プルヴィクト(Pluvicto)とは?適応や治療の流れ、費用と保険適用など解説

前立腺がんは、治療を続けていくなかで、これまで効果があった治療が次第に効きにくくなることがあります。
そのような状況に直面し、「この先、どんな治療の選択肢があるのだろう」「今後どうなっていくのだろう」と、不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そうした中で、近年新たに承認された治療薬のひとつがプルヴィクトです。
この記事では、プルヴィクトとはどのような治療薬なのか、その特徴や適応となる条件、治療の流れ、気になる費用や保険適用の考え方まで、わかりやすく解説します。
目次
プルヴィクト(Pluvicto)とは?前立腺がんの新しい治療薬

プルヴィクトとは、前立腺がんの治療における新しい選択肢として、2025年9月に承認された薬です。これまでの治療とは異なる仕組みで、がん細胞をピンポイントで狙い撃ちする特徴を持っています。この新しい治療薬がどのようなものなのか、そのメカニズムや特徴を解説しましょう。
プルヴィクトの概要と承認された背景
プルヴィクトは、ホルモン療法などの従来の治療が効かなくなった転移性去勢抵抗性前立腺がんに対する「標的放射性リガンド療法」として、国内で初めて承認された画期的な薬です。
日本では2025年9月に承認され、同年11月から条件を満たした医療機関で順次使用できるようになりました。これまで有効な治療の選択肢が少なかった患者さんにとって、生存期間の延長や生活の質の維持につながる新たな治療法として期待されています。
海外ではすでに50カ国以上で承認されており、国内でも導入が待ち望まれていた背景があります。
ルテチウムPSMA治療のメカニズム
この治療は、前立腺がん細胞の表面に多く存在する「PSMA」というタンパク質を目印にします。
プルヴィクトは、この目印に結合する物質と、放射線を出す物質(ルテチウム-177)が組み合わさった構造です。薬を注射すると、全身を巡りながらがん細胞の目印を見つけて結合する仕組みになっています。
結合した薬はがん細胞の内部に取り込まれ、そこから集中的に放射線を放出して、がん細胞の増殖を抑えます。がん細胞の核にあるDNAに直接働きかけるため、正常な組織への影響を最小限に抑えながら、効率的にがん細胞を攻撃できる治療法です。
プルヴィクトで使用する放射線の特徴
プルヴィクトから放出される放射線のうち、治療の主役となるのは「ベータ線」です。この放射線は、組織内を移動する距離が最大2.2mm、平均で1mm未満と非常に短いのが大きな特徴となっています。
そのため、薬が取り込まれたがん細胞の周囲にだけ強力なエネルギーが届き、離れた場所にある正常な細胞への影響を抑えられます。プルヴィクト治療は、がんを狙い撃ちできる精密な放射線エネルギーを活用した治療法です。
従来の治療方法との違い
従来の治療では、ホルモン療法や抗がん剤などの全身に作用する薬や、骨の転移のみを対象とした放射性薬品が使われてきました。
これに対しプルヴィクトは、がん細胞にある特定の目印を狙い撃ちするため、骨だけでなくリンパ節や内臓など、全身の転移部位に対して直接放射線のエネルギーを届けることができます。
また、プルヴィクトは治療と画像診断を一体化させた「セラノスティクス」という手法を使っています。事前に画像検査をおこない、薬ががん細胞にしっかり集まるかを確認してから治療を開始するため、一人ひとりの病状に合わせた精密な治療が可能となります。
セラノスティクスについてより詳しく知りたい方は、以下の記事も併せてお読みください。
プルヴィクトの適応と治療対象となる患者さん

プルヴィクト治療を受けるには、いくつかの条件があります。がんの状態や過去の治療歴、事前検査の結果などをもとに、医師が適切かどうかを判断します。
どのような患者さんが治療対象となるのか、わかりやすく解説します。
PSMA陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がんとは
前立腺がんは男性ホルモンの影響を受けて増えるため、このホルモンの分泌を抑えたり、働きを阻害したりする治療が有効です。しかし、治療を続けて男性ホルモン量を極力減らしてもがんが進行することがあり、この状態が「去勢抵抗性前立腺がん」です。
さらに、がんが骨やリンパ節などほかの臓器へ広がると「転移性去勢抵抗性前立腺がん」になります。
前立腺がん細胞の表面に「PSMA」という特定のタンパク質が多く出ている状態を「PSMA陽性」といいます。主な症状は転移先によって異なり、骨の痛みや足のむくみ、腹部のしこりなどが現れることがあるのです。
去勢抵抗性前立腺がんについてより詳しく知りたい方は、以下の記事も併せてお読みださい。
>>去勢抵抗性前立腺がんとは?前立腺がんとの違いや治療法、生存率など解説
プルヴィクト治療を受けられる条件
プルヴィクト治療を受けるには、まず事前におこなうPSMA-PET検査で、がん細胞に「PSMA」という目印があることを確認する必要があります。
過去の治療歴については、以下のどちらかの条件に当てはまる場合が対象です。
- ARSI(新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬)を1種類使用し、化学療法は未経験の人
- ARSIと化学療法の両方の治療歴がある人
また、プルヴィクトは主に尿から体の外へ出されるため、腎臓の機能が保たれていることも重要な条件となります。
実際に治療を受けられるかどうかは、これらの条件をもとに医師が総合的に判断します。
プルヴィクト治療の適応判定に用いるPSMA-PET検査
PSMA-PET検査は、プルヴィクト治療が受けられるかどうかを事前に調べるための専用検査です。
PSMA-PET検査では、微量の放射線を出す検査薬を注射し、PET-CT装置で全身を撮影してがんの場所を特定します。検査薬は、前立腺がん細胞に多く存在する目印(PSMA)に結びつく性質があるため、従来のCTやMRI検査では見つけにくかった小さな転移も、より正確に画像化して確認できます。
プルヴィクトはPSMAを目がけて攻撃をおこなうため、検査で陽性と判定された患者さんのみが治療対象です。臨床試験では、約92%の患者さんがこの検査で陽性と判定されました。
参考:ノバルティス ファーマ株式会社HP「プルヴィクトによる治療の対象 となる⽅」
PSMA-PET検査についてより詳しく知りたい方は、以下の記事も併せてお読みください。
プルヴィクト治療の副作用やリスク

プルヴィクト治療を受けるにあたり、副作用やリスクを知っておくことは大切です。どのような症状の可能性があるか、また対処法を事前に理解しておくことで、落ち着いて治療に臨めます。以下より日常で気をつけることから長期的な注意点まで確認しましょう。
よくある副作用と対処法
プルヴィクト治療で起こりやすい副作用とその対処法は以下のとおりです。
| 副作用 | 対処法 |
|---|---|
| 味覚の変化、口の渇き | ・こまめに歯磨きやうがいをおこない、口腔内の清潔とうるおいを保つ ・乾燥が強い場合は、口腔保湿剤を使用する |
| 吐き気、胃のむかつき | ・においの強いものを近くに置かない ・食べられるときに少量ずつ食べる ・必要に応じて吐き気止めを処方してもらう |
| 倦怠感、食欲低下 | ・無理をせず楽な姿勢で体を休める ・食事は食べやすいものを少しずつ数回に分けて摂取する |
| 下痢、便秘 | ・意識的に水分をしっかり摂る ・必要に応じて整腸剤を服用する |
重大な副作用と発現時期
特に気をつけたい副作用に、血液を作る働きが低下する骨髄抑制と、腎臓の働きが低下する腎機能障害があります。
骨髄抑制は、投与後約2ヶ月〜3ヶ月で現れます。感染や出血を防ぐため、定期的な血液検査で状態を確認していきます。感染症予防のために手洗いやマスクの着用を徹底しましょう。
腎機能障害は投与後約2ヶ月で起こる可能性があります。腎機能を保つには、薬をスムーズに排出させるため、投与前後は十分な水分補給と排尿をおこなうことが大切です。尿量の変化やむくみ、だるさなどの症状に気を配り、治療中は定期的に血液や尿の検査を受けましょう。
将来的に起こりうるリスク
将来的に起こりうるリスクとして、二次性悪性腫瘍が挙げられます。これは、放射線の影響で正常な細胞が傷つくことにより、もとの病気とは異なる新たながんが発生することです。
放射線を受けることで、正常な細胞に遺伝子の変化が起きやすくなるためと考えられています。また、臨床試験では頭蓋内出血も報告されていますが、薬との明確な関連はまだ解明されていません。
これらのリスクを小さくするため、治療後も長期にわたって経過を観察し、気になる症状があればすぐに相談することが大切です。
プルヴィクトの費用と保険適用について

プルヴィクト治療には一定の費用がかかりますが、保険適用や国の支援制度を活用することで、経済的な負担を軽減できます。ここでは、治療にかかる費用の目安と、利用できる制度について解説します。
薬価と1回あたりの治療費用
プルヴィクトの薬価は、1回分(1瓶)あたり3,389,878円と定められています。標準的な治療では6週間おきに最大6回投与するため、全行程を完了した場合の薬代の総額は約2,034万円となります。
ただし、公的医療保険が適用されるため、国の制度を利用することで実際の自己負担額を大幅に抑えることが可能です。
参考:KEGG MEDICUS「医療用医薬品 : プルヴィクト」
DPC制度におけるプルヴィクトの扱い
DPC制度とは、入院費用を病名ごとに1日あたりの定額とする仕組みです。通常、薬代や検査費はこの定額料金に含まれています。2026年1月時点で、プルヴィクトはDPC制度の定額払いの対象外とされ、使用した分だけ費用を計算する「出来高算定」で扱われます。
高額療養費制度の活用
高額療養費制度は、1ヶ月の間に病院や薬局で支払った医療費が上限額を超えた場合、その超えた分が払い戻される制度です。プルヴィクト治療もこの制度の対象であり、経済的な負担を軽くできます。
上限額は、年齢や所得に応じて定められています。プルヴィクト治療のように高額な費用がかかることが分かっている場合は、事前に「限度額適用認定証」の交付を受けると、窓口での支払い額を最初から上限額までに抑えられます。
プルヴィクト治療の流れ

プルヴィクト治療を始めるにあたり、実際の治療がどのように進むのかを知っておくことは大切です。治療のスケジュールや入院中の過ごし方、日常生活でのポイントなど、全体の流れについて解説しましょう。
投与間隔と治療期間
プルヴィクト治療の標準的なスケジュールは、通常6週間ごとに1回のペースでおこなわれます。最大で合計6回繰り返すため、治療の開始から終了までの期間は約8ヵ月間となります。
ただし、副作用が出た場合には、医師の判断で投与を一時的にお休みしたり、薬の量を減らしたりすることがあります。患者さん一人ひとりの体調に合わせてスケジュールを調整するため、具体的な日程は担当医と相談して決定します。
治療日ごとのスケジュール
プルヴィクトを投与する際は数日間の入院が必要です。一般的には1泊2日から2泊3日程度の入院となりますが、体内の放射線量が基準値まで下がらない場合は期間が延びることもあります。
入院中は、放射線を安全に管理できる専用の個室で過ごします。プルヴィクト投与後は定期的に体から出る放射線の量を測定し、法律で定められた基準値まで下がったことを確認できれば、退院が可能です。
入院中・投与後の注意事項
プルヴィクト投与後は、汗や尿に放射性物質が含まれるため、3日間はトイレで座って用を足し、フタを閉めてから2回流すなどの配慮が必要です。体内に残っている薬を早く排出するため、医師と相談しながら水分を多めに摂りましょう。血液や排泄物が肌についた際は、すぐに石けんで洗い流します。
退院後7日間は、周囲の人との接触に注意が必要です。家族とは少なくとも1m、長時間接する場合は2m以上の距離を保ち、特に小さなお子様や妊婦さんとの接触は最小限にします。投与後14週間は避妊をおこなうなどの配慮も必要です。
さらに、投与後3ヵ月間は空港の検知器に反応する場合があるため、診療証明書を携帯しましょう。
プルヴィクト治療を実施している医療機関
プルヴィクト治療は、専用の設備を備えた一部の医療機関でのみ実施されており、2026年から開始予定の病院も含め、受けられる施設は限られています。
治療を希望する場合は、現在の主治医に相談してください。プルヴィクト治療をおこなう多くの病院では患者さん個人からの予約は受け付けていないため、主治医を通じて紹介状を用意してもらいましょう。
その後、紹介先の病院での診察や検査結果に基づき、担当医師が治療を受けられるかどうかを総合的に判断します。
プルヴィクト治療に関するよくある質問

プルヴィクト治療を考えるうえで、多くの人が気になる疑問を、よくある質問形式でわかりやすく解説します。
腎機能障害がある場合でも治療できますか?
腎臓の機能が低下している人でも、軽度や中等度であれば通常通りの量で治療を受けられる可能性があります。ただし、重度の場合は医師が患者さんの状態を確認したうえで、投与の可否を慎重に判断します。
腎機能に不安のある場合は、事前に必ず医師に相談しましょう。
治療後の家族に対する被ばく量はどのくらいですか?
プルヴィクト治療を6回すべて終えた後、介護する家族が受ける放射線量は合計で約2ミリシーベルトと予測されています。
この量は1回のCT検査で受ける量よりも少なく、日常生活で自然界から1年間に受ける量とほぼ同じですが、投与後7日間は特に子どもや妊婦と患者さんの接触は最小限に留めましょう。
事前の検査を受けてもプルヴィクト治療を受けられないことはありますか?
治療前におこなうPSMA-PET検査の結果によっては、治療の対象とならない場合があります。この検査は、プルヴィクトが効果を発揮するための目印(PSMA)ががん細胞にあるかを調べるものです。目印が十分にない場合、プルヴィクトによる効果が期待できないため、治療対象外となります。
まとめ

プルヴィクトは、従来の治療が効きにくくなった転移性去勢抵抗性前立腺がんに対し、がん細胞の目印を狙い撃ちする「標的放射性リガンド療法」として、国内で初めて承認された薬です。
事前の画像検査で効果が期待できるかを確認してから治療を始める「セラノスティクス」という手法により、一人ひとりに合わせた精密な治療が可能となりました。多くの方に新たな希望をもたらす選択肢として注目を集めています。
保険適用となっており、高額療養費制度の活用で経済的負担も軽減できます。プルヴィクト治療を希望する場合は、現在の主治医に相談してみましょう。

