前立腺がんが再発・転移した場合の治療について

がん治療のセカンドオピニオンNIDCのサイトメニュー

103

前立腺がんが再発・転移した場合の治療について

前立腺がんが再発・転移した場合の治療について

前立腺がんは、男性のがんのなかでも罹患者数が1位(2020年)ともっとも多く、日本人男性の約9人に1人が生涯のうちに発症すると推定されています。

根治的な治療のあとに再発する割合は、EAU(欧州泌尿器学会)のガイドラインによれば27~53%と非常に高い数値が示されており、再発を告げられてどうすれば良いのか悩む方も多いことでしょう。

今回の記事では、前立腺がんが再発・転移した場合におこなう検査や治療の方法について詳しく解説していきます。あきらめずに納得のいく治療方針を選択できるよう、ぜひ参考にしてください。

前立腺がんとは

前立腺がんとは

前立腺がんとは、前立腺の細胞が異常に増殖することにより引き起こされる病気で、男性に多い悪性腫瘍のひとつです。

これまで欧米人に多いがんとして知られていましたが、近年では日本でも罹患者数が急増しています。その理由は、食生活の欧米化や高齢化、そしてPSA検査(前立腺がんの可能性を調べる検査のひとつ)の普及が影響しているのではないかと考えられています。

また、発症の特徴としては、50歳以上で急激に発症のリスクが高くなることや、男性ホルモンががんの増殖に影響していることが挙げられます。

前立腺がんは、精のう・膀胱・直腸など近い場所にある組織への浸潤や、リンパ節・骨への転移、肺・肝臓・脳などへの遠隔転移がみられるケースもあります。しかし、比較的ゆっくりと進行する傾向にあるため、早期に発見することができれば治癒しやすいがんだといわれています。

前立腺がんの症状

早期の前立腺がんには、多くの場合自覚症状がありません。しかし、がんの組織が大きくなると、尿道が圧迫されるため以下のような症状があらわれます。

  • 尿が出にくい
  • 尿の回数が増える
  • 排尿後も尿が残った感じがする
  • 下腹部に違和感がある

さらに進行すると、血尿や排尿痛がみられたり、骨への転移による腰痛などが起きたりすることがあります。

前立腺がん診断の流れ

前立腺がん診断の流れは、以下のとおりです。

スクリーニング検査

「スクリーニング検査」とは、がんの可能性がある人を見つけるための検査です。

前立腺がんでは、PSA(前立腺特異抗原)検査をおこない、PSAが高い値を示すと前立腺がんが疑われます。場合によっては、二次スクリーニング検査として直腸内触診や経直腸的超音波検査・前立腺MRI検査を実施することもあります。

確定診断

スクリーニング検査の結果、前立腺がんの可能性がある場合は、「確定診断」のために前立腺針生検をおこないます。

前立腺針生検では、直腸に超音波探子を挿入して前立腺の画像を映しながら、バイオプティガンとよばれる自動生検装置で針を刺し組織を採取します。その後、採取した組織を観察することで、がんの有無や悪性度を確認します。

病期診断

確定診断を経て前立腺がんが確定されたら、CT検査やMRI検査などをおこない、前立腺周囲(リンパ節や臓器など)への転移や、肺・肝臓などへの遠隔転移を調べます。これらの検査結果をもとに、病期・ステージと悪性度が判定されます。

前立腺がんの病期(ステージ)と悪性度

前立腺がんの病期や悪性度の評価には、おもに以下の3つの分類方法挙げられます。ただし、医療機関によって評価の方法は異なります。

TNM分類

前立腺がんの病期(ステージ)分類でもっとも一般的なのが、国際対がん連合が採用しているTNM分類です。TNM分類では、前立腺がんを以下の3つの要素から評価します。

  • T:がんの大きさ・広がり・深さ
  • N:所属リンパ節への転移の有無
  • M:遠隔転移の有無

Jewett Staging Systemによる分類

TNM分類のほかに、病期をAからDに分類するJewett Staging Systemも広く使用されています。

  • 病期A:前立腺肥大症に対する手術などの結果、偶然発見されたがん
  • 病期B:前立腺に限局した腺がん
  • 病期C:前立腺周囲にとどまり、前立腺被膜を超えるか、精のう浸潤
  • 病期D:転移を有する

グリソンスコア

針生検で採取した組織から、悪性度を判断するために用いられる評価指標がグリソンスコアです。もっとも多い病変と2番目に多い病変を判定し、その数値の合計で2~10の9段階に分類します。グリソンスコアが高いほど悪性度は高くなります。

  • グリソンスコア6以下:比較的進行の遅い、高分化型の前立腺がん
  • グリソンスコア7:中等度の悪性度の前立腺がん
  • グリソンスコア8以上:悪性度の高い、低分化の前立腺がん

前立腺がんの病期と悪性度の判定は、これらの分類を組み合わせておこなわれます。

前立腺がんの治療法

前立腺がんには、手術療法・放射線療法・ホルモン療法(内分泌療法)など、さまざまな治療法があります。病期や悪性度・全身状態・年齢などを考慮して、これらの治療を単独、あるいは組み合わせておこなうことが一般的です。

手術療法前立腺全摘除術 (開腹手術・腹腔鏡手術・ロボット支援手術)
放射線療法外部照射療法 組織内照射療法
ホルモン療法(内分泌療法)精巣摘除術 LH-RHアナログ・LH-RHアンタゴニスト 抗男性ホルモン剤・女性ホルモン剤
PSA監視療法定期的なPSA検査実施による経過観察
化学療法(抗がん剤による治療)植物アルカロイド・アルキル化剤 分子標的薬(個別化医療)など
緩和的療法疼痛対策・脊髄麻痺対策

前立腺がんの再発・転移の定義

前立腺がんの再発・転移の定義

根治を目的とした治療で一度なくなったがんが、再びあらわれることを「再発」といいます。前立腺がんの場合、再発はさらに「PSA再発」と「臨床的再発」に分けられます。PSA値の上昇のみが確認される再発をPSA再発、画像診断や生検で再発した部位が特定できた再発を臨床的再発と呼びます。

また、再発の定義は、初めにおこなった根治的治療によって異なります。

ここでは、前立腺全摘除術後と放射線療法後の再発の定義に加え、前立腺がんの転移についても解説していきます。

根治的前立腺全摘除術後の再発の定義

前立腺がんの再発の兆候は、PSA値の上昇としてあらわれます。

術後1か月以上経過した時点で、PSA値が0.2ng/ml未満であればPSA再発とは判定されません。その後2~4週間の間隔をあけてPSA値を2回測定し、連続して0.2ng/ml以上となった場合にはPSA再発と判定されます。また、術後に一度も0.2ng/ml未満にならなかった場合は、手術の時点で再発していたとみなされます。

根治的放射線療法後の再発の定義

放射線療法で根治的治療をおこなったケースでは、照射後にPSA値が2ng/ml以上に上昇すると再発を疑います。ただし、放射線療法後は一時的にPSA値が上昇することが知られており、再発の判定には複数回のPSA測定がおこなわれます。

転移とは

がん細胞が、血液やリンパ管を経てほかの臓器で増えることを「転移」、前立腺から遠く離れた部位に転移することを「遠隔転移」といいます。前立腺がんでは、リンパ節・骨(特に脊柱と骨盤)・肺・肝臓などに転移しやすいとされています。

前立腺がんの再発・転移を調べる検査

前立腺がんの再発・転移を調べる検査

前立腺がんに限らず、がんの治療をおこなったあとの経過観察は非常に重要です。

ここでは、再発・転移を調べるためにおこなう検査について説明していきます。

PSA検査

PSA(前立腺特異抗原)は、前立腺でつくられるタンパク質のひとつです。がんや炎症により前立腺組織が損傷すると、PSAが血液中に流出してPSA値が上昇します。

前立腺がんの検査の場合、血液中のPSA値を測定します。同様に、再発のチェックにも定期的にPSA検査がおこなわれ、PSA値が基準値を超えるとPSA再発であると判定されます。PSA値は年齢とともに上昇する傾向にあるため、再発を判定するための基準値は年齢ごとに異なります。

直腸内触診

直腸内触診では、肛門から指を挿入して前立腺の状態を確認します。その際、前立腺の表面に凹凸があったり、左右非対称であったりする場合は前立腺がんが疑われます。ただし、直腸内触診だけでは前立腺全体を確認することができないため、ほかの検査の結果とあわせて判断する必要があります。

再発・転移を調べる画像検査

PSA再発が認められた時点では、再発した部位の確認や、局所再発・遠隔転移の切り分けができていないため、臨床的再発の判定ができません。そのような場合には、画像診断をおこなうことで、再発した部位や広がりなどを詳しく調べて評価します。

画像検査においては、CT検査・MRI検査・FDG-PET/CT・骨シンチグラフィーを用いることが一般的です。

CT検査

CT検査は、高速に回転するレントゲン装置の中に入って体の断面画像を撮影する検査です。前立腺がんの近くのリンパ節や臓器への転移、肺や肝臓など遠隔への転移を調べるために使用されます。薄く広がっているタイプのがんや、悪性度の低い高分化がんの発見に優れています。

MRI検査

MRI検査は、強力な磁石でできたトンネルのような装置に入り、磁気の力を利用して臓器や血管を撮影する検査です。前立腺がんでは、前立腺外浸潤・精のう浸潤の発見に有効だとされています。ただし、前立腺針生検のあとには一定の期間をおいてから実施する必要があります。これは生検にともなう一時的な出血が写ってしまうためです。

FDG-PET/CT

FDG-PET/CTとは、PET(陽電子断層撮影法)とCT(コンピュータ断層撮影)を合わせた撮影を一度におこなえる画像検査です。

がん細胞は、正常細胞に比べて3~8倍のブドウ糖を取り込むという性質があります。この性質を利用してブドウ糖に似た検査薬(FDG)を体内に投与し、FDGの集積部位を画像化することでがん細胞を発見します。がんの全身検索や、再発・転移の診断に有効とされています。

骨シンチグラフィー

放射性物質を含む薬剤(アイソトープ)を静脈に注射し、全身の骨を撮影して前立腺がんの転移の有無を調べます。がんの病巣に薬剤が集まる性質があるため、がんの転移した部位が黒く映しだされます。 ただし、炎症や骨折の部位も黒く映ってしまうため、正確な判断をするためにCTやMRIなどの検査と組み合わせて総合的に判断します。

前立腺がんの再発・転移を高精度で早期発見するPSMA-PET検査

前立腺がんの再発・転移を高精度で早期発見するPSMA-PET検査

画像引用:PHILIPS

従来、前立腺がんの再発・転移を調べる検査としては、CT検査・MRI検査・FDG-PET/CTなどが一般的に用いられてきました。

しかし、近年ではPSMA-PETという画像検査が世界的に注目を集めています。

ここでは、前立腺がんの再発・転移を高精度で早期発見できるPSMA-PET検査について紹介していきます。

PSMA-PET検査とは

PSMA(前立腺特異的膜抗原)とは、前立腺の表面に存在するたんぱく質で前立腺がんや転移がんに多く発現します。

PSMA-PET検査では、このPSMAが全身のどこにあるのかを画像化することにより、がんや再発・転移を正確に映しだすことができます。検査の際には、PSMAに結合する性質がある薬剤(ガリウム68やフッ素18)が投与されます。これらの薬剤を使用することにより、がん細胞を高精度で検出することが可能となります。

欧米ではガイドラインにも記載されており、前立腺がんの再発に対してPSMA-PET検査が推奨されています。日本では、現時点で保険適用がされていないため、自由診療での受診となります。

PSMA-PET検査のメリット

PSMA-PET検査のおもなメリットは、以下のとおりです。

  • FDG-PET/CTよりも描出能(※)が高く、これまでの検査で見落とされていた微細ながん細胞や転移を見つけることができる。
    (※ 微細な構造物や特定の部位をどの程度正確に描写できるかを示す指標)
  • CT検査・骨シンチグラフィーの転移がん検出率が62%であるのに対し、PSMA-PET検査は92%と高い精度を誇る。
  • 高精度な診断結果により、正確な病期(ステージ)の診断・治療効果の判定・適切な治療方針の策定が可能になる。
  • 被ばく量は骨シンチグラフィーの約半分、副作用の発生率も3.4%と安全性が高い。

PSMA-PET検査はほかの画像診断に比べて精度が高いため、より早く再発・転移を見つけることができます。

PSMA-PET検査の流れ

実際に検査を受ける際のPSMA-PETの流れは、以下のとおりです。

  1. 問診・着替え・身長/体重の測定をおこなう
  2. 検査薬を静脈注射する
  3. 病変部位に検査薬が集まるまで1時間ほど安静に待機
  4. 撮影前に排尿する
  5. 撮影(20分程度)
  6. 30分ほど安静に待機
  7. 着替えて終了

検査時間は約2時間で食事制限・服薬制限はありません。

ごく微量ですが被ばくがあるため、検査当日は乳幼児や妊婦との接触は控えるようにしましょう。

前立腺がんの再発・転移した場合の治療方法

前立腺がんの再発・転移した場合の治療方法

前立腺がんが再発・転移したと診断された場合、初めにおこなった根治的治療の種類によって治療方法が変わってきます。

ここでは、根治的前立腺全摘除術後と根治的放射線療法後の再発、および前立腺がんの骨転移に対しておこなう治療方法について解説していきます。

根治的前立腺全摘除術後の再発

根治的前立腺全摘除術後にPSA再発が認められた場合、救済療法(再発後の治療)としては、放射線治療やホルモン療法を検討します。

放射線治療は救済療法として有効な選択肢で、PSA値が0.5ng/ml未満で開始することが望ましいとされています。放射線療法を開始すれば臨床的再発リスクは低くなる一方、副作用が起こる可能性も高くなります。そのため、PSA再発では経過観察(PSA監視療法)も治療選択のひとつなのです。

また、倍加時間(PSA値が倍の値に上昇するまでにかかった時間)が10か月以内、もしくはグリソンスコアが8~10と高い場合には、オプションとしてホルモン療法を検討し、放射線治療とホルモン療法を併用するケースもあります。

根治的放射線療法後の再発

根治的放射線療法後のPSA再発に対する治療は、PSA監視療法、またはホルモン療法が推奨されています。

画像診断などにより局所再発が認められた場合は、PSA監視療法やホルモン療法に加え、根治可能な救済局所療法として前立腺全摘除術や凍結療法・組織内照射・高密度焦点式超音波療法などの治療がおこなわれます。一方で、遠隔転移に対する治療には、おもにホルモン療法がおこなわれます。

前立腺がんの骨転移の治療

前立腺がんの骨転移に対する治療は、ホルモン治療が中心となります。

前立腺の細胞は、正常時でもがんであっても男性ホルモンに大きく依存していることがわかっています。ホルモン療法で男性ホルモンの作用をなくすことにより、前立腺がんの細胞を消滅させたり弱めたりすることができます。

骨転移による痛みや神経圧迫症状が強い場合には、放射線治療(外照射治療・ラジウム223注射)が検討されます。また、骨の破壊を抑制する骨修飾薬(ビスホスホネート製剤、・ANKL阻害剤)が用いられることもあります。

まとめ

立腺がん再発・転移の定義やおこなわれる検査、治療方法について解説

今回の記事では、前立腺がん再発・転移の定義やおこなわれる検査、治療方法について解説してきました。

日本人男性の9人に1人が発症すると推定される前立腺がんは、根治的治療後の再発率が高いとされています。しかし、再発・転移をした場合、初回におこなった根治的治療の種類によって治療の方法が限られてしまうため、再発・転移をできるだけ早期に発見して治療を開始することが重要なポイントとなります。

これまで再発・転移の有無の診断には、PSA検査やCT・MRIをはじめとした画像診断が用いられてきましたが、前立腺がんの再発・転移を高精度で早期発見できるPSMA-PET検査にも注目されています。

前立腺がんの再発・転移にともなう治療方法については、まず主治医と相談のうえ選択肢を整理するようになるでしょう。しかし、別の方法がないか知りたい場合や、第三者の意見を聞いてみたい場合には、セカンドオピニオン制度の活用をおすすめします。

がん治療一覧へ