光免疫療法とは?費用や仕組みなど分かりやすく解説
日本人の2人に1人はがんといわれている現代で、新たながん治療として光免疫療法という治療が2021年から開始されました。
がん治療というと、抗がん剤による強い副作用や合併症をイメージされている人も多いのではないでしょうか。
しかし光免疫療法は、ほかの治療で懸念されるような強い副作用がほとんど現れない、非常に画期的な治療方法として注目されています。
この記事では、光免疫療法とはどのような治療方法なのか、効果や仕組みについて詳しく解説します。
また、光免疫療法を受けたいけれど費用面が気になる人や、高額な費用負担を少しでも軽減させたい人に向けて、費用相場や負担軽減のためにできることも解説しているのでぜひ参考にしてください。
目次
光免疫療法について
まずは光免疫療法とは一体どのような治療法であるのか治療内容や仕組みについて詳しくご紹介します。
光免疫療法とは
光免疫療法とは、光に反応する特殊な薬剤を点滴で投与し、がんの発生している部位に対してレーザー光(近赤外線)を当ててがん細胞を直接的に攻撃する治療方法です。
別名「頸動脈アルミノックス治療」とも呼ばれています。
光免疫療法は、がん細胞を直接的に攻撃するだけではなく、破壊されたがん細胞の破片を体内に存在する免疫細胞が取り込むことで細胞を活性化し、免疫力の向上を図ることができます。
つまり発生したがん細胞に対して、直接的に攻撃すると共に間接的にも細胞を活性化させることで、がんと闘う力を高めることが期待できる2つの側面からアプローチが可能な治療方法です。
従来のがん治療は「手術」「化学療法」「放射線療法」の3大治療が標準治療方法として主流となっていました。
これらの治療方法にもそれぞれメリットがありますが、健康的な細胞まで破壊してしまうリスクや強い副作用や合併症を併発することがデメリットであり、治療方法を選択するにあたり大きな懸念点となることがありました。
しかし近年では、免疫療法に加え、新たに光免疫療法が新しく加わり、少しずつがん治療の選択肢が増えてきています。
その中でも光免疫療法は第5の治療方法として今後の治療に大きく貢献することができる期待値の高い治療方法として注目されています。
まだ臨床での症例数が少ないものの、現段階では日本で3例、米国で30例の臨床試験が実施されています。
その結果、日本で2例、米国で13例において実際にがん細胞の縮小が確認されたという臨床結果が発表されています。
光免疫療法の仕組み
薬剤を身体に投与して光を照射するだけで、なぜ他の細胞を壊すことなくがん細胞を直接的に攻撃できるのでしょうか。
その理由は投与する薬剤にあります。 光免疫療法では、がん細胞に付着しやすい性質を持つタンパク質に、光に反応する色素をつけた薬剤を使用します。投与後、約1日かけてがんの発生部位に薬剤が付着します。
そして付着した部位に外部からレーザー光を照射することで、がん細胞に付着している薬剤が光に反応し、がん細胞を直接的に攻撃し破壊できるのです。
使用する薬剤は一見、身体への負担が強い薬のように思えますが、がんに付着する性質と光に反応する性質を持っているだけなので他の健康的な細胞を破壊することはありません。
副作用も少なく、合併症のリスクはありません。
従来のがん治療と比べて身体への負担がとても少ない治療法であるといえます。
光免疫療法のメリット・デメリット
光免疫療法は他のがん治療と比べどのような特徴があるのでしょうか。
この項目では光免疫療法の特徴について、メリットとデメリットに分類し、詳しくご紹介します。
光免疫療法のメリット
がん細胞だけを攻撃できる
光免疫療法による特殊なアプローチ方法により、がん細胞以外の健康な細胞にはダメージを与えずに治療できます。
免疫力の活性化を図ることができる
免疫力とは、健康を維持するために身体にとって有害となるウイルスや細胞と闘う力のことです。
光免疫治療によってがん細胞が破壊されると、その破片を体内の免疫細胞が取り込みます。
そして身体にとって有害となるがん細胞を排除しようと免疫機構が働き、免疫細胞が活性化されるという仕組みになっています。
これにより、部分的ながん細胞への効果だけでなく全身への作用も期待できます。
副作用や身体への負担が少ない
稀に舌や喉の腫れ、痛み、出血などの軽度の副作用が起こっていることが報告されていますが、いずれも発症頻度は非常に低いといわれています。
がんのステージ(病期)に関係なく治療を受けられる
がんの治療法によっては、重症度が高い場合や転移がある場合、受けられる治療法が限られる場合があります。
しかし光免疫療法は、全てのがんに対して治療することが可能になっています。
光免疫療法のデメリット
費用が高額となるケースが多い
現在、厚生労働省が認可している光免疫療法の適用部位は「頭頸部のがん」のみとされています。
全身に実施できる治療法のため、医療機関によっては様々な部位に対して治療をおこなっていることがありますが、認定されていない部位は保険対象外となっています。
そのため、残念ながら治療にかかる費用が高額となるケースが多いです。
体質や病態によっては適応外となることがある
薬剤投与を長時間おこなう治療のため、薬に対してアレルギーを持っている人は薬剤の種類によってはアレルギー反応を起こす可能性があることから、適応外となることがあります。
従来の治療法が実施可能な場合は最終手段として実施される
現段階での光免疫療法の位置付けは、標準治療後に効果が得られなかった場合におこなう2次的な治療方法の扱いとなっています。
つまり、がん治療を最初に開始するときは標準療法が優先されるということになります。
光線過敏症のリスクがある
光免疫療法は強い副作用は起こりませんが、光に対する反応性が強い薬剤を使用しているため、まれに光線過敏症という症状が起こることがあります。
光線過敏症とは、強い光を浴びることにより皮膚の赤みや痛みが生じるアレルギーのことです。
この症状の発生を防ぐために、術後約4週間は直射日光を避ける必要があります。
外出する際はサングラスや手袋、長袖、長ズボンを着用し、身体に強い光があたらないように対策しなければいけません。
このように、光免疫療法は負担が少なくメリットが多い治療であるものの、従来の治療法と同様にデメリットもあります。
がんの治療方法は多種多様であり、治療内容や費用の面から何を選択すべきか困惑するときがあるかもしれません。
最善の選択をするためにも、各治療方法の概要について十分に理解し選択肢を広げることが大切です。
光免疫療法の治療の流れ
この項目では光免疫療法を開始するにあたりどのような流れで治療が進んでいくのか主な経過について解説します。
まず、光免疫療法を実施する際には入院が必要となります。入院期間は医療機関や治療後の経過によっても異なりますが、10〜15日程度です。
1日目は、光免疫療法の薬剤を2時間以上かけて投与します。
薬剤が光に反応するため、直射日光が入らないようにカーテンやブラインドを閉めた状態で行います。
2日目は、全身麻酔下でレーザー光を照射します。点滴実施後から20〜28時間後を目安におこないます。
場所によってアプローチが異なり、皮膚の表面に近い部位は光ファイバーを使用し直接レーザー光を照射します。
身体の深い部位にがんが発生している場合は、がんに針を刺し、刺入部位に光ファイバーを挿入して照射します。
3日目以降は、約1週間入院します。体内に薬剤が残存している状態なので、治療後も光を遮った部屋で過ごします。
その後、経過に問題なければ退院という流れで治療が進んでいきます。
光免疫療法の費用について
光免疫療法の治療を希望する場合、治療にかかる費用はどれくらいか、保険適用が可能であるのか気になっている人もいるのではないでしょうか。 この項目では光免疫療法の治療費に関する基本情報について解説します。
光免疫療法の費用負担はどれくらいか
光免疫療法の一回あたりの費用相場は、自己負担額で約700万円となっています。(薬や手術などを含む。)
特殊な薬を使用するため、薬剤代だけでも約400万円かかります。
光免疫療法は1回目の施術後、4週間以上空けて最大4回まで実施が可能なため、続けて治療を受ける場合は高額な費用が必要となります。
治療費は保険適用できるのか
光免疫療法の治療費が保険適用されるのは、一部のがん疾患に対してのみです。
一部のがん疾患とは、切除不能な局所進行又は局所、再発の「頭頸部がん」のことです。
頭頸部がんとは、頭から首までの範囲に発生するがんのことを示します。
現在、光免疫療法はさまざまな医療機関で治療が開始されていますが、保険適用となるのは頭頸部がんのみであり、他の部位での治療は自由診療となるため自己負担額が大幅に変わることを理解しておきましょう。
また、保険適用の治療を受けるためにはいくつかの条件があり、認定された医療機関でしか現在のところ治療を受けることができません。
光免疫療法を保険適用で受けたい場合は、事前に担当医に相談もしくは、医療機関に対応が可能な機関であるか確認して受診するようにしましょう。
費用負担を軽減するためには
がん治療は通常の治療費と比べて高額となることが多く、病気の治療経過だけではなく費用に対する不安を抱える人も多くいます。
この項目では光免疫療法を受けることになった場合、自己負担額を軽減するために知っておきたい3つのポイントについて解説します。
民間保険の活用
1つ目は民間保険の活用です。
国民健康保険とは別で個人的に医療保険に加入している人、がん関連の保険契約をしている人は、補償内容や適応治療によっては治療費・入院費の負担を軽減することができます。
光免疫療法の場合は、保険適用となり診療報酬が算定されていれば「入院給付金」「治療給付金」「通院給付金」の給付対象となるケースが多いようです。
抗がん剤治療に対するの給付については、各保険会社の規定によって対応が異なる場合があるので、まずは契約している保険会社へ相談しましょう。
高額療養費制度の申請
2つ目は高額療養費制度の申請です。
保険適用の光免疫療法を受けた場合は、事前に申請をすることで高額療養費制度を受けることができます。
高額療養費制度とは退院時に支払う金額を一定額以下に留めることができる制度です。
上限額は所得や年齢によっても異なりますが、いくつかの条件を満たすことにより、自己負担額を軽減することができます。
治療を受ける前に申請をしておくことで退院時の負担額から限度額が適用されるので、保険適用とあわせて経済的負担を減らすことができます。
治験の参加
3つ目は治験(臨床試験)の参加です。
治験とは製薬会社や医師が主体となり、まだ厚生労働省から承認されていない新しい薬に関して、臨床をおこない、その薬の有効性を検証することです。
光免疫療法は新しい治療法であるため、光免疫療法で使用する薬剤の効果や副作用などを立証するために治験がおこなわれていることがあります。
治験に参加することで医療費の一部である薬剤費や治療費を医療機関や製薬会社が負担してくれる場合があるので、自己負担を軽減することができる可能性があります。
まとめ
光免疫療法は従来のがん治療と比べると身体への負担が少なくメリットの多い治療法であるといえます。
しかし、まだ始まったばかりの新しい治療法であり、保険が適用される対象部位が定められていること、認定されている医療機関でないと保険適用の治療が受けられないことなどのデメリットもあります。
また、今後の保険適用部位の範囲をいかに広げることができるかといった課題が残されており、今後の動向に注目すべき治療方法であるといえるでしょう。
がん治療を受ける人にとって大きな不安要素である治療費の負担を軽減するためには、各治療内容について十分に理解すると共に費用の側面を知ることも大切です。
受けたい治療方法は保険適用であるか、活用できる社会資源はあるかを念頭に置き、積極的に活用しましょう。
自身にとって最善の選択をするためにも、事前に準備し環境を整えておくことも大切です。