放射線治療がよく効くがん・あまり効かないがんの違いとは?
手術に劣らない優れたがん治療法である放射線治療ですが、「万能か?」と問われると、残念ながらそうではありません。がんの中には、放射線治療が効きにくいものがあります。
今回は、放射線治療が効きにくいがんについてのお話です。
がん細胞にも「感受性」がある
放射線治療を施して、よく効くがんもあれば、あまり効かないがんもあります。
それぞれ、よく効くがんは「放射線の感受性が高い」、あまり効かないがんは「放射線の感受性が低い」と表現します。
がんの放射線感受性を決める要因はいくつかあります。一つずつ見てみましょう。
- 細胞分裂が頻繁
- 細胞が未熟である
- 細胞内の酸素が豊富
細胞分裂が頻繁
放射線治療は、細胞分裂しているときにしか効果がありません。
そのため、頻繁に細胞分裂を繰り返しているがん細胞であればあるほど、放射線感受性が高くなります。
細胞が未熟である
細胞は、細胞分裂を繰り返す程に成熟していきます(これを分化といいます)。
成熟するにつれて細胞分裂の頻度が減るため、細胞が未熟であることも、放射線感受性を高めます。
細胞内の酸素が豊富
放射線治療ががんにダメージを与える機構の一つに、活性酸素の発生があります。細胞内に酸素が多いということは、より活性酸素が発生しやすいということになり、結果として放射線治療の効果が上がりやすくなります。
放射線感受性が低いがんとして有名なのは「胃がん」や「悪性黒色腫(メラノーマ)」などです。
メラノーマは、ほくろのような皮膚がんで、放射線感受性が低いために、手術が治療の第一選択肢として選ばれます。
なお、放射線感受性が低いがん全てに、放射線治療が役に立たないわけではありません。感受性の高いがんに比べて、より多くの線量が必要となりますが、十分な線量で治療すれば、高い効果が得られるがんもあるのです。
感受性が低いものの、線量を増やすことによって高い治療効果が得られるがんの代表は「乳がん」と「前立腺がん」でしょう。
この二つは、治療次第で根治も目指せます。
以前のブログで、放射線治療の広い適応範囲を紹介しました。そこにも、前立腺がんや乳がんが含まれていたのは、こうした理由があるからです。
放射線治療なら、切らずに、抗がん剤の副作用に苦しむことなく治すことができます。もちろん、他に有効な治療法がない進行がんの治療も守備範囲です。
抗がん剤とがん細胞の感受性
放射線治療と手術と肩を並べるもう一つの治療法、抗がん剤にも、感受性があります。
抗がん剤の感受性が高まる条件は放射線治療の場合と同様で「細胞分裂が活発かどうか」です。
このことから、「抗がん剤がよく効くがんには放射線もよく効く」と言われています。
なら、放射線と抗がん剤は同じではないか?
そう思われる方もいるかもしれません。
これは間違いです。放射線治療と抗がん剤治療には大きな差があります。それは「副作用」です。
がん治療に興味を持つ方なら、一度は、抗がん剤は副作用がきついという話を耳にしたことがあると思います。これは本当で、副作用のあまりの辛さに抗がん剤治療を途中で辞めてしまう方が少なくありません。
抗がん剤の副作用が強いのは、抗がん剤の感受性に関係があります。
抗がん剤は放射線治療と同じように細胞分裂が活発だと感受性が高くなります。
ところが、抗がん剤が高い感受性を発揮するのは、「細胞分裂が活発ながん」だけではないのです。全身に回る薬である抗がん剤は、「細胞分裂が活発ながん」と同時に「細胞分裂が活発な正常な細胞」にもダメージを与えてしまいます。
たとえば、抗がん剤の副作用としてよく知られる脱毛は、細胞分裂が活発な頭皮の毛根細胞が抗がん剤の影響を受けるために起こる副作用です。同じように細胞分裂が活発な爪も障害を受けやすいものです。
深刻な副作用を起こす可能性があるのは、、骨髄幹細胞に抗がん剤の影響が及んだ場合です。白血球や血小板が減少し、出血が止まらなくなったり、免疫力が極端に落ちたりしてしまうこともあります。
一方、放射線治療(特に高度放射線治療)では、治療範囲がピンポイントなので、急性の副作用が全身に現れることはありません。
こういった効果と副作用のバランスの面からも、私は放射線治療が有益だと思っています。
まとめ
数十年前まで、がんは切り取るのが当たり前でした。
切り取ったあとの辛さも「仕方ない」と割り切っていたんですね。
今は違います。「切らずに治るがん治療」は夢ではありません。
放射線治療が向かないがんは確かにありますが、現在の高度放射線治療は間違いなく多くの方に「希望」を届ける治療になっていると感じています。