服投与及びオキサリプラチン静脈内投与の併用療法8人
S-1内服投与並びにパクリタキセル静脈内及び腹腔内投与の併用療法17人
術後のアスピリン経口投与療法396人
周術期デュルバルマブ静脈内投与療法19人
術前のゲムシタビン静脈内投与及びナブ-

パクリタキセル静脈内投与の併用療法

57人

出典:先進医療の実績報告について(厚生労働省)厚生労働省ホームページ「先進医療の実績報告について」

令和5年にがんと診断された件数は1,149,859件と報告されており、がん治療で先進医療を選択する割合は1%にも満たないのが現状です。

出典:院内がん登録全国集計|がん情報サービス(国立研究開発法人国立がん研究センター)がん情報サービス(国立研究開発法人国立がん研究センター)「院内がん登録全国集計」

がん治療で先進医療を受けるメリット

がん治療で先進医療を受けるメリットは大きく3つあります。

1つ目は、治療の選択肢が広がることです。先進医療は、標準治療をおこなっても改善がみられないケースにおいて、予後の改善が期待できます。

2つ目は、体への負担軽減が期待できることです。陽子線治療や重粒子線治療では、従来の放射線治療と比べて健康な組織へのダメージを抑えながら、がん組織に集中して放射線を照射できます。

3つ目は、保険診療と併用できることです。保険適用されていない治療をおこなう場合、通常は診察や検査にかかる費用がすべて自己負担になります。先進医療は保険外診療にはなりますが、厚生労働大臣が定めた「評価療養」であるため、技術料以外の診察や入院などにかかる費用は保険適用されるのです。

がん治療で先進医療を受けるデメリット

がん治療で先進医療をうける際はデメリットも生じます。

1つは、治療費が高額になりやすいことが挙げられます。先進医療の技術料は全額自己負担です。陽子線治療や重粒子線治療など一部の方法では、300万円前後の高額な費用がかかります。

先進医療は、受けられる医療機関が限られています。それぞれの医療技術ごとに、厚生労働大臣へ届け出て、承認を受けた医療機関のみ実施できます。場合によっては、遠方の医療機関まで受診しなければならない可能性があるのです。

また、先進医療は評価段階にあるため、有効性や安全性に懸念があり、予期せぬ副作用が生じる可能性もあります。指定された期間のうちに、有効性や安全性が認められない場合は、先進医療の指定から削除されることもあるのです。

がん治療で先進医療にかかる費用

がん治療で先進医療を受ける場合、支払う費用がどのくらいかかるのか解説しましょう。

先進医療で支払う費用

先進医療を受けた場合に支払う費用は、先進医療の技術料と通常の診察・検査・入院などにかかる費用を合計した金額です。先進医療では、保険診療と保険外診療の併用が認められています。先進医療の技術料は全額自己負担ですが、診察・検査・入院などにかかる費用は保険適用され、個人の負担割合により実際に支払う金額が異なります。

主な先進医療の技術料

主な先進医療の技術料は以下のとおりになります。

陽子線治療288万円~300万円
重粒子線治療314万円~350万円
内視鏡的胃局所切除術20万円~23万円
術後のカペシタビン内服投与及びオキサリプラチン静脈内投与の併用療法3万円~5万円
S-1内服投与並びにパクリタキセル静脈内及び腹腔内投与の併用療法1コース5万円前後

先進医療における公的支援制度の活用方法

先進医療は、治療費が高額になる傾向があります。経済的な負担を軽減するために活用できる制度を確認しましょう。

1つ目は、自治体の支援制度の利用です。一部の自治体では、先進医療に対する助成金を設けています。

2つ目は、医療費控除の活用です。先進医療の技術料は、医療費控除の対象となります。先進医療の支払い金額が10万円を超えた場合(年間の総所得額が200万円未満のときは、総所得額の5%を超えた場合)、確定申告をおこなうと医療費控除を受けることができます。

3つ目は、高額療養費制度の利用です。先進医療の技術料以外の診察・検査・入院などについては、支払い金が一定額を超えると高額療養費制度を利用できます。

がん治療で先進医療を選択したいときの注意事項

がん治療で先進医療を選択したいときの注意事項

がん治療で先進医療を検討するときに、注意することを3つのポイントに分けて解説しましょう。

自分の病状や先進医療に対する知識を身につける

先進医療は、希望すれば必ず受けられるということではなく、患者さんにとって必要な治療で理にかなっていると医師が判断した場合に選択できます。現時点の自分の病状や、先進医療の内容について、主治医やがん相談支援センターなどの専門家に相談して、正しい知識を身につけることが大切です。

先進医療の適応となっていても、病状によっては受けられないこともあるため注意しましょう。

セカンドオピニオンを活用する

先進医療を受けるか迷ったときは、セカンドオピニオンを活用すると良いです。セカンドオピニオンでは、主治医とは異なる病院の医師から、第三者の目線で意見を聞くことができます。

複数の医師から説明を受けることで、検討している先進医療に対する理解が深まるため、方針の決定に役立つでしょう。

最終的な治療費を確認する

先進医療は、種類によって高額になるものがあります。また、先進医療をおこなっている医療機関は限られているため、場合によっては遠方まで通院する必要があり、交通費や宿泊費など思わぬ負担が増すこともあるのです。

治療に直接かかる費用のみならず、通院にかかる費用も確認して、最終的な金額を把握しておくようにしましょう。

まとめ

がん治療における先進医療は厚生労働大臣が定める高度な医療技術を用いた治療法

がん治療における先進医療は、陽子線治療や重粒子線治療などの厚生労働大臣が定める高度な医療技術を用いた治療法です。選択する患者さんの割合は1%に満たないものの、標準治療では改善が見込めない場合の選択肢として期待されています。

先進医療を受ける際の注意点は、技術料が高額になるケースが多いことや、評価段階にある治療法のため、有効性や安全性について懸念があることです。先進医療を希望する際は、主治医やがん相談支援センターに相談し、必要に応じてセカンドオピニオンも活用しながら、納得のいく治療方針を見つけていきましょう。

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