がんの治療法がないと言われたら?次に取るべき”3ステップ”とは
がんに罹患していることを宣告されたら、「仕事はどうすれば良いだろう」「本当に治るのだろうか」と大きな不安に襲われる方が多いでしょう。それに加え、さらに治療法がないと言われてしまったら、どうしたら良いのかわからず戸惑ってしまいますよね。
しかし、がんには標準的な治療以外にもさまざまな先端医療が開発されているため、他者からの視点が加わることによって解決策がみつかるかもしれません。
この記事では、以下について解説します。
- がんの治療法がないと言われた場合の行動
- がんの標準治療が効かないときの診断や治療方法
- 標準治療以外のアプローチについて
がん治療で大きな選択に悩まされている方やそのご家族に有益な内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。
目次
がんの治療法がない状態とは?
現状で適切な治療法がないと宣言された場合、患者さんやご家族は大きな選択に悩むことでしょう。医師が「適応する治療法がない」「治療しないほうが良い」と判断するのは、具体的にどういった状況なのでしょうか。
まず、一般的な病院では標準治療と呼ばれる選択肢のなかからベストと考えられる治療を検討します
標準治療とは科学的に効果が証明されて、国内で安全性が保証されている治療法です。具体的には手術療法・放射線療法・薬物療法を指します。
しかし、標準治療には脱毛や吐き気、手足のしびれ、貧血などのつらい副作用が伴います。副作用に見合った効果が得られないと予測される場合では、治療をせずに生活の質(QOL)を優先させること検討されます。
つまり、がんが進行し標準治療で改善が見込めないと思われる場合や、効果より副作用のほうが大きいことが考えられる場合に、「治療法がない」と判断されるのです。
がんの治療をしないとどうなる?
医師からの治療法がないという診断にしたがって治療をやめた場合は、余命が延長されることがないまま、日々の生活を過ごすことになります。
がん細胞は治療をやめた後も増え続け、健康な細胞や組織を侵害するため、生死に影響するリスクをおよぼす可能性が高まります。
時間がたつにつれて身体の状態も悪くなり、倦怠感や呼吸困難感、食欲不振などのさまざまな症状も出現するでしょう。
しかし、がんの治療は標準治療だけではありません。
つらい想いをしないためにも、がんの治療法がないと言われたからといってあきらめるのではなく、ほかの治療法を探すのもひとつの選択肢です。
がんの治療法がないと言われた場合の行動
がん治療のアプローチは、担当医が考えている方法だけではありません。担当医から治療法がないと言われた場合は、セカンドオピニオン対応の医療機関に相談しましょう。
担当医からの診療情報提供書や検査データなどがあれば、リモートでセカンドオピニオンを受けられる医療機関もあります。
セカンドオピニオンは、担当医とは別の医師に診断や治療選択などの助言を求めることです。別の医師が持つ知識や情報を交えて治療方針を検討でき、患者さんやご家族がより納得のいく選択をするための手助けとなるでしょう。
セカンドオピニオンの費用は健康保険が適用されないため、全額自己負担です。しかし、今後の方針に対する理解が深まったり、治療法について新たな選択肢がみつかったりするメリットがあります。
セカンドオピニオンについては以下の記事もご覧ください。
進行がんや転移がんの治療の鍵は「アブスコパル効果」
標準治療が適応とならない進行がんや転移性がんでは、アブスコパル効果の発現を狙った放射線治療をおすすめします。
アブスコパル効果とは、放射線の照射により一部分のがん細胞を壊すことで、照射していない場所にあるがんも消える現象のことです。
がんの細胞に高線量の放射線を当てると、放射線が照射されたがんが刺激を受けると同時に、がんの抗原(免疫反応を引きおこす物質)が放出されます。
放出された抗原はリンパ節(細菌・ウイルス・がん細胞などがないかチェックして免疫機能を発動する器官)に取り込まれた後、がんを攻撃する役割を持つTリンパ球に認識されます。
そして、抗原の特徴を覚えたTリンパ球は原発がんに攻撃する方法を認識しているため、リンパ液によって全身にばらまかれた後、転移したがんにも攻撃できるようになる仕組みです。
高線量の放射線に加えて低線量の放射線を当てることで、免疫機能を抑える細胞を壊すことにより、強いアブスコパル効果が発揮されることも分かっています。
がんの治療法がない場合の3つのステップ
アブスコパル効果を狙った治療を実施するには、具体的にどのような方法をとるべきでしょうか。
がんの治療法がないと言われた場合、以下の3つの手順で診断と治療を進めていく形をおすすめします。
- がん細胞に分子標的薬がないか調べる
- SBRT(体幹部定位放射線治療)をおこなう
- 免疫療法をおこなう
標準治療で十分な効果が得られないケースには、放射線治療を用いてがん細胞を攻撃しながら、免疫を上げるための治療をおこないます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
適応する分子標的薬がないか調べる
はじめに、がんに対して攻撃できる分子標的薬がないか調べます。
分子標的薬は、がんの増殖に関わるタンパク質や血管のほか、がんの免疫細胞のじゃまをするタンパク質をねらい撃ちする薬です。
従来の抗がん剤では、がん細胞と正常な細胞を見分けられないため、正常な細胞までダメージを受けてしまいます。しかし、分子標的薬であればがん細胞だけを攻撃できるため、副作用が抑えられ効率的に治療ができるのです。
ただし、適応する分子標的薬があるかどうかは、がんのタンパク質や遺伝子によって異なるため、事前に検査して確かめることが必要です。
SBRT(体幹部定位放射線治療)をおこなう
以前までは、放射線治療を受けると免疫力が下がると考えられていましたが、最近の研究では放射線治療により免疫力が上がることが分かっています。
また、従来の基準よりも高線量の放射線をあててがん細胞を壊すことで、アブルコパル効果を期待します
ただし、放射線を照射した部位に副作用が起きたり、全身性の症状がでたりすることがあります。人体にリスクが大きい治療法であるため、極力小さい範囲で当てられるように注意しなければなりません。サイバーナイフやガンマナイフなど、ピンポイントに高線量をあてられる放射線治療機器を用いることで、正常な細胞へのダメージを抑えながら治療の効果をより高めることが考えられます。
免疫療法をおこなう
免疫療法とは、自身の免疫力を高めることでがんを攻撃する方法です。アブスコパル効果を狙った放射線治療とかけ合わせることで、より治療効果を高めるはたらきが期待できます。
代表的なものとして、免疫チェックポイント阻害薬による治療があります。免疫チェックポイント阻害薬は、がんに対する免疫機能のブレーキ(免疫チェックポイント)を外して、がん細胞を攻撃できるようにはたらく治療薬です。
この他にも、NK療法や温熱療法(ハイパーサーミア)など方法は複数あり、それぞれの状態により適切なものを選ぶと良いでしょう。
免疫には、生まれつき備わっている「自然免疫」と後から獲得される免疫「特異的免疫」があります。治療にはTリンパ球に新しいがんを認識・攻撃させて特異的免疫を高めることだけでなく、がん細胞の免疫機能をじゃまする仕組みを排除させて、自然免疫を高めることも重要です。
先にお伝えした免疫チェックポイント阻害薬は、特異的免疫に対するアプローチとなります。がん細胞によってどちらへアプローチするのが効果的なのかが異なるため、自然免疫と特異的免疫の両方に着目して治療を進めることをおすすめしています。
がん治療における放射線治療の仕組み
がん細胞に放射線を照射すると、がんに隠されている抗原や、がんが持っている抗原が放出されて目立つようになります。
治療法がないと言われるような標準治療が効かないケースに対しても、この仕組みを利用してがん細胞に免疫機能を追加させるわけです。
それぞれの仕組みについて詳しく見ていきましょう。
がんに隠されている抗原の免疫をつくる
がんに隠されて目立たない抗原を放射線治療で放出させることによって、Tリンパ球に攻撃されやすくなることを期待します。
約70%のがんは抗原を隠す傾向にあるため、Tリンパ球の攻撃から逃れられるようになっています。
抗原を放出させることで、Tリンパ球は抗原の情報を認識しやすくなるため、攻撃をしかけられるようになるわけです。
がんが持っている抗原の免疫をつくる
がんが持っている抗原が放射線治療によって放出されると、免疫チェックポイント阻害薬によってがん細胞の免疫を高めることが可能となります。
がんが持っている抗原には、がんの免疫機能に対するブレーキがそなわります。
免疫チェックポイント阻害薬によって、このブレーキを攻撃できると、がんが持っている抗原の免疫をつくれるわけです。
放射線治療と同時に免疫チェックポイント阻害薬を投与すると、でてきた抗原の免疫反応を高めることが可能となります。
がんの治療法がないと言われた患者さんの症例
3ステップの方法により治療効果が得られた当院の3症例をご紹介します。
以下の患者さんは放射線治療によるアブスコパル効果や、免疫チェック阻害薬の効果によって、がんが再発することなく日常生活を取り戻しています。
直腸がんの患者さんの症例
直腸がん(ステージⅣ)の患者さんで、骨盤の恥骨や坐骨、右鎖骨の下のリンパ節、皮膚、複数の骨にがんが転移している方の治療をおこないました。
サイバーナイフにて放射線を恥骨や坐骨に1回ずつ施行し、VAC療法(※)や免疫チェック阻害薬による治療もおこなっています。
治療開始から7ヶ月後、照射した恥骨や坐骨だけでなく、ほかのがんも消失されたことが確認されました。
(※)VAC療法:ビンクリスチンとアクチノマイシンD、シクロホスファミドという3種類の抗がん剤を組み合わせた治療法のこと。
乳がんの患者さんの症例
乳がんの患者さんで、右の脇下のリンパ節や肝臓、複数の骨に転移がありました。
手術後に化学療法と放射線治療をおこなった後、全てのがんが消失しました。
しかし、治療を受けてから約2年の間に新型コロナウイルスのワクチンを3回接種したことが関係したのか、免疫不全が起きて多発転移が生じてしまったのです。
そこで、肝臓全体と仙骨に1回ずつ放射線を照射したところ、免疫機能が高まって転移したがんは全てみられなくなりました。
その後も温熱治療(※)や免疫治療を繰り返し受けていますが、再治療から2年ほどたっても再発はありません。
(※)温熱治療:電磁波を使用して体の外からがん細胞を加熱する治療法のこと。
尿管がんの患者さんの症例
尿管がんの患者さんは肺に複数の転移がありました。
肺自体に放射線を照射すると線維化するおそれがあるため、原発の尿管に放射線をあてながらキイトルーダ(※)を投与しました。
その結果、放射線を当てた尿管がんだけでなく、転移した肺のがんも全てみられなくなりました。
患者さんは治療を終えた後も、元気に日常生活を過ごされているようです。
(※)キイトルーダ:免疫チェックポイント阻害薬のひとつで、Tリンパ球のPD-1という部分に結合して免疫チェックポイントを遮断するはたらきをもつ。
まとめ
この記事では、がんの治療法がないと言われたときに取るべき行動や、先端の医療を用いたがん治療について、実際にあった症例も交えてお話ししました。
- がんの治療法がないと言われた場合はセカンドオピニオンを検討する
- 従来の標準治療以外にも先端医療でがんを治す手段はある
- 標準治療でがんの改善が見込めない場合は、アブスコパル効果を期待した治療をおこなう
- 放射線治療で免疫があがる効果が期待できる
担当医から尽くすべき治療法がないと言われたからといって、すぐにあきらめることはありません。
ほかの医師からの意見を聞いて個々の状態に合った治療法を探すのも、ひとつの選択肢です。
先の人生をより豊かにするためにも、治療に前向きに向き合って、後悔のない選択をしてください。