腎臓がんとは?ステージ分類や特徴・治療法など解説
腎臓がんは、体内の水分量の調節や尿を作る働きをもつ腎臓に発生するがんです。50歳から70歳の男性に多い悪性腫瘍であり、今後も増加が予想されています。血尿やお腹の痛み・違和感などの症状がきっかけで発見されることもありますが、近年では、無症状の状態で、人間ドックや他の病気の検査の時に偶然発見されるケースが増加してきました。
この記事では、腎臓がんの特徴や症状、種類やステージ分類について解説します。予後や治療方法についても紹介するので、ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
腎臓がんとは
腎臓がんとは、腎臓にできる悪性腫瘍(がん)のひとつです。腎臓の実質部分の細胞から発生しており、腎細胞がんとも呼ばれます。
なお、同じ腎臓に発生したがんであっても、腎盂にある細胞ががん化したものは「腎盂がん」です。腎盂がんと腎細胞がんでは、がんの性質が異なるため、区別して考えられています。
ここでは、腎細胞がんの基本情報や特徴を解説します。
腎臓がんの基本情報
腎臓は、背中側の腰のあたりに左右に1つずつある臓器です。そら豆のような形をしています。腎臓のはたらきは、体内の水分量を調節し、血液中の毒素を体外に出すために尿を作ることです。
一般的に腎臓がんと呼ばれるがんは、腎臓の実質部分の細胞ががん化した「腎細胞がん」です。
腎臓がんの種類
腎細胞がんは、細胞の形や集まり方などにより、さまざまな組織型に分類されています。
- 淡明細胞型腎細胞がん
- 多房のう胞性腎細胞がん
- 乳頭状腎細胞がん
- 嫌色素性腎細胞がん
- 集合管がん(ベリニ管がん)
- 紡錘細胞がん(肉腫様がん) など
腎細胞がんのなかでも最も多くみられるのは「淡明細胞型腎細胞がん」であり、腎細胞がんの約70〜85%を占めています。また、10〜15%が「乳頭状腎細胞がん」、5〜10%が「嫌色素性細胞がん」と言われています。
これらの組織型にはそれぞれ違った特徴があり、予後も大きく異なります。
腎臓がんの特徴
腎臓がんは、以前は血尿や腰の痛み、腹部のしこりや足のむくみなどの症状が出現してから発見されるケースが多くみられました。しかし、現在では健康診断や、他の病気の検査時に偶然で見つかることが多く、約7割が無症状で発見されています。
腎細胞がんを発症する人の割合は年々増加しており、検査の精度が向上したこと、透析患者が増えたこと、高齢化などが要因として考えられています。
また、人口10万人あたりの罹患率は男性8.2、女性3.7と、罹患率が高いのは男性です。年代別でみると50代後半以降に増加し、70代前半の罹患率が最も高くなります。
なお、腎臓がんになりやすい因子として、喫煙や肥満、高血圧、遺伝などが関与していると考えられています。
腎臓がんの症状
腎臓がんは、腫瘍が小さいうちには症状がありません。腫瘍が大きくなるにつれ、血尿や、背中や腰の痛み、腹部のしこり、足のむくみ、食欲不振、吐き気、など、さまざまな症状が出現します。
このうち、次の3つが三大症状とされています。
- 血尿
- 腹部腫瘤
- 脇腹から腰にかけての疼痛
現在では健康診断や他の病気の検査時に腎臓がんが見つかるケースが増えているため、診断前に三大症状がすべて出現することは少なくなってきています。また、がんの進行とともに全身に広がると、発熱や食欲不振、貧血、体重減少など、全身性の症状が出現することもあります。
腎臓がんの原因
腎臓がんの主な原因は、はっきりと分かっているわけではありません。しかし、危険因子として、肥満や高血圧、喫煙など生活習慣にかかわるもの、カドミウムやアスベストなどへの暴露が関連していると考えられています。また、長い期間人工透析をおこなっていることも、腎臓がんになりやすい因子です。
遺伝子の変異による病気との関連も指摘されており、たとえば複数の臓器に良性、悪性の腫瘍が発生する「フォン・ヒッペル・リンドウ病(von Hippel-Lindau:VHL)」も腎臓がんの原因のひとつであるといわれています。
腎臓がんのステージ分類
腎臓がんの進行度は、ステージ分類(病期分類)にて判断されます。ステージ分類は、進行するにつれ数字が大きくなり、一定の基準に応じてステージⅠ期〜Ⅳ期に分類されます。このステージ分類やがん事態の性質、全身状態に応じて治療法が検討されるのです。
- ステージI:がんが腎臓のなかとどまり、直径が7cm以下
- ステージII:がんが腎臓のなかにとどまり、直径が7cmを超える
- ステージIII:がんが腎臓内にとどまらず周囲の血管に及んでいるが、腎臓を覆う最も外側の膜は超えていない、または近くのリンパ節にひとつだけ転移がある
- ステージIV:がんが最も外側の膜を超え、他の臓器に広がっているか、リンパ節転移が2個以上ある
それぞれのステージは、次のTNMの3種類のカテゴリーの組み合わせにより決定されています。
T:原発巣の大きさ・広がり
N:リンパ節への転移の有無
M:離れた臓器やリンパ節への転移の有無
腎臓がんの5年生存率
腎臓がんの5年生存率は、がんの進行度により大きく異なります。小さながんが腎臓内に限局しているステージⅠの場合には、手術で完全切除をおこなうなど適切に治療を受ければ90%以上が再発なく経過し、5年非再発率は90%以上です。
ステージⅡの5年生存率は80〜90%台、ステージⅢとなると70%台、ステージⅣは20%程度と、ステージが進むにつれ5年生存率は低下します。
出典:国立がん研究センターがん情報サービス 院内がん登録生存率集計結果閲覧システム
進行した状態でがんが発見された場合には、薬物療法をはじめとする治療を受けたとしても、根治は難しくなります。しかし、生存率自体は年々向上しつつあります。
腎臓がんには、急速に進行するタイプ、比較的進行が緩徐なタイプがあることが判明しており、手術にてがんを除去後、10年以上経過してから再発や転移が見つかるケースも認められました。転移の部位は肺が最も多く、脳や骨、肝臓にも転移します。
がんを除去したあとにも、長期にわたる経過観察が必要です。
腎臓がんの検査方法
腎臓がんに関する腫瘍マーカーは現在のところ見つかっておらず、血液検査や尿検査のみでは調べられません。また、腎臓がんは胃がんや大腸がんとは異なり、がんを内視鏡で観察することもできません。
したがって、腎臓がんの検査方法は、大きく分けて次の2種類です。
- 画像検査
- 生検
腹部超音波検査や造影CT検査、MRI検査などの画像検査により、特徴的な結果が見つかれば、腎臓がんと診断されます。特徴的な結果が見られない場合には、腫瘍に針を刺し、採取した組織を顕微鏡で調べる生検をおこなう場合もあります。
腎臓がんを発見、診断するための検査方法について具体的に紹介します。
画像検査
腎臓がんの検査は画像検査が中心となります。まず腹部超音波検査をおこない、異常が見られる場合、詳しく検査をするための造影CT検査がおこなわれることが多いでしょう。
超音波検査
超音波検査は、超音波を体の表面にあて、臓器から帰ってくる反射の様子を画像として観察する検査です。具体的には、超音波プローブを背中にあて、腎臓に腫瘍の影がないかを調べます。
がんの存在する場所や、がんの形や大きさ、周辺の臓器との関係が確認できます。
造影CT
腎臓がんの多くは造影CTにて診断されます。造影CTは、造影剤を血管内に点滴しながら、CTにて体の断面を撮影する検査です。体内や腫瘍の詳しい状況がわかるため、多くの場合、腫瘍が良性か悪性かの判断も可能です。
腎臓だけでなく、肺や肝臓、リンパ節への転移があるかどうかも調べられます。
MRI
MRI検査は、強力な磁石と電波の力を利用した検査です。がんの大きさや周囲への広がり、良性腫瘍との判別が可能となります。
腎機能に障害があったり、アレルギーがあったりして造影剤が使用できない場合や、超音波検査やCT検査で診断が難しい場合におこないます。
生検
生検とは、腫瘍に針を刺して採取した組織を調べる検査です。画像検査で良性腫瘍と悪性腫瘍との判断ができない場合に実施することがあります。
現在では、画像診断が進歩しているため、実際に生検をおこなうケースは多くありません。
腎臓がんの治療方法
腎臓がんの治療方法はステージにより異なり、組織型やリスク分類、本人の生活環境や希望、年齢を含めた体の状態など、総合的に判断されます。
しかし、薬物治療や放射線治療は、一般的に有効でないことが多いと言われています。手術によりがんを完全に除去すること、または完全に取り除けなくても手術にてがんの量を減らす治療が重要となります。
腎臓がんの治療方法について解説します。
手術療法
手術療法は、がんや、がんの存在する臓器を切除する治療法です。
術式としては腹部を切開しておこなう「開腹手術」や、腹部に開けた小さな穴から腹腔鏡を入れておこなわれる「腹腔鏡手術」、腹腔鏡手術と組み合わせ、手術用ロボットを遠隔操作しながらおこなう「ロボット支援手術」があります。
術式は、がんの状態や、全身状態を配慮し決定されます。
腎摘出術
腎摘出術は、がんのある側の腎臓をすべて取り除く手術です。がんの存在する位置や状況により、腎臓だけでなく周囲の臓器や、血管内にあるがん、周囲の脂肪を一緒に切除するケースもあります。
腎摘出術により片側の腎臓を摘出し、腎臓がひとつになったとしても、残存した腎臓が正常に働けば、多くの場合生活に支障をきたすことはありません。ただし、腎臓がひとつになることにより負担がかかり、残りの腎機能の悪化や、腎障害が起こる可能性はあります。
部分切除術
部分切除術は、腎臓のがんの存在する部位のみを部分的に切除する手術です。残存した腎臓の機能を温存できるというメリットがあります。
部分切除術は主に小さながんの場合におこなわれますが、腫瘍が4cm以下、外側に突出しているなど、いくつかの条件が揃うことが必要です。また、リスクとして縫い合わせた部分から出血する後出血や、尿が漏れる尿漏、がんの取り残しが起こる可能性があるため、慎重に適応を判断することが求められます。
問題なく部分切除術が実施されれば、腎摘出術の場合と予後は変わりません。
凍結療法
凍結療法は、がんを凍らせてがん細胞を死滅させる治療法です。体の外から特殊な針をがんに刺し、アルゴンガスで組織を凍結させます。
手術を希望しない場合や、体力不足により手術が難しい高齢者など、手術が実施できない場合に選択されることがあります。
薬物療法
腎臓がんにおける薬物療法は、手術でがんを切除することが困難な場合におこなわれます。腎臓がんの薬物治療には、主に分子標的薬と、免疫チェックポイント阻害薬が用いられます。それぞれ紹介します。
分子標的薬
分子標的薬とは、がん細胞の増殖に必要なタンパク質をはじめとする、がんに関わる特定の分子のみを攻撃する薬です。がん細胞に関わる分子のみを攻撃するため、通常の抗がん剤と比較すると正常な細胞へのダメージが軽減され、副作用が抑えられると考えられています。
ただし、副作用が全く生じないわけではありません。高血圧や疲労、皮膚炎、下痢などが生じるケースが報告されているため、専門の施設で、全身状態や副作用症状に注意しながら治療をする必要があります。
免疫チェックポイント阻害薬
免疫チェックポイント阻害薬は、免疫の力を利用してがんを攻撃します。
私たちの体は、通常異物を排除し体を守る免疫の力が備わっていますが、がん細胞は成長過程において、免疫から逃れる仕組みを獲得し、増殖しているということがわかってきました。免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫から防御する仕組みを阻害するための薬です。
がんの免疫抑制細胞に作用する免疫チェックポイント阻害薬は、現在も研究や開発が進められています。
放射線療法
放射線療法は、がんの存在する部分に放射線をあてることにより、がん細胞を死滅させる治療法です。
ただし、腎細胞がんそのものに対し、治療を目的として放射線治療をおこなうことは基本的にありません。腎細胞がんに放射線が効きにくいことと、腎臓の正常組織が放射線に弱いため、治療後の腎機能の低下が懸念されることが理由です。
放射線療法は、脳や骨に転移がある場合に、がんによる痛みを和らげたり、進行を抑える目的で使用されます。
まとめ
この記事では、腎臓がんの特徴や症状、予後や治療方法について解説しました。
腎臓がんは、症状が出る前に発見されるケースが増えています。早期に発見され手術で除去すれば、5年非再発率が90%を超えるがんです。
治療方法は手術療法が第一選択ですが、病気の進行や状況に合わせ、さまざまな治療方法を検討することも必要となります。正しい知識や情報を得て、主治医と十分に相談しましょう。
病気や治療に関する疑問が残ったり、判断が難しかったりする場合には、別の病院の医師からも意見が聞けるセカンドオピニオン制度を利用してみることもおすすめです。病気や治療への理解が深まり、納得して治療に臨むことができるでしょう。