去勢抵抗性前立腺がんとは?前立腺がんとの違いや治療法、生存率など解説

がん治療のセカンドオピニオンNIDCのサイトメニュー

69

去勢抵抗性前立腺がんとは?前立腺がんとの違いや治療法、生存率など解説

去勢抵抗性前立腺がんとは?前立腺がんとの違いや治療法、生存率など解説

「去勢抵抗性前立腺がん」とは、前立腺がんの治療において適切なホルモン療法を続けていても、だんだん効果が得られなくなり症状が進行する状態です。去勢抵抗性前立腺がんと診断された時点で、約8割のケースにほかの臓器への転移がみられ、予後に大きな影響を及ぼします。

今回は、去勢抵抗性前立腺がんについて、定義や通常の前立腺がんとの違い・生存率・治療方法を詳しく解説します。診断されたときにとるべき対応についてもご紹介しますので、正しい知識を身につけて自分の納得のいく治療を受けられるようにしましょう。

去勢抵抗性前立腺がんとは

去勢抵抗性前立腺がんとは

去勢抵抗性前立腺がんについて、定義や発症のメカニズムなどを解説しましょう。

去勢抵抗性前立腺がんの定義と通常の前立腺がんとの違い

去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)は、ホルモン療法をおこない、体内の男性ホルモン値が非常に少ない状態にしているにもかかわらず、がん細胞が増えてしまう状態です。

通常の前立腺がんは増殖するのに男性ホルモンを栄養源としているため、ホルモン療法をおこない男性ホルモンの分泌や合成を抑えます。ホルモン療法を開始してから数年間は効果が得られますが、徐々に治療に反応しなくなり、前立腺がんが進行してしまうのです。この状態を「去勢抵抗性前立腺がん」といいます。

去勢抵抗性前立腺がんになるメカニズム

前立腺がん細胞には、ホルモン療法が効くタイプと効きにくいタイプがあります。ホルモン療法が効くタイプは次第に死滅していきますが、ホルモン療法が効きにくいタイプのがん細胞は、治療を続けているうちに性質を変化させて生き残るようになるのです。

ホルモン療法に反応しないタイプのがん細胞が増殖することで、去勢抵抗性前立腺がんにつながります。

去勢抵抗性前立腺がんの診断基準

ホルモン治療や去勢手術によって、血液中のテストステロン値を50ng/dL未満に抑えているにもかかわらず、以下の条件のいずれかに当てはまる場合に去勢抵抗性前立腺がんと診断されます。

  1. 1週間以上の測定間隔をおいた状態でPSA値が3回連続で上昇し、もっとも低い値から50%以上の上昇が2回みられた場合で、かつPSA値が2.0ng/mL以上となった場合
  2. 画像検査によって、がん組織の増大がみられたり、新たながん組織が見つかったりした場合

去勢抵抗性前立腺がんの分類

去勢抵抗性前立腺がんは、他の臓器に転移している転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)と、がんが前立腺内にとどまっている非転移性去勢抵抗性前立腺がん(nmCRPC)に分類できます。

転移性去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)では、約80%に骨への転移がみられます。骨転移する主な場所は、脊椎・肋骨・骨盤です。転移による痛みやしびれなどの症状への対応が必要となります。

非転移性去勢抵抗性前立腺がん(nmCRPC)は、PSA値上昇があるものの、画像検査では離れた臓器への転移が見つかっていない状態です。PSA値を確認しながら、複数の薬剤を組み合わせた治療がおこなわれます。

去勢抵抗性前立腺がんにおける症状や生存率

去勢抵抗性前立腺がんにおける症状や生存率

去勢抵抗性前立腺がんでみられる主な症状や予後について確認しましょう。

去勢抵抗性前立腺がんでよくみられる症状

去勢抵抗性前立腺がんに発展すると、がん組織が大きくなることで尿が出にくい・排尿回数が増えるなどの症状が現れます。さらに進行すると血尿や排尿痛をともなうこともあるのです。

去勢抵抗性前立腺がんでは、骨転移しているケースが多くみられます。初めは無症状であっても、徐々に痛み・しびれ・麻痺が現れます。

骨転移により骨がもろくなるため、わずかな外力でも骨折してしまうこともあるでしょう。がん細胞の影響で、骨からカルシウムが溶け出し高カルシウム血症になると、食欲不振や倦怠感、意識障害などが起こります。

去勢抵抗性前立腺がんの生存率

転移の無い去勢抵抗性前立腺がん(nmCRPC)の5年生存率は50%程度と考えられています。ただし、転移が抑えられている期間は、2年~2年半程度です。

転移のある去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)については、全生存期間が数年程度とされています。

去勢抵抗性前立腺がんの標準治療

去勢抵抗性前立腺がんの標準治療

去勢抵抗性前立腺がんと診断されたときの標準治療について、どのような方法があるか解説しましょう。

放射線治療

去勢抵抗性前立腺がんの放射線治療では、前立腺の近くにある臓器に対する放射線の影響を少なくするために、以下の2種類の方法が選択されます。

サイバーナイフ

サイバーナイフは、ごく細いビームを用いて、多方向から1点に集中して放射線を照射できる装置です。ピンポン玉くらいの大きさまでのがん組織にピンポイントで照射できます。

前立腺は、腸内のガスや膀胱に溜まった尿の影響で位置が動くことがあります。サイバーナイフは、位置のずれを検知して照射位置を自動調整できるため、がん組織の周りにある健康な組織に対する放射線の影響を少なくできる点が大きな特長です。

トモセラピー

トモセラピーは、CT撮影と放射線照射が一体化した装置です。毎回治療前にCT撮影をおこない、がん組織の位置を確認した後に、患者さんの周りを360度回転しながら、細い放射線のビームを照射します。角度によって放射線の照射強度を変えることができるため、がん組織の形や位置に応じて放射線量を調節可能です。

治療台が平行にスライド移動できるため、広範囲の照射が可能となり、がん組織が複数の場所にある場合でも同時に治療できるメリットもあります。

薬物療法

去勢抵抗性前立腺がんで使用される主な薬剤は4種類あります。それぞれの特徴について解説しましょう。

抗がん剤

去勢抵抗性前立腺がんには、タキサン系抗がん剤のドセタキセルとカバジタキセルが用いられます。タキサン系抗がん剤は、がん細胞内にある微小管に作用して細胞分裂するのを阻止し、がんが増殖しないようにするのです。

ドセタキセルは、去勢抵抗性前立腺がんと診断されたときから使用できますが、カバジタキセルはドセタキセルの効果がみられなかったケースで使用されます。

新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬(ARSI)

新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬(ARSI)は、前立腺がんにあるアンドロゲン受容体の情報伝達が起こらないようにして、がん細胞の増殖を抑える薬です。

アンドロゲン合成酵素を阻害するアビラテロン酢酸エステルと、アンドロゲン受容体を阻害するエンザルタミド・アパルタミド・ダロルタミドがあります。アパルタミド・ダロルタミドについては、遠隔転移のない去勢抵抗性前立腺がんの場合のみ使用できます。

PARP阻害薬

PARP阻害薬は、がん細胞内にあるPARPというDNA修復にかかわる酵素の働きを抑える薬です。転移性去勢抵抗性前立腺がんにおいて、がん遺伝子検査または遺伝子パネル検査をおこない、BRCA1/BRCA2遺伝子変異が認められた場合に使用されます。

放射性医薬品

骨転移のある去勢抵抗性前立腺がんに対して、ラジウム-223が使用されます。ラジウム-223は骨に集まる性質があり、体内に注射されると骨内にあるがん組織に集中します。がん組織に集まったラジウム-223から放射線(α線)が放出されて、がんの増殖を抑えるのです。

去勢抵抗性前立腺がんにおける新たな治療方法

去勢抵抗性前立腺がんにおける新たな治療方法

去勢抵抗性前立腺がんにおいて、近年注目されている治療方法について解説しましょう。

放射線治療と免疫療法の併用

少数のがん転移がみられる去勢抵抗性前立腺がんにおいて、放射線治療と免疫療法を併用する方法が検討されています。海外の論文では、特定の範囲のがん組織へ放射線を照射した後に免疫療法をおこなうと、前立腺がんと転移したがんの双方に効果があったと報告されました。

効果を発揮するメカニズム

放射線治療と免疫療法の併用が効果を発揮するメカニズムをみていきましょう。

がん組織に放射線を照射すると、がんを直接死滅させるだけではなく、体内の免疫を活性化させる働きもあります。活性化した免疫細胞が、全身を巡り、放射線を照射していない転移がんにも働きかけて、がんの増殖を抑えるのです。この現象をアブスコパル効果といいます。

アブスコパル効果は、放射線を照射したのみでは十分な効果が得られないことが多く、免疫療法を併用することで相乗効果が得られるのです。

併用する免疫療法の種類

併用する免疫療法は、免疫チェックポイント阻害薬と免疫細胞療法があります。

免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫細胞の攻撃から逃げるシステムを阻害する薬で、PD-1阻害薬・PD-L1阻害薬・CTLA-4阻害薬の3種類があります。

免疫細胞療法は、自分の免疫細胞を血液から取り出し、培養・活性化させてから、再び体内へ戻す方法です。BAK療法・樹状細胞ワクチン療法・NK細胞療法などがあります。

PSMA治療

去勢抵抗性前立腺がんで世界的に広まっているPSMA治療について解説しましょう。

PSMA治療の概要

PSMA治療は、前立腺がんの表面に存在するタンパク質(PSMA)をターゲットとして、PSMAに結合する物質に放射性物質を付けた薬剤を投与して、がん組織を狙い撃ちできる治療方法です。

放射性物質はβ線を放出する177-ルテシウムが広く使用されています。最近は、α線を放出する225-アクチニウムも使用され始めましたが、副作用が強いため、177-ルテシウムによる治療効果が得られなかった場合に考慮されます。

PSMA治療を希望する場合は、国内の治験に参加する、または海外でおこないます(2025年4月時点)。

PSMA-PET検査について

PSMA治療が適用できるかどうかは、事前にPSMA-PET検査が必要です。前立腺がん細胞にはPSMAが通常より100倍~1000倍現れているため、PSMAに結合する分子に68-ガリウムまたは18-フッ素を付けてPET-CT装置で撮影すると、通常のPET-CT検査よりも高い精度で前立腺がんの広がり具合を確認できます。

去勢抵抗性前立腺がんと診断されたときの対応策

去勢抵抗性前立腺がんと診断されたときの対応策

去勢抵抗性前立腺がんと診断されたときに、検討した方が良いことなどを3つのポイントに分けて解説しましょう。

セカンドオピニオンの検討

自分の納得のいく治療を受けるために、セカンドオピニオンを検討すると良いです。

去勢抵抗性前立腺がんと診断された場合、病状に応じて治療の選択肢が複数あります。どの方法を選べばよいか、提案されたものとは別の治療は受けられるのかなど悩むことがあるでしょう。

セカンドオピニオンでは、主治医と異なる医療機関の医師から公平な目線で「第二の意見」を聞くことができます。提案された治療について理解が深まったり、選択肢が広がったりするメリットがあります。

社会的サポートの活用

去勢抵抗性前立腺がんでは、身体的・経済的に負担がかかることが予想されます。診断を受けて、治療・副作用・費用に対する心配ごとが増えたり、精神的に不安定になったりすることもあります。

困ったことがあれば、病院内にある医療相談窓口や地域のがん支援センターなどの社会的サポートを活用しましょう。これらの相談窓口は無料で利用できて、医療ソーシャルワーカーなどの専門家に療養生活上のさまざまなことを相談できます。

日常生活における注意点

去勢抵抗性前立腺がんと診断されたときは、ほかの疾患のときと同じく、規則正しい生活と適度な運動を心がけましょう。運動で気をつける点は、痛みがあるときは控える・瞬間的に力が入る運動を避けることです。

骨転移があるときは、ちょっとした刺激で骨折しやすくなるため、転倒に注意する・重いものを持たない・骨転移のある場所をひねらないなど、骨に負担がかからないよう注意しましょう。

まとめ

去勢抵抗性前立腺がんは、治療で体内の男性ホルモン量を抑えているにもかかわらず、がんが進行する状態

去勢抵抗性前立腺がんは、治療で体内の男性ホルモン量を抑えているにもかかわらず、がんが進行する状態です。生存率は転移の有無によって異なり、転移のないケースでは5年生存率が約50%、転移のあるケースではより厳しい予後となります。

去勢抵抗性前立腺がんの治療は、病状によって放射線治療や薬物療法などいくつかの選択肢があります。近年では、放射線治療と免疫療法の併用やPSMA治療など、新たな治療法も注目されているのです。去勢抵抗性前立腺がんと診断されたときは、セカンドオピニオンを検討したり、社会的サポートを活用したりして、自分の納得のいく治療を選択しましょう。

がん治療一覧へ