がん放射線治療が欧米で選ばれている理由・日本との違いは?
高齢化が進み、手術も抗がん剤治療も行えないがん患者が増えています。それに伴い、放射線治療の必要性はどんどん高まっています。
しかし、日本ではいつまでも、放射線治療はがん治療の第一選択肢として認知されません。
手術の後に行うものである、または、延命を目的に行われるものである、このような考えが広がっています。
一方、欧米に目を向けてみると、そこには全く別の世界が広がっています。
放射線治療を第一選択肢としてとらえた、患者さんのQOL(生活の質)に重点を置いた治療方針がごく一般的になっています。
なぜ欧米で放射線治療が選ばれてきたのか、一緒に見ていきましょう。
実は放射線治療はオールマイティ
放射線治療には、広い適応範囲があります。
脳腫瘍、頭頚部がん(口腔やのどにできるがん、舌がん、喉頭がん、咽頭がんなど)、皮膚がん、食道がん、肺がん、乳がん、肝臓がん、すい臓がん、腎臓がん、膀胱がん、卵巣がん、子宮がん、前立腺がん、精巣がん、骨肉腫、白血病、悪性リンパ腫、骨転移……。
中には治癒の難しいがんもありますが、こうした多くのがんに放射線治療は取り入れられています。根治が望めるがんも少なくありません。
また、放射線治療は、早期がんの根治から、末期がんの緩和ケアまで、幅広く応用できる治療法でもあります。
その上、治療がピンポイントで行なえるため、体への負担も最小限にとどめることができるのです。
これだけ見ても、放射線治療がいかに理想的ながん治療法かお分かりいただけると思います。
アメリカでは放射線治療こそがん治療の主流!?
日本では、放射線治療の普及はまだまだです。きちんとした統計はありませんが、日本で放射線治療を受けている患者さんは、二、三割と言われています。
一方欧米のがん患者を見ると、普及率は跳ね上がります(こちらはきちんと統計が取られています)。
具体的には、アメリカで66%、ドイツでは60%、イギリスでは56%です。日本と比較してほぼ倍の数字ですね。
この数字から見ても分かるように、欧米では、がん治療に放射線治療が当然のように行われています。
日本のがん治療は長年「手術ファースト」でした。
もちろん、手術で助かった方も多いでしょうし、手術後の放射線治療で、それなりの効果を得た方も多いでしょう。
ただし、これまでの日本のがん治療の歴史を振り返ると、放射線治療が正当なポジションを獲得できていたとは言えません。
放射線治療は各段に進歩し、数十年前とは様変わりしました。正確なピンポイント照射ができる高度放射線治療装置も登場し、放射線治療で完治が望めるがんも増えています。
それでもなお日本では、放射線治療は正しく評価されているとは言えない現状があるのです。
欧米では、放射線科と外科と腫瘍内科がタッグを組んで、患者さんと治療方針を話し合います。それぞれ、放射線治療と、手術と、抗がん剤治療の専門家です。
ところが日本では、外科医がワンマンショーを繰り広げることが少なくありません。手術以外の選択肢があったことすら知らなかった…という患者さんがいるほどです。
このような日本の状況は嘆かわしいですね。
なぜいま放射線治療がファーストチョイスに?
今、放射線治療を見直し、正しく活用すべき時代になった……、私はこう思っています。
そう思う最大の要因は、日本が迎えている超高齢化社会です。
高齢化が進むほど、高齢のがん患者さんが増加しています。
問題なのは、高齢の患者さんは多くの場合、体力的な問題などで手術や抗がん剤に耐えられないということです。
今まで、手術ファーストでやってきた日本のがん治療にとってこれは大問題です。
このままでは、自分に合った治療法を見つけられないまま、がんが悪化してしまう患者さんが増えていってしまうことになります。
放射線治療の応用範囲が広いこと、早期がんから末期がんまで活躍できること、体への負担が小さいこと。
手術や抗がん剤治療に比べて高いQOL(生活の質)が維持できること、ピンポイントで治療できること。
このように、放射線治療にはたくさんのメリットがあり、手術や抗がん剤に負けないポテンシャルがあるのです。
高齢化が急速に進む中で、放射線治療の推進は待ったなしの状況に来ています。
まとめ
欧米では…よく耳にするフレーズですね。もちろん、なんでも欧米が正しい訳ではありません。
ですが、こと、がん治療と放射線治療に関しては、欧米に軍配が上がっている状態です。
放射線治療に関する正しい知識が広まり、一人でも多くの患者さんが、公平な条件の下で治療法を選択できる、そんな状況が日本でも一般的になることを祈っています。