大腸がんのステージ別の症状と余命について
大腸がんは欧米で多いがんといわれてきましたが、近年は日本でも食生活の欧米化にともない年々増加しています。ほかのがんと比べると、大腸がんの5年生存率は比較的高い方ですが、ほかの臓器に転移するほどステージが進んでしまうと予後は厳しくなってしまうのが現状です。
今回は大腸がんについて、基本情報・ステージ別の症状や治療方法・5年生存率などについて解説します。
目次
大腸がんとは
大腸がんは日本人がかかるがんで最も多く、2019年に大腸がんと診断された人の数は155,625人と、厚生労働省より発表されています。[出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)]
大腸がんにかかる人は40歳代から徐々に増え始め、年齢を重ねるほど多くなる傾向です。大腸がんで亡くなる人は年々増加していて、2021年のデータでみると男性では肺がんに次いで2位、女性では1位となっています。[出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)]
次から大腸がんの発生や原因についてみていきましょう。
大腸がんの発生
大腸の壁は内側から、粘膜・粘膜下層・固有筋層・漿膜下層・漿膜の順で構成されています。大腸がんの発生は、一番内側の粘膜に「腺腫」と呼ばれる良性のポリープができ、大きくなるに従って悪性化するパターンが多いです。
なかには、大腸の粘膜が正常であっても、がんが直接発生することもあります。このタイプはデノボがんと呼ばれ、早いうちから周りの組織に浸潤しやすいといわれています。
日本人の大腸がんは、直腸とS状結腸が最も発生しやすい部位です。次いで大腸がんが発生する部位は上行結腸になります。
大腸がんの原因
大腸がんのリスク要因には生活習慣が深くかかわり、次のものが挙げられます。
- 赤身肉や加工肉など動物性たんぱく質の摂りすぎ
- 脂肪分の摂りすぎ
- 肥満
- 喫煙
- 過度の飲酒
- 運動不足
また大腸がんにかかる可能性が高くなる疾患には次の3つが挙げられます。
1.家族性大腸腺腫症
大腸全体にポリープが多量に生じる病気です。良性ポリープでも一部ががん化するリスクがあり、放置していると大腸がんを発症する恐れがあります。
2.リンチ症候群
がんの発生を抑える遺伝子に異変が起こる疾患です。大腸がんのほか、子宮内膜がん・卵巣がん・胃がん・小腸がんなど多臓器でがんが起こりやすくなります。
3.潰瘍性大腸炎
大腸の粘膜に炎症やびらんを起こす病気です。長引く炎症によって粘膜が変性を起こし、がんが生じやすくなります。潰瘍性大腸炎を発病して7~8年経つと、大腸がんのリスクが高まるといわれています。
大腸がんのステージ分類について
ステージは病期ともいい、大腸がんがどこまで広がっているか、リンパ節やほかの臓器に転移しているかなどを示したものです。ステージ0からステージ4の5段階に分類され、数字が大きくなるほどがんが進んでいることを表しています。
ステージを判断するのには、大腸がんの進展の深さを示すT因子、リンパ節転移の有無を示すN因子、他臓器への転移を示すM因子の3つの因子が用いられています。
各ステージについて端的にまとめると次のようになります。
ステージ0
ステージ0は早期がんで、がん細胞が大腸壁内側の粘膜におさまっている状態です。リンパ節やほかの臓器への転移はみられません。
ステージ1
ステージ1も早期がんに区分されます。がん細胞が大腸壁内側の粘膜より深く進み、固有筋層まで達している状態です。リンパ節やほかの臓器への転移はありません。
ステージ2
ステージ2以降は進行がんに区分されます。ステージ2では、がん細胞が固有筋層を超えて、さらに外側へ深く進んでいる状態ですが、リンパ節やほかの臓器への転移はみられません。
ステージ3
ステージ3は、大腸がんの深さに関わらず、がん細胞がリンパ節へ転移している状態です。ほかの臓器への転移はありません。
ステージ4
ステージ4は、大腸がんの深さやリンパ節への転移に関わらず、ほかの臓器へ転移していたり、腹膜にがん細胞が散らばったりしている状態です。大腸がんの転移が起こりやすい場所は、肝臓・肺・骨・脳が挙げられます。
大腸がんのステージ別の5年生存率
大腸がんのステージ別の5年生存率は下表の通りです。早期がんで発見できると、5年生存率は90%を超え、治療成績が良いことがわかります。一方で、ほかの臓器へ転移してしまうと著しく生存率が低下するため、早期発見・早期治療が肝心であるといえるでしょう。
ステージ1 | 92.3% |
ステージ2 | 85.5% |
ステージ3 | 75.5% |
ステージ4 | 18.3% |
大腸がんのステージ別の症状
大腸がんは、ごく早期のステージでは自覚する症状はほとんどみられません。ある程度進行してくると症状が現れるようになります。どういった症状が現れるのか詳しくみていきましょう。
初期症状
主に大腸がんでみられるのは、便に血液が混ざる・血液が付着するといった症状です。進行してくると以下の症状も現れるようになります。
- 下痢と便秘をくり返す
- 便が残っている感じがする
- 便が細くなる
- 腹痛やお腹の張りがある
- 貧血やめまいがみられる
進行がんの症状
大腸がんのステージがかなり進行すると、がん細胞が大きくなることで腸閉塞を起こし、便が出ない・吐き気・嘔吐の症状が現れます。ほかにもがんの影響で食欲が低下したり、栄養素の代謝に異常が起きたりするため、体重減少がみられることもあります。
大腸がんが転移するほどステージが進むと、臓器によってさまざまな症状が現れます。腹膜へ転移すると激しい腹痛・腹水・水腎症などがみられ、肝臓へ転移すると全身の倦怠感・黄疸などがみられます。
大腸がんの検査方法
大腸がんの検査方法は以下の通りです。
- 大腸内視鏡検査
- 生検・病理検査
- 注腸造影検査
- CT検査・MRI検査
- PET検査
大腸がんが疑われるときにおこなうのは、一般に大腸内視鏡検査と生検です。ほかの検査については、大腸がんであることが認められた後に、ステージを判定したり再発の有無がないか確認したり、必要に応じておこなわれます。
大腸内視鏡検査
大腸内視鏡検査では、内視鏡を肛門から入れて、直腸から盲腸まで全体を観察します。内視鏡をはじめに盲腸まで入れて、抜きながら観察する方法が一般的です。病変部の表面を拡大したり、特殊な光を当てたりして、がんかどうかを判別します。
生検・病理検査
生検・病理検査は大腸内視鏡検査と同時におこなうことが多いです。生検で病変部位全体または組織の一部を採取し、病理検査で顕微鏡を用いて採取した組織の性状を観察することで、良性かがんなのかを判別することができます。
注腸造影検査
注腸造影検査は、肛門から細いチューブを入れて、造影剤のバリウムと空気を注入して、大腸のなかをレントゲン撮影するものです。大腸内側の壁にある病変やがんの位置・大きさ・形状などを確認するのにおこなわれます。
CT検査・MRI検査
CT検査ではX線を、MRI検査では磁気を利用して、体の断面図を撮影する検査です。大腸がんが周りの臓器やリンパ節へ転移していないか確認したり、大腸がんとほかの臓器との位置関係を確認したりするのにおこなわれます。CTやMRIの検査機器は、旧式モデルでは画像の鮮明度や検査の正確性が下がることがあるため、先端の検査機器を利用した検査を受けることも大切です。
PET検査
PET検査では、ブドウ糖に近い成分のFDGという放射性物質を静脈注射して、FDGのがん細胞への集まりを特殊なカメラで撮影し画像化します。大腸がんの広がり具合や転移の有無、再発の有無を確認することが可能です。ほかの検査で転移や再発の診断がつかないときに利用されることがあります。
近年ではPETとCTの長所を合わせたPET-CT検査もおこなわれるようになりました。それぞれを単独で受けるよりも時間が短くなり、より精度の高い検査が可能となっています。
大腸がんの治療方法
大腸がんの治療方法は次の5つがあります。
- 内視鏡治療
- 手術
- 薬物治療
- 免疫療法
- 放射線治療
それぞれの治療方法について分かりやすく解説します。
内視鏡治療
内視鏡治療は、肛門から入れた内視鏡を用いてがんを取り除く方法です。内視鏡の先端から専用の器具を使って、病変部位を切除します。
がんが粘膜におさまっている場合や、粘膜下層1mmまでの深さにおさまっている場合で、技術面からみて確実に取り除ける大きさであると判断されたときに選択されます。
手術
内視鏡治療でがん組織をすべて取り除けない場合は、手術でがんが進展している恐れのある腸管とリンパ節の両方を取り除きます。外科手術の手段には開腹手術・腹腔鏡下手術・ロボット支援下手術があります。
がんの発生した部位による手術方法は次の通りです。結腸がんの場合は、がんから十分な距離をとって腸管を切り離し、周りのリンパ節も一緒に取り除きます。その後、残した腸管どうしをつなぎ合わせます。
直腸がんの場合はがんが生じた場所によって、肛門温存手術と直腸切断術に分けられます。肛門温存手術は、がんのある部位と転移の恐れがあるリンパ節を取り除き、残した腸管どうしをつなぎ合わせる方法です。直腸切断術では、がん・リンパ節・肛門を切り取り、肛門の代わりとなる人工肛門を設置します。
薬物療法
大腸がんの薬物療法に用いる薬剤には、細胞障害性抗がん剤・分子標的薬などが挙げられます。細胞障害性抗がん剤は、がん細胞が増える過程に作用して、がんを死滅させたり増殖を抑えたりする薬になります。分子標的薬は、がん細胞に特有のたんぱく質や遺伝子をターゲットにして、がんが増殖するのを抑える薬です。
大腸がんの薬物療法では、「手術後の再発予防」と「切除が困難な進行・再発大腸がん」で用いる薬が異なります。手術後の再発予防では主に細胞障害性抗がん剤を中心に、切除が困難な進行・再発大腸がんにおいては細胞障害性抗がん剤や分子標的薬を、患者さんの全身状態やがんの性質などを考慮して使用します。
免疫療法
大腸がんの免疫療法で、保険適用されているものに免疫チェックポイント阻害薬があります。免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫細胞から攻撃されるのを回避する仕組みに働きかけて、免疫機能を回復させるものです。免疫療法は、切除が困難な進行・再発大腸がんで、がん組織の遺伝子検査において「高頻度マイクロサテライト不安定性」が認められた場合に適用されます。
放射線治療
放射線治療では、X線などの放射線を使い、がん細胞を死滅させたり増殖を防いだりします。
- 大腸がんの治療では次のケースでおこなわれます。
- 手術前にがんを小さくする
- 手術後に骨盤内での再発を防ぐ
- 切除が困難な進行・再発大腸がんで、痛みや出血などの症状を和らげる
大腸がんステージ別の治療方法
大腸がんにおいて、ステージ別の一般的な治療方法は下表の通りです。保険を利用できる免疫療法は、限られた条件のみで適用されます。治療方法の選択はステージのみならず、患者さんの既往歴や体質・がんの特性・治療への希望を踏まえて、総合的に決定されます。
内視鏡治療 | 手術 | 薬物療法 | 放射線療法 | |
---|---|---|---|---|
ステージ0 | 〇 | △ | ✕ | ✕ |
ステージ1 | 〇 | △ | ✕ | ✕ |
ステージ2 | ✕ | 〇 | △ | △ |
ステージ3 | ✕ | 〇 | 〇 | △ |
ステージ4 | ✕ | △ | 〇 | 〇 |
治療方法を決める際は、はじめに主治医から説明を受け、十分に話し合うことが重要です。そのうえで判断に迷ったり疑問点が生じたりしたときはセカンドオピニオン制度の利用を検討しましょう。
セカンドオピニオンでは、主治医以外の医師から診断や治療方法について意見を聞くことができます。主治医と異なる目線で意見を聞くことで、病状への理解が深まる・治療の選択肢が増えるといったメリットがあります。
まとめ
大腸がんは日本人が罹患するがんで最も多く、年々増加傾向にあります。大腸がんのステージが早いうちは自覚症状がほとんどなく、症状が現れたころには進行がんになっているケースが多くみられます。
ステージ1までに大腸がんを発見・治療できると5年生存率は90%以上と良好ですが、腹膜やほかの臓器へ転移してしまうと20%を下回るため、早いステージでの発見・治療が大切です。
また、大腸がんに罹患した場合に納得のいく診断・治療を受けるためには、正しい情報や知識を得ることが一番の近道となります。今回の記事を活かしていただければ幸いです。