重粒子線治療とは?メリット・デメリットや費用、適応となるがん種などわかりやすく解説

がん治療のセカンドオピニオンNIDCのサイトメニュー

重粒子線治療とは?メリット・デメリットや費用、適応となるがん種などわかりやすく解説

重粒子線治療とは?メリット・デメリットや費用、適応となるがん種などわかりやすく解説

がんの治療にはさまざまな方法があり、そのなかでも重粒子線治療は、高い精度でがん細胞を攻撃できる放射線治療として注目を集めています。
しかし、どのような治療なのか・自分に合っているのかなど、治療を選択するうえで疑問を感じている方もいることでしょう。

そこでこの記事では、重粒子線治療の仕組みや特徴から、メリット・デメリット、費用、対象となるがんの種類、実際に治療を受ける流れまで、重粒子線治療を検討する際に知っておくべき情報を詳しく解説します。

重粒子線治療とは?

重粒子線治療とは?特徴やほかの放射線治療との違い

重粒子線治療は、従来の放射線治療やほかの粒子線治療と何が違うのか、そのしくみや特徴について詳しく解説しましょう。

重粒子線治療のしくみや特徴

重粒子線治療は、がん治療における放射線治療のうちの1つです。日本では、重粒子線として炭素線を使用しています。重粒子線治療では、炭素の原子核である炭素イオンを、1秒間に地球を5周以上回る速さまで加速した炭素線をがん細胞に照射するのです。

重粒子線は体内で特定の深さに到達すると、そこでエネルギーを最大限に放出し、急激に止まるという特徴を持っています。そのため、がん病巣の周りにある正常な組織へのダメージをできるだけ抑えつつ、がん細胞にダメージを与えることが可能です。

従来の放射線治療との違い

従来の放射線治療で主に用いられるX線は、体表面から数センチのところでエネルギーが最も強くなります。体の奥に進むにつれてエネルギーは減弱していきますが、体の裏側まで放射線が通り抜けていく性質があります。

そのため、X線治療では、がんの手前や奥にある正常な組織にも多くの放射線が当たってしまい、副作用を避けるためにがんに対する線量を十分に高められないことが課題です。

一方、重粒子線治療は、がん病巣で重粒子線が止まるように調整し、照射線量を集中させるため、周りの正常組織への影響をできるだけ少なくすることができます。

また、重粒子線はX線と比べてがんを死滅させる力が約2〜3倍も強く、X線では治療が難しかったがんに対しても効果が期待できる特長があります。

陽子線治療との違い

重粒子線治療と陽子線治療は、ともに粒子線を使用し、がん病巣で最大のエネルギーを放出するという点で非常によく似ています。両者の違いは、陽子線が水素の原子核を用いるのに対し、重粒子線治療は炭素の原子核(炭素イオン)を使用することです。

炭素イオンは陽子よりも約12倍重く、がん細胞を死滅させる効果が陽子線よりも高いという特長があります。

生物実験では、陽子線のがんを死滅させる効果がX線の約1.1倍であるのに対し、重粒子線は約3倍の効果があると報告されています。強力な殺傷能力により、重粒子線治療は陽子線治療よりも短期間で治療を終えられることもあるのです。

重粒子線治療における5つのメリット

重粒子線治療における5つのメリット

重粒子線治療を選択するメリットについて、5つのポイントに分けて解説します。

①がんを殺傷する能力が高い

重粒子線は、従来の放射線治療で用いられるX線やガンマ線と比較して、がん細胞を殺傷する能力が非常に高いことが分かっています。

生物への影響を比較した「生物学的効果比(RBE)」について、重粒子線はX線やガンマ線の約3倍あります。また重粒子線は、がん細胞のDNAの二重らせん構造を両側とも完全に切断する確率が高く、修復しにくい大きなダメージを与えることができるのです。

肉腫や腺がんのように、従来の放射線治療では治療が難しかったがんにも高い治療効果が期待されています。

②がん病巣に狙いを定めて照射できる

重粒子線は、体内のある一定の深さで最大エネルギーを放つ性質(ブラッグピーク)があります。ブラッグピークの位置をがん病巣の深さに合わせることで、がん病巣に対して高い線量を集中して照射することが可能です。重粒子線は、体の表面近くやがん病巣より奥の組織で線量が弱くなるため、周りの正常な細胞への影響を最小限に抑えられます。

そのため、重粒子線治療では、がん病巣へ十分な殺傷力を与えつつ、正常な組織には不要なダメージを避ける狙い撃ちができるのです。

③副作用が少なく身体への負担を軽減できる

重粒子線治療は、手術のようにメスを使わず、体外から放射線を照射するため、切開に伴う痛みや身体への負担が少なくなります。高齢者や心臓・肺・腎臓の疾患を抱える人など、手術がおこなえない場合にも、重粒子線治療は根治を目的とした治療の選択肢になるのです。

④手術が難しい部位のがんも治療できる

重粒子線治療は、がん病巣に高線量の放射線を集中させ、周りの正常組織への影響を極力抑えられる特長があります。そのため、体の深い場所にあるがんや、手術による機能低下のリスクが高い臓器のがんなど、手術が困難な部位にあるがんに対して有効です。

⑤従来の放射線治療より治療期間が短い

重粒子線は、がん細胞を殺傷する能力が非常に高いため、一回あたりの治療効果が大きく、従来のX線や陽子線治療と比較して、治療期間が短いことが特長です。

X線による治療は6週間~8週間ほどかかることが一般的ですが、重粒子線治療では最短1日、長くても4週間で終えられます。

短期間で治療を終えられるため、患者さんの身体的・精神的負担を軽減することが可能です。

重粒子線治療の知っておきたい3つのデメリット

重粒子線治療の知っておきたい3つのデメリット

重粒子線治療には多くのメリットがある一方で、知っておくべきデメリットもいくつかあります。なかでも重要な点について詳しく解説しましょう。

①適用できるがんの種類が限られている

重粒子線治療は、すべてのがんに適用できるわけではありません。治療の対象となるのは、頭頸部がん・肺がん・肝臓がん・膵臓がん・子宮頸がん・大腸がん・前立腺がん・骨肉腫・軟部組織腫瘍など特定の固形がんに限られています。

また、がんが1つの部位にとどまっていること、過去に放射線治療を受けていないことが条件に挙げられ、胃や大腸のように不規則に動く臓器のがんには適用できないという制限もあるのです。

重粒子線治療を希望する際は、条件に当てはまるか主治医へ確認しましょう。

②治療を受けられる施設が少ない

重粒子線治療は、高額で大規模な設備が必要となるため、治療を受けられる施設が非常に限られています。2025年11月現在、日本国内で重粒子線治療をおこなえる施設は7ヶ所です。

住まいの地域によっては、重粒子線治療を受けられる施設が遠方となり、受診するにあたって身体的・経済的に大きな負担となる可能性があります。

③治療費が高額で経済的負担が大きい

重粒子線治療は、治療費が高額になるため、経済的な負担が大きい傾向があります。

一部のがん(前立腺がん・骨軟部腫瘍・頭頸部がん・肝細胞がん・膵臓がんなど)については、保険診療の対象となっています。保険診療の場合、高額療養費制度も利用できますが、年齢や収入によっては月10万円〜27万円程度の支払いが必要となるのです。

先進医療の対象となるがんの場合、重粒子線治療の技術料については全額自己負担となります。先進医療では、技術料だけで300万円前後かかることが一般的です。

また、重粒子線治療を受けられる施設が少ないため、治療を受けるためには遠方まで通院するケースもあり、宿泊代や交通費などの費用が多額になる場合もあります。

重粒子線治療にかかる費用

重粒子線治療にかかる費用

重粒子線治療にかかる費用について、保険適用される場合と先進医療で受ける場合に分けて解説します。経済的負担を軽くする制度についても紹介しましょう。

保険適用となる場合

重粒子線治療が保険適用となるのは、前立腺がん・頭頸部がん・骨軟部腫瘍・4cm以上の肝細胞がん・膵臓がん・ステージ1〜2Aの肺がんなど、一部のがんです。

保険診療の場合、技術料は前立腺がんが約160万円、そのほか対象となるがんは約237万5千円となっています。窓口での自己負担額は、年齢や収入に応じてかかった治療費の1〜3割です。

先進医療で受ける場合

重粒子線治療を先進医療としておこなう場合、技術料は全額自己負担となり、314万円から350万円が目安です。技術料が公的医療保険の対象外であるため、高額療養費制度は適用されません。

ただし、先進医療においては、厚生労働大臣が定める「評価療養」のため、保険外併用療養費制度が認められています。重粒子線治療の技術料以外の診察・検査・投薬にかかる費用は公的医療保険が適用されます。

経済的負担を軽くする方法

重粒子線治療の費用負担を軽くする方法はいくつかあります。

保険適用となる治療であれば「高額療養費制度」を利用することで、月の自己負担額を一定の上限に抑えられます。

先進医療として治療を受ける場合は、全額自己負担となる技術料に対し、民間の医療保険の「先進医療特約」が適用される可能性があるため、医療保険の加入状況を確認すると良いでしょう。

また、一部の自治体では、先進医療の治療費助成をおこなっています。自治体による助成制度は、対象や所得に制限がある場合が多いため、事前に相談することをおすすめします。

重粒子線治療が適応となるがんの種類

重粒子線治療が適応となるがんの種類

重粒子線治療が適応となるがんの種類について解説します。さらに治療実績についてもみていきましょう。

保険適用対象となるがん

2025年11月現在、保険診療の対象となるがんの種類は以下のとおりです。

  • 骨軟部腫瘍
  • 頭頸部がん(口腔・咽喉頭の扁平上皮がんを除く)
  • 前立腺がん
  • 肝細胞がん(長径4cm以上)
  • 肝内胆管がん
  • 膵がん
  • 大腸がんの骨盤内再発
  • 子宮がん(頸部腺がん)
  • 肺がん(I期〜IIA期)
  • 子宮頸部扁平上皮がん(長径6cm以上)
  • 婦人科領域悪性黒色腫

頭頸部がんと前立腺がん以外は、手術による根治的な切除ができないものに限られます。

先進医療にて対応可能ながん

2025年11月現在、先進医療の対象となるがんの種類は以下のとおりです。

  • 食道がん
  • 肺がん(保険適応外のもの)
  • 肝細胞がん(保険適応外のもの)
  • 腎臓がん
  • 3個以下の転移性腫瘍(肺・肝・リンパ節)

主ながんにおける治療実績

重粒子線治療は、多くのがんで良好な治療成績が期待されています。

がん種治療実績
腺様嚢胞がん(頭頸部がん)5年局所制御率:70~80%
前立腺がん5年生化学的非再発率:低リスク群92%、高リスク群92%
ステージ1肺がん3年局所制御率:88.6%
大腸がん術後骨盤内再発5年局所制御率:88%
肝細胞がん3年局所制御率:86%

治療効果を評価するものに局所制御率や生化学的非再発率があり、重粒子線治療をおこなった後、一定期間のうちに治療した部位に再発がなかった人の割合を指しています。

重粒子線治療のできる病院や治療までの流れ

重粒子線治療のできる病院や治療までの流れ

重粒子線治療を検討するにあたって、治療を受けられる病院や治療をおこなうまでの流れについて解説します。

重粒子線治療を受けられる病院一覧

日本国内で、重粒子線治療を受けられる病院は以下の7ヶ所です。

  • 千葉県:国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 QST病院
  • 兵庫県:兵庫県立粒子線医療センター
  • 群馬県:群馬大学医学部附属病院
  • 佐賀県:九州国際重粒子線がん治療センター
  • 神奈川県:神奈川県立がんセンター
  • 大阪府:大阪重粒子線センター
  • 山形県:山形大学医学部附属病院

参考:公益財団法人 医用原子力技術研究振興財団「日本の粒子線治療施設の紹介」

治療を受けるまでの流れ

重粒子線治療を受けるまでの流れを3つのステップに分けて解説しましょう。

①主治医に相談し、該当施設を受診する

重粒子線治療をおこなっている施設では、患者さんから直接の予約を受け付けていないため、主治医に相談し紹介状を書いてもらいましょう。治療の適応となるか検討するために、主治医にこれまでの治療経過や検査データなどの資料も準備してもらうと良いです。

重粒子線治療をおこなっている施設の初診時には、持参した資料や追加検査の結果をもとに、医師が治療の対象となるかを判断します。治療対象と判断された場合は、重粒子線治療について詳しい説明がおこなわれ、治療の実施に同意する場合には同意書に署名をします。

②治療に向けた準備をおこなう

重粒子線治療の準備は、治療開始の1〜2週間前から始まります。

まず、重粒子線を的確にがん組織に照射するため、治療中に体が動かないように固定具を作成します。固定具は、患者さん一人ひとりの体形に合わせた専用の枕やプラスチック製の装置です。

固定具が完成したら、固定具を装着した状態で、CTシミュレーションをおこない、治療計画に必要なCT画像を撮影します。得られた画像をもとに、照射する重粒子線の角度・線量・回数などを検討し、治療計画を立てるのです。

肝臓や前立腺など呼吸や直腸ガスの影響で動く臓器では、より的確に照射をおこなうため、金マーカーを体内に留置することもあります。

③治療を受けて経過観察する

固定具の作成とCTシミュレーションが終わった後、治療リハーサルをおこない、実際の治療と同じ手順で練習することがあります。実際の重粒子線治療は、治療計画に基づいて進められ、基本的に1日1回、週4回程度おこないます。治療のたびに入念に位置合わせをおこなってから、重粒子線を照射しますが、照射中に痛みや熱さを感じることはありません。

重粒子線治療の期間はがんの種類や状態により異なりますが、約1週間〜4週間が目安です。治療終了後は、紹介元の医療機関と協力して、定期的に画像検査や採血などをおこない、治療効果や副作用の有無を慎重に評価していきます。

まとめ

重粒子線治療は炭素線をがん細胞に照射する放射線治療

重粒子線治療は、炭素イオンを光速に近い速度まで加速した炭素線をがん細胞に照射する放射線治療です。従来のX線治療と比べて約3倍の殺傷能力を持ち、がん病巣をピンポイントで狙い撃ちできるため、副作用を抑えながら高い治療効果が期待できます。

治療期間は長くても4週間程度で、これまでの放射線治療と比べて短く、患者さんの負担軽減につながります。

一方で、適応となるがんは前立腺がんや頭頸部がんなど特定の固形がんに限られ、治療可能な施設は国内で7ヶ所のみです。一部のがんは保険適用となる場合もありますが、先進医療で実施した場合は約300万円の自己負担が必要となります。

重粒子線治療は、手術が困難な部位のがんや、従来の放射線治療で効果が期待しにくいがんに対しても有効な選択肢となります。治療を希望する際は、まず主治医に相談し、適応条件や費用面も含めて十分に検討することが大切です。

がん治療一覧へ