男性が乳がんになる確率は?症状や治療法なども解説
乳がんは女性の病気だというイメージを持っている方も多いかもしれませんが、実は男性でもまれに発症することをご存知でしょうか。男性の乳がんは症状が目立たないため、気づかぬまま放っておくと取り返しがつかない状況になる可能性もあるのです。
この記事では、男性乳がんの発症率や症状、治療法、セルフチェックの方法まで解説します。男性乳がんについて理解が深まり、予後の悪化を抑えられる内容となっていますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
男性乳がんとは
男性乳がんは、男性の乳腺組織に発生する悪性腫瘍です。全乳がん患者の約1%を占め、100〜150人の乳がん患者に対して1人の割合で発症します。女性のがんと比べると非常にまれですが、男性にも乳腺組織が存在するため乳がんを発生する可能性があるのです。
男性の乳腺は乳頭や乳輪にわずかに存在するため、がんが発生する部位は乳頭や乳輪の周辺です。男性乳がんの診断や治療は女性の乳がんと同じで、ステージ分類も以下になります。
病期 | しこりの大きさやがんの転移 |
0期 | 非浸潤がん |
ⅠA期 | しこりの大きさが2cm以下でリンパ節に転移なし |
ⅠB期 | しこりの大きさが2cm以下で、同側の腋窩リンパ節にわずかな転移あり |
ⅡA期 |
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ⅡB期 |
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ⅢA期 |
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ⅢB期 |
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ⅢC期 |
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Ⅳ期 | 他の臓器へ転移している |
出典:一般社団法人日本乳癌学会「患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版」
男性乳がんは女性の乳がんと同様に早期発見と早期治療が重要です。男性も乳がんの可能性を認識し、定期的なセルフチェックをおこなうことが推奨されています。
男性が乳がんになる確率
男性の1000人に1人が一生涯のうちに乳がんを発症し、年代は60〜70代が特に多いといわれています。対して女性の場合は一生涯のうちに8人に1人が発症し、40〜50代が多い傾向にあり、発症率と年代ともに大きな差があります。
男性乳がんの発症率は女性よりも低いものの、年齢とともにリスクが高まるのが特徴です。特に60歳以上の男性は、乳がんの可能性を意識しながら生活するのが大切になります。
男性乳がんの原因
男性乳がんの発症リスクを高める要因として以下が挙げられます。
- 親近者の乳がん既往者の存在
- 年齢が60歳以上
- 胸部や乳房に対する放射線の治療歴
- クラインフェルター症候群(※)
- 肝硬変などの肝臓疾患
研究報告では、乳がんの既往が親近者に1人以上いる男性は、そうでない男性と比較して発症する確率が2倍になることがわかっています。遺伝性の男性乳がんのケースでは、BRCA1やBRCA2という遺伝子異常が起こることが特徴です。クラインフェルター症候群(※)や肝硬変で、体内の女性ホルモンの量が増えるのも危険因子になります。
(※)クラインフェルター症候群:男性が余分なX染色体を持つ遺伝性疾患のこと。出生男性の500〜1,000人に1人の割合で発症し、男性ホルモンの不足や精巣の縮小などが起こる
男性乳がんの症状
男性乳がんで自覚する症状は主に以下になります。
- 乳輪後部のしこり(痛みを伴わない)
- 乳頭からの出血や分泌物
- 乳頭の凹みや変形
- 乳頭周りの皮膚の潰瘍
- 触知できる腋のしこり(腋窩リンパ節腫脹)
- 乳房の腫れや変形
これらの症状が見られた場合、早めに病院を受診することが重要になります。男性乳がんは初期段階の自覚症状がないケースが多いため、女性の乳がんに比べて進行した状態で発見されることが多いのが特徴です。わずかな変化でも気づいた場合は迅速に医療機関を受診しましょう。
男性乳がんは何科に受診するべき?
対象の科目は乳腺外科となりますが、はじめから乳腺外科を受診することが躊躇される場合は、かかりつけ医などから紹介を受けるのも良いでしょう。実際のところ、乳がんの可能性を考えずに皮膚科や外科を受診したところ、そこから乳腺外科を紹介されたというケースも多いようです。
男性乳がんの検査方法
男性乳がんの診断は、超音波検査とマンモグラフィをおこない、異常が発見されれば生検検査やCT検査、FDG-PET検査をおこないます。
超音波検査・マンモグラフィ
男性乳がんの診断では、はじめに超音波検査とマンモグラフィによる画像診断をおこない、しこりの位置や大きさ、形状などを調べます。2つの検査を組み合わせると、より正確な診断が可能になります。
超音波検査
超音波検査は乳房内部の状態を音波で観察する方法です。しこりの大きさや形状を詳しく観察でき、男性の乳腺組織の特徴を考慮した診断が可能です。
マンモグラフィ
マンモグラフィは乳房専用のX線画像診断です。男性の場合は乳腺組織が少ないため、女性よりも鮮明な画像が得られやすい特徴があります。
男性でも乳房のサイズに関係なく撮影可能で、多くの場合問題なく検査を受けられます。マンモグラフィは以下の記事でも詳しく説明していますのでぜひご覧ください。
>>マンモグラフィによる検査は痛い?メリット・デメリットとは
生検検査
生検検査は針による吸引や手術で異常な細胞や組織を採取して、顕微鏡で状態を調べる検査です。男性乳がんの場合は超音波検査やマンモグラフィで異常があった場合におこなわれ、確定診断として重要な役割を果たします。
治療方針を決定するうえで必要ながんのホルモン受容体や、がんの増殖に関わるタンパク質(HER2)の過剰発現についても調べます。生検検査の方法は主に3つです。
- 穿刺(せんし)吸引細胞診:細い注射針を刺して異常な細胞を吸い取る方法のこと。
- 針生検:注射針より太い針を使用して異常な組織を取る方法のこと。
- 外科的生検:手術で異常な組織を取る方法のこと。針生検で診断が難しい場合におこなわれる。
生検検査は局所麻酔下でおこなわれ、大きな侵襲がない検査ですが、わずかな出血や痛みのリスクがあります。
CT検査・FDG-PET検査
CT検査とFDG-PET検査は、男性乳がんの全身の広がりを確かめるためにおこないます。これらの画像診断でがんの進行度や転移を判断して、治療方針を決定します。
CT検査
CT検査はX線を使用して体の断層画像を撮影し、臓器の状態を詳細に観察する検査です。臓器の状態を立体的に把握することにより、がんの大きさや周りの組織への湿潤、リンパ節転移などを評価できます。
FDG-PET検査
FDG-PET検査は、がん細胞が正常細胞よりも多くのブドウ糖を消費する性質を利用した検査です。FDG(放射線フッ素を加えたブドウ糖類似物質)を静脈注射し、がん細胞に集積する様子を専用のカメラで撮影します。FDG-PET検査に関しては以下の記事でも詳しく説明しています。
>>がん画像診断の最新機器PETの仕組み・課題・今後の可能性とは?
男性乳がんの治療法
男性乳がんの標準治療は女性の乳がんと基本的に同じで、手法や放射線治療、ホルモン治療、化学療法、緩和ケアなどになります。乳がんの完全切除の可否や患者の全身状態に応じて選択されます。
手術
男性乳がんの多くのケースで適応になる手術は乳房全切除術です。必要に応じてリンパ節を切除する手術(リンパ節郭清)もおこなわれます。
放射線治療
放射線治療は、手術後に残存する可能性のあるがん細胞を死滅させるためにおこなわれます。治療中は食欲不振や全身の倦怠感、貧血、下痢などの副作用が生じやすいです。
ホルモン療法
ホルモン受容体が陽性である場合、タモキシフェンなどの抗エストロゲン薬が使用されます。女性ホルモンの分泌を抑制して乳がんの増殖を抑える効果があります。
化学療法
化学療法は抗がん剤を用いたがんの治療法です。手術療法や放射線治療が済んだ後、主に再発リスクを抑えるためにおこなわれます。放射線治療と同様、脱毛や吐き気、手足のしびれなど、生活に支障をきたすような副作用が出現しやすくなります。
緩和ケア
緩和ケアは、がん患者その家族の身体的・精神的な苦痛を和らげることを目的とした医療処置やケアのことです。他の治療と並行して痛みの管理や心理的サポート、日常生活の援助などを含む総合的なアプローチをおこないます。
完全切除が可能な場合
男性乳がんの広がりが乳房にとどまっていて完全切除が可能な場合は、手術をおこなった後に放射線治療やホルモン治療、化学療法をおこないます。がんの完全切除が可能な場合の目的は、がん細胞の完全な除去と再発リスクの抑制です。治療方針はがんの性質や進行度、患者の全身状態などを考慮して決定されます。
完全切除が難しい場合
男性乳がんの完全切除が難しい場合は、ホルモン治療や化学療法、緩和ケアをおこないます。がんの完全切除が難しい場合では、症状の緩和と生活の質の維持が主な目的になります。患者の希望などを考慮して治療の方針を決めるケースがほとんどです。
男性乳がんの生存率と死亡率
日本の統計情報によると、2019年と2020年の男性乳がんの死亡者数は人口10万人あたり0.2例と報告されています。男性乳がんの発症は女性より少なく、死亡率も低く見えますが、生存率が高いわけではありません。アメリカでおこなわれた全国規模のコホート研究では、男性乳がん患者の生存率は女性乳がん患者よりも低いことが明らかになりました。
男性 | 女性 | |
---|---|---|
全生存率 | 45.8% | 60.4% |
3年生存率 | 86.4% | 91.7% |
5年生存率 | 77.6% | 86.4% |
Fei Wang, Xiang Shu, Ingrid Meszoely, et al. Overall Mortality After Diagnosis of Breast Cancer in Men vs Women, JAMA Oncol. 2019;5(11):1589-1596.
男性乳がんの生存率が女性よりも低い主な理由として、男性は乳がんに対する認識が低く、発見が遅れがちであることが挙げられます。男性の乳腺組織が少ないため目立った症状が見られにくく、発見時にはすでに進行している場合も少なくありません。男性乳がんの予後改善には、症状がでたときの迅速な医療機関の受診だけでなく、定期的なセルフチェックも大切です。
男性乳がんのセルフチェック方法
男性乳がんのセルフチェックの方法について解説します。60歳を過ぎたら月に1回の頻度でおこなってみましょう。
胸の観察
男性乳がんの状態をチェックするには、鏡の前で胸の状態を定期的に観察するのが大切です。毎回入浴後などの同じタイミングでおこない、両手を挙げた状態や胸を張った状態で以下の項目を確認してみましょう。
- 乳頭の凹みや変形
- 皮膚のただれや発赤
- 乳房の腫れや変形
- 左右の乳房の大きさや形の違い
- 乳頭からの分泌物
これらの状態に早めに気づくには、いつもの自分の体と異なる変化がないか確かめることが重要です。
乳房や脇の下の触診
乳房や脇の下の触診は以下の手順でおこないましょう。
- 立ち姿勢や仰向けの状態で片手を挙げ、もう片方の手で胸を触る
- 乳房や脇の下にしこりがないか触って確認する
- 乳頭を軽くつまみ、分泌物がでないか確認する
- 脇の下から鎖骨の下までリンパ節の腫れがないか確認する
- 反対側も同様におこなう
触診のときは「石や種のように硬い感触」がないか確認してみてください。特に悪性のしこりは触ってわかりやすく、多くの場合痛みを伴いません。
触診は定期的におこなって普段の感触を覚えるのが大切です。普段の感触がわかっていると、わずかな変化にも気づきやすくなります。
まとめ
男性乳がんは全乳がん患者の1%に起こる、まれな悪性腫瘍です。男性乳がんの診断や治療法、ステージ分類は女性の乳がんに準じておこないます。男性乳がんは親近者に乳がんの既往者がいたり、年齢が60歳を過ぎたりした場合に発症しやすいです。
男性乳がんの症状は乳輪のしこり、乳頭の出血や凹み、乳房の腫れや変形などで、初期段階では自覚症状がほとんどありません。男性乳がんは発症していることに気づきにくいため、予後が悪くなりやすく、女性よりも生存率が低いことがわかっています。
予後の悪化を防ぐためには胸の観察や触診による定期的なセルフチェックが大切です。少しでも疑われる症状が見られた場合は、乳腺外科などに早めに受診しましょう。
現在の治療方針に不安がある方や、標準治療で効果がなく他の治療法を探している方にはセカンドオピニオンをご提供しています。ご希望の方はぜひご相談ください。