がん治療で承認・申請中! 4種類の免疫チェックポイント阻害薬
従来のがんの免疫治療は、どのように免疫細胞の力を高めるかのみに焦点が当たっていました。
その手法も一定の効果は見られたものの、症例が増えるに連れ、効果としては“今一歩”の感じがあったのも事実です。
なぜなら、免疫細胞自身が持つ『免疫反応に自らブレーキをかける仕組み』を悪用して、免疫細胞からの攻撃を逃れるという高等戦術をがん細胞が実行するからです。
がんがどのようにして免疫の攻撃を逃れるかの研究が進むにつれ、まったく新しい視点での免疫治療のコンセプトが生まれ、新しい薬の開発が行われました。
その結果、生まれたのが「免疫チェックポイント阻害薬」です。
免疫チェックポイント阻害薬とは?
免疫チェックポイント阻害薬は、がんが免疫にブレーキをかけないようにし、免疫細胞が十分に働けるようにする薬です。
現在のところ、日本で承認されている免疫チェックポイント阻害薬には、次の3種類があります。
- 抗PD-1抗体
- 抗CTLA-4抗体
- 抗PD-L1抗体
現在、免疫チェックポイント阻害薬の世界は、まさに“戦国時代”です。
その画期的なコンセプトから多くの種類のがんへの効果が期待されるだけに、国内外の製薬会社で多くの開発プログラムが進行しています。
そこで国内で進行がんに対し、多く使用されている4種類の免疫チェックポイント阻害薬について紹介します。
抗PD-1抗体は2種類、抗CTLA-4抗体と抗PD-L1抗体がそれぞれ1種類で、合計4種類となります。
- オプジーボ
- キイトルーダ
- ヤーボイ
- テセントリク
オプジーボ
「オプジーボ」は2014年に小野薬品工業から発売が開始された免疫チェックポイント阻害薬で、一般名は「ニボルマブ」と言います。
抗PD-1抗体と言われる種類の免疫チェックポイント阻害薬です。
がん細胞が出すPD-L1というタンパク質が免疫細胞側の表面にあるカギ穴に差し込まれると、免疫細胞の働きが抑制され、がん細胞は免疫細胞からの攻撃を逃れることができます。
オプジーボをはじめとする、抗PD-1抗体と言われる種類の免疫チェックポイント阻害薬は、先回りして免疫細胞のカギ穴に入り込むことにより、がん細胞の策略を防ぎます。
オプジーボはこれまでに、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、頭頸部がん、胃がんで使用が承認されています。
また、悪性胸膜中皮腫と悪性黒色腫の術後補助療法の2つの適応拡大が申請されています。
現在は、食道がん、胃食道接合部がん・食道がん、肝細胞がん、膠芽腫、尿路上皮がん、悪性胸膜中皮腫、卵巣がんなどでは臨床試験を実施中です。
同時に、これまで「1回あたり3mg/体重(kg)を2週間間隔」としてきた用法・用量を、「1回240mgを2週間間隔」に変更するための承認申請もされています。
これが認可されれば、投与の作業がシンプルになるとともに、未使用で残ってしまう薬の削減にもつながると期待されています。
以前は、オプジーボは高価ながん治療薬として知られていましたが、アメリカと比較して価格が高すぎるとの批判を受けて、日本の厚生労働省は2017年2月にオプジーボの価格を50%引き下げることを決定しました。
この引き下げによりアメリカと同程度の価格でオプジーボを使用することができるようになりました。
キイトルーダ
「キイトルーダ」もオプジーボと同じく抗PD-1抗体と言われる種類の免疫チェックポイント阻害薬です。
一般名称は「ペムブロリズマブ」です。アメリカのメルク社から2017年に国内発売されました。
日本ではキイトルーダはメラノーマ、非小細胞肺がん(PD-L1陽性)、ホジキンリンパ腫、尿路上皮がんの適応拡大が承認されました。
加えて、膀胱がんや乳がん、胃がん、頭頸部がん、多発性骨肉腫、食道がん、肝がん、腎細胞がんなどでは、臨床第3相試験が進行中です。
これらのうち、胃がんは厚生労働省が導入した「先駆け審査指定制度」の対象に指定されています。
先駆け審査指定制度とは、重い病気に対する革新的な治療薬について、日本で世界に先駆けて申請される新薬を審査機関の短縮などで優遇するという、2015年10月に導入された新しい制度です。
抗PD-1抗体ですので、免疫系に働きかける作用はオプジーボと同じです。
その割に適応する癌の種類がオプジーボに比べて少ないと思いませんか?
もちろんオプジーボよりあとに発売されたことも理由ですが、それ以外にオプジーボとキイトルーダには相違点があります。
オプジーボとキイトルーダの相違点とは?
オプジーボが肺がん治療に承認されたときの根拠となった臨床試験では、非小細胞性肺がん全体を狙って、抗がん剤治療を受けたものの効果がなかった患者を対象にした臨床試験を行い、確かに治療効果があることを証明して承認獲得に成功しました。
しかし、その後、従来型の抗がん剤を使用せずに、治療開始の最初からオプジーボを使用してもらおうとして臨んだ臨床試験では有意な効果を得ることができませんでした。
オプジーボは非小細胞性肺がんに対して、従来型の抗がん剤である程度弱らせた後でなければ、効果的に治療できなかったのです。
対して、後発のキイトルーダは、がん細胞側のPD-L1発現率が50%以上もある症例に絞り込んだ状態で臨床試験を行いました。
つまり、抗PD-1抗体が効く確率が高いがん細胞を狙い撃ちにして臨床試験を行ったのです。
しかも、抗がん剤治療を行なうことなく、がん治療開始当初から投与する形の臨床試験でした。
その結果、肺がんの病態進行リスクを半減させ、延命効果もある、という大成功と言える試験結果を得ることになりました。
実は、これには、がん細胞がどの程度PD-L1分子を発現しているかを検査する診断薬の開発が大きく関係しています。
日本では2016年11月25日に承認されている、アジレント・テクノロジー社の「ダコ」という薬が診断薬として使える状態になっていたのです。
この診断薬のおかげで、キイトルーダが効く確率が高い患者群をあらかじめ絞り込んだうえで臨床試験を行うことが可能になり、臨床試験の成功につながりました。
この臨床試験の結果、キイトルーダはオプジーボと異なり初回治療から使用できる第1選択薬となりました。
もしこの薬を使えるならば、患者は従来型抗がん剤治療による副作用の心配をする必要はなくなったのです。
しかし、臨床試験で対象の症例を絞り込んだために、キイトルーダが使えるがんの種類が少なくなってしまったのも事実です。
このように、オプジーボとキイトルーダは、効用を発揮するがんの種類やステージが異なり、使用方法も異なります。
ヤーボイ
「ヤーボイ」は、一般名では「イピリムマブ」と呼ばれる治療薬です。
アメリカのブリストル・マイヤーズ社によって、国内では2015年から販売されています。
ヤーボイは抗CTLA-4抗体と言われる種類の免疫チェックポイント阻害薬です。
免疫細胞の司令塔と言うべき樹状細胞から放出されるB7というタンパク質が、免疫細胞のCTLA-4と結合すると免疫細胞の働きが抑制されるブレーキ装置があります。
そこで、体内に取り込んだ抗CTLA-4抗体がB7より先にCTLA-4と結合して、免疫細胞のブレーキ効果が発動するのを防ぐのが狙いです。
日本では、ヤーボイはメラノーマへの適応で承認されています。
非小細胞肺がん、小細胞肺がんでは臨床第3相試験を実施中です。
アメリカでも、未治療の進行期メラノーマ、切除不能や転移性のメラノーマに、ヤーボイと抗PD-1抗体の併用治療を承認しています。
これからますますヤーボイとオプジーボ(またはキイトルーダ)を併用する治療が多くなっていくことが予想されます。
テセントリク
「テセントリク」の一般名称は「アテゾリズマブ」です。
スイス・ロシュ社が開発しているテセントリクは抗PD-L1抗体と言われる種類の免疫チェックポイント阻害薬です。
先ほど述べたオプジーボやキイトルーダといった、抗PD-1抗体の免疫チェックポイント阻害薬は、免疫細胞の表面にあるカギ穴に先回りして結合することにより、がん細胞が出すPD-L1というタンパク質がカギ穴に入るのを妨げるものでした。
テセントリクは逆にがん細胞が出すPD-L1と結合することにより、がん細胞の策略を破リ、免疫機能が自らにブレーキをかけるのを防ぐのが狙いです。
2017年2月、抗PD-L1抗体としては国内で初めて非小細胞肺がんの適応で申請されました。
そして、2018年2月、「切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」を効能・効果として厚生労働省より承認されました。
膀胱がん、乳がんと腎細胞がんでも申請が予定されています。
まとめ
現在がん治療の新薬開発で、最も熱い話題が免疫チェックポイント阻害薬です。
日本の小野薬品工業、アメリカのブリストル・マイヤーズスクイブ社、アメリカメルク社、イギリスアストラゼネカ社、スイス・ロシュ社、米ファイザー社、ドイツメルク社など、そうそうたる世界の製薬ビッグネームが、日々がん治療薬の開発でしのぎを削っています。
それにつれてさまざまな免疫チェックポイント阻害薬の研究が加速しています。今後、順次承認・商品化されると期待されています。
進行がんの治療では、免疫チェックポイント阻害薬の複数種類の併用、また免疫細胞療法を併用するケースが今後ますます増えていくでしょう。