光免疫療法の効果とは?わかりやすく解説
がん治療は、手術・薬物治療・放射線治療の三大治療が標準とされていますが、その選択肢は増えつつあります。2017年には、免疫チェックポイント阻害薬が第4の治療法として承認されました。さらに最近、第5の治療法として「光免疫療法」が登場し、注目の的となっています。
今回は光免疫療法について、効果を発揮する仕組み・適応するがんの種類・治療成績などをわかりやすく解説します。さらに保険適用と自由診療の光免疫療法の違いも解説します。
光免疫療法を正しく理解し、病状に適したがん治療を受けるようにしましょう。
光免疫療法(PIT)とは
光免疫療法(Photoimmunotherapy:PIT)は、アルミノックス治療ともいい、光に反応する物質を抗体に付着させた薬剤をがん細胞に結合させて、レーザー光を照射する治療です。2020年9月に世界に先がけて日本で承認され、2021年1月から保険適用されています。
光免疫療法の治療の仕組みや適応となるがんの種類について解説します。
光免疫療法の作用機序
現在、保険適用されている光免疫療法の作用機序は以下のとおりです。
がん細胞の表面には、細胞の増殖をうながす物質と結合して、増殖するよう信号を送るタンパク質(EGFR)が多く出現しています。
光免疫療法では、はじめにEGFRと特異的に結びつく薬剤のアキャルックスを投与します。アキャルックスは、抗体であるセツキシマブに光と反応する色素のIR700を付着させた薬剤です。アキャルックスは投与された後、約1日かけてがん細胞に多く集まります。
この状態で、波長690nmの近赤外線レーザー光を照射すると、色素のIR700が化学反応を起こします。これにより、がんの細胞膜が破壊されて死滅することで、抗がん効果を発揮するのです。
また、光免疫療法の効果は、がん細胞を直接死滅させるだけではありません。
治療によりがん細胞が死滅すると、タンパク質などの細胞成分が放出されます。放出された細胞成分に免疫細胞が応答し、同じ性質のがん細胞を攻撃するのです。このように免疫機能が活性化することで、生き残ったがん細胞や離れた場所にあるがん細胞に対する治療効果も期待されています。
光免疫療法が適応されるがんの種類
光免疫療法が保険適用されるのは、切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がんです。
使用する薬剤のアキャルックスの添付文書には、「化学放射線療法等の標準的な治療が可能な場合にはこれらの治療を優先すること」という注意事項があります。
つまり、薬物治療や放射線治療などの一般的な治療がおこなえる場合は、そちらを優先する必要があるため、光免疫療法は受けられません。
また、がん組織が頸動脈に広がっているときは、光免疫療法の禁忌であるため実施できません。
光免疫療法の治療成績
切除不能な局所再発の頭頸部扁平上皮がん患者30名に対して、光免疫療法をおこなった海外の治験結果は以下のとおりです。
- がんの兆候が完全に消失した完全奏功(CR):4名(13%)
- 治療前に比べて腫瘍径が30%小さくなった部分奏功(PR):9名(30%)
一定の治療効果が現れた人の割合(奏効率)は43%と報告されています。
腫瘍サイズの変化がみられない安定(SD)も含めた病勢コントロール率は80%となっています。
光免疫療法(PIT)のメリット・デメリット
光免疫療法(PIT)のメリットとデメリットは、大きく2つずつあります。それぞれについて詳しく解説します。
メリット①がん細胞のみを選択的に破壊できる
使用する薬剤のアキャルックスは、原則的にがん細胞に結合する特徴があります。そのため、アキャルックスの結合したがん細胞が、レーザー光を照射したときに化学反応を起こして破壊されるのです。
健康な細胞にアキャルックスが結合することはほとんどないため、光免疫療法は効率的にがん細胞を死滅させることができます。
メリット②低侵襲で副作用が少ない
光免疫療法は、ほかの治療と比べて全身に対する負担が少ない治療です。
健康な細胞にもアキャルックスがわずかに結合してしまいますが、レーザー光はがん組織のみに照射するため、健康な組織がダメージを受けることはほとんどありません。
レーザー光そのものは放射線治療と異なり、健康な細胞に害を与えることはなく、倦怠感や免疫低下などの副作用は生じにくいです。
デメリット①保険適用されているのは頭頸部がんのみ
光免疫療法が保険適用できるのは、切除不能な局所進行または局所再発の頭頸部がんのみです。ほかの部位のがんは、保険適用による光免疫療法は受けられません。
2024年5月の時点で、食道がん・肝転移を有する進行又は再発固形がんの患者については、治験がおこなわれています。今後、保険適用されるかどうかについては未定です。
デメリット②治療期間中は生活の制限がある
光免疫療法の治療期間中は、日光などの光による影響を避ける必要があります。
アキャルックスには光と反応する物質が付着しているため、投与後は光線過敏症対策をおこないます。光線過敏症とは、日光などの光線によって皮膚のかゆみやただれ、発疹などの症状が現れることです。
アキャルックスを投与してから1週間程度は、120ルクス以下の明るさを抑えた環境で過ごします。光免疫治療をおこなってから4週間以内は、直射日光を避けて生活する必要があります。
光免疫療法(PIT)で治療を受けるには
光免疫療法(PIT)を実際におこなうにあたり、治療ができる医療機関や費用、治療の流れなどを解説します。
光免疫療法が受けられる医療機関
光免疫療法(PIT)は、実施できる医療機関が限られています。
実施できる施設の条件は、日本頭頸部外科学会指定研修施設であること、頭頸部がん指導医が在籍していることなどがあります。治療をおこなえる医師の条件には、頭頸部がん専門医であること、光免疫療法に関する講習を修了していることなどが挙げられます。
日本国内に光免疫療法がおこなえる施設は100施設以上、治療を実施できる医師は230名以上いるのです。
光免疫療法の費用
光免疫療法の1回あたりの治療費用は、薬剤費・レーザー光装置代・入院費などを含めると600〜700万円です。
公的医療保険を適用して、高額療養費制度も利用すると、実際の支払い負担は大幅に軽くなります。70歳未満の人の場合、収入額によって異なりますが、高額療養費制度を利用したときの自己負担金の目安は、3万5千円〜30万円程度になります。
光免疫療法の治療の流れ
光免疫療法は、入院して治療をおこないます。治療を実施するのは2日間、治療してから退院するまでの期間は約1週間です。
1日目に、光免疫療法で使用する薬剤のアキャルックスを約2時間かけて点滴投与します。点滴から20~28時間後に、全身麻酔をしてからがん組織にレーザー光を照射するのです。
レーザー光の照射は、がんの表面に体の外から当てる方法(フロンタルディフューザー)と、がん組織に針を刺してそこから光を当てる方法(シリンドリカルディフューザー)の2種類があります。レーザー光は1ヶ所につき5分間照射します。がんの大きさに左右されますが、照射時間は全体で約2時間です。
治療をおこなった後は、退院日まで強い光や直射日光を避けながら病室で過ごす必要があります。
光免疫療法の副作用
光免疫療法の副作用は、治療時期によって多少異なります。
アキャルックス投与後に生じやすい副作用は以下のとおりです。
- インフュージョンリアクション
- 皮膚障害
- 光線過敏症
レーザー光照射後に生じやすい副作用は次の4つです。
- 出血
- 治療部位の痛み
- 舌やのどの腫れ
- 光線過敏症
治療後から退院日までに生じやすい副作用は以下のとおりになります。
- 出血
- 舌やのどの腫れ
- 照射部位のただれや壊死
- 照射部位に穴があく
舌やのどの腫れは、体質によって非常に大きく腫れあがることがありますが、1週間程度でもとの状態に戻ります。
治療後の注意点
治療が終わって退院した後も、1ヵ月ほどは光線過敏症の対策が必要です。強い光や直射日光を避けて生活をします。
外出の際は、広いつばのある帽子・サングラス・手袋・長袖長ズボンなど、肌が光に当たらないよう注意します。室内の照明は、一般的な蛍光灯または白熱灯で、できるだけ明るさを抑えます。
冬場は暖房器具にも注意が必要です。赤外線ヒーターやこたつなど、赤色の光を発する暖房器具の使用は避けます。
自由診療の光免疫療法(光線力学療法/PDT)との違い
前述のとおり、光免疫療法が保険診療となる条件は限られていますが、自由診療にて光免疫療法をおこなっている医療機関があります。自由診療でおこなわれているものは、正式には光線力学療法(Photodynamic Therapy:PDT)といい、保険適用されている光免疫療法(PIT)とは異なる治療方法です。
自由診療と保険適用の光免疫療法の違いについてみていきましょう。
自由診療の光免疫療法(光線力学療法/PDT)とは
自由診療の光免疫療法である「光線力学療法(PDT)」は、がん細胞やがんを栄養する血管に集まる性質をもつ光感受性物質を投与した後に、がん病変へレーザー光線を照射する方法です。
薬剤を投与した後に、がん病変へレーザー光を照射する点は、保険適用の光免疫療法と同じですが、効果を発揮するメカニズムや使用する薬剤などが両者で大きく異なります。
それぞれの違いについては、以下より詳しく解説します。
作用機序の違い
保険適用の光免疫療法は、光に反応する物質が化学変化を起こして、がんの細胞膜を破壊し死滅させることで抗がん効果を発揮しています。
一方、自由診療の光免疫療法では、光感受性物質ががん細胞内の酸素を活性酸素(一重項酸素)に変化させて、がん細胞をアポトーシス(自然死)へ導くことで効果を示しています。ほかにも、がん周辺の微小血管を塞いだり、治療後の急性反応によって免疫細胞を活性化させたりして、抗がん効果を発揮するのです。
使用する薬剤の違い
保険適用の光免疫療法は、光と反応する物質を付着させた抗体薬を使用します。
自由診療の光免疫療法では、リン脂質で構成された複数層カプセルであるリポソームにICGを封入した薬剤の「ICGリポソーム」を使用しています。ICGとは、インドシアニングリーンのことで、肝機能検査にも用いられている物質です。
ICGリポソームは、がん組織のなかに移行しやすく蓄積する特徴があることから、健康な細胞へのダメージは少なくなります。
適応となるがんの種類の違い
保険適用の光免疫療法が適応となるのは頭頸部がんのみです。
自由診療の光免疫療法は、頭頸部がんのほかに以下のがんにも実施されています。
大腸がん、膵臓がん、食道がん、胃がん、肝臓がん、腎臓がん、胆道がん、膀胱がん、前立腺がん、甲状腺がん、メラノーマ、肺がん、乳がん、子宮体がん、子宮頸がん、卵巣がん |
上記のがんのなかでも、がん組織が主要な血管に広がっている場合は治療不可です。
また、特殊な針や内視鏡を使用しても、レーザー光が照射できないほど深い位置にあるケースも適応されません。
治療費用の違い
保険適用の光免疫療法は600〜700万円の治療費がかかりますが、公的医療保険と高額療養費制度などを利用すると、実際の負担額はかなり軽くなります。
一方、自由診療の光免疫療法の治療費は、すべて自己負担です。
1回の治療費は30〜35万円が相場ですが、治療がくり返し必要となるケースが多くみられます。自由診療の光免疫療法は、病状に左右されるものの6回程度くり返し実施するため、総額で180〜200万円ほどかかります。
まとめ
光免疫療法(PIT)はアルミノックス治療と呼ばれ、第5のがん治療として登場し注目されています。
光免疫療法は、抗体薬をベースに光に反応する物質を付着させた薬剤をがん細胞に結合させた後、近赤外線のレーザー光を照射すると化学反応を起こし、がんの細胞膜を破壊することで抗がん効果を発揮するのです。がん細胞を選択的に破壊するため、健康な細胞へのダメージは少なくなります。
2024年5月時点で、光免疫療法が保険適用されているのは頭頸部がんのみです。実施できる医療機関も限られています。
自由診療でおこなわれている光免疫療法は、光線力学療法(PDT)であり、保険適用のものとは作用機序も使用する薬剤も異なる治療になります。
光免疫療法による治療を希望する際は、主治医へ相談すること以外に、セカンドオピニオン制度も活用し、納得のいくがん治療を受けるようにしましょう。