レプリコンワクチンの効果と安全性について
次世代型mRNAワクチンと呼ばれる、レプリコンワクチン(製品名:コスタイベ筋注用)が承認され、2024年秋から始まる新型コロナウイルスの定期接種で使用される見込みとなっています。臨床試験において、レプリコンワクチンの有効性や安全性は確認されていますが、実際の医療現場で使用してデータ収集をおこなわないと、分からない点もあるでしょう。
今回はレプリコンワクチンについて、効果を発揮する仕組みや期待されている点を解説します。現時点でわかっていることや、懸念されることについても解説するので、レプリコンワクチンの接種を受けるかどうか判断する際の参考にしてください。
レプリコンワクチンとは
レプリコンワクチンについて、効果をもたらす仕組みや、従来型コロナワクチンとの違いを確認しましょう。
レプリコンワクチンの原理
レプリコンワクチンを含む、mRNAワクチンが効果をもたらす仕組みをみていきましょう。mRNAワクチンでは、ウイルスの表面にあるスパイクタンパクを作る遺伝情報(mRNA)を接種します。
接種されたmRNAが体内の細胞に取り組まれると、その遺伝情報からスパイクタンパクを生成。生成したスパイクタンパクに対する抗体が作られると、免疫を獲得できるのです。
レプリコンワクチンは「次世代型mRNAワクチン」と呼ばれ、遺伝情報にmRNAを増やす機能も組み込まれています。そのため、接種すると体内でmRNAそのものが増殖し、増えたmRNAからスパイクタンパクが作られることで、長期にわたって免疫を維持できるのです。
従来型コロナワクチンとの違い
レプリコンワクチンと従来型コロナワクチンとの違いについて確認しましょう。
ファイザー製・モデルナ製との違い
新型コロナウイルスに対する免疫を獲得する仕組みは、レプリコンワクチンとファイザー製・モデルナ製ワクチンも同じです。レプリコンワクチンには、mRNAをコピーして増やす働きも組み込まれている点が、ファイザー製・モデルナ製ワクチンと異なります。
従来型では、時間が経つと、接種したmRNAの量が少なくなるため抗体量も減り、効果は数ヶ月程度とされていました。レプリコンワクチンは、体内でmRNAをコピーして増やせるため、効果が持続することがわかっています。
アストラゼネカ製との違い
アストラゼネカ製ワクチンとレプリコンワクチンは、ワクチンの種類が異なります。アストラゼネカ製ワクチンは、ウイルスベクターワクチンに分類され、ウイルスのスパイクタンパクの遺伝情報にDNAを使用しています。遺伝情報(DNA)を体内の細胞まで届けるために運び屋の「ベクター」が必要で、ベクターには毒性や病原性のないウイルスを使用するのです。
ウイルスベクターワクチンを接種すると、体内の細胞内で、接種したDNAからmRNAが合成されます。合成されたmRNAからスパイクタンパクが作られると、ウイルスに対する免疫を獲得できるのです。DNAからmRNAを合成する過程があるため、スパイクタンパクが作られるまでに時間はかかりますが、mRNAワクチンより安定性が高いため、冷凍庫で保管する必要はありません。
レプリコンワクチンに期待されていること
従来型コロナワクチンと比べて、レプリコンワクチンに期待されているメリットを解説します。
副反応が少ない
従来型ワクチンと比べて、レプリコンワクチンでは副反応が軽くなると考えられています。従来型の1回接種量は30μg〜60μgですが、レプリコンワクチンの1回接種量は5μgで、従来型の6分の1以下と少ないことが理由に挙げられています。
従来型より効果的な免疫反応
従来型ワクチンは、抗体量が数ヶ月〜半年ほどで低下しますが、レプリコンワクチンは、従来型より効果が長く維持されることがわかっています。動物実験において、レプリコンワクチン接種後1年間にわたり、十分な量の抗体が維持されたと報告されています。レプリコンワクチンの国内第3相試験では、ファイザー製よりも、抗体量が多く、効果の持続性に優れているという結果が示されました。
従来型ワクチンより保存条件が緩和
レプリコンワクチンは、従来型ワクチンよりも保存条件が緩やかです。ファイザー製の保存温度は、マイナス90度〜マイナス60度と定められていますが、レプリコンワクチンは、マイナス25度〜マイナス15度です。解凍後は、モデルナ製では遮光保存が必要ですが、レプリコンワクチンは遮光する必要はなく、冷蔵庫(2度~8度)で1ヶ月間保存できます。
レプリコンワクチンの安全性について
レプリコンワクチンの安全性について、現時点でわかっていることと、懸念されていることについて解説します。
現時点で分かっていること
レプリコンワクチンの製造販売元である、Meiji Seika ファルマ株式会社が公表したデータで、安全性に関する項目は以下のことがわかっています。
- 国内第3相試験において、大半の副反応は軽度~中等度であり、ワクチン接種後数日以内に症状が消失する
- 主な副反応の発現割合や、症状の持続する期間は、ファイザー製と大差がない
- 臨床試験では、重大な副反応の心筋炎や心膜炎の報告はなかった
安全性で懸念されること①:mRNAの自己増殖
レプリコンワクチンの安全性で懸念されることの1つ目は、mRNAの自己増殖です。接種量が少量で済むことはわかっていますが、接種したmRNAがコピーして増える力や、スパイクタンパクを生成する量がどの程度で停止するのか、現時点でわかっていません。
従来型ワクチンより、大量のスパイクタンパクが生成されてしまう可能性があり、これまで以上に重篤な副反応や有害事象が起こることが考えられます。
安全性で懸念されること②:LNPによる副反応
懸念されることの2つ目は、LNPによる副反応です。LNPは、脂質ナノ粒子と呼ばれ、mRNAを体内の細胞まで運ぶために包む殻として使用されています。従来型ワクチンでも使われている技術です。
LNPは、血液脳関門や血液胎盤関門を通り抜ける性質があり、全身に広がることがわかっています。LNPそのものに、強い炎症を起こす作用があるため、これまでと同様に全身のあちこちに副反応が起こる可能性があるでしょう。
安全性で懸念されること③:ワクチン由来スパイクタンパクの副反応
懸念されることの3つ目は、ワクチン由来スパイクタンパクの副反応です。スパイクタンパクには、炎症反応や血栓症を引き起こす作用があります。そのため、スパイクタンパクを生成した細胞は、免疫細胞による攻撃を受けて、自己免疫疾患や臓器障害が生じることが海外の論文にて示されています。
スパイクタンパクによるさまざまな障害は、ウイルス由来でもワクチン由来でも、どちらでも引き起こされると報告されています。mRNAをコピーして増加するレプリコンワクチンでは、作られたスパイクタンパクによる影響がどのくらい現れるのか、現時点でわかっていません。今後もスパイクタンパクによる副反応の経過を観察する必要があるでしょう。
安全性で懸念されること④:免疫機能に対する副反応
懸念されることの4つ目は、免疫機能に対する副反応です。従来型ワクチンにおいて、接種をくり返しおこなうと、免疫反応を抑えるIgG4が作られることが海外の論文で報告されています。
IgG4の量が増えると、異物や病原体を排除するIgG3の働きが妨げられてしまうのです。それにより、本来の免疫反応がおこなわれなくなり、新型コロナウイルスに感染したときに長期化したり、自己免疫による心筋炎を発症したりする可能性があるでしょう。
安全性で懸念されること⑤:フレームシフト変異
懸念されることの6つ目は、フレームシフト変異です。新型コロナワクチンで使用されているmRNAは、遺伝情報を1-メチルシュードウリジンで修飾しています。修飾したmRNAでは、まれにフレームシフトと呼ばれる変異が起きて、本来作られるタンパク質以外に、異なる性質をもつタンパク質も作られてしまうことが海外で報告されました。
変異によって作られたタンパク質が、身体にどのような影響をもたらすか、現時点ではわかっていません。実際の使用を通じて、さらなる情報収集が必要でしょう。
レプリコンワクチンの治験が日本でおこなわれた背景
日本国内で、ワクチン開発をおこない、実用化することは、感染症の有事に備えるために重要な意味があります。レプリコンワクチンの治験が日本でおこなわれた背景について、5つのポイントに分けて解説します。
国内での承認取得
ワクチンや医薬品を日本国内で製造販売する際は、厚生労働省の承認が必要です。承認を受けるために、日本人でおこなった臨床治験データを提出しなければなりません。海外で開発や承認されたワクチンや医薬品においても、日本人でおこなった臨床データが必要となります。
ただし、重大な感染症の急速なまん延によって、必要に迫られたときのみ「特例承認」や「緊急承認」がおこなわれることがあります。特例承認は、すでに海外で承認されているワクチンなどを、一部の調査や手続きを省略して、迅速に承認する制度です。
緊急承認は、通常の承認時におこなわれる臨床治験が終了していなくても、安全性が確認され、有効性が推定できれば承認する制度になります。緊急承認の対象となるものは、すべてのワクチンや医薬品で、海外で流通していないものも含まれます。
日本人のデータ収集
ワクチンの有効性や安全性は、接種を受けた人の生活環境が深く影響することがあります。さらに、遺伝子の構成は人種差が大きく、ワクチンの効果や副反応の現れ方に違いがみられることが多いです。日本で治験をおこなうことで、日本人固有のデータを得られるメリットがあります。
国産ワクチンの開発
新型コロナウイルス感染症のパンデミック時に、日本はワクチン開発が世界に遅れをとったことを契機に、政府が国産ワクチンの開発に力を入れています。研究開発や製造の拠点を整備したり、開発における資金調達を強化したりするなど、さまざまな対策をおこなっています。レプリコンワクチンも「ワクチン開発・生産体制強化戦略」の一環で、研究開発を支援しているのです。
新しい医療技術の検証
レプリコンワクチンは、mRNAが自己増殖するように設計した点で、これまでのワクチンと異なる新しい医療技術が取り入れられています。日本で治験をおこなうと、日本の医療環境に基づいて、新しい医療技術の有効性や安全性の検証ができるメリットがあります。レプリコンワクチンのような新しい医療技術が実用化されると、ほかの感染症などに対する治療に応用できる可能性があり、国産ワクチンの研究開発がより活発になるのです。
迅速な供給体制の構築
新型コロナウイルス感染症のパンデミック時に、ワクチン分配が公平性に欠けていたことも影響し、国民の健康の維持や安全保障のために、国内でワクチンを開発・製造することを政府は目標としてきました。
日本で、レプリコンワクチンの治験をおこない承認されると、国内でワクチンを製造販売できるようになります。それによって、緊急時においても、ワクチンを迅速に生産・供給することが可能になるのです。
まとめ
日本で国産ワクチンを開発・生産することは、重大な感染症のパンデミックに対する備えとなり、重要な意味を持っています。レプリコンワクチンは、次世代型mRNAワクチンとして、世界で初めて承認されました。
mRNAが自己増殖するように設計されている点が、レプリコンワクチンの特徴です。従来型コロナワクチンと比べて、1回接種量が少なく済み、ウイルスに対する抗体価や持続性が優れていることがわかっています。
レプリコンワクチンの臨床試験では、有効性と安全性が確認されています。しかし、mRNAワクチンは、産生されたスパイクタンパクによる副反応や、免疫機能に対する影響などが海外の論文にて報告があり、懸念材料となっているのです。
レプリコンワクチンは日本以外に承認された国はなく、懸念材料を払しょくするほどのデータがまだありません。実際の医療現場で使用し、情報収集することで、判明することもあるでしょう。レプリコンワクチンの接種を受ける場合は、正しい情報を集めることに努めて、冷静に判断するようにしてください。