水素吸入が癌治療に取り入れられる理由とは

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水素吸入が癌治療に取り入れられる理由とは

水素吸入が癌治療に取り入れられる理由とは

活性酸素を体から除去する物質として、近年「水素」が注目されています。活性酸素は私たちの体で免疫にかかわる一方で、過剰に溜まると健康な細胞も傷つけてしまい、老化や病気を起こす原因となります。

水素を吸入することで、毒性の高い活性酸素と反応し、水となって体から排出されるため、健康維持に役立つことが期待されているのです。今回は水素吸入療法について以下の内容を解説します。

  • 水素吸入療法のメカニズム
  • 水素吸入療法の癌治療に対する効果
  • 癌以外の疾患に対する治療効果

このほかに、水素吸入療法の実施方法や費用についても解説します。水素の抗酸化作用について理解を深め、癌や生活習慣病の予防や改善に活用しましょう。

水素吸入療法とは

水素吸入療法とは

まずは、水素を活用した治療である「水素吸入療法」について、作用のメカニズムと活性酸素とのかかわりを解説します。

水素吸入療法のメカニズム

水素吸入療法とは、体内に過剰に発生した活性酸素に水素分子を反応させ、活性酸素の毒性を不活化させる方法です。活性酸素は、人間の細胞内にあるミトコンドリアで生存に必要なエネルギーを産生する際に発生します。水素分子は非常に小さく、全身の細胞やミトコンドリアまで届くため、活性酸素と反応できるのです。

活性酸素にはウイルスや細菌などから体を守る働きがありますが、過剰にたまると健康な細胞やDNAを傷つけて、がん・循環器疾患・生活習慣病などの引き金となります。活性酸素の種類は、一重項酸素・スーパーオキシド・過酸化水素・ヒドロキシラジカルの4つです。

なかでもヒドロキシラジカルは毒性が高く、ほかの活性酸素と異なり、自力で消滅させることができません。水素吸入療法では、水素が毒性の高いヒドロキシラジカルと反応し、体に必要な活性酸素とは反応しないため、効率性と安全性が高いとされています。

活性酸素が大量発生する要因

活性酸素には、人間の体内で除去する酵素が備わっています。また食事から摂取するビタミンC・ビタミンE・カロテノイド類なども活性酸素を除去する能力があります。しかし、紫外線・放射線・大気汚染・薬剤の摂取などによって、除去する能力よりも活性酸素が発生する量が多くなると、蓄積されて悪影響を及ぼします。

食品添加物や酸化しやすい油脂を使った食べ物の摂取も、活性酸素を多く発生させる要因です。加齢により活性酸素を除去する酵素の働きが下がることも、活性酸素が体に蓄積する要因となります。

活性酸素により引き起こされる疾患

毒性の高い活性酸素が体内に増えすぎると、健康な細胞やDNAにダメージを与えるため、以下の疾患の発症リスクが上がります。

  • 糖尿病
  • 動脈硬化
  • 心筋梗塞
  • 脳梗塞
  • アルツハイマー型認知症
  • 胃潰瘍
  • パーキンソン病
  • アトピー性皮膚炎
  • 関節リウマチ

水素吸入療法の癌治療における効果

水素吸入療法の癌治療における効果

水素吸入療法の癌治療における効果は4つあります。

  • 抗がん剤の副作用を軽減する
  • 放射線治療の副作用を軽減する
  • がんの発生・進行を予防する
  • T細胞を活性化する

それぞれの項目について詳しくみていきましょう。

抗癌剤の副作用を軽減する

抗癌剤のシスプラチンは、1970年代に開発され、現在も治療によく用いられる薬剤のひとつです。シスプラチンは腎機能障害の副作用が多く、発症頻度は20~30%の割合と報告されています。マウスを使った実験で、1%濃度の水素ガス下で10日間飼育すると、腎機能障害による生存率の低下を防ぐことができたと報告されています。

放射線治療の副作用を軽減する

放射線治療をおこなうと、体内にある水が分解されて毒性の高いヒドロキシラジカルが発生することにより癌細胞を減少・死滅させます。しかし、同時に健康な細胞にもダメージを与えてしまうのです。

臨床研究によって、水素吸入療法をおこなうと、放射線治療による副作用が軽減することが報告されています。放射線治療を受けた末期がんの患者に対して水素ガス吸入をおこなったところ、放射線による骨髄障害の発症頻度が減少したとあります。また水素吸入療法は、放射線治療の効果を損なわないことも認められました。

癌の発生・進行を予防する

癌細胞にあるNF-κBという転写因子が活性化すると、癌の増殖や転移を起こしやすくなります。NF-κBの活性化は、活性酸素による酸化ストレスが原因のひとつです。水素吸入療法により活性酸素を減らすことで、NF-κBの活性化を防いで癌の増殖を抑えられると考えられています。

熊本県玉名市の地域保健医療センターの症例報告では、ステージ4の癌患者37名に水素吸入療法をおこなったところ、癌の縮小効果が現れた割合は32.4%、臨床的有効率は75.7%と良好な結果でした。また海外の症例報告で、肝臓転移と膵臓頭部周囲のリンパ節転移のある胆嚢癌の患者に水素吸入療法を実施したところ、3ヶ月後に癌組織が減少し、最終的には通常の生活が送れるまで回復したとあります。

T細胞を活性化する

癌を攻撃するT細胞は、癌細胞にくり返しさらされてPD-1の発現が増えると疲弊してしまい、癌を攻撃する能力が低下することが分かっています。水素吸入療法をおこなうと、T細胞が再び活性化することが認められました。

水素にはT細胞のミトコンドリアの働きを改善する効果がり、ミトコンドリアが活発になるとエネルギー生成が高まるため、T細胞の活性化につながると考えられています。臨床研究では、免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブ(オプジーボ)と水素吸入療法を併用すると、ニボルマブ単独で治療をおこなうよりも、全生存期間が延長したと報告されています。

水素療法の癌治療以外に期待される効果

水素療法の癌治療以外に期待される効果

癌治療のほかに、水素吸入または水素水の摂取により期待される効果について、臨床研究の結果とともに解説します。

虚血再灌流障害の軽減

虚血再灌流障害とは、脳梗塞や心筋梗塞などにおいて、血管の閉塞した状態が続いたのちに血流が再開すると、多量の活性酸素が発生し、組織にダメージを与える病態です。臨床研究で、ラットの脳梗塞に対し2%濃度の水素ガス吸入をおこなったところ、虚血再灌流障害の発生を大きく抑えることができたと報告されています。

虚血再灌流障害と似た状態が生じる「心停止後症候群」について、日本国内の15施設でおこなわれた二重盲検プラセボ対照比較試験があります。水素吸入療法群では、脳機能の評価を示すCPCとmRSの値が良好で、90日後の生存率も対照群と比べて高かったと報告されました。

パーキンソン病の評価スケールの改善

パーキンソン病の原因は、ミトコンドリアの機能障害と脳の黒質にある神経細胞の喪失と考えられています。パーキンソン病モデルのラットにおける研究では、水素水の投与により、脳の黒質と線条体の変性を抑制することが示されました。さらに、黒質にある神経細胞の減少が防止されたことも確認されています。

ヒトに対する臨床研究は、日本国内でパーキンソン病患者におこなわれた二重盲検プラセボ対照比較試験があります。参加者に48週間、水素水またはプラセボ水を服用してもらい、パーキンソン病の重症度や進行度を測定するUPDRSの値を比較するものです。水素水群ではUPDRS値が改善し、プラセボ群では悪化したという結果が得られました。

生活習慣病の改善

複数の臨床研究から、水素が生活習慣病の改善・予防に役立つことが期待されています。肥満の2型糖尿病モデルのマウスに水素水を摂取させた研究では、マウスの脂肪肝が改善したと報告されています。水素水を長期的に摂取させると、体重と脂肪を減らし、血漿中のグルコース・インスリン・トリグリセリドのレベルも低下することが分かりました。

動脈硬化モデルのマウスにおける研究では、水素水を自由に摂取できる環境でラットを飼育すると、動脈硬化した病変部分が改善することが示されています。中国でおこなわれたヒトに対する臨床研究において、メタボリックシンドロームの患者20人に水素水を10週間摂取してもらったところ、血清総コレステロールとLDL-コレステロールの値が低下したと報告されています。さらにHDL-コレステロールの機能が改善することも示されました。

筋肉疲労の軽減

激しい運動による活性酸素ストレスと筋疲労に対し、水素水を摂取したときの効果について二重盲検方式でおこなった臨床研究があります。10人の男子サッカー選手を対象に、水素水またはプラセボ水を摂取してもらったところ、水素水群では筋肉疲労物質である血中の乳酸値の上昇が抑えられたことから、筋肉疲労が軽くなる可能性が示唆されました。

水素吸入療法の実施方法

水素吸入療法の実施方法

水素の効果について数々の臨床研究で報告されていますが、水素水は濃度に差が大きく、なかには十分な効果が得られないものがあります。より多くの水素を安定的に体に取り入れるには、水素ガスを吸入する方が効率的です。水素吸入療法は、経口摂取が難しい人にも対応できます。水素吸入療法をおこなう際の必要な機器や実施方法についてみていきましょう。

水素吸入療法に必要な機器

水素吸入療法には、ハイセルベーターという水素ガスを発生する機器を用います。いくつか種類がありますが、ハイセルベーターET100は1分間に1200mL、ハイセルベーターPF72は1分間に860mLの水素ガスを安定的に作り出すことが可能です。ハイセルベーターは電源があればどこでも使用でき、移動しやすい大きさであることから、医療機関での使用のみならず、自宅にレンタルするケースもあります。

水素吸入療法の回数と期間

水素吸入療法をおこなう頻度について、癌治療では毎日2~3時間を目安に吸入をおこないましょう。1回1時間を、1日3回朝・昼・夜に分けて吸入しても良いとされています。

慢性疾患の場合は週2~3回、1回1時間以上が目安です。期間は少なくとも3ヶ月以上継続すると良いでしょう。

水素吸入療法のリスクと注意点

水素吸入療法のリスクと注意点

水素吸入療法の副作用や、水素吸入療法を受けられない人の条件について確認しましょう。

水素吸入療法の副作用

活性酸素と反応しなかった水素ガスが、そのまま体から抜けていくため、副作用はほとんどありません。可能性としてある副作用は以下の4つです。

  • 吐き気・嘔吐
  • 気分不快感
  • 頻尿
  • 催眠

水素吸入療法を受けられない人

水素吸入療法が適応とならない人は次のとおりです。

  • 重度のアレルギーを有する、または既往歴のある人
  • 重篤な活動性感染症にかかっている人
  • 治療が必要な重症の精神疾患の患者
  • 酸素吸入していない状態で、動脈血酸素飽和度(SpO2)が94%未満の人
  • 透析をしている腎機能障害の患者
  • 妊娠または授乳している人

水素吸入療法における費用

水素吸入療法における費用

水素吸入療法をおこなう際の費用について、医療機関で実施する場合と機器をレンタルする場合を確認しましょう。

医療機関で実施する場合

医療機関で水素吸入療法を実施した場合の相場は次の通りです。

  • 1回30分 2,000~3,000円
  • 1回60分 3,000~6,000円

これとは別に、吸入をおこなうために個人専用のチューブ(カニューレ)を購入する必要があり、1本500~1,500円かかります。

機器をレンタルする場合

水素ガスを作り出すハイセルベーターは、自宅へのレンタルが可能です。製造メーカーである「ヘリックスジャパン」における月額費用は以下のとおりになります。

3ヶ月コース6ヶ月コース12ヶ月コース
ハイセルベーターET10073,150 円67,650 円62,700 円
ハイセルベーターPF7253,900 円48,400 円42,900 円

月額のレンタル代に加えて、保守費用が追加されます。

まとめ

水素吸入療法は副作用がほとんどなく手軽

水素吸入療法は、体内に取り入れた水素分子が過剰に発生した活性酸素と反応し、毒性を不活化する方法です。活性酸素のなかでも毒性の高いヒドロキシラジカルと水素が反応し、体に必要な活性酸素とは反応しない特徴があります。

水素吸入療法の癌治療に対する効果は以下の4つです。

  • 抗がん剤の副作用を軽減する
  • 放射線治療の副作用を軽減する
  • がんの発生・進行を予防する
  • T細胞を活性化する

特にT細胞の活性化において、水素吸入と免疫チェックポイント阻害薬の併用で全生存期間が延長した臨床結果が注目されています。水素吸入療法は副作用がほとんどなく、水素ガスを吸入するだけという手軽さからも、癌治療に取り入れる医療機関が増えています。癌治療を効果的に進めたい人は、水素吸入療法を検討してみてはいかがでしょうか。

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