サイバーナイフとは?最新放射性治療について
近年では、日本人の2人に1人は_がんになるといわれています。がんに罹患してしまった場合、手術治療・化学治療(抗がん剤)・免疫治療・放射線治療のいずれか、もしくは複数を組み合わせた治療を選択することとなります。
なかでも、放射線治療は患部を切らずに治療できるため、身体的負担の少ない治療法として注目されており、高齢の患者さんや外科手術が困難な部位に対する治療に効果を発揮しています。
特に最新の放射線治療機器であるサイバーナイフは、従来の治療機器では実現できなかった仕組みを採用し、より多くの病状に対応可能となりました。今回は、そんなサイバーナイフについて詳しく解説します。
目次
サイバーナイフとは?
サイバーナイフとは、ロボットアームの先に放射線治療装置を取り付けた最先端の放射線治療機器です。「ロボット誘導型定位放射線治療器」とも呼ばれ、患部にメスを入れることなくがん病巣のみに放射線を集中照射できます。
近年、コンピューター画像のデジタル処理テクノロジーとロボットエンジニアリングの進歩、リニアック(高速素粒子照射装置)の小型化が急速に進みました。
そして1994年にアキュレイ社(アメリカ)がこれらテクノロジーの統合でサイバーナイフを開発・発表します。
サイバーナイフによる治療は、同じく1994年にスタンフォード大学(アメリカ)で脳神経外科医ジョン・アドラー博士により始められ、日本では1997年導入により放射線治療の最前線で使用されています。
基本構造は、リニアック(エネルギー照射装置)・ロボットアーム・病変追尾装置・呼吸追尾システム・治療用コンピューターから構成されるものです。
サイバーナイフは、ロボットアームがプログラムされた動きで自動的に患部への放射線照射を行う、画期的な治療法となります。
サイバーナイフとガンマナイフの違い
前述しましたが、サイバーナイフはロボット誘導型の放射線治療器です。一方、ガンマナイフ放射線治療器は装置内に頭部を固定するもので、脳内の病巣部に192個のガンマ線(X線よりも波長の短い電磁波)を集中照射させます。
ガンマナイフ放射線治療は装置の構造上、頭蓋内(脳)に対しての病変治療目的で使用されるのに対し、サイバーナイフ放射線治療のメリットは頭部以外も適している点です。
具体的には、ガンマナイフ放射線治療では対応できない頚椎や体幹部分の病変にサイバーナイフ放射線治療が適用を持ちます。(身体の動きに対応:呼吸追尾システムがサイバーナイフのメリットです)
サイバーナイフ放射線治療の適応疾患
サイバーナイフによる放射線治療の適応疾患を部位別に列記します。
頭蓋内疾患
- 血管奇形:脳動脈・脳静脈奇形など
- 良性脳腫瘍:骨髄腫、下垂体腺腫、聴神経腫瘍など
- 悪性脳腫瘍:グリオーマ(神経膠腫)、転移性脳腫瘍、腫瘍の放射線治療後の再発など
- 機能的疾患:三叉神経痛
頭頚部疾患
- 耳鼻咽喉科領域における腫瘍:鼻腔・副鼻腔腫瘍、頸部リンパ節転移、唾液腺がん、咽頭がん、放射線治療後の再発など
- 口腔外科領域における腫瘍:口腔がん、舌がん、頬粘膜がん、歯肉がんなど
体幹部疾患
- 原発性肺がん、転移性肺がん、原発性肝がん、転移性肝がん、原発性腎がん、前立腺がん、オリゴ転移(限局的かつ少数個のがん転移)など
脊椎・脊髄疾患
- 脊髄動脈・脊髄静脈奇形、転移性脊椎腫瘍、脊髄腫瘍など
その他
- 胸部・腹部における骨転移・リンパ節転移など
サイバーナイフによる放射線治療のメリット・デメリット
サイバーナイフ放射線治療のメリット・デメリットを項目ごとに解説しましょう。
メリット①:高い効果
サイバーナイフは放射線治療を病巣部に対してピンポイントに行うものです。具体的には、高い線量の放射線を病巣部(がん細胞)に対して照射しますので、高い効果を発揮します。
メリット②:広範囲に発生した腫瘍に対応
サイバーナイフのロボットアームは6つの関節部分を有しています。アーム先端から放射線を正確に照射する構造なので、フレキシブルなアームが広範囲に発生した腫瘍の治療に威力を発揮するものです。
具体的には、頭蓋底部(従来は不可能とされてきた)、脊髄、体幹部などの腫瘍に対応します。
メリット③:麻酔不要で痛みなし
サイバーナイフはがんなどの腫瘍を放射線治療します。メスで患部を切開しないので麻酔を使用せず、術中・術後に痛みを感じることはありません。
多くのケースで通院治療(入院の必要なし)が選択されます。
メリット④:副作用や後遺症が少ない
放射線治療とは、がん病巣に対して放射線照射でがん細胞のDNAにダメージを与える方法ですが、従来はピンポイント照射が難しく健康な部位に腫れや炎症などの悪影響が発生しました。
しかし、サイバーナイフ放射線治療ならピンポイント照射が可能なので、結果的に副作用や後遺症を抑えられることとなります。
メリット⑤:短期間の治療・入院で済む
サイバーナイフ放射線治療は「短期間の治療・入院で済む」を大きなメリットとしています。
理由はメリット③、④と重複しますが、患部を切開することなく放射線照射をピンポイントに行う治療なので、メスによる切開施術と比較すると極めて短い期間で治療を済ませることが可能です。
具体的には、1日~5日の治療期間を目安としており、1回のサイバーナイフ放射線治療(定位放射線治療)にかかる時間は30分程度とされています。
治療期間中は通院を選択(患者さんの状態およびライフスタイルに合わせた選択)できますから、身体的・精神的負担の少ない治療となるでしょう。
デメリット①:治療後の詳細データ量が少ない
サイバーナイフによる放射線治療が日本に導入されたのは1997年です。放射線治療自体はX線が1895年ドイツでレントゲンにより発見されて間もなく1899年にはスウェーデンのスチンペックが皮膚がんにX線を照射して治癒させており、その後も数々の事例が報告されています。
100年以上の放射線治療の歴史に対して、サイバーナイフは20年程度(日本へ導入から)と歴史が浅いため、十分な治療データの蓄積がなされておらず、対応力の不安がデメリットとされる点です。
デメリット②:実施病院が少ない
サイバーナイフ放射線治療は設備全体が非常に高額かつ大規模な装置となります。そのため、限られた病院しか採用しておらず、治療でサイバーナイフを選びたくても近所に備える病院が見つからない可能性はデメリットと呼べるでしょう。
インターネットで検索すると、近年サイバーナイフ放射線治療の導入を謳う病院サイトが目につくようになりました。導入病院は増加傾向と言えるでしょう。
サイバーナイフ放射線治療で効果が出るまでの流れ
サイバーナイフによる放射線治療はどのような流れで進むのでしょうか?効果が出るまでの流れを解説します。
問診・カウンセリング
問診・カウンセリングにより、サイバーナイフ放射線治療の適応有無を正確に診断します。そして、治療内容の説明および同意を経て治療予定日を決定します。
放射線治療の進め方や治療内容に不安がある場合はしっかりと確認するようにしてください。
必要とされるケースでは、治療前検査・治療前診断(レントゲン、血管撮影、MRI検査、CT検査など)を行います。
治療プラン作成
専門医(放射線治療チーム)は事前撮影のCT画像やX線画像を基にして「放射線の量」「照射角度」などの治療プランを作成・決定します。
治療準備
治療プランが出来上がったら各種の測定作業をおこないます。準備は放射線治療チームにより進められ、患者さんは来院する必要がありません。
治療準備作業には数日を要しますが、安全かつ正確なサイバーナイフ放射線治療に大切とされるステップです。
治療
治療準備が整ったらさっそく放射線治療のスタートです。原則としてプランに沿った治療が進められ、あらかじめ設定された回数の照射となります。
治療回数(照射回数)や日時・日数は治療準備の最終段階で正式決定しますので、治療スタート日の説明で治療の全体像を知ることとなるでしょう。
サイバーナイフによる治療回数の目安を表組みします。(代表的な回数事例)
部位・症状 | 照射回数 |
---|---|
単発性転移性脳腫瘍 | 1回~5回 |
頸部腫瘍(小さいもの) | 5回(隔日照射) |
頸部腫瘍(大きいもの) | 10回~20回(毎日照射) |
肺がん | 4回(隔日照射) |
膵がん(小さいもの) | 5回(隔日照射) |
膵がん(大きいもの) | 20回以上(毎日照射) |
皮膚や粘膜に浸潤する腫瘍 | 10回~20回(毎日照射) |
照射
照射自体は痛みや熱を感じることがなく、したがって患者さんへの麻酔を必要としません。治療用の専用ベッドに患者さんは横になって照射を受けるスタイルです。
数十本の細かいビームが照射され、1回の照射に必要な時間は頭部で30分程度、肺や肝臓の場合で45分程度となります。
照射・治療終了
照射・治療終了後に生活の注意点や経過観察に向けての説明が行われます。質問や不明な点がある場合は明確にしておきましょう。
経過観察
サイバーナイフを含む放射線治療の効果は、治療の終了後数か月かけて現れます。効果と同様に副作用に関しても数か月かけて現れるケースが報告されており、専門医による経過観察は非常に重要な位置づけです。
治療効果と副作用に関して担当医から十分に説明を受けてください。
サイバーナイフの完治率について
サイバーナイフ放射線治療の有効性は間違いのないところです。ただ、サイバーナイフ単体の明確な完治率情報はありません。
各病院ではサイバーナイフ治療の実績(治療数)を掲載するものの完治率情報を載せておらず、情報収集の難しさが浮き彫りとなりました。
早期がんの放射線治療・完治率
一般的な放射線治療で舌がんを見ると、1期がんなら80~100%、2期がんで70~90%、3期がんで45~70%の局所制御率が期待されています。
局所制御率は照射病巣を制御できた率であり、転移の問題があるだけに完治率は局所制御率より下がるでしょう。
なかでもサイバーナイフによる放射線治療は早期がんに対する高い完治率が期待されています。
放射線治療の5年生存率
治療でどのくらいの生命を救えるかを示す指標が5年生存率です。前述しましたが、サイバーナイフ単体治療の情報は見当たりません。
ただ、早期がん・初期がんであれば放射線治療はかなり高い数値が期待できます。
ちなみに難しいとされる肺がん3期を見ましょう。30年前は2年生存率で10%程度とされました。
現在では、外科手術が可能とされるタイプの肺がん3期なら、化学療法および放射線治療の組み合わせにより5年生存率で30%~40%程度が期待されます。
サイバーナイフの副作用は?
サイバーナイフは腫瘍へ放射線をピンポイントに照射する治療方法・装置ですから、副作用の発生報告は多くありません。可能性として局所的な脱毛や皮膚の発赤程度、と考えてください。
サイバーナイフ放射線治療の費用は?
サイバーナイフ放射線治療における費用は健康保険診療が適用されます。概要を詳しく説明しましょう。
保険適用について
サイバーナイフ治療の保険点数は63,000点です。これは63万円に該当します。
患者さんの費用負担は健康保険の負担割合により違いがあり、負担金は診療保険点数×10×負担割合で算出されますので、3割負担の場合なら63,000×10×0.3(3割負担)で計算して189,000円となります。
これらに高額医療費の払い戻しが適用されますので、ご自分の負担限度額を確認して申請してください。
サイバーナイフ設置病院一覧
サイバーナイフを導入する設置病院の一覧を掲載します。
病院名称 | 住所 |
---|---|
仙台総合放射線クリニック | 宮城県仙台市泉区上谷刈字向原21-4 |
つくばセントラル病院 | 茨城県牛久市柏田町1589-3 |
埼玉医科大学国際医療センター | 埼玉県日高市大字山根1397-1 |
塩田記念病院 | 千葉県長生郡長柄町国府里550-1 |
おか脳神経外科 | 東京都町田市根岸町27-1 |
板橋中央総合病院 | 東京都板橋区小豆沢2-12-7 |
東京放射線クリニック | 東京都江東区有明3-5-7 |
日本赤十字社医療センター | 東京都渋谷区広尾4-1-22 |
済生会横浜市東部病院 | 神奈川県横浜市鶴見区下末吉3-6-1 |
新百合ヶ丘総合病院 | 神奈川県川崎市麻生区古沢都古255 |
五福脳神経外科 | 富山県富山市鵯島1837-5 |
春日居サイバーナイフ・リハビリ病院 | 山梨県笛吹市春日居町国府436 |
津島市民病院 | 愛知県津島市橘町3丁目73 |
総合青山病院 | 愛知県豊川市小坂井町道地100-1 |
蘇生会クリニック サイバーナイフセンター | 京都市伏見区下鳥羽上三栖町126番地 |
大阪大学医学部附属病院 | 大阪府吹田市山田丘2-15 |
新生病院サイバーナイフセンター | 大阪府高槻市玉川新町8-1 |
神戸低侵襲がん医療センター | 兵庫県神戸市中央区港島中町8-5-1 |
岡山旭東病院 | 岡山県岡山市中区倉田567-1 |
厚南セントヒル病院 | 山口県宇部市妻崎開作108 |
済生会今治病院 | 愛媛県今治市喜田村7丁目1-6 |
長崎みなとメディカルセンター | 長崎県長崎市新地町6-39 |
熊本放射線外科 | 熊本県熊本市中央区出水7丁目90-2 |
大分岡病院 | 大分県大分市西鶴崎3丁目7-11 |
藤元総合病院 | 宮崎県都城市早鈴町17-1 |
社会医療法人共愛会戸畑共立病院 | 福岡県北九州市戸畑区沢見2丁目5-1 |
まとめ
サイバーナイフによる放射線治療は、患部を切開しませんので患者さんに負担の少ない治療方法となります。
外科手術の難しい部位のがん腫瘍治療に威力を発揮しており、呼吸により病変部位が動いても追尾照射するシステムが大きなメリットです。
頭蓋内腫瘍に対する治療方法としてサイバーナイフは開発されましたが、近年では体幹部位への適応が進みました。
地域の高度がん治療に欠かせないサイバーナイフ放射線治療です。設置病院の大幅増加が望まれるところでしょう。