がん遺伝子パネル検査「ガーダント360」について
がん遺伝子パネル検査は、自分のがんについて遺伝子の特徴を知ることで、適切な治療を選ぶための重要な手がかりとなります。がん遺伝子パネル検査には、さまざまな種類がありますが、がん組織が採取できなくても、血液のみで検査できるものがあるのをご存知でしょうか。
今回は「ガーダント360」について、基本情報・ほかの検査との違い・検査の流れや費用などをわかりやすく解説します。担当医からガーダント360による検査を提案されている方や、効果的な治療を選ぶ方法を知りたい方は参考にしてください。
がん遺伝子パネル検査とは
がん遺伝子パネル検査は、がん細胞に生じている遺伝子の変化を調べて、がんの特徴を知るための検査です。がんの特徴にあった治療を探すためにおこなわれています。
一般的ながん遺伝子検査は、1回の検査で1種類~数種類ほどしか調べられず、ごく一部の限られた情報しか得られません。一方、がん遺伝子パネル検査では、1回の検査で数十種類~数百種類の遺伝子情報を調べることで、より詳しいがんの情報を得られるのです。
同じ臓器から発生したがんでも、人よって、がんに関連する遺伝子の変化が異なります。がん遺伝子パネル検査をおこなうことで、一人ひとりに適した治療方法の発見につながるのです。
ガーダント360について
ガーダント360は、米国のガーダントヘルス社が提供しているがん遺伝子パネル検査です。ガーダント360について、概要や検査でわかることなどを確認しましょう。
ガーダント360の概要
ガーダント360は、血液のみを使用したがん遺伝子パネル検査(リキッドバイオプシー)で、739種類のがん関連遺伝子について調べられます。ステージ3やステージ4の進行がんで、転移がみられたり、治療している途中に進行したりする方に適した検査です。
ガーダント360は、血液中に流れ出てきたがん組織のDNAを調べることで、がん細胞がどのような遺伝子変異を起こしているかを知ることができます。これまで、血液を使用したがん遺伝子パネル検査では、多くのがんDNA量を必要としていましたが、ガーダント360は5ngと少ない量でも検査が可能です。検査結果が届くまでの期間が短く、約3週間でわかります。
リキッドバイオプシーとは
リキッドバイオプシーは、血液や尿などを採取して、遺伝子異常があるかどうかを詳しく調べる検査です。進行がんで、あちこちに転移を起こしているケースでは、最初に発生したがん(原発巣)と転移したがん(転移巣)で遺伝子変異の状況が異なることが多くみられます。原発巣に応じた治療では、転移巣に対して十分な効果が得られない可能性があるため、状況に適した治療をおこなうには生検が必要です。
しかし、転移した場所によってはがん組織が採取できなかったり、採取したところ以外の遺伝子変異の情報が得られなかったりします。リキッドバイオプシーでは、がん種や進行度によりがん細胞のDNAが血液中に流れ出ることを活用し、患者さんの体に負担をかけず、かつ効率的に検査をおこなえるのです。
ガーダント360で検査できるがん種
ガーダント360では、あらゆる固形がんについて検査可能です。非小細胞肺がん・大腸がん・転移のある去勢抵抗性前立腺がんでは、組織による遺伝子パネル検査よりも多くの遺伝子変異の情報を得られます。進行・再発乳がんは骨転移が多くみられるため、組織を採取するのが難しく、血液のみで検査できるガーダント360が向いているといえるでしょう。
ガーダント360が検査対象としている遺伝子
ガーダント360が検査対象にしている遺伝子は、以前は83種類でしたが、2024年7月より739種類と大幅に増加し、固形がんの重要な遺伝子をほぼ網羅しています。ガーダント360では、遺伝子変異について以下の情報が分かります。
- 塩基置換
- 挿入/欠損
- 融合遺伝子
- コピー数異常の有無
- 遺伝子再構成の有無
- マイクロサテライト不安定性の有無
- 腫瘍分画
- 遺伝子変異量
ガーダント360のメリット・デメリット
ガーダント360のメリットとデメリットについて、下表にまとめました。
メリット | デメリット |
---|---|
・血液のみで検査できるため、痛みやリスクが少ない | ・血液のがんは検査できない |
・固形がんであれば、どのがん種でも検査可能 | ・ステージ1やステージ2は、正しい結果が得られない |
・現時点のタイムリーな情報を得られる | ・病状が安定しているときは検査を受けられない |
・ステージ3、ステージ4の進行がんの患者さんで、治療に適切な薬剤が判明する | |
・組織を使用する検査よりも、早く結果が得られる |
ガーダント360は組織を採取する必要がないため、全身にがんが広がっていたり、心臓のすぐそばにがんがあったりするケースでも、検査にともなう体への負担が軽く済みます。また、手術時の検体など過去の組織ではなく、血液で検査をおこなうため、現在の遺伝子変異の状況がわかるのです。
進行がんであれば、血液中のがんDNA量が十分に集まりますが、早期がんでは、がんから流れ出るDNA量がごくわずかであるため、正しい結果が得られないでしょう。
ガーダント360とガーダント360CDxの違い
米国のガーダントヘルス社では、がん遺伝子パネル検査を複数提供しています。ガーダントガーダント360とガーダント360CDxの相違点について、4つのポイントに分けて確認しましょう。
検出対象としている遺伝子
ガーダント360と、ガーダント360CDxでは、検出対象としている遺伝子の数が大きく異なります。ガーダント360は739種類、ガーダント360CDxは74種類です。ガーダント360では、ガーダント360CDxで検査できる74種類に加えて、NTRK1/2/3 融合遺伝子、相同組換え修復(homologous recombination repair: HRR)関連遺伝子などが含まれています。
コンパニオン診断
ガーダント360は、739種類のがん関連遺伝子を調べて、がんの性質をより正確に把握し、個々に合った治療方法を見つけます。ガーダント360CDxは、74種類のがん関連遺伝子について調べるだけではなく、複数の治療薬のコンパニオン診断としても使用します。コンパニオン診断とは、特定の分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の効果が得られるかどうか、治療を開始する前に検査することです。
腫瘍遺伝子変異量(TMB)
ガーダント360では、ガーダント360CDxにはない腫瘍遺伝子変異量(TMB)の評価もできます。腫瘍遺伝子変異量(TMB)は、がん細胞と正常細胞の遺伝子配列を比べたときに、遺伝子変異の数がどの程度あるかを調べたものです。がんの種類によって、TMB量は異なります。
同じがん種でも、患者さんごとにTMB量が1,000倍以上違うこともあるのです。TMBの値が大きいほど、がんを進行させる性質がありますが、一方で変異したタンパク質を多く作ることで、免疫細胞の攻撃を受けやすくなる特徴もあります。
保険適用
ガーダント360は、保険適用されておらず自由診療となるため、検査にかかる費用は全額自己負担です。ガーダント360CDxは保険適用されていて、検査を受けられる条件は以下のとおりになります。
- 原発不明がんや希少がんなど、標準治療がない固形がんの患者さん
- 標準治療が終了した、または終了が見込まれる固形がんの患者さん
- 上記1または2に該当し、全身状態が良好で、遺伝子パネル検査後に薬物治療を受けられる可能性が高い患者さん
- 上記1~3に加えて、医学的に組織を採取しておこなう検査が困難な場合、または組織を採取しておこなった検査で結果が得られなかった場合
ガーダント360とほかのがん遺伝子パネル検査の比較
ガーダント360のほかにも、がん遺伝子パネル検査はいくつかあります。それぞれの検査について、ガーダント360との違いを中心に解説します。
NCC オンコパネルシステム
NCC オンコパネルシステムは、がんに関連した124種類の遺伝子について調べる検査で、保険適用で受けられます。検査結果が得られるまでの所要期間は、6週間~8週間です。
ガーダント360と異なり、検査にはがん組織と血液の両方を使用します。また、血液検査において、遺伝性のがんの情報が得られることもあるのです。
FoundationOne Liquid CDxがんゲノムプロファイリング
FoundationOne Liquid CDxがんゲノムプロファイリングは、がんに関連した324種類の遺伝子について調べる検査で、保険適用で受けられます。検査に使用するのは血液のみです。検査結果が得られるまで、4週間~6週間かかります。いくつかの分子標的薬のコンパニオン診断としての役割も持っています。
プレシジョン・エクソーム検査
プレシジョン・エクソーム検査は、約2万種類あるヒトの全遺伝子について調べる検査です。一般的ながん遺伝子パネル検査と比べて、コピー数異常や腫瘍遺伝子変異数について、より高精度で調べられます。
検査を受ける場合は、自由診療のため全額自己負担(約100万円)です。検査結果が得られるまでの所要期間は、約8週間かかります。ガーダント360と異なり、検査にはがん組織と血液の両方を使用します。
ガーダント リビール
ガーダント リビールは、血液中に流れ出るがん由来のDNAを調べる検査で、手術後にがんが残っていないか、再発するリスクが高いかどうかを確認します。検査を受ける場合は、自由診療のため全額自己負担です。ガーダント360と同じ米国のガーダントヘルス社が提供しています。
検査対象となるのは、肺がん・乳がん・大腸がんの手術後の患者さんです。手術後または術後化学療法が終了して、3週間以上経ってから検査することができます。
ガーダント360を受けるには
ガーダント360を受けるにあたり、対象となる人や検査の流れ・費用などを解説します。
検査の対象となる人
ガーダント360の対象となる人の条件は以下のとおりです。
- ステージ3・ステージ4の進行がんの患者さん
- 血液のがん以外の患者さん
- 保険適用におけるがん遺伝子パネル検査の条件を満たしていない患者さん
- 過去に保険適用のがん遺伝子パネル検査を受けたことがある患者さん
治療を始めたものの効果が得られず、今後の治療方針に悩んでいる場合や、分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬の治療を始める前に、どの薬剤が適しているか判断材料が欲しい場合などに、ガーダント360は向いているでしょう。
検査の流れ
ガーダント360を受ける際は、次のような流れでおこないます。
1.予約・申込 | 検査を希望するときは、まず主治医に相談の上、申し込みしましょう。 診療情報提供書など、必要な資料を揃えます。 |
2.検査前説明 | ガーダント360をおこなう医療機関にて、担当医が病状の確認をおこない、検査について詳しい説明をおこないます。 最終的に検査を受けるメリットがあるかどうか、医師が判断します。 |
3.同意・採血 | 検査に同意する場合は、同意書に署名をしてから、採血をします。 |
4.解析 | 採取した血液を検査機関に送り、データ解析をおこないます。 |
5.結果説明 | 採血から約3週間後に結果が届きます。検査をおこなった医療機関の医師から、結果の説明と推奨される治療のアドバイスがあります。 |
検査後の治療については、現在の主治医が判断・実施します。
検査費用
ガーダント360は、自由診療となるため全額自己負担です。検査費用の相場は、50万円~70万円になります。検査費用のほかに、診察料・遺伝カウンセリング料などがかかります。
がん遺伝子検査を受けるにあたっての注意点
ガーダント360を受けるにあたって以下の注意点があります。
- がん遺伝子パネル検査をおこなっても、有益な結果が得られないことがある
- 遺伝性のがんが偶然見つかる可能性がある
- 現在、標準治療を受けている人は、その治療が優先される
- ガーダント360の結果は、主治医へ参考情報を伝えるものであり、どの治療を実施するかは主治医が判断する
- ガーダント360の結果をもとに、保険適用薬を用いたり、患者申出療養における臨床試験に参加したりすることはできない
まとめ
ガーダント360は、血液のみで実施できるがん遺伝子パネル検査の1つで、がんに関連した739種類の遺伝子を調べられます。ステージ3・ステージ4の進行がんの患者さんに適した検査です。
血液のみで実施できるため、採取したがん組織が古くて検査に使用できない場合や、全身のあちこちにがんが転移している場合でも、患者さんに負担をかけず効率的に検査できます。ガーダント360のメリットは、組織を使う遺伝子検査と比べて、現時点のタイムリーな遺伝子変異の情報を得られる点と検査結果を早く受け取れる点です。
これからの治療計画に悩んでいる人や、分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬を選ぶ際の参考情報が欲しい人は、ガーダント360で遺伝子検査を受けることを検討しましょう。