脳腫瘍の症状とは?原因や治療法など解説
脳腫瘍は頭蓋内にできるがんです。脳の検査は通常の健康診断には含まれておらず、脳ドックのような検診を受けないとなかなか気付けません。この記事では、脳腫瘍には自分で気付ける兆候はあるのか、どんな症状が出るのか、検査や治療の方法などについて解説します。
目次
脳腫瘍とは
脳腫瘍とは、頭蓋骨の中にできる腫瘍の総称です。部位によって発生する腫瘍の種類は様々です。脳腫瘍の日本国内の罹患率は人口10万人あたり10~12人と推定されており、年間およそ2万人に発生していると考えられています。頻度は高くなく、悪性脳腫瘍は希少がんとされていますが、小児がんの中では2番目に多いがんです。
5年相対生存率は脳腫瘍の種類によって大きく異なります。100%近いものもありますが、低いものだと16.0%(膠芽腫)、48.2%(中枢神経系悪性リンパ腫)などとなっています。
小児脳腫瘍の場合も生存率が高いものもありますが、退形成性星細胞腫が23.5%、膠芽腫が20.6%、胎児性腫瘍が62.3%となっています。
脳腫瘍の種類
脳腫瘍は大きく分けて原発性脳腫瘍と転移性脳腫瘍とに分けられます。
原発性脳腫瘍は脳の細胞や脳神経などから発生した腫瘍です。良性腫瘍と悪性腫瘍に分けられます。増殖速度は早く、にじむように広がって境界がはっきりせず、大脳・小脳・脳幹に発生するものが悪性腫瘍です。
良性腫瘍は増殖速度が遅く正常な組織との境目がはっきりしており、髄膜・下垂体・脳神経に生じます。
脳腫瘍は細かく分類すると150種類以上あります。
原発性脳腫瘍は、以下の通りです。
- 神経膠腫(グリオーマ)
- 中枢神経系原発悪性リンパ腫
- 下垂体腺腫
- 髄膜腫
- 胚細胞腫
- 頭蓋咽頭腫
- 神経鞘腫
転移性脳腫瘍は他の臓器から転移してきたがんです。肺がんからの転移が約半数、乳がん、大腸がんと続きます。
神経膠腫(グリオーマ)
神経膠腫(グリオーマ)は神経膠細胞から発生する悪性脳腫瘍の1つです。神経膠腫にはびまん性星細胞腫(アストロサイトーマ)や乏突起膠腫(オリゴデンドログリオーマ)、退形成性星細胞腫、退形成性乏突起膠腫、膠芽腫(グリオブラストーマ)などの種類があります。
髄芽腫は20歳未満での発症が多い腫瘍です。悪性度が高く転移することもあり、5年生存率も低くなっています。悪性脳腫瘍の大半がこの神経膠腫です。
膠芽腫は45~65歳の男性に多く発症し、悪性度が高いがんです。急激に進行していきます。平均余命は1年半といわれています。
中枢神経系原発悪性リンパ腫
多くは前頭葉、側頭葉、基底核などに発生しますが、眼球や脊髄などの中枢神経系であればどこでも発生しうるがんです。中高年の方の発症が多く、特に60歳代で多いとされています。悪性のがんで、症状が現れてからの進行が早く、再発しやすいのが特徴です。エイズ患者の方の2~12%に発生するとされています。
下垂体腺腫
下垂体腺腫は下垂体の一部が腫瘍化したものです。ホルモン産生腺腫と非機能性下垂体腺腫の2種類があります。20~50歳の成人に多く、3番目に多い脳腫瘍であり、ほとんどは良性です。
髄膜腫
髄膜は頭蓋骨の内側にあり、脳を包む3層構造の膜(外から硬膜、クモ膜、軟膜)です。髄膜腫は原発性脳腫瘍の中で最も多いがんです。良性であることがほとんどですが、まれに悪性のこともあります。40~50歳に多く、女性は男性の2倍の発症率です。
胚細胞腫
胚細胞は後に精子や卵子になる細胞です。胚細胞腫は受精卵から胎児へ成長する過程で、胚細胞が他の部位へ移動して増殖します。多くは脳の正中線上に発生し、悪性度の高いがんです。
頭蓋咽頭腫
下垂体や視床下部付近に発生します。悪性度は低く、他の組織に広がることはありません。増殖すると下垂体や視神経を圧迫し、ホルモン産生や視覚に支障が出ることがあります。小児に多い腫瘍です。
神経鞘腫
神経鞘とは神経を取り巻いて支えている組織で、そこに生じた腫瘍が神経鞘腫です。85%は聞こえ方に関係する聴神経に発生します。良性の腫瘍で、増殖速度は緩やかです。
脳腫瘍の原因
脳腫瘍の原因はほとんど分かっていません。ストレスや環境など特定の原因はありません。がん全般の予防としてはバランスの取れた食事や禁煙、適性体形の維持、節度ある飲酒、適度な運動などが有効といわれています。
脳腫瘍の予防法としては確立されているものはありません。
脳腫瘍の症状
脳腫瘍や脳浮腫(脳のむくみ)の症状は、頭蓋骨内の圧力が高まって起こる「頭蓋内圧亢進症状」と、腫瘍が生じたところの脳が障害されて起こる「局所症状」があります。
頭蓋内圧亢進症状
脳は頭蓋骨に囲まれた空間内にあり、腫瘍ができることで頭蓋内の圧力が高まります。この影響であらわれる頭痛や吐き気、意識障害などが頭蓋内圧亢進症状です。人間の頭蓋内圧は睡眠中にやや高くなるため、寝起きに症状が強く出る傾向にあります。
腫瘍が大きくなっていくと脳脊髄液の流れが悪くなり、脳の中の空洞にたまって空洞が拡大する水頭症が起こることがあります。
局所症状(巣症状)
脳腫瘍の発生した部位によって症状が異なります。大脳では感覚障害、手足のしびれ・麻痺、失語症、記憶障害、視野が欠ける・狭くなる、ふらつきなどが起こります。
脳下垂体ではホルモン分泌が異常を来し、手足の先が大きくなる末端肥大、巨人症、女性は生理不順や無月経になります。
脳幹や小脳の場合はめまいや手足の震え、まっすぐ歩けない、手足は動くが目的に場所に行けないといった症状が出ます。
腫瘍の場所 | 局所症状の例 |
前頭葉 | 片麻痺、異常行動、言葉を理解できるがうまく話せない、性格が変化、年月日・場所が分からない、自発性の低下、集中力低下、記憶力低下、てんかん発作 |
側頭葉 | 言葉の理解が難しくなる、言葉の言い間違いが増える、腫瘍と反対側の視野が欠ける、てんかん発作 |
頭頂葉 | 腫瘍と反対側の感覚に障害、読み書きができない、計算ができない、左右の判断ができない、親指・人差し指など指の名前が言えない、左右片方の刺激を認識できない |
後頭葉 | 腫瘍と反対側の視野が欠ける |
視交叉・視床下部 | 視力・視野障害、尿の濃度の調整ができない、体温の調節ができない、意識の障害、睡眠障害、身長や食欲は正常に増えるが痩せていく、思春期が来るのが早すぎ・遅すぎる、肥満、異常行動 |
視床 | 運動麻痺、手足のしびれ、意識障害、痛みのある位置が分からなくなるなど感覚異常 |
脳幹 | 物が二重に見える、目が不自然に動く、頭が傾く、腫瘍が進行するまで頭蓋内圧亢進症状がみられない、顔や手足の感覚が鈍い、聴力低下、嚥下障害 |
小脳 | 動きやしゃべりがぎこちない、運動するときに距離をつかめない、眼球が痙攣したように動く、ふらつき・めまい、安定して歩けない |
脳神経 | 目の動きが悪くなる、物が二重に見える、顔が痺れる、顔の感覚の低下、聴力低下、耳鳴り、めまい |
脳腫瘍の種類別の症状
脳腫瘍はその種類によっても症状が大きく変わります。代表的な例を見ていきましょう。
髄膜腫
腫瘍が小さいうちは症状がありません。腫瘍が大きくなると運動麻痺、感覚障害、失語などの症状が現れます。水頭症や頭蓋内圧亢進症状が起こることもあります。
中枢神経系原発悪性リンパ腫
性格が変わる・ぼーっとするなどの精神症状が最も多く40%、頭痛や嘔吐などの頭蓋内圧亢進症状が33%、痙攣発作が14%、その他に失語や麻痺、うまく歩けないなどの症状が出ます。
神経膠腫(グリオーマ)
腫瘍の場所によって症状は様々です。片麻痺、視野障害、感覚障害、言語障害の他、朝の頭痛、嘔吐、意識障害などがあります。
下垂体腺腫
下垂体は視神経の下に位置しているため、腫瘍が大きくなるにつれて視力や視野に障害が起こることがあります。視野の外側が見えにくくなる両耳側半盲という症状が特徴的です。腫瘍に圧迫されることでホルモン産生に障害が出て、女性は月経不順、男性は体毛が薄くなったり性機能障害が起こったりすることがあります。抗利尿ホルモンの産生が影響を受けると、大量の尿が出る尿崩症が見られることがあります。
頭蓋咽頭腫
視神経や視交叉が圧迫され、視力や視野の障害が起こります。下垂体や視床下部が圧迫されるとホルモン産生が低下し、性機能障害や甲状腺機能低下、月経不順が起こるのです。尿崩症が起こる場合もあります。
神経鞘腫
聴神経鞘腫では聴力低下や耳鳴り、めまい、顔面麻痺、歩くとふらつくなどの症状が出ます。三叉神経鞘腫では顔面の痛みや感覚低下が起こります。
転移性脳腫瘍
腫瘍の位置や大きさによって異なり、頭蓋内圧亢進症状や局所症状、てんかん発作、高次機能障害、精神症状などが発生します。
脳腫瘍を疑う主な症状
次のような症状があった場合は脳腫瘍を疑いましょう。
- 手足や顔半分の痺れ・麻痺
- ろれつが回らない
- 言葉が出ない
- 人の話が理解できない
- ふらつく、歩けない
- 力はあるが立てない
- 視野が欠ける
- 物が二重に見える
- 朝の頭痛
- てんかん発作
同じような症状が出るものに脳出血や脳梗塞がありますが、急に症状が出るこれらの疾患と違って脳腫瘍は徐々に症状が出てきます。思わしくない症状が悪化していくようであれば脳神経外科や神経内科を受診しましょう。
例外として膠芽腫の場合は進行が早く、2~3週間で症状が悪化することもあります。
脳腫瘍の検査方法
脳腫瘍が疑われる場合はまず医師の問診があり、症状の経過や他の疾患がないか確認します。その後、視力や視野のチェック、片脚で立てるかなどの神経学的検査が行われ、腫瘍が脳のどの位置にあるか推定する流れです。
これらの検査を経て、画像検査や病理検査が行われます。
脳腫瘍の検査方法は、以下の通りです。
- MRI検査
- CT検査
- 脳血管造影検査
- 病理検査
- 遺伝子検査
MRI検査
MRI(Magnetic Resonance Imaging、磁気共鳴画像)検査は強い磁気と電磁波を使って体の断面図を描写する検査です。円筒状の装置の中に仰向けの状態で入り20~30分かけて撮影します。
CT検査
CT(Computed Tomography、コンピュータ断層撮影)検査はX線で全身の断面を撮影する検査です。造影剤を静脈注射することでより精度が上がります。MRIより迅速な検査ができることが多く、緊急性がある場合はCT検査を行います。
脳血管造影検査
造影剤を使ってX線で脳の血液の流れを撮影します。太ももの動脈に入れたカテーテルから造影剤を注入して検査していましたが、低頻度ながら脳梗塞が起こることがあるためCT装置やMRI装置を使った方法で行われるケースが増えてきました。
病理検査
手術によって採取された腫瘍を顕微鏡で観察する検査です。ほとんどのがんの診断で病理検査は行われます。
遺伝子検査
血液や口腔粘膜、手術で切除したがん細胞などを分析し、遺伝子変異を調べる検査です。がんの診断や使用薬剤の判断などに利用します。
脳腫瘍のグレード(悪性度)と進行速度
脳腫瘍は他のがんと違い、進行度ではなく悪性度(グレード)が診断されています。この場合のグレードとは、治療しない場合の腫瘍の進行や予後の目安です。脳腫瘍のグレードは1から4の4段階に分類されます。グレード1は良性腫瘍、グレード2から4は悪性腫瘍です。グレード1のうちに切除できれば再発の危険性は低いですが、グレードの上昇にしたがって腫瘍の進行スピードは速くなります。
良性の腫瘍は進行がゆっくりで10年程度かけて症状が出ることがありますが、特に悪性のものでは数週間で急激に腫瘍が成長してしまうこともあります。
脳腫瘍の治療方法
脳腫瘍の治療方法は、以下の通りです。
- 手術(外科療法)
- 薬物療法
- 放射線治療
良性腫瘍の場合は経過観察になることもあります。
手術(外科療法)
手術によって腫瘍を摘出する療法です。腫瘍の発生した場所によっては全摘出できますが、運動や言葉に関する働きを司る部位に腫瘍が生じた場合は部分摘出となります。
手術の合併症は、一時的な脳浮腫やてんかんが起こることなどです。手術中や手術後に出血などが起きると、意識障害などの深刻な障害をきたす可能性があります。その場合は、必要に応じて再手術が行われます。
薬物療法
良性腫瘍に対しては基本的に薬物は使用しませんが、下垂体腫瘍の一部では薬物療法が有効な場合があります。悪性腫瘍には細胞障害性抗がん薬や分子標的薬などが用いられるのが一般的です。
細胞障害性抗がん薬はいわゆる抗がん剤といわれる薬です。健康な細胞にも影響を与えますので、副作用が起こります。主な副作用は、吐き気、嘔吐、だるさ、食欲不振、下痢、便秘、口内炎、手や足が腫れるなどです。貧血や白血球の減少など検査で分かる副作用もあります。
分子標的薬はがん細胞の増殖に関わる特定のタンパク質に作用します。
放射線治療
X線やそのほかの放射線を照射し、腫瘍細胞を攻撃する方法です。できるだけ腫瘍部分のみに照射し正常な細胞には放射線が当たらないようにしますが、悪性腫瘍のように正常組織との境目が曖昧だとそれが難しくなります。1週間に数回、腫瘍を中心に正常組織も含めて放射線を照射する治療を数週間行います。
良性腫瘍の場合は腫瘍をピンポイントで照射します。ガンマナイフやサイバーナイフという装置を使い、ミリ単位で照射することが可能です。
放射線治療の副作用は、皮膚炎、脱毛、中耳炎、外耳炎、吐き気、嘔吐などがあります。照射後1ヶ月程度で症状は消えますが、中には、脳そのものの機能に影響したり、術後数ヶ月~数年たってから症状が出たりするケースもあります。
まとめ
脳腫瘍には良性と悪性があり、悪性度によってグレードが分けられています。良性だと進行も緩やかで転移もあまりありませんが、悪性だと進行が早く生存率が低い疾患です。発生する場所によって症状が違うだけでなく、脳腫瘍にはこれといった予防方法が確立されていません。脳腫瘍を疑う症状が出てきたときは、ただの不調だと自己判断せずに早めに脳神経外科などを受診してください。