緩和ケアとは?費用や終末期ケアとの違いなど解説
緩和ケアには大きく分けて3つのタイプがあり、通院する「緩和ケア外来」、入院する「緩和ケア入院」、自宅で診察・治療・緩和ケアをおこなう「在宅緩和ケア」に分類できます。
そこで気になるのは、治療やサポートの内容だけでなく「どのくらい費用がかかるのか?」というポイントだと思います。
費用は緩和ケア入院が最も高く、緩和ケア外来が最も安いですが、ベストな選択は人によって異なります。
費用面の不安から緩和ケアの利用を躊躇してしまうことのないよう、高額療養費制度、限度額認定証、高額療養費貸付制度などの助成制度についてもご説明しますので、ぜひ参考にしてください。
緩和ケアとは?
緩和ケアとは、患者さんやその家族の身体的・精神的ストレスを緩和し、生活・医療の質を向上させることを目的として提供されるケアのことです。
一般的には、末期がんなど命に関わるような大病を患っている方の痛みを緩和するというイメージが強いかもしれません。
確かに疼痛緩和は緩和ケアの一部であり、患者さんのQOL(クオリティオブライフ=生活の質)を考えるうえで非常に重要ですが、それだけではありません。
身体の痛みを和らげるだけでなく、精神的なサポートも含まれています。
がんに伴う心と体のつらさの例
出典:国立がん研究センターがん情報サービス
また緩和ケアは初期段階から治療とあわせて受けるものであり、がんと診断された時点から始められます。
がんが進行しないと受けられないものではありません。
初期段階においては、治療に比べて緩和ケアの比重は小さいもかもしれませんが、医師・看護師・薬剤師・心理士・ソーシャルワーカーなど、さまざまな専門職から構成されるチームよって、以下のようなことについて相談やケアが可能です。
- 病気と診断されたことによる不安
- 治療によって起こる身体的苦痛、精神的苦痛
- 闘病を支える家族の不安や困りごと
- 医療費など経済的な問題
- 転院や自宅療養など治療環境の整備
緩和ケアと終末期ケアの違い
緩和ケアとよく似た言葉に終末期ケアというものがあります。
緩和ケアが、病気を治療している患者さんやご家族の身体的・精神的ストレスを緩和するものであるのに対し、終末期ケアは病気の治療はおこなわず、余生のQOLを高めることを目的としたサポートです。
緩和ケアも終末期ケアも、痛みや苦痛を取り除きQOLを高めるケアをおこなうという点では共通していますが、終末期ケアは末期がんなど回復の見込みが薄い場合に、苦痛が伴うような治療を無理におこなわないことで余生のQOLを高め、ご家族や自分の残された時間を大切に過ごせることを重視します。
もちろん一時的な風邪や痛みなどに対する治療(対症療法)はおこなわれますが、がんなど重度の疾患へのアプローチ(原因治療)はおこなわないという意味です。
これに対しては賛否両論ありますが、基本的には患者本人の意思が優先されます。
緩和ケアの種類と費用について
緩和ケアと言ってもさまざまな形がありますが、ここでは大きく3つに分けて考えていこうと思います。
まずは基本的には自宅で過ごし通院するタイプの「緩和ケア外来」、次は入院して24時間ケアを受ける「緩和ケア入院」、最後に自宅で診察・治療・緩和ケアをすべておこなってもらう「在宅緩和ケア」の順にご紹介していきます。
緩和ケア外来
緩和ケア外来は、治療を受けている病院や他の病院へ通院しながら緩和ケアを受ける方法です。
緩和ケア外来のメリットは、自宅で過ごしながら医療機関で緩和ケアも受けることができる点です。
費用も入院や在宅などと比べるとリーズナブルです。
近年では緩和ケア外来の需要が高まり、診察代にプラス3千円(3割負担なら900円、1割負担なら300円)で緩和ケア外来を受診できるといった病院も登場しています。
しかし、まだまだ地方ではそういった医療機関は少なく、診察は病院へ、緩和ケアはペインクリニックへというような形の緩和ケアを受けられている方も少なくありません。
これはこれで、自分の通い慣れた病院へ通院しながら、緩和ケアも受けることができるのでメリットがありますが、2度手間になってしまうというデメリットもあります。
その他のデメリットとしては医療機関まで定期的に通わなければいけないという点で、これがクリアできるならば緩和ケア外来が一番現実的かもしれません。
緩和ケア入院
緩和ケア入院は、緩和ケア病棟へ入院してケアを受けるという選択肢です。
メリットとしては24時間体制で医療サービス・緩和ケアを受けることができるという点です。
できるだけ普段に近い生活ができるよう配慮されており、一般病棟にはないキッチンや家族室があったり、さまざまなイベントが催されたりする場合もあります。
デメリットとしては、自宅で過ごすことができないこと。
そして費用が一番かかる選択肢であるということです。
受け入れ可能な病院を探すのが大変なケースもあります。
まだそれほど多くはありませんが「緩和ケア病棟」として認可を受けた施設の場合は、入院費が定額制なので安心です。
緩和ケア病棟の入院費は1日当たり3〜4万円(3割負担なら1万円強、1割負担なら3〜4千円)程度、月額で考えると10〜30万円程度と考えられます。
ただしこの緩和ケアにかかる費用の保険適用分に関しては、後で紹介している「高額療養費制度」の対象となる場合もありますので、実際は30万円もかからないのではないかと考えられます。
入院期間も数か月単位であることを考えると、ご家族の状況や患者本人の状態によっては、入院という選択肢を選ぶことで身体的・精神的負担を大幅に軽減できるかもしれません。
在宅緩和ケア
在宅緩和ケアとは、医師や看護師などの医療スタッフに訪問診療をしてもらう形でおこなう緩和ケアです。
また介護施設などに入所している場合には、その施設で訪問診療や訪問介護を受けることも緩和ケアも含まれます。
一般的には在宅よりも施設のほうが費用がかかります。
在宅緩和ケアの費用は訪問回数によって異なりますが、医療費と看護費だけで月4〜5万円程度かかると考えられており、食事など日常生活の支援をヘルパーさんなどにお願いする場合はさらに費用がかかります。
場合によっては介護保険の対象となることがありますので、詳しい金額についてはケアマネージャーさんに相談するのが一番だと思います。
老人ホームなどの介護施設で受ける在宅緩和ケアについては、多くの場合すでに入居されている入居者さんを対象とすることが多いので月4〜5万円+入居費用となります。
近年は在宅緩和ケアプランのある介護施設も登場しており、月10〜20万円くらいが目安となりますので入院が難しい時の選択肢として考えておいても良いかもしれません。
緩和ケアの費用に関する助成制度
緩和ケアは、入院や抗がん剤治療など関連する医療サービスで高額になることが多く、経済的な負担も大きくなりがちです。
このような高額な費用を助成する仕組みが保険制度には存在します。
こういった制度を知っておけば、費用面を気にせず、自分達にとって一番良い緩和ケアを選択するのに役立つでしょう。
ただし対象となるのは保険適用分で、食費や個室代などは対象となりませんので注意してください。
ここでは「高額療養費制度」と「限度額認定証」について解説します。
また助成制度ではありませんが、緊急時の医療費を無利子で貸してもらえる「高額療養費貸付制度」についても紹介していきます。
高額療養費制度
高額療養費制度は、1日~末日の1ヶ月間に支払った医療費の自己負担額が高額となった場合に、自己負担限度額を超えた分は払い戻してもらえるという制度です。
自己負担限度額は世帯の収入などによって決まりますが、よほど高収入でない限りは月10万円以上の医療費がかかることはありません(保険適用分に限る)。
高額療養費制度は申請してから支払いまでに2〜3ヶ月かかるので、医療費が緊急で必要な場合は後述している限度額認定証や高額療養費貸付制度を検討してください。
また高額療養費制度の申請期間は診療を受けた翌月1日から2年間なので、期間内に申請するよう注意してください
自己負担限度額は70歳以上と69歳以下で計算方法が異なり、具体的な計算式は以下のようになります。
<70歳以上>
(年収約1,160万円~ 標報83万円以上/課税所得690万円以上)
252,600円+(医療費-842,000)×1%
(年収約770万円~約1,160万円 標報53万円以上/課税所得380万円以上)
167,400円+(医療費-558,000)×1%
(年収約370万円~約770万円 標報28万円以上/課税所得145万円以上)
80,100円+(医療費-267,000)×1%
(年収156万~約370万円 標報26万円以下 課税所得145万円未満等)
18,000円(年間14万4千円、世帯合計57,600円)
(住民税非課税世帯)
8,000円(世帯合計24,600円、年金収入80万円以下など15,000円)
※標報:標準月額報酬、基本給に各種手当に加えて事業所から支給された金額を指し、毎年4、5、6月の3か月平均支給額から計算されます。
<69歳以下>
(年収約1,160万円~ 健保:標報83万円以上 国保:旧ただし書き所得901万円超)
252,600円+(医療費-842,000)×1%
(年収約770~約1,160万円 健保:標報53万~79万円 国保:旧ただし書き所得600万~901万円)
167,400円+(医療費-558,000)×1%
(年収約370~約770万円 健保:標報28万~50万円 国保:旧ただし書き所得210万~600万円)
80,100円+(医療費-267,000)×1%
(~年収約370万円 健保:標報26万円以下 国保:旧ただし書き所得210万円以下)
57,600円
(住民税非課税者)
35,400円
※69歳以下の自己負担限度額は①医療機関ごと②医科・歯科別③入院・外来別に適用されます。
保険外併用療養費の自己負担分や入院時食事療養費・入院時生活療養費の自己負担分については対象外です。
出典:厚生労働省ホームページ
また高額療養費制度には多数回該当という制度があり、毎月自己負担限度額を超える場合は自己負担限度額がさらに減額されるという仕組みになっていますので、長期間の治療やケアが必要となる場合には活用してください。
限度額適用認定証
限度額認定証とは、事前に市町村に申請することで発行してもらえる自分の高額療養費の自己負担限度額の証明証です。
これを医療機関へ提示することで高額療養費制度の申請が不要になるだけでなく、精算の際に自己負担限度額を超えた分の費用は支払いが不要となります。
事前に手続きが必要ですが、高額な医療費を一時的に負担する必要がない点がメリットです。
ただし70歳以上75歳未満の場合は限度額認定証だけでなく、高齢受給者証も提示する必要がありますので注意してください。
高齢受給者証は70歳の誕生日の翌月に郵送されてきますので、限度額認定証とセットで大切に保管しておきましょう。
高額療養費貸付制度
高額療養費貸付制度は、協会けんぽなど保険組合で実施されている制度であり、高額療養費が支給されるまでの期間、無利子で医療費を借りることができる制度です。
申請は市町村や医療機関ではなく保険組合へおこなってください。
貸付してもらえる金額は協会けんぽの場合、高額療養費支給額の8割相当となっていますので全額ではありません。
このあたりの詳細は保険組合ごとに微妙に異なりますので、自分の所属する保険組合に直接確認した方がよいでしょう。
まとめ
- 緩和ケアは患者さんをケアすることでご家族の精神的ストレスを緩和すること
- 患者さんやその御家族だけではなくケアに当たる医療スタッフを含めた環境の身体的・精神的ストレスを緩和することが目的
- 終末期ケアは病気の治療はおこなわず、余生のQOL(クオリティオブライフ)を高めることを目的としたサポート
- 緩和ケアには3つのタイプがある。通院する「緩和ケア外来」、入院する「緩和ケア入院」、自宅で診察・治療・緩和ケアをおこなう「在宅緩和ケア」
- 費用は緩和ケア入院>在宅緩和ケア>緩和ケア外来。ただし緩和ケア外来や在宅緩和ケアでは家族のサポートが重要
- 助成制度として高額療養費制度、限度額認定証、高額療養費貸付制度などは知っておいたほうが良い