PSMA治療とは?日本で承認されている?治療を受ける方法や費用なども解説

前立腺がんの罹患率は、日本だけではなく世界的に上昇の傾向にあります。標準治療が思うような効果を発揮しなかったり、再発などにより新たな治療を探す必要があったりして、悩んでいる方もいることでしょう。
近年、前立腺がんの治療において「PSMA治療」が注目を集めていることをご存知でしょうか。
本記事では、PSMA治療の詳細や日本における承認状況について解説していきます。また、実際に治療を受ける方法やかかる費用も紹介しますので、前立腺がんを罹患されている方、PSMA治療について詳しく知りたいという方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
PSMA治療とは?

PSMA治療は、前立腺がんに罹患すると発現する特異なたんぱく質「PSMA」を標的として治療をおこなう放射線療法のひとつです。
前立腺がんは、早期に発見し、手術や放射線治療を適切におこなうことで完治が見込めるがんです。もし再発・転移をした場合には、男性ホルモンの分泌を抑える「ホルモン療法」をおこなうことが一般的ですが、このホルモン療法に効果がみられないケースがあります。これが「去勢抵抗性前立腺がん」とよばれる状態です。
去勢抵抗性前立腺がんは、標準治療での治癒が非常に困難であるとされています。しかし、近年では、PSMA治療をおこなうことによって症状が寛解・軽快したという数多くの報告がされています。
ここでは、PSMA治療とはどのようなものなのか、詳しく解説していきます。
PSMAとは
PSMA(=Prostate Specific Membrane Antigen)とは、前立腺がんの表面にあらあわれる特異なたんぱく質で、日本語では前立腺特異的膜抗原と呼ばれています。
前立腺がんの90%以上に発現するとされており、がんが転移・進行することでより強く発現がみられる傾向があります。また、正常な前立腺や小腸、涙腺・唾液腺にもごくわずかに発現することがわかっています。
PSMAは、前立腺がんの腫瘍マーカーとして用いられている「PSA(Prostate-Specific Antigen=前立腺特異抗原)」とは異なる物質ですので、混同しないように注意してください。
PSMA治療のメカニズム
前立腺がんの表面に発現するPSMA(前立腺特異的膜抗原)には、ほかの物質と結合しやすいという特性があります。
PSMA治療ではこの特性を利用し、PSMAに付着する薬剤と放射性同位元素(体内で放射線を放出する)を結合させた薬剤を体内に投与します。そして、この薬剤がPSMAだけに付着することにより、前立腺がんの細胞にピンポイントで放射線を照射できるというのが治療のメカニズムです。
そのため、ほかの正常な細胞には影響をあたえることがなく、全身のいたる部位に転移として生じた前立腺がんの細胞に対しても治療の効果が期待できます。このような作用があることから、転移性である去勢抵抗性前立腺がんに対してPSMA治療が適応となっているのです。
PSMA治療に使用される薬剤
PSMA治療に使用する薬剤には、ルテチウム177(ノバルティス社)やTLX591(テリックス社)などがあります。
ルテチウム177は、放射性同位元素であるLu-177を結合させた放射性医薬品です。
投与すると体内のPSMAに付着し、ベータ線を放出することで前立腺がんを破壊します。また、ガンマ線も放出されるため、PSMA表面に発現したがん細胞を画像化することもできます。現在、治療にはルテチウム177がもっとも多く用いられているとされています。
TLX591は、PSMA治療のためにテリックス社が開発した「抗体医薬」です。
抗体医薬とは、人が本来もっている免疫システムのひとつである抗体の働きを利用した医薬品です。抗体には、ひとつの抗体はある特定の抗原(病原)にのみ作用するという特性があります。この特性を活用したTLX591は、前立腺がんの細胞をピンポイントで攻撃できるだけではなく、より高い治療効果とさらなる副作用の軽減にも期待できます。
PSMA治療の副作用について
PSMA治療は、前立腺がんだけをターゲットにして攻撃することが可能なため、ほかの臓器や細胞に影響を及ぼすことも少なく、従来の標準治療よりも副作用をおさえることができます。
ここでは、PSMA治療における副作用について、使用する薬剤ごとに解説していきます。
ルテチウム177
ルテチウム177を薬剤として用いたPSMA治療では、治療後に疲労感や吐き気をおぼえることがありますが症状は強くはなく、一時的であることがほとんどです。
しかし、PSMAは唾液腺や涙腺にもごくわずかに発現しているため、治療後に目の渇き(ドライアイ)や口渇を感じることがあります。また、投与した薬剤は尿として体外に排出されるため、膀胱にダメージを与えることがあります。
TLX591
TLX591の被ばく量は、ルテチウム177のおよそ8分の1とされています。そのため、安全性も高く、副作用もより軽減されていることが特徴です。
抗体医薬であることから唾液腺や涙腺に影響を与えるリスクも少なく、薬剤は胆汁排泄として便から排出されるため、膀胱へのダメージの心配もありません。
以上のように、治療にはある一定の副作用がみられることがあります。しかし、ルテチウム177・TLX591いずれの薬剤を使用しても、標準治療の副作用よりも軽い症状で治まることがほとんどです。
PSMA治療は日本で承認されている?

PSMA治療(ルテチウム177)は、2022年3月にFDA(アメリカ食品医薬品局=Food and Drug Administration)から承認されており、さらに2022年12月にはEUでも承認されています。
しかし、残念ながら日本ではまだ承認には至っていません。現在、治験(第2相試験)が進行中ですが、承認までにはあと数年かかるといわれています。
そのため、治療を受けるためには海外に渡航する必要があります。ドイツ・アメリカ・オーストラリア・マレーシアなどで治療を受けることが可能ですが、日本の場合はドイツやオーストラリアで治療を受ける人が多く、なかでもオーストラリアは時差が少ないため選ぶ人が多い傾向にあります。
PSMA治療を受ける方法

現時点で、PSMA治療は海外でしかおこなわれていないということは前述のとおりです。それでは、実際にPSMA治療を受ける場合はどのようにすればよいのでしょうか。
日本国内には、海外でのPSMA治療をサポートする医療機関が複数あります。治療を希望される場合は、これらの医療機関をセカンドオピニオンとして受診するのがいちばんの近道でしょう。
PSMA治療の可否を判断するための事前検査・診察を受けて適応となれば、提携先の海外医療機関への紹介・各種検査資料の共有など、治療に必要な手配は受診したセカンドオピニオン先がおこなうことが一般的です。
個人で手配することも不可能ではありませんが、紹介状や必要な検査資料を入手し、海外の医療機関と英語でやり取りをするのは簡単なことではありません。また、治療を受けるために渡航したものの、現地で適応ではないと診断される可能性がないともいえません。
着実に治療を受けるためにも、海外の医療機関と提携している日本の医療機関にセカンドオピニオンを求めることをおすすめします。
PSMA治療の流れ

ここからは、海外でのPSMA治療が決定した後の流れについて紹介していきます。
渡航準備・渡航
セカンドオピニオンで治療が適応であると診断されると、以下のようなデータが作成され、治療をおこなう提携先の医療機関に共有されます。
- 紹介状(診療情報提供書)
- 血液検査・病理検査などの結果
- 日本でおこなった画像検査のデータ(CT・MRI・PETなど)
また、医療機関によっては、現地の担当医師とオンラインで事前診察をおこなうことがあります。その場合、通訳が同席することがほとんどであるため、言語の心配はありません。
並行して、航空券・宿泊先の手配をおこないます。その際、治療スケジュールや日本との時差、医療機関の立地(空港・宿泊先からのアクセス)などを考慮する必要があります。さらに、パスポートの有効期限の確認やビザの取得もあわせておこないます。
なかには、これらの渡航手配を治療サポートの一環として提供している医療機関もあります。手配に不安がある方は、受診する医療機関を決める際に確認しておくとよいでしょう。
PSMA治療を受ける
現地到着後は実際に治療を受けることになりますが、使用する薬剤によって治療スケジュールが異なります。ここでは、ルテチウム177・TLX591それぞれの治療の流れを紹介していきます。
ルテチウム177
現地担当医師の診察後に治療がおこなわれます。
ルテチウム177の投与に必要な時間はおよそ30分で、投与後、体内の放射線量が基準値を下回るまで測定をしながら待機します。
ルテチウム177を使用した治療は、全6回、6週間ごとにおこなわれ、すべての治療を終えるまでに36週(9か月)を要します。治療のあいだ現地に滞在することも考えられますが、仕事やそのほかの都合で帰国しなければならない場合は、治療を受ける都度、6回渡航することになります。
TLX591
TLX591でも同様に、医師の診察後に治療が実施されます。
投与時間はルテチウム177より長めで約2時間ですが、投与後はそのまま宿泊先へ戻ることができます。
TLX591を使用する場合、治療は2週間の間隔をあけて全2回で終了します。そのため、ルテチウム177よりも治療期間が圧倒的に短くなります。
帰国
帰国後は、PSMA治療の紹介を受けたセカンドオピニオン先で経過観察をすることが一般的です。アフターフォローとして、血液検査や画像検査で治療の効果を評価したり、必要に応じて治療をおこなった現地医師のオンライン診察を受けたりします。
また、セカンドオピニオン先が遠方である場合は、地元の医療機関で必要な検査を受け、オンラインでセカンドオピニオンの診察を受けるといった方法がとられることもあります。
PSMA治療の費用相場

PSMA治療を海外で受ける際、いちばん気になるのは費用面ではないでしょうか。治療の費用は、渡航先の国や滞在期間によって大きく異なります。
たとえば、オーストラリアでルテチウム177を使用した治療を受ける際にかかる費用の相場は以下のとおりです。
用途 | 費用 |
---|---|
セカンドオピニオンの初回診察料 | 30,000円~60,000円(所要時間による) |
治療の適応判定および現地医療機関への 各種手配 ・英文紹介状作成 ・英文検査結果資料作成(画像検査ほか) ・英文画像診断書作成 | 150,000円~200,000円 |
現地での治療費用(1回あたり) | 1,500,000円~2,500,000円 (使用する核種により異なる) |
渡航費用(往復航空券) | 70,000円~210,000円 |
宿泊費(3泊の場合) | 30,000円~90,000円 |
以上の費用のほか、手配に旅行代理店を利用した場合はその料金、現地での移動やコーディネータ―(通訳)手配の料金などが別途発生します。ルテチウム177の場合は6回の治療が必要なため、これらの費用が6回分発生します。そのため、治療にはまとまった費用が必要になります。
TLX591を使用する治療に関しては、現時点で費用の詳細が定まっていませんが、治療が2回で完了することを考慮すると、ルテチウム177よりも高額になることは考えづらいといえます。
まとめ

本記事では、PSMA治療について詳しく解説してきました。
PSMA治療は、前立腺がんのなかでも転移性で治療の困難な「去勢抵抗性前立腺がん」への効果が期待できる新しい治療法です。前立腺がんの細胞だけをピンポイントで攻撃できるため、ほかの臓器や細胞へダメージや副作用を抑えられることが大きなメリットです。
ただし、日本では現時点で承認されておらず、治療を受ける場合は海外に渡航する必要があります。そのため、「海外での治療は実現できるのか」と不安を抱かれる方もいらっしゃるでしょう。しかし、日本国内には海外での治療をサポートしてくれる医療機関が複数あります。
去勢抵抗性前立腺がんへと移行してしまった方や、標準治療を続けることが難しいと感じている方も、セカンドオピニオンによりPSMA治療や、そのほかの新たな治療法を見つけることができるかもしれません。ぜひ一度、セカンドオピニオン外来の受診も選択肢のひとつとして検討してみてください。