手術ファーストの陰に胃がんあり・・・放射線治療に関する誤解
高齢化が進むにつれ、日本のがん患者数は増加の一途を辿っています。高齢になってからがんが発見されるいわゆる「長寿がん」の方も増えました。
がんの三大治療法の内、手術と抗がん剤治療は、残念ながら高齢で体力のない方に施すことはできません。がんを治すどころか、治療によって逆に命を縮めてしまう危険すらあります。
三大治療法の最後の一つ、放射線治療であれば、患者を選ばずに、有益な治療を施すことができます。
ですが、放射線治療は多くの誤解を受けています。
残念なことです。
今回は、そんな誤解の一つ「放射線治療は手術の後に行うもの」についてお話をさせて下さい。
「がん治療はまず手術」という思い込み
がん治療と言えば手術。
こういうイメージを持つ方は多いと思います。
がんを切り取ってしまうことができる手術は、がん治療として最高だという思い込みもよく耳にします。
なぜ、日本ではこのような「手術ファースト」のイメージが広がったのでしょうか?
そこにかかわっているのは日本の医療事情です。
日本では、がんと診断されると、まず外科にかかります。肺がんであれば呼吸器外科、胃がんなら消化器外科、乳がんであれば乳腺外科といった具合です。
外科は手術を前提とした診療科ですから、当然そこにかかれば、治療法の第一選択は手術になります。
「外科に行く=手術をしに行く」と思っても良いでしょう。
がんになったらまず外科へ、という日本の長年の慣例が「手術ファースト」のイメージを広げたのです。
連携がとれていないがんの三大治療法
がんには大きく三つの治療法があります。
「手術」と「抗がん剤治療」と「放射線治療」です。
日本では、まず外科へ、つまりはまず手術が検討されることは、先に述べたとおりですが、ここでさらに問題となるのは、日本の外科医が、手術以外の治療法についてほとんど説明しないということです。
欧米では、違います。
がんと診断されると、その方が受けられる治療法について全て説明し、患者さんの希望を優先します。
手術できる場合はとにかく手術をする。
手術できないほど進行したがんや末期がんの患者さんに対して延命や症状の緩和を目的に放射線治療を選択する……。
手術を治療法の第一選択としてしまった日本のがん治療は、いつの間にかこのようにパターン化してしまいました。
放射線治療の良さを考えると、とても残念なことです。
手術ファーストの陰に胃がんあり
もう一つ、日本のがん治療が手術優先になった背景に、胃がんの存在があります。
1993年(平成5年)まで、がんで亡くなる方が最も多かったのは胃がんでした。当時、胃がんは不治の病、怖いがんの代表でした。
放射線治療も、抗がん剤治療も共に効果が乏しかった胃がんに対して、絶大な効果を発揮したのが手術です。
日本では「胃がんには手術」という考えが育ち、「がんには手術」という固定観念が定着してしまいました。
「がんには手術」という固定観念からまた、「放射線治療は手術の後にするもの」という誤解も定着してしまったのです。
これは、放射線治療にかかわる医療人が最も悔しく思う誤解の一つです。
「放射線治療は手術の後に行うもの」という誤解
「最後になって放射線治療をというのでなく、発見されたときに放射線治療を行ってほしい。そうしれば治療も望めたのに……」
現場の放射線科医で、こう残念がる医師は少なくありません。がん患者さんの診断画像を見てこう思うのです。
「もっと早く放射線治療をおこなう選択肢もあったのではないか……。そうすれば、現実はまったく違ったのではないか……」
かなり進行してしまったがんの画像を見るたびに、この思いが頭をよぎるのです。
世の中には「手術と比べると、放射線治療の効果が低いと聞きました」と言う方もあるでしょうが、これまで放射線治療の置かれていた位置を考えてみて下さい。
「手術ができないから、放射線治療を……」そう言われ続けてきました。
それが放射線治療の置かれていた位置です。
手術の後ではどうしたって治療を開始するタイミングが遅れ、放射線治療が本来の効果を発揮できる余地が少なくなってしまいますね。
放射線の効果の正しい理解を妨げる一因です。
まとめ
放射線治療は、決して手術の後に行うだけのものではありませんし、手術ができないから仕方なく行われるものでもありません。
がんと診断された時点で、「手術」「抗がん剤治療」「放射線治療」この三つが同列にテーブルに並び、患者さんが納得する形で選ばれる。
欧米では当たり前になっているこの光景が、日本ではなかなか見られません。
先進国の中で飛びぬけて日本のがん死亡が多い原因はもしかしたらここにもあるのではないでしょうか。
一人でも多くの患者さんが納得する形で最高の治療を受けられるように、「がんはまず手術」や「放射線治療は術後にするもの」と言った誤解が早く解けることを祈っています。