PSMA-PET検査について
PSMA-PET検査はより高い精度でがんの状態を調べるために開発された、前立腺がんの指標(PSMA)を検知する薬剤を使用したPET検査です。
前立腺がんの診断だけでなく、治療の方針決定や予後予測などで幅広く応用することが可能です。
この記事ではPSMA-PET検査の概要や仕組み、応用方法などについて説明していきます。
「前立腺がんの精密検査を精度の高い方法で受けたい」
「前立腺がん治療後の定期検査で再発を見逃したくない」
このようにお考えの方に向けて、実際の手続きや費用についてもわかる内容となっていますので、ぜひ最後までお読みください。
目次
PSMA-PET検査について
PSMA-PET検査は、前立腺がんに特化した病変を調べる画像診断です。
1999年から2020年の間で前立腺がんの患者数が5倍に増えていること、今まで使用されていた検査法の診断能力が不十分だったことによって開発されました。
PSMA-PET検査の概要や仕組み、安全性について以下に詳しく解説していきます。
PSMA-PET検査とは
PSMA-PET検査とは、前立腺がんのがん細胞をより高い精度で検出する検査です。
前立腺がんになると、PSMA(Prostate Specific Membrane Antigen:前立腺特異的膜抗原)という、前立腺の細胞の表面に存在するタンパク質が増加します。
PSMA-PET検査では、PSMAに結合する性質がある薬剤を用いて、全身のがん細胞を目立たせて撮影する画像診断「PET検査」をおこないます。
使用される薬剤は、ガリウム68(一般名:68Ga-PSMA-11)やフッ素18(一般名:F-PSMA-1007)です。
これらの薬剤を使用することで、前立腺がんの細胞を高い精度で検出できる検査となっています。
PSMA-PET検査は、前立腺がんや去勢抵抗性前立腺がん(※)の診断や、治療効果の判定において積極的に使用されています。
PSMA-PET検査によって、がんの状態のほか、既におこなわれた治療の有効性についても確かめることも可能です。
(※)去勢抵抗性前立腺がん:男性ホルモンの分泌を抑えるホルモン治療が十分に効かず、進行した前立腺がんのこと。
PSMA-PET検査の仕組み
PSMA-PET検査で使用される薬剤「ガリウム68」と「フッ素18」には、前立腺がんに付着する機能(リガンド)や、画像診断で検出できる微量の放射線(アイソトープ)がそなわります。
ガリウム68やフッ素18を静脈注射によって体内に投与すると、これらの薬剤が前立腺がんの細胞に集まります。
そのうえで、PET装置を使用して全身の画像を撮ることによって、がんがどこにあるかわかる仕組みになっているわけです。
PSMA-PET検査は、FDG-PET検査(ブドウ糖を薬剤として使用するPET検査)よりも描出の性能が高いです。
PSMA-PET検査を使用すると、リンパ節(※)などの見落とされがちだったがんの転移がわかったり、ほかの検査よりもがんが明確に描出できたりします。
微細ながんの転移のほか、臓器のなかや骨などの細かい転移も一度の検査で確認できるため、全身のがんの状態を評価するのに適しているでしょう。
しかし、がんがない唾液腺や肝臓、脾臓、腎臓、尿にも集まる生理的な特性があるため、がん病変と間違わないように診断する医師や検査師の技術も必要です。
(※)リンパ節:リンパ液が流れるリンパ管の途中にある免疫器官。リンパ液に入り込んだがん細胞をせき止めて排除し、身体をまもる役割をもつ。
PSMA-PET検査の流れ
PSMA-PET検査は以下の流れでおこなわれます。
- 検査の説明や問診を受けた後、身長と体重を測定する
- 更衣室で検査着に着替える
- 検査直前に排尿をするため、水分を補給する
- 検査薬(ガリウム68やフッ素18)を注射によって静脈に注入する
- 病変部位に検査薬が集まるまで1時間ほど安静にする
- 尿や膀胱にたまった薬剤を排出させるために、トイレで排尿する
- 検査台の上で横になり、PET装置によって20分ほど全身を撮影する
検査前の過ごし方が検査の精度に関わるため、前日からの激しい運動や4〜6時間ほど前からの食事を控えるよう指示を受ける場合があります。
検査結果は、1〜3週間後に判明することが多いです。
PSMA-PET検査の副作用
PSMA-PET検査の副作用は下痢や疲労感、吐き気、頭痛などです。
副作用の発症率は約3.4%と低く、2〜3回繰り返すような重篤な有害事象の報告もほぼありません。
PSMAとPSAの違い
「PSMA」「PSA」ともにタンパク質の一種ですが、存在する場所が異なります。PSMAはがん細胞の表面に、PSAは前立腺の細胞や精液・血液にもあらわれます。
PSMAとPSAを組み合わせて利用することで、PSMA-PET検査をおこなうタイミングをより明確にできたり、検査結果の精度を高めたりすることが可能です。
PSAの概要や、PSMA-PET検査の目安となるPSAの値について詳しく見ていきましょう。
PSAとは
PSA(前立腺特異抗原:prostate-specific antigen)は前立腺の細胞から精液や血液に分泌されるタンパク質です。
前立腺がんや前立腺肥大症、前立腺炎などで、前立腺に存在する組織が破壊されてもれることによって分泌量が増えます。
PSMAは細胞の表面に存在するタンパク質であるのに対し、PSAは細胞のなかに存在するため、血液検査で検出できるのが特徴です。
どちらも前立腺がんが悪化するにつれて値が上昇するため、病気を鑑別するための検査や治療で応用されています。
PSMA-PET検査が適応になるPSAの値
PSMA-PET検査で正確な検査結果を得る目安として、PSAの値が2 ng/mL以上あると、約9割の精度でがんが見えることがわかっています。また、PSAの値が1〜2 ng/mLで約8割、1 ng/mL以下でも約7割です。
そのため、PSAの値が1 ng/mLを超えた状態でPSMA-PET検査を実施することもあります。
PSMA-PET検査とPSAの検査は以下の場面でよく併用されます。
- 術前のステージングの評価
- 手術後にPSAの値が1ng/mLに上がったときの 再発の確認
- 放射線治療後、PSAの値が再び上がったときの状態の確認
前立腺がんの治療中でPSAの値が変化したときに、状態の詳しい評価や治療方針の検討をおこなうためにPSMA-PET検査をすることがあります。
このように、PSMA-PET検査で精密な検査をおこなうためには、定期的にPSAの値を調べることも欠かせません。
PSMA-PET検査をおこなう場面とは?
PSMA-PET検査は以下の場面で利用されます。
- ステージを評価する場面
- がんの予後を予測する場面
- 治療の方針を変える場面
PSMA-PET検査が利用されるケースは、前立腺がんの状態を評価する場面だけではありません。
がんの状態の変化を読み取って予後の予測をしたり、治療の方針を改めたりすることに役立ちます。
以下に詳しく見ていきましょう。
ステージを評価する場面
PSMA-PET検査は、前立腺がんのステージを評価するときに使用されます。
PSMAに付着する薬剤が集まる場所から、前立腺がんの位置や広がりを明確に調べられるため、より精度の高いステージの判別が可能です。
PSMA-PET検査を使用すると、CT検査や骨シンチグラフィ(※)よりも高い確率で初期のがんのステージを明確に判別できることもわかっています。
また、再発のステージを評価したい場合は、PSAの値が変化したタイミングでPSMA-PET検査をおこなうことも多いです。
(※)骨シンチグラフィ:骨に集まる放射線を含む物質を静脈から注射し、画像診断をして骨への転移を調べる検査のこと。
がんの予後を予測する場面
PSMA-PET検査は、前立腺がんの予後を予測する場面にも使用されます。
前立腺がんの治療前後に検査をおこなうことで、得られた効果や有効性を確かめられるからです。
PSMA-PET検査を治療ごとにおこない、治療効果が得られていることがわかると、予後予測に期待がもてるでしょう。
PSMA-PET検査で治療中のPSMAを定期的に確認することによって、がんの先の状態を予測する手助けになります。
治療の方針を変える場面
適切な治療の選択ができることもPSMA-PET検査を利用するメリットです。
PSMA-PET検査で前立腺がんの状態を定期的に評価できると、次にどの治療をすべきか判断する手段にもなります。
また、PSAの値が変化したときにPSMA-PET検査をおこなったケースのうち、初期のがんで約68%、再発のがんで約60%において治療方法の変更があったことも報告されています。
治療期間中のPSMA-PET検査は、放射線の追加照射の判断にも大きく関わるため、必要に応じておこなうことが大切です。
PSMA-PET検査と他の画像検査との違い
PSMA-PET検査とCT検査、骨シンチグラフィの検出精度および被ばく量の違いは以下のとおりです。
転移がんの検出精度 | 被ばく量 | |
PSMA-PET検査 | 92% | 約8.4mSv |
CT検査 | 65% | 約5~30mSv |
骨シンチグラフィ | 65% | 約19.2mSv |
PSMA-PET検査は、CT検査や骨シンチグラフィよりも転移しがんの検出制度が高いです。他の画像診断で気づかなかった病変なども読み取れるため、がんの転移を見落とす可能性が大きく減るでしょう。
また、PSMA-PET検査の被ばく量は骨シンチグラフィの半分ほどと言われており、ほかのがん検査より身体への安全性が高いこともわかっています。
PSMA-PET検査をおこなった症例
PSMA-PET検査を併用しながらドイツで治療した、去勢抵抗性前立腺がんの患者さんについて紹介します。
患者さんはリンパ節にがんが転移していたため、下肢の静脈が圧迫されて足のむくみがひどい状態でした。
歩くことができないため、ドイツまで車椅子を利用して移動していました。
治療としてルテシウム(※)やアクチニウム(※)を投与しながら、PSMA-PET検査と血液検査をおこなって状態の変化を観察しました。
- がんの状態の変化
2回目のPSMA-PET検査では、1回目の検査よりがんの大きさが小さくなったことがわかりました。
3回目と4回目の検査ではがんがほぼみられなくなりました。
- PSAの変化
1回目のPSMA-PET検査後では、PSAの値が一時的に大きく上がりました。
これは急速にがんが死滅して、がんのなかにあったPSAが血中に放出されたため(腫瘍溶解症候群)です。
2回目から3回目の検査の間ではPSAの値はほぼ変化がなく、3回目の検査の後はPSAの値が大きく下がっていました。
4回目 のPSMA-PET検査の時点では、患者さんは歩けるようになり、車椅子なしでドイツまで移動できるようになりました。
(※)ルテシウム・アクチニウム:静脈に注射して体内にいきわたることによってPSMAに結びついて選択的に攻撃する放射線物質のこと。ルテシウムはベータ線内容療法、アクチニウムはアルファ線内容療法ともいい、PSMA-PET検査と組み合わせておこなうのに有効な治療法である。
それぞれの治療をしたい場合は国外で受ける必要があり、ホルモン治療が効かない去勢抵抗性前立腺がんに適用されることが多い。
PSMA-PET検査を受けたい場合は?
PSMA-PET検査を受けたい場合は、検査に対応している医療機関に相談してみましょう。
総合病院や大学病院、クリニックなど、日本でもPSMA-PET検査を取りあつかっている医療機関が増えてきています。
なお、PSMA-PET検査を受けるためには、事前予約が必要な医療機関がほとんどです。
検査で使用する薬剤は高価で使用期限が短いことから、予約日の2日ほど前から医療機関で準備されます。そのため、予約時間の到着が遅れるとキャンセル料が必要になるケースもあります。
遠方から検査を受けにいく場合は、前日から近隣に宿泊するなどの検討をしても良いでしょう。
佐藤俊彦医師が理事を務める宇都宮セントラルクリニックでは、2024年4月よりPSMA-PET検査を導入しております。
PSMA-PET検査の受診に関する詳細はこちらをご覧ください。
PSMA-PET検査の相場
PSMA-PET検査の相場は25万円です。
PSMA-PET検査は日本で承認されていないため、自費診療となり、かかる費用も医療機関によってさまざまです。
費用が気になるときは、PSMA-PET検査に対応している医療機関のホームページを参考に見比べてみると良いでしょう。
場合によっては交通費や宿泊費がかかるケースもあるため、その点も含めて費用を検討することをおすすめします。
まとめ
この記事では、PSMA-PET検査の概要や仕組み、PSAとの併用方法、使用する目的、受ける際の手続きや費用などについてお話ししました。
- PSMA-PET検査はガリウム68やフッ素18を用いたPET検査で、PSMAを高い精度で検出できる
- PSMA-PET検査はFDG-PET検査よりもがんを見落とす可能性が少ない
- PSMAとPSAは物質の特性が異なり、PSAの値は血液検査で調べられる
- PSMA-PET検査はPSAの値と併用しながら、がんのステージの評価や予後予測、治療の変更に活用されることが多い
- PSMA-PET検査はCT検査や骨シンチグラフィよりも、検査の描出能が高く、健康被害も少ない
- PSMA-PET検査の相場は25万円ほどで、事前予約が必要になることが多い
PSMA-PET検査や関連する治療について気になる方は、ぜひこの記事を参考にして、前向きに検討してみてください。