ロボット治療の先駆け・がん放射線治療に使われるサイバーナイフとは?
ラジオサージェリー。海外でサイバーナイフはそう呼ばれています。
進歩したロボット工学とコンピューター制御……この二つの技術が存分に活用されたサイバーナイフが、今後のがん治療の未来を担うことは間違いないでしょう。
今回は、サイバーナイフのロボットアームに着目します。
サイバーナイフは放射線を使った「手術」
ラジオサージェリー(Radiosurgery)のラジオは「放射線」のこと、サージェリーは「外科手術」を指す単語です。直訳すると、ラジオサージェリーは「放射線による外科手術」という意味になります。
ピンポイントで正確な放射線照射が可能になっているサイバーナイフでは、まるで切り取ったかのようにがん細胞を消滅させることできます。
しかし、もちろん本当にメスを入れるわけではありません。なので、体への負担は最小限に抑えられます。この点は手術を凌駕するメリットと言えるでしょう。
サイバーナイフの構造
サイバーナイフは、本体、X線撮影装置、画像検出器、そしてカウチから成り立つ機器です。
それぞれ以下のような役割や特徴を持っています。
- 本体…産業用ロボットに、放射線を照射する小型のリニアック(放射線治療装置)が取り付けられている
- X線撮影装置…患部を二方向から撮影するための装置。天井に据え付けられている
- 画像検出器…X線撮影装置で撮影された画像を検出する装置。床に埋められている
- カウチ…患者さんが横になって治療を受けるベッドのこと
サイバーナイフのロボットアーム
サイバーナイフは、他の放射線治療装置とは大きく異なる外観をしています。
ドームの有無
まず、異なるのはドームの有無です。
従来の放射線治療装置には、CTやMRIのようなドームがあり、そのため、照射部位に制限がありました。
一方、サイバーナイフにはドームはありません。サイバーナイフのようにドームのない装置はオープン型と呼ばれます。ドームがないおかげで、自由に照射部位を設定できるようになりました。
ロボットアームの存在
もう一つ、大きく異なるのは、ロボットアームの存在です。
サイバーナイフに搭載されているロボットは、ベンツなどの自動車工場で精密な組み立て作業に用いられているものと同じものです。
ロボットアームの関節は6つ。それぞれが0.1mmの精度で、前後左右上下に反復運動ができる、自由度の高いもので、患者さんのがんを中心に、360度自在に空間上をしなやかに動きます。
様々な場所に、ピンポイント照射できるのは、この動きのおかげです。静止した患者さんであれば、1mm未満の精度で照射の位置決めを行えるようになったのです
従来の放射線治療装置では、一点を中心とした回転運動しかできませんでした。
しかし、がんの形はいびつです。きれいな形のがんなどまずありません。
いびつながんの形に対応しながら、ピンポイント照射をするために、必ずと言っていいほど必要となっていたのが、治療用ベッドの移動でした。
サイバーナイフは、360度、最大で100ヶ所から照射が可能です。しかも、それぞれ12方向に照射できます。
照射時には、放射線の照射ノズルに「コリメーター」と呼ばれる絞り装置をつけます。
コリメーターには、5~60mmまでの12サイズがあり、使うことで、放射線を任意のサイズの細いビームに絞り込んで照射できるようになります。
コリメーターはターゲットとなるがんの大きさに合わせて使い分けるのですが、これもロボットアームが自動的にピックアップして付け替えるのです。
ロボットアームが搭載されているサイバーナイフは、このような技術を持って、自由自在に多方向からがんに向かって放射線を照射することができる、とても優秀な放射線治療装置です。
多方向から放射線を照射できるメリット
がんに多方向から放射線を照射することには、実は大きなメリットがあります。
たとえば、とあるがん細胞に1方向から100のX線を当てるとします。
1方向からしか当てない場合、通り道となった正常な細胞にも、100のX線が当りますね。
しかし、それを100方向から照射したらどうなるでしょうか?
がん細胞には先と同じように100のX線が当りますが、通り道となった100ヶ所の正常な細胞には、それぞれ1ずつしかX線は当らないのです。
周囲の正常な組織を放射線のダメージから守ることができる、これが多方向から放射線を照射できる大きなメリットです。
多方向からピンポイントで放射線を照射できるサイバーナイフは、放射線治療の理想を形にした装置と言えるでしょう。
まとめ
正常な細胞をいかにして放射線のダメージから守るかは、放射線治療の永遠のテーマです。
サイバーナイフのロボットアームは、放射線治療の安全性をぐっと高めました。
まだまだ、サイバーナイフは「どこの病院でも普通にある装置」ではありません。もっともっと普及し、より多くのがん患者さんが救われればと思っています。