肝臓がんのステージ別の症状と余命について

がん治療のセカンドオピニオンNIDCのサイトメニュー

19,891

肝臓がんのステージ別の症状と余命について

肝臓がんのステージ別の症状と余命について

私たち人間にとって重要な臓器の一つである肝臓。主に解毒・分解、消化に必要な胆汁の分泌など生きていく上で必要不可欠な役割を持っています。

その肝臓における重篤な疾患の一つとして肝臓がんが挙げられます。特に普段からお酒を飲みすぎている人、肝臓が弱っていると感じている人などは心配されている方も多いのではないでしょうか。

この記事では、肝臓がんに関するいろいろな疑問についてお答えします。ステージの分類の考え方、各ステージの分類ごとの余命についても解説していますので、ぜひ最後までお読みください。

肝臓がんとは

肝臓がんとは

肝臓がんとは肝臓の細胞ががん化したものです。肝臓がんには、肝臓の細胞ががん化した「肝細胞がん」と、肝臓で作られた胆汁を十二指腸に送る胆管の細胞ががん化した「肝内胆管がん」とがあります。

肝臓原発のがんである場合、90%が肝細胞がんです。肝臓がんは発見が遅れる傾向があります。肝臓は沈黙の臓器と呼ばれるほど、炎症が起きていてもほとんど自覚症状がありません。そのため、健康診断や他の病気の検査をしてたまたま見つかるケースも多いがんです。

自覚症状がほとんどなく、そのためにがんと診断されたときにはかなり進行していた、ということも少なくありません。そのため肝臓がんは肺がん、胃がんに次いで日本人男性の死因の3位を占めているのです。

肝臓がんのステージ(病期)とは

肝臓がんのステージ(病期)とは

肝臓がんのステージとは「病期」のことです。腫瘍の数や大きさ、周囲の組織への広がり、またリンパ節や離れた場所にある臓器への遠隔転移の有無などによってⅠ~Ⅲ期、Ⅳ期(ⅣA期、ⅣB期)の5 段階に分類されています。一般的にステージはローマ数字で表されます。

肝臓がんのステージごとの余命は?

がんは1人ひとり全く違うものです。「あとどれくらい生きられるか」は人によって違う、というのが本当のところでしょう。そのため、がんに関しては余命よりも「5年生存率」の方を良く用います。

「余命」「平均余命」「5年生存率」とは?

「余命」とはがんと診断されてからどれくらい生きられるかを示したものです。100人のうち50%の人が生きている期間のことを「平均余命」といいます。「5年生存率」は5年後に再発せずに生存している人の割合のことです。

一般的にがんは「完治」という言葉を使いません。治療後もがん細胞が体の中に潜んでいることがあり、完全に取り切れないことがあるためです。5年間再発しなかった場合はその後も再発せずに生存していることが多いため、がんが「治ったかどうか」の指標に用いられます。

ただし、肝臓がんは再発することが多いため、5年生存率と共に3年生存率という数値も用いられます。また、肝臓がんの余命は肝炎や肝炎ウイルスに罹患しているかどうかでも大きく異なるため、あくまでも目安と考えてください。

肝臓がんステージⅠ

ステージⅠとはリンパ節や遠隔臓器に転移がなく、かつ腫瘍が一つだけであり、腫瘍の大きさが2cm以下、周囲の脈管(肝内の血管、胆管、門脈)に転移がない状態です。がんはまだ小さく、手術によって根治をめざすことができます。ステージⅠの3年生存率で約81,7%、5年生存率で約44,5%です。

肝臓がんステージⅡ

ステージⅡとは、リンパ節や遠隔臓器に転移がなく①腫瘍が一つだけである、②腫瘍の大きさが2cm以下である、③周囲の脈管(肝内の血管、胆管、門脈)に転移していないことのうち2つを満たしている状態のことです。がんの数はまだ少なく小さいため、手術による肝切除で根治をめざします。ステージⅡの余命は3年生存率で36,6%、5年生存率で27,1%です。

肝臓がんステージⅢ

ステージⅢとは、リンパ節や遠隔臓器に転移がなく①腫瘍が一つだけである②腫瘍の大きさが2cm以下である③周囲の脈管に転移していない、という3項目のうち1項目に当てはまる場合のことをいいます。

ステージⅡからⅢへ進むほどがんの数は増えていきます。ステージⅢまでは手術による肝切除が可能であり、第一選択となります。ステージⅢの余命は3年生存率で66,1%、5年生存率で44,7%です。

肝臓がんステージⅣA

がんが肝臓にとどまらず、肝臓と直結したリンパ節にも転移している状態です。ステージⅣの肝臓がんに対しては化学療法を行います。肝臓に直接抗がん剤を注入する方法や、点滴や服薬などによって全身に対して抗がん剤治療を行うことがあります。九州大学の統計によると16か月です。

肝臓がんステージⅣB

がんが肝臓から遠く離れた他の臓器にも転移している状態です。分子標的薬や、抗がん剤治療薬の他、肝機能が正常に働かない場合は肝移植も検討されます。平均余命についてはステージⅣAと同じく九州大学の統計によると7か月といわれています。ステージⅢの患者さんの平均余命が50か月という統計もあることを考えると、ステージⅢとⅣの差は歴然です。

肝臓がんの治療

肝臓がんの治療

肝臓がんの治療について見てみましょう。肝臓がんの標準治療は「外科手術」「ラジオ波焼灼療法」「肝移植」「冠動脈化学塞栓療法」などがあります。

標準療法とは、多くの症例に対して「最も効果があった」治療法のことです。「上並下」の並という意味ではありません。一般的にはまず標準療法を行います。

肝切除術

肝切除術とは、手術によって肝臓のがん化した部分を切り取ることです。肝切除術は最も根治的な治療法であり、Ⅰ~Ⅲ期の肝臓がんに対する標準治療となっています。

肝臓はヒトの体の中で最も大きな臓器です。腹部の右上にあり、右の肋骨に挟まれるように位置しています。肝臓は体の中で重要な役割を果たしています。食事をするとそれらを栄養素に分解し、必要なものを血液の中へ送り出し、不要なものは尿として排出するよう腎臓へ送り出します。

栄養を分解するだけでなく、ヒトの体にとって有害な物質を分解し、解毒する働きもしています。また、消化に必要な「胆汁」を製造している臓器でもあります。ですから、臓器の中でも多くの血管が集まっており、胆汁を送るための管などが縦横無尽に取り巻いています。

人は肝臓がなければ生きていくことはできません。そのため、肝臓を切除するというのはそれだけでもたいへんなことなのです。ただし、肝臓は一部を切り取ってもまた再生することができる、特異な臓器でもあります。

肝臓がんと診断され、肝臓を切り取ることになった場合でも、60%~70%まで切除しても再生すると言われています。肝臓の再生する作用をうまく利用した治療法です。

肝移植

肝臓がんの治療の途中でも、肝臓の働きが悪い場合などには肝臓移植が検討されます。がんに侵された肝臓をすべて摘出し、そこに健康な人の肝臓を移植する治療法です。肝臓はその7割を切り取ってもまた再生するという特徴があるため可能な治療法です。

肝臓を提供する人のことをドナーと呼びます。肝移植には生きている人の体から肝臓を分けてもらう「生体肝移植」と脳死になった人から肝臓を取り出して移植する「脳死肝移植」とがあります。

いずれにしても、肝移植はドナーがいなければ成立しない治療法です。ドナーが見つからない場合、なかなか治療が進まないこともあります。

ラジオ波焼灼術

ラジオ波焼灼術とは、肝臓に電極の付いた針を刺し、高周波のラジオ波を流してがん細胞を焼き切る治療法です。穿刺局所治療法ともいいます。

針の先端からでる超音波は3cm四方に広がり、約60℃の熱をがん細胞に加えて死滅させます。切らない外科手術として近年多く行われるようになっている治療法です。

3cmほどのがんでは12分程度、2cm程度のがんならわずか6分ほどで終わります。肝臓がんの治療第一選択はがん切除術ですが、再発や高齢など、肝臓の機能に不安がある場合や体力的な不安がある場合などには有効です。ステージⅠ~Ⅳまで幅広く行われます。抗がん剤のように全身に対する影響が少なく、体への負担が少なくて済むのが特徴です。

冠動脈化学塞栓療法

肝臓に直接抗がん剤を注入するとともに、肝臓に血液を送る血管にゼラチン質で粘度の高い物質を送り込む治療です。あえて血管を詰まらせ、がん細胞に栄養を送れなくすることでがん細胞を殺します。いわば兵糧攻めです。

がん細胞は分裂する際に非常に多くのエネルギーを消費します。がんになると体重が落ちて痩せてしまうのはこれが理由です。がん細胞は血管を新しく作って血流を多く取り込みます。

がん細胞に流れ込む血管を遮断してがん細胞を弱らせ、かつ抗がん剤で叩くという二段構えです。ステージが進んで手術が適用でない方に対して多く行われます。全身に抗がん剤を使用するわけではないため、抗がん剤特有の副作用がないのがメリットです。

化学療法

いわゆる抗がん剤を使用する治療法です。高齢や再発の肝臓がんの場合など、手術に耐えられるだけの体力がない場合、抗がん剤での治療が選択されることもあります。直接肝臓に抗がん剤を注入することもあれば、点滴などで全身に対して行うこともあります。

分子標的薬

分子標的薬とは、がん細胞が分裂するときに必要なたんぱく質を作れなくしたり(阻害薬)、もともと人の体がもっている免疫システムを利用してがん細胞を攻撃したりする作用を持つ抗がん剤の一種です。分子標的薬には、それ自体ではがん細胞を殺す作用はありません。

抗がん剤はがん細胞だけでなく正常な細胞まで攻撃します。抗がん剤治療を行うと副作用として髪が抜けたり、ひどい吐き気がしたりといった副作用が起こります。分子標的薬はそれ自体には細胞を殺す力はないため、抗がん剤のような強い副作用がないというのがメリットです。

放射線治療

令和4年4月より根治が難しいと診断された肝臓がんに対しての使用が一部、健康保険の適用対象となりました。ただし、肝臓がんに対しては放射線治療の効果は薄いと言われており、主に緩和ケアの目的で行われることが多いようです。また重粒子線治療は高額になるため、本当に必要かどうか、医師とよく話しあうことも大切です。

緩和ケア

進行したステージの肝臓がんの痛みや、治療に伴う痛みなどの症状を緩和するために行う治療です。がん性の痛みの緩和、メンタル面での支えなどを得ることもできます。その他、抗がん剤を使用したことにより生じる貧血などの副作用を改善するための輸血などを含めて支持療法といいます。

肝臓がんが再発したら

肝臓がんが再発したら

肝がんは手術によって根治をめざすのが第一選択になりますが、それでも再発率の高いがんです。5年以内に再発する確率は70~80%と高くなっています。再発の場合、肝硬変や慢性肝炎を併発している場合が多く、手術して根治をめざすのは困難です。

ほとんどの場合分子標的薬(ソラフェネブ)でがんの縮小を試みます。肝臓の中に再発することもあれば、肝臓から遠く離れた他の臓器に転移という形で再発することもあります。

肝臓がんの原因はB型、C型などの肝炎ウイルスやアルコール性肝硬変、非アルコール性の脂肪肝炎などの慢性的な炎症や疾患

肝臓がんの原因はB型、C型などの肝炎ウイルスやアルコール性肝硬変、非アルコール性の脂肪肝炎などの慢性的な炎症や疾患です。慢性肝炎とは、肝臓が常に炎症を起こしている状態であり、肝硬変とは肝臓が硬くなり機能しなくなる状態です。

肝臓がんのうち90%は、ウイルスによる慢性的な炎症が続くことによって生じる肝硬変が原因です。肝臓には再生能力がありますが、再生と炎症を繰り返すことによってやがて肝硬変に至ります。肝硬変になると、肝臓がんに移行する可能性が高くなります。

肝臓がんの末期症状

肝臓がんの末期症状

肝臓には修復作用があるため、肝臓がんの初期の頃(ステージⅠ)には、ほとんど自覚症状がありません。しかしながら、進行するにつれて徐々に様々な症状が表れるようになります。少しステージが進むと腹部のしこりやお腹の張りや痛み、全身の倦怠感や疲れやすさ、食欲がないなどの症状が見られるようになります。

ステージⅣでは黄疸や倦怠感、腹水、体重の減少、むくみといった症状が表れます。肝臓がんとは結び付きにくいのですが、体中にかゆみが起きたり腹痛や下痢などの症状が出たりすることもあります。

ステージⅣ~末期になると、肝性脳症が起きることによって認知症のような症状が出ることもあります。また突然昏睡状態に陥ってそのまま絶命するというケースも見られ予断を許しません。

肝臓がんの予防と早期発見のために

肝臓がんの予防と早期発見のために

肝臓がんの原因の一つは肝炎ウイルスです。ですから、予防のためにワクチンが有効です。また、暴飲暴食を避けて節度ある食事とアルコールの摂取、喫煙を避けることや良い睡眠習慣を持ってストレスを避けること、など、どのがんの予防と考え方は同じです。

ステージⅠではほとんど自覚症状がないため、肝臓がんは他のことでたまたま見つかるケースが多いのが実情です。ステージⅠで肝切除術を行った後の1年後の生存率は約90%、3年後で約70%、5年後で約50%です。発見が早ければ早いほどこの数字は上がります。定期的な検診を受けることによって、早い段階での発見と治療をおすすめします。

まとめ

できるだけ早い段階で肝臓がんの発見と治療ができれば余命を伸ばすことも可能

肝臓がんは肝臓の細胞ががん化したものです。肝臓がんは男性の罹りやすいがんの中でも第3位と非常に多い疾患であり、毎年3万人が亡くなっています。肝臓がんはⅠ~Ⅲ期の3つのステージとⅣA期、ⅣB期の5つのステージに分類されます。

再発率が非常に高く、また体の重要な臓器であるがゆえに進行してしまったステージでは治療の選択幅がなくなり、治療が難しくなる場合があります。どのがんに関しても言えることですが、できるだけ早い段階での発見と治療ができれば余命を伸ばすことも可能です。

「今は何ともない」からと安心するのではなく、ぜひ1年に一度、定期的な健康診断はもちろんのこと、人間ドックなどの精密検査も受けるようにしましょう。

がん治療一覧へ