放射線治療が転移したがんにも有効な理由と免疫細胞療法とは?
放射線治療は、放射線が直接当たった部分にのみ効果がある。
こう思っている方が大多数だと思います。
しかし、実は放射線治療は、直接放射線が当たった部分以外のがん、つまり転移した遠隔がんにも有効なのです。
なぜそのようなことが起こるのか、不思議ですね。
今回は、放射線治療の不思議な効果についてお話しましょう。
転移したがんは実は……? アブスコパル効果の仕組み
放射線が当った部分にあらわれる効果を、放射線治療の直接効果と言います。
そして、あまり知られていませんが、放射線治療には、間接的な効果もあるのです。
放射線治療では、放射線を照射した部分以外のがんが小さくなることがあります。これを放射線の間接効果、または「アブスコパル効果(遠達効果)」と言います。
なぜ、こうした効果があらわれるでしょうか。
肺がんの転移を例えに説明しましょう。
肺がんを患っている方の脳にもがんが見つかったとします。
脳に見つかったがんは、検査の結果、肺がんが転移したものだと分かりました。
この場合、脳に見つかったがんは、脳腫瘍ではなく、肺がんの脳転移と呼ばれます。
脳に転移したがんは、肺がんの分身のようなものです。
そのため、肺がんと同じ性質を持っています。これが大切なポイントです。
放射線治療でがん細胞が破壊されると、そこからは一種の免疫物質が放出されます。
この免疫物質は、元々あったがん細胞を「敵」と認識して攻撃することができる免疫物質です。
そして、この攻撃が「アブスコパル効果(遠達効果)」の正体なのです。
先ほどの例えに当てはめると……、
肺のがんに放射線治療を施す→免疫物質が放出される→免疫物質が脳にたどり着く→脳に転移したがんも攻撃する
というような現象が起きるのです。
つまり、放射線治療を受けることによって、患者さんのがんに対する免疫力が上がるということです。
免疫力と放射線治療の関係
放射線を照射されたがん細胞は、DNAが切断されてアポトーシス(自殺)に追い込まれ、破壊されます。
と言っても、全てが破壊されるわけではありません。破壊されずに残ってしまうがん細胞がいます。
実は、この残ってしまったがん細胞が、放射線治療ががんに対する免疫力をアップさせる秘密を握っているのです。
放射線治療の結果、アポトーシスに至らずに残ったがん細胞も、ダメージは受けています。
ダメージを受けたがん細胞は、体内の免疫細胞にとって格好のターゲット。ダメージを修復しきれないうちに、免疫細胞に攻撃され、処理されてしまうのです。
がん細胞は、細胞膜にそれぞれの「抗原」と呼ばれる目印を持っています。
免疫細胞は、ダメージを受けたがん細胞を処理する際、この「抗原」を取り出し、同様の目印を持つがん細胞を攻撃するのに役立てます。
取り出す免疫細胞は樹状細胞、実際にがんを攻撃する細胞はT細胞と呼ばれます。
科学雑誌に掲載された放射線治療の報告結果
科学雑誌として有名な『ネイチャー』に、フランスの研究グループが寄せた報告をご紹介します。
その報告では、乳がんを植え付けたマウスに放射線療法を行っています。
正常なマウスでは、がんは小さくなりました。
ところが、免疫が働かないようにしたマウス(「免疫不全マウス」や「ノックアウトマウス」と呼ばれます)では、同じように放射線を照射しても、がんは小さくなりませんでした。
大腸がんでも同じような結果が報告されています。
同じように放射線を照射したにもかかわらず、なぜ治療効果に違いが出たのか……?
この報告では、放射線治療が免疫力をアップさせるだけでなく、免疫力の高さが放射線治療にも影響している可能性があることが強く示唆されました。
免疫細胞療法とは?
放射線治療と免疫力の相乗効果を期待して、免疫細胞療法と放射線治療を合わせて行う医療機関も登場しています。
免疫細胞療法とは、患者さんのリンパ球を取り出して、元気にし、体に戻す治療法です。
元気な免疫細胞が増えることで、がんと闘う力は強くなります。放射線療法の効果もアップが期待できます。
そこでさらに放射線療法で免疫力がアップできれば……好循環ですね。
まだまだ、取り組んでいる医療機関が少ないのが残念な限りですが、今後、免疫力と放射線治療に関する研究がさらに進むことを願っています。
まとめ
放射線治療と免疫力の関係、不思議ですね。
放射線治療に関する研究はどんどん進んでいます。
高齢化社会において、放射線治療のニーズが拡大する中、少しでも効果高く、少しでも楽に、少しでも患者さんのためになるように……。
そんな思いで全国の研究員や放射線科の医師、スタッフは日々努めています。
放射線治療に関する正しい知識がもっと広がればいいなと、そんな風に思います。