キイトルーダの効果やオブジーボとの違いなど解説
キイトルーダは、がんを治療する免疫チェックポイント阻害薬のひとつです。これまでの抗がん剤とは異なり、免疫機能を利用した治療薬になります。
今回はキイトルーダについて、以下の内容をわかりやすく解説します。
- キイトルーダが効果を発揮するしくみ
- どのような種類のがんに適用されるか
- オプジーボとの違い
そのほかキイトルーダの治療成績や副作用についても解説します。ぜひ最後までチェックしてください。
目次
キイトルーダとはどのような薬か
キイトルーダは、抗PD-1抗体という免疫チェックポイント阻害薬で、成分名は「ペムブロリズマブ」といいます。キイトルーダが効果を発揮するしくみや、使用方法について見ていきましょう。
キイトルーダの作用機序とは
キイトルーダの作用は、がん細胞が免疫細胞の攻撃から逃げる性質を利用しています。
免疫細胞のひとつであるT細胞は、がん細胞を発見すると、表面にPD-1という情報を受け取る受容体を発現させて、がん細胞を攻撃します。がん細胞はT細胞からの攻撃から逃れるためにPD-L1という物質を作りだし、T細胞表面にある受容体のPD-1に結合します。T細胞に結合したがん細胞は、T細胞のPD-1に対して、がんを攻撃しないように信号を送るためブレーキがかかってしまうのです。
キイトルーダはT細胞のPD-1に結合して、PD-1とがん細胞のPD-L1が結合するのを防ぎ、がん細胞から送られる信号を止めて、ブレーキがかからないようにします。それにより、T細胞は本来の働きを取り戻し、がん細胞を攻撃できるようになるのです。
キイトルーダの投与方法
キイトルーダは点滴投与され、1回の治療は30分ほどかかります。単独使用でも、ほかの抗がん剤と併用でも投与スケジュールは同じです。キイトルーダは、3週間もしくは6週間を1サイクルとして投与をくり返します。
- 3週間サイクル:1回投与量200mg
- 6週間サイクル:1回投与量400mg
がんの種類や使用する目的によっては、投与できる期間が定められています。
キイトルーダの適応疾患
キイトルーダはどのようながんに適用されているのか確認しましょう。
肺がんへの適応
肺がんに対する適応は、「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」で、ステージⅣの患者が対象です。キイトルーダの効果が期待できるかどうかは、PD-L1を発現したがん細胞がどれほどあるかを示すTPSの値に左右されます。そのため、キイトルーダの1次治療を開始する前にPD-L1検査をおこないます。
TPSが1%以上あれば、1次治療からキイトルーダ単独で使用可能です。TPSが1%未満だった場合でも、ほかの抗がん剤と併用して治療することができます。PD-L1検査は、EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子とも関連があるため、これらの遺伝子検査と同時におこなうことが多くみられます。
乳がんへの適応
乳がんに対する適応は以下のとおりです。
- PD-L1陽性のホルモン受容体陰性かつHER2陰性の手術不能又は再発乳癌
- ホルモン受容体陰性かつHER2陰性で再発高リスクの乳癌における術前・術後薬物療法
手術が難しい、または再発したPD-L1陽性のトリプルネガティブ乳がんでは、投与前にキイトルーダの効果が期待できるかどうかをCPS値を用いて判定します。CPSとは、PD-L1を発現しているがん細胞・リンパ球・マクロファージの割合を示したものです。CPSが10以上であれば、キイトルーダでの治療対象となります。
早期のトリプルネガティブ乳がんと診断され手術を予定している場合、従来の術前化学療法には細胞障害性抗がん剤のみが使われていました。キイトルーダを併用するようになってから、術前化学療法終了後の手術で切除した組織に、がん細胞が残る割合が改善されています。
そのほかのがんへの適応
そのほか、キイトルーダを適用できるがんの種類と条件は以下のとおりです。
- 悪性黒色腫
術後の補助療法や、根治手術が難しい場合の全身薬物療法で使用します。 - ホジキンリンパ腫
初回治療の効果が得られなかった場合や再発した場合に投与します。 - 尿路上皮がん
根治切除が難しいケースで、全身化学療法をおこなった後に増悪した場合に使用します。 - 腎細胞がん
再発リスクが高いときに、術後補助療法として投与します。 - 頭頸部がん
再発した場合やがんが離れた臓器まで広がっている場合に使用します。 - 食道がん
手術による治癒が難しい場合や再発した場合に投与します。 - 結腸・直腸がん
手術による治癒が難しく、症状が進行・再発したケースにおいて、遺伝子検査で高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)と判明した場合に使用します。 - 子宮体がん
手術による切除ができず、化学治療をおこなった後に症状が進行・再発した場合に投与します。 - 子宮頸がん
根治的な治療が難しく、病状が進行している場合や再発した場合に使用します。 - 原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫
初回治療で効果が得られなかった場合や再発した場合に投与します。 - 高い腫瘍遺伝子変異量(TMB-High)を有する進行・再発の固形がん
- 高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する進行・再発の固形がん
ほかの標準的な治療が困難で、かつ初回化学療法で効果が得られなかったケースにおいて、遺伝子検査で高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)と判明した場合に投与します。
キイトルーダの完治率
キイトルーダを使用したときに、病状がどのくらい改善されるのか気になる人もいらっしゃるでしょう。肺がんと乳がんについて、公開されているデータからわかりやすく解説します。
進行・再発の非小細胞肺がん患者の生存率
化学療法をおこなっていない、進行・再発の非小細胞肺がんで、2021年に公開された5年間フォローアップしたKEYNOTE-024試験の結果です。キイトルーダ単独で治療した場合と、通常の化学療法をおこなった場合で比較しています。
5年間追跡調査した全生存期間(治療を開始してから死亡するまでの期間)について、治療を受けた集団の中で生存している人の割合がちょうど50%になるまでの期間は、キイトルーダ26.3ヶ月、化学療法13.4ヶ月でした。治療を開始してから5年後の生存率は、キイトルーダ31.9%、化学療法16.3%という結果が得られています。
進行再発トリプルネガティブ乳がんの生存率
全身性の治療歴がない、切除不能な転移・再発又は局所進行性のトリプルネガティブ乳癌で、2022年に公開されたKEYNOTE-355試験の結果です。キイトルーダ+化学療法で治療をおこなった場合と、プラセボ+化学療法で治療をおこなった場合を比較しています。
PD-L1陽性かつCPS10以上の患者さんにおける結果は次の通りです。CPSとは、PD-L1を発現しているがん細胞・リンパ球・マクロファージの割合を示しています。
全生存期間について、治療を受けた集団の中で生存している人の割合がちょうど50%になるまでの期間は、キイトルーダ群23.0ヶ月、プラセボ群16.1ヶ月という結果が得られています。治療を開始してから18ヶ月後の生存率は、キイトルーダ併用群58.3%、プラセボ併用群44.7%です。
キイトルーダの副作用と注意点
キイトルーダを使用すると、がん組織によってブレーキがかかっていた免疫機能が回復することで、免疫が働きすぎて副作用が生じることがあります。キイトルーダの副作用について、初期症状や注意するべき点について解説します。
副作用が起きたときにみられる症状
以下の症状が現れたときは、副作用の可能性があります。体の部位ごとに、具体的な症状をまとめました。
消化器 | 吐き気・嘔吐、食欲低下、下痢、血便、腹痛、1日4回以上の排便 |
泌尿器 | 血尿、頻尿、尿量が普段と異なる |
呼吸器 | 咳、息切れ、呼吸困難、痰、血痰 |
皮膚 | 発疹・かゆみ・ただれなど皮膚症状、黄疸 |
筋肉・神経 | 手足の力が弱くなる、しびれ、けいれん |
目 | 見え方が普段と異なる、まぶしく感じる、まぶたが重い |
全身 | 頭痛、意識が遠のく、むくみ、疲れやすい・だるさ、発熱、出血しやすい、口やのどが乾きやすい |
重大な副作用の種類
以下に挙げる副作用は、早めに対処しないと重篤化する可能性があるため注意しましょう。
- 間質性肺炎
- 大腸炎・小腸炎・重度の下痢
- 重度の皮膚障害
- 神経障害( ギラン・バレー症候群・末梢性ニューロパチー)
- 劇症肝炎・肝不全・肝機能障害・肝炎・硬化性胆管炎
- 内分泌障害 (甲状腺機能障害・下垂体機能障害・副腎機能障害)
- 1型糖尿病
- 腎機能障害
- 膵炎
- 筋炎・横紋筋融解症
- 重症筋無力症
- 心筋炎
- 脳炎・髄膜炎
- 重篤な血液障害
- 重度の胃炎
- 血球貪食症候群
- 結核
- 点滴時の過敏症反応(インフュージョンリアクション)
- ぶどう膜炎
副作用が現れるまでの日数
キイトルーダを単独投与してから、重大な副作用が現れるまでの日数の中央値は以下のとおりです。
投与後3ヶ月未満 | 神経障害( ギラン・バレー症候群・末梢性ニューロパチー):62日 劇症肝炎・肝不全・肝機能障害・肝炎・硬化性胆管炎:64日 甲状腺機能障害:65日 筋炎・横紋筋融解症:80日 重症筋無力症:49日 点滴時の過敏症反応(インフュージョンリアクション):22日 ぶどう膜炎:63日 |
投与後3ヶ月~6ヶ月未満 | 間質性肺炎:102日 大腸炎・小腸炎・重度の下痢:128日 重度の皮膚障害:127日 副腎機能障害:164日 1型糖尿病:127日 腎機能障害:125日 膵炎:126日 脳炎・髄膜炎:136日 結核:150日 |
投与後6ヶ月以上 | 下垂体機能障害:201日 心筋炎:300日 重篤な血液障害:211日 重度の胃炎:223日 |
(参考:キイトルーダ適正使用ガイド|MSD)
キイトルーダとオプジーボの違いとは
キイトルーダとオプジーボはともに、抗PD-L1抗体薬という免疫チェックポイント阻害薬です。効果を発揮するしくみはどちらも同じですが、適応疾患・副作用・薬価に違いがあります。ひとつずつ確認しましょう。
キイトルーダとオプジーボの適応疾患の比較
キイトルーダとオプジーボに共通で適応しているがんの種類は以下のとおりです。
- 悪性黒色腫
- 非小細胞肺がん
- 腎細胞がん
- 古典的ホジキンリンパ腫
- 頭頸部がん
- 食道がん
- 結腸・直腸がん
- 尿路上皮がん
キイトルーダのみ適応しているがんの種類です。
- 乳がん
- 子宮体がん
- 子宮頸がん
- 原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫
- 進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌
- 高い腫瘍遺伝子変異量(TMB-High)を有する進行・再発の固形癌
オプジーボのみ適応があるがんの種類です。
- 胃がん
- 切除不能な進行・再発の悪性胸膜中皮腫
- 悪性中皮腫(悪性胸膜中皮腫を除く)
- 原発不明がん
キイトルーダとオプジーボの副作用の比較
重大な副作用は、キイトルーダとオプジーボで共通しているものがほとんどです。オプジーボでは、静脈血栓塞栓症も起こる可能性があります。
静脈血栓塞栓症とは、主にふくらはぎや太ももにできた血栓が、血液の流れに乗ってほかの臓器の血管をふさいでしまう病気です。肺の血管がふさがると命にかかわる可能性があるため注意が必要です。
キイトルーダとオプジーボの薬価の比較
キイトルーダとオプジーボの薬価は以下のとおりです。保険適用される場合の自己負担額は1~3割になります。薬剤の価格のみ表記しており、実際におこなうときには診察料や実施料なども加わります。
- キイトルーダ点滴静注100mg 214,498円/瓶
1回投与量あたりの薬価:428,996円/200mg(2瓶)または857,992円/400mg(4瓶) - オプジーボ点滴静注120mg 185,482円/瓶
1回投与量あたりの薬価:370,964円/240mg(2瓶)または741,928円/480mg(4瓶)
まとめ
キイトルーダは、抗PD-L1抗体薬という免疫チェックポイント阻害薬のひとつです。がん細胞が免疫細胞から攻撃されるのを回避するシステムを利用した画期的な薬剤で、従来の薬物療法より治療成績が改善されたというデータが発表されています。適用となるがんには、非小細胞肺がん、トリプルネガティブ乳がん、悪性黒色腫などさまざまな種類があります。
キイトルーダを使用する際は、遺伝子検査をおこない、効果が期待できるかどうか確認が必要です。オプジーボはキイトルーダと同じく抗PD-L1抗体薬で、治療効果を示すメカニズムは同じですが、適用となるがんや重大な副作用の種類、薬価に違いがあります。
キイトルーダによる治療を希望する際に、今回の内容を参考にしていただければ幸いです。