悪性リンパ腫の症状とは?治療法や生存率など解説
悪性リンパ腫は、リンパ組織に発生するがんの総称で、血液のがんとして知られています。悪性リンパ腫のタイプは80種類以上もあります。
リンパ節は、全身に数百個あるとされていますが、主に首、わきの下、足の付け根のリンパ節の腫れによって発見されることが多いです。今回は、悪性リンパ腫について症状や治療法、生存率などについて詳しく解説します。
目次
悪性リンパ腫とは
悪性リンパ腫とは、白血球の中でもリンパ組織に発生するがんで、リンパ系組織の正常な働きが阻害されて異常な細胞が増えることが特徴です。統計によると、年間10万人に約29人の割合で悪性リンパ腫の患者さんがいます。
2019年に悪性リンパ腫と診断されたのは、総数3万6638人(男性が1万9311人・女性が1万7325人)です。2019年のデータでは、診断を受ける年齢は、50代から急増し、男女とも80代が最も多くなっています。悪性リンパ腫はがん細胞の性質によって次の2つのタイプに分けることができます。
悪性リンパ腫のタイプ
悪性リンパ腫のタイプは大きく分けて、ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の2つがあります。
ホジキンリンパ腫
ホジキンリンパ腫は比較的若い人に発症することが多く、リンパ節の腫れや全身の不調を引き起こすことがあります。治療が成功した場合、多くの患者が完全に回復するタイプです。
非ホジキンリンパ腫
非ホジキンリンパ腫は、ホジキンリンパ腫以外のすべてのリンパ腫が分類されます。非ホジキンリンパ腫には多様な亜型があり、病気の状態が異なります。比較的進行が緩やかなタイプも、急速に進行するタイプも存在します。
低悪性度タイプでは、年単位でゆっくりと進行し、腫瘍の数が少ない場合は特別な治療をせずに経過を見ることがあります。中悪性度タイプは月単位で進行し、診断されたときから治療が必要です。高悪性度タイプは週単位で進行するため、入院して治療することが必要です。
【非ホジキンリンパ腫の分類】
低悪性度タイプ :年単位で進行
(濾胞性リンパ腫、MALTリンパ腫など)
中悪性度タイプ:月単位で進行
(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、未分化大細胞型リンパ腫など)
高悪性度タイプ:週単位で進行
(リンパ芽球性リンパ腫、成人T細胞白血病・リンパ腫・パーキットリンパ腫など)
悪性リンパ腫の症状
悪性リンパ腫の症状にはリンパ節の腫れ以外に、病変の部位によって皮膚症状やのどの違和感など様々なものがあります。
リンパ節の腫れ
首やわきの下、足のつけ根、甲状腺(のどの中央あたり)、鎖骨、肘、などのリンパ節が腫れることによって気付くことが多い傾向です。
皮膚症状
皮膚組織に病変が起こると、発疹、しこり、出血などの症状が出ることがあります。
頭痛
病変が脳の周りに発生すると頭痛が起こることがあります。けいれんや麻痺を起こす可能性も考えられます。
顔の腫れ
リンパ腫の病変が顔の近くの血管に起こった場合、顔が腫れることがあります。部位によって、視力が低下したり、鼻づまりや中耳炎などの症状が出ることもあります。
咳やのどの違和感
病変が肺の近くにある場合、息苦しさを感じたり食べ物や飲み物を飲み込むときにむせたりすることがあります。
おなかの不調や背中の痛み
おなか周辺に病変がある場合、食欲低下や消化不良、下痢や便秘、腹痛、背中の痛みなど様々な症状が起こる可能性があります。
足や膝のしこり
足や膝のしこりやむくみ、しびれ、痛みなどの症状が現れることがあります。
B症状
シーツなどにも染みほどの寝汗、普段の体重の10%を超える体重減少、38度以上の原因がわからない発熱などの症状を起こすことがあり、これをB症状と呼んでいます。
悪性リンパ腫の発生要因
悪性リンパ腫の発生要因は、ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫で異なると考えられています。
ホジキンリンパ腫
遺伝子の異常
染色体異常に伴う遺伝子の異常が発症に関係していると考えられていますが、親から子どもに遺伝するといった病気ではないとされています。異常が起こる原因はまだはっきりとわかっていません。
EBV(Epstein-Barr Virus)の感染
EBV(Epstein-Barr Virus)の感染者のホジキンリンパ腫のリスクは4倍以上高いといわれています。また、日本人では患者の約50%がEBVの感染者であると考えられています。
有害物質
有機溶剤、除草剤などの有害物質が関連している可能性が考えられており、現在研究が進められています。
非ホジキンリンパ腫
免疫不全等
先天性の免疫不全及び後天性の免疫不全が関係していると考えられています。
細菌感染
日本では、胃に原発する悪性リンパ腫が多く、ピロリ菌の感染による慢性炎症が原因と考えられています。
ウイルス感染
日本に多い成人T細胞白血病/リンパ腫の発症には、HTLV-Iウイルス、C型肝炎ウイルスなどがリンパ腫の発症に関与しているといわれています。
農薬及びその他の化学物質のばく露
除草剤、害虫駆除剤、肥料を職業的に扱っている作業者、 有機溶剤を扱っている職業人はリスクの増加が指摘されています。
ダイエットや生活習慣
動物性のタンパク質や脂肪の摂取が非ホジキンリンパ腫のリスクと関連しているとされています。
遺伝子異常
悪性リンパ腫の細胞を調べると、染色体異常が見つかる場合があります。そのため、染色体異常に伴う遺伝子の異常が非ホジキンリンパ腫の発症にかかわっていると考えられています
悪性リンパ腫の検査
悪性リンパ腫の検査は、しこりなどの触診や血液検査などがあります。多くは生検で診断され、レントゲンやCT検査などで病変の位置や広がりを確認します。
触診
患者さんの訴えから、しこりや痛みがある部位を医師が実際に触って確認をします。
リンパ節生検
麻酔を使用して、しこりがある部位から組織を取り出し、細胞の性質などを調べます。この検査で、病変のタイプがわかります。
血液検査
異常な赤血球、白血球、血小板がないかなどを調べます。その他、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス ヒトT細胞白血病ウイルス1型、ヒト免疫不全症ウイルスなども調べます。
レントゲン検査
病変の位置などを把握します。
MRI検査やCT検査
病変の広がりを調べます。
エコー検査
しこりの大きさや位置を確認することができます。
悪性リンパ腫のステージ(病期)
悪性リンパ腫では、病気の進行度合いによってステージを区分します。他のがんでよく使われる「TMN分類」でなく、「AnnArbor 分類」という方法を用いてⅠ期〜Ⅳ期に分類します。あわせて、PET-CTを使って分類する「Lugano分類」を用いることもあります。
【AnnArbor 分類】
Ⅰ期 | 病変が一つのリンパ節に限定されている。 |
Ⅱ期 | 病変が複数のリンパ節に拡がっているが、上半身または下半身など範囲が限定されている。 |
Ⅲ期 | 病変が上半身や下半身など複数のリンパ節に拡がっている。 |
Ⅳ期 | 病変がリンパ節以外の臓器に広がっている。 |
悪性リンパ腫の治療
悪性リンパ腫の治療は、悪性リンパ腫のタイプ、ステージ、患者の状態に基づいて個別に決定します。
手術(外科療法)
病変の部位を手術によって除去する治療法です。転移した部位の病変も取り除きます。しかし、悪性リンパ腫では、すべてを取り除くことは難しいため、手術による治療法を選択されることは少なく、化学治療と放射線治療が一般的です。
抗がん剤(化学療法)
化学療法は、がん細胞の増殖を抑えるために薬を使用する方法です。リンパ腫のタイプに応じて薬を組み合わせで使用します。化学療法は主に進行度の高いリンパ腫に対して使用されることが多い傾向です。
放射線療法
放射線療法は、放射線を使用してがん細胞を破壊する治療法です。リンパ腫が特定の部位だけにある場合や化学療法と併用する必要がある場合に使用します。
造血幹細胞移植
造血幹細胞移植とは、骨髄の中にある赤血球、白血球、血小板を作る細胞、いわゆる造血幹細胞を点滴で移植する治療法です。
検査から治療までの流れ
検査が始まり、どのように診断、治療が進んでいくのかを紹介します。
検査・診断をする
悪性リンパ腫には様々なタイプがあるため、病気のタイプ、病変の位置や広がりを検査で確認します。血液検査、リンパ節の生検、レントゲン、CTなどのさまざまな検査が予定されると考えられます。検査や診断について疑問がある場合は、そのままにせず必ず確認することが大切です。
病気の状態について説明を受ける
検査の結果に基づいて、病気の状態や治療について医師から説明を受けます。どのような治療方法があるのか、各治療方法のメリットやデメリットなどについて説明があります。
治療方法を選ぶ
身体の状態、検査結果、患者さんの希望やライフスタイルなどを考えて医師と共に治療方針を決めます。一人で悩むことなく医師や家族と相談し、一緒に自分自身に合った治療を選びましょう。
治療を行う
治療前、治療中、治療後の体調不良や不安、つらさなどは周りの人に相談しましょう。施設によっては、精神的なつらさに関して心理士などの専門職に相談することが可能です。
経過を見る
治療が終わった後も何度か受診や検査が必要です。一般的に、治療後2年間は2〜3か月に1回、その後も3〜6か月ごとに検査を行います。主治医のアドバイスに応じて必ず受診しましょう。
自分に合う治療方法を選ぶには
自分自身に合った治療方法を選ぶためのポイントについて紹介します。
治療方針の説明には家族や親しい人に同席してもらう
治療について説明を聞くときには不安や動揺することも多いため、自分の他にも一緒に説明を聞いてくれる人に同席してもらうとよいでしょう。聞きたいことを聞き忘れたり後になって思い出せなかったりすることがあるかもしれません。治療について説明を再確認することや不安な気持ちを聞いてもらうことによって、病気に関する情報や自分の気持ちを整理できるでしょう。
病状を把握する
ご自身の病状を把握しておくと、治療方法について医師の説明が理解しやすくなるでしょう。リンパ腫のタイプ・病変の場所・大きさ・ステージ(病期)について把握しておくことをお勧めします。
自分自身が納得できる治療方法かを考える
治療について納得できるかどうか、治療効果や副作用などについて把握しておくことが大切です。治療効果・副作用や合併症・利点や欠点・生活への影響・入院の必要があるか・治療スケジュール・費用などについて把握しておきましょう。
セカンドオピニオンの利用
大切な治療について別の医師の意見を聞きたい場合、セカンドオピニオンを活用することも可能です。一般的にセカンドオピニオンについて理解している医師が多いため、希望があればセカンドオピニオを受けたいこと医師に伝えましょう。
がん相談支援センターの利用
全国にあるがん診療連携拠点病院のがん相談支援センターでは、生活や仕事、心の悩み、病気についての相談を受けています。お近くのがん相談支援センターは、「がん情報サービス」で検索することができます。
悪性リンパ腫の生存率・予後
悪性リンパ腫の生存率は、ホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫で違いがあります。
ホジキンリンパ腫
5年生存率は、Ⅰ期で91.4%、Ⅱ期で84.6%、Ⅲ期で65.3%、Ⅳ期で44.7%とされており全症例の平均5年生存率は76.0%とされています。
非ホジキンリンパ腫
非ホジキンリンパ腫ではⅠ期の5年生存率が86.7%、Ⅱ期が74.3%、Ⅲ期が64.0%、Ⅳ期が54.6%とされており、全症例の平均5年生存率は68.3%とされています。
悪性リンパ腫の再発について
悪性リンパ腫の8割に再発が確認され、2年以内に見られる傾向です。悪性リンパ腫は再発すると、もともとかかっていたタイプと、異なったタイプになっている可能性が高く、リンパ節の生検を行って慎重に治療方法を決定します。
完全に再発の可能性がなくなるのは、いつかということは明確にわかっていません。現在のところ、治療後約4年以降の再発率は1%以下と考えられています。
まとめ
悪性リンパ腫は、リンパ組織に発生するがんで、病変の部位によって様々な症状があります。血液検査や生検、CT検査などで診断され、進行がゆっくりなタイプや早いタイプがあり、ステージによって治療方法が決まります。気になる症状がある場合、早めに検査を受けるようにしましょう。
また、悪性リンパ腫は2年以内に8割の再発が確認されています。そのため、治療後にも数か月に1回の受診を欠かさないようにしましょう。