がん放射線治療を進化させたサイバーナイフの動体追尾機能とは?
人間の臓器の多くは、呼吸に合わせて動きます。
特に肺や肝臓の動きは大きく、数センチ動いてしまうことも……。
従来の放射線治療装置では、大きく動く臓器にピンポイントで放射線を照射することはできませんでした。
ですが、サイバーナイフではできるのです。
今回は、動く臓器へのピンポイント照射を可能にしているサイバーナイフの機能「動体追尾」についてご説明します。
呼吸で動く臓器
呼吸によって人間の臓器は呼吸のたびに動いています
例外的に脳は動きませんが、体幹部に集まっている他の臓器は、しっかりと呼吸の影響を受けて上下や左右に動きます。
臓器が動けば、当然、そこに発生しているがんも動くことになりますね。
例えば、肺がんや肝臓がんの場合で数センチ、前立腺がんなら数ミリは動くことが分かっています。
従来の放射線治療装置では、この動きに対応することはできませんでした。
そのため、5㎝のがんであれば、動く範囲すべてをカバーできるように数センチずつ周囲を広めに照射するなどして治療を行っていました。
もちろん、正常な細胞へのダメージが多くなり、副作用のリスクが高まるこの方法は最善策ではありませんでした。ですが、がんを叩くためには致し方のない治療だったのです
正常細胞へのダメージを抑える動体追尾照射
呼吸で動くがんに対応するために、サイバーナイフに採用されたのが動体追尾機能です。
動体追尾機能を用いた放射線照射を「動体追尾照射」と言います。
動体追尾照射では、LEDを患者さんの身体の表面に設置します。このLEDの動きをカメラで読み取り、呼吸波形を検知します。
検知された呼吸波形に、治療前の画像、そして天井にある2台のX線撮影装置を連動させることで、サイバーナイフは、治療中の呼吸振幅やリズムの変化にもリアルタイムに対応します。
呼吸の動きに合わせてロボットアームは精密に動き、がんだけをピンポイントで狙い撃ちします。
動体追尾照射での誤差は1㎜以内と言われています。
このおかげで、正常細胞への放射線照射を抑えられ、サイバーナイフの副作用のリスクは従来機に比べて大幅に低下しました。
動体追尾照射と金マーカー
より高い精度の放射線照射が要求される場合、動体追尾照射に加えて「金マーカー」と呼ばれるものが用いられることがあります。
金マーカーとは粒上の金で、注射針ほどの鍼を使って体内に入れます。
入れるタイミングは治療前。照射するがんの近くに埋め込み、コンピュータにそのマーカーの位置を記憶させてから照射が開始されます。
治療中は、天井についている2ヵ所のX線撮影装置で、1秒間に30回もの撮影を行いながら、絶えずマーカーの位置を追跡します。
照射が行われるのは、コンピュータに設定した照射位置に、マーカーが一致した瞬間のみです。
毎秒30回の撮影によって、ほぼリアルタイムに照射が行われます。
前立腺がんと肝臓がんの場合は絶対と言っていいほど金マーカーが用いられます。それだけ精度が要求される臓器だからです。
肺がんの場合、絶対ということはありません。がんが2cmほどに大きくなり、視界が明瞭で、がん内部の密度が高い……。
こんなケースでは、サイバーナイフに輪郭を認識させることができるので、必ずしも金マーカーは必要ありません。
何らかの理由で金マーカーが使えない場合は、脊椎の位置からがんの位置を計算する方法などがとられます。
まとめ
放射線治療は日々進歩しています。
数年前までは手の施しようがなかったがんでも、今なら根治も夢ではない、そういうことが実際に起きているのです。
今いる病院で満足のいく治療を受けられていない……。そんな方は積極的にセカンドオピニオンを受けましょう。
サイバーナイフが導入されている病院であれば、新しい治療法に出会えるかもしれません。