がん放射線治療のひとつ・重粒子線治療のメリットと今後は?
今回取り上げるのは、重粒子線がん治療です。
重粒子線がん治療は、放射線治療の一種で、陽子線がん治療と共に「粒子線治療」に分類される治療法です。
他の放射線機器で主に使われるX線と何が違うのか、みていきましょう。
目次
重粒子線がん治療は放射線治療の一種
放射線治療で使われる放射線には大きくわけて「光子線」と「粒子線」があります。
サイバーナイフやトモセラピーで使われるX(エックス)線、そしてガンマナイフで使われるガンマ線は「光子線」です。
一方、「粒子線」には、陽子線や今回取り上げる重粒子線などが分類されています。
放射線を使う治療は放射線治療と言いますね。その中で粒子線を使うものは「粒子線治療」、さらにその中で重粒子線を使うものは「重粒子線治療」と呼ばれます。
重粒子は「電子より重い粒子」の総称で、その粒子を光速近くまで加速したものが重粒子線です。
現在、実用化されている重粒子線は炭素線だけです。そのため、日本で重粒子線治療というと、炭素線治療を指します。
重粒子線治療は、最先端のがん治療法です。従来の放射線治療に比べても、よりピンポイントで、より周辺細胞へのダメージの少ない治療を実現しています。
光子線を用いた放射線治療との違い
光子線(X線やガンマ線)を用いた従来の放射線治療と最も異なるのが、放射線量が最大になるポイントです
光子線では、放射線は体の表面上で最大になります。
放射線はその後、体内に入る段階で減少してしまうので、体の深部にあるがんには最大の効果を発揮できませんでした。
一方、重粒子線がん治療で使われる重粒子線は、体の表面ではなくがんに当たる段階で放射線量が最大になる特性を持っています。
この特性を利用することにより、体の深部のがんにも有効に働きます。
周辺組織への影響が最小限で、副作用が少なく、一度の照射の治療効果が高いため、治療期間も短くなる重粒子線がん治療は、がん患者さんのQOL向上にも一役買っています。
重粒子線がん治療はどんながんに向いていますか?
重粒子線治療の対象となるのは、「一つの部位にとどまっている固形がん」です。
頭頚部がん、肺がん、肝がん、子宮がん、直腸がん(骨盤内再発)、前立腺がん、骨軟部腫瘍、眼球腫瘍、涙腺がん、食道がん……、これらが、重粒子線の対象となるがんです。
一方、重粒子線治療が原則不適応とされるのは以下のようながんです。
- 人間の意思とは無関係に動く胃のような臓器、袋状、管上の臓器のがん
- 白血病のような血液のがん
- 広い範囲に転移がみられるがん
- 過去に放射線治療を受けているがん
- 他に良好な治療法が確立されているがん
- 最大径が15cmを超えているがん
重粒子線治療は確かにメリットの多いがん治療ですが、どのがんにもオールマイティに使えるわけではないことも覚えておきましょう。
重粒子線がん治療器はサッカーのピッチと同サイズ!?
重粒子線治療を行えるの施設は、世界でも10施設ほどしかありません。
その内日本国内の施設数は7施設です。世界の半分以上の施設が日本に集中しているんですね。
施設数だけをみても、日本は重粒子線がん治療において世界のトップを走っていることがわかります。
ところで、重粒子線治療はとても有効な治療法であるにもかかわらず、なぜ世界に10施設しかないのか疑問に思いませんか?
実はそこに重粒子線治療の大きな問題が隠されています。
それは、炭素を加速するために、大型の加速装置が必要だということです。
千葉にある放射線医学総合研究所(注1)の加速装置HIMACを具体例にみてみましょう。
HIMACの大きさは、80メートル×120メートルです。面積にして9600平方メートル。これはサッカーのピッチに相当する広さです。
もちろん広いということは、それだけ建設費も必要だということです。建設費以外に加速装置自体が150億円、それに加えて毎年15億円ほどの維持費もかかります。
施設を作るために、相当な広さと莫大なお金が必要になるのは、長年重粒子線治療の最大のデメリットと言われてきました。
(注1)正式名は、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構放射線医学総合研究所
ついに小さな重粒子線がん施設が登場
広さとお金が必要と言う重粒子線治療の最大のデメリットを補うために、近年各地で、小型で安価な重粒子線施設がつくられ始めています。
そのきっかけになったのは、2003年10月に、「固形がんに対する重粒子線治療」が先進医療に認められたことでした。
保険会社のCMでも、「重粒子線治療などの先進医療も支払い対象に……」と宣伝され、話題になったことを覚えている方もいるのではないでしょうか。
群馬県では、群馬大学医学部附属病院重粒子医学センターが、小型の重粒子線治療施設で治療を開始しました。
装置は、従来の大型のものに比べて、小型化・高性能化されており、より簡単で正確な治療を行えるようになっています。
千葉の放射線医学総合研究所が治療を始めたのは1993年です。同研究所のこれまでの治療患者さんは約一万人、今でも年間800人ほどの患者さんを治療しています。
熊本のような小型施設が増えることにより、今後は全国規模で重粒子線がん治療を受ける患者さんが増えていくものと考えられます。
まとめ
重粒子線がん治療は、従来の放射線治療に比べてもはるかにメリットの大きい治療法です。
一人でも多くの方がより手軽に重粒子線がん治療を受けられるように、より治療可能な施設が増え、環境が整っていけばと思っています。