免疫細胞BAK療法を開発した仙台微生物研究所について

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免疫細胞BAK療法を開発した仙台微生物研究所について

免疫細胞BAK療法を開発した仙台微生物研究所について

当コラムで最新のがん医療を解説している佐藤俊彦医師は、2023年より「公益財団法人 仙台微生物研究所」の代表理事を務めていましたが、2024年5月31日の法人解散にともない代表理事を退任する運びとなりました。

佐藤医師は、2003年に栃木県で初めてのPETセンターを開院しました。PETというがん・炎症・認知症を診断できる技術の有用性は確かなものです。しかし、多くのがん患者の方が進行がんで標準治療を受け、薬がなくなると治療を続けることができず「がん難民」になる現実を目の当たりにして、大きなショックを受けたそうです。

これらの臨床での経験から、佐藤医師は従来のがん治療に矛盾を感じるようになり、がん免疫に興味をもたれます。そのようなときに、免疫細胞BAK療法の開発者であり、同じく仙台微生物研究所の代表理事でもあった海老名 卓三郎博士の論文と出会い、直接ご指導を受けるきっかけとなりました。今回のコラムでは、佐藤医師が代表理事を務めていた仙台微生物研究所の功績と、その研究の中心であったBAK療法についてご紹介していきます。

仙台微生物研究所について

仙台微生物研究所について

仙台微生物研究所は、生物製剤を利用した難病(特にがん)に対する免疫療法の研究開発・技術開発をしてきました。なかでも、がんの免疫細胞療法のひとつである「BAK療法」は、当研究所の中心的な存在でもありました。当初、BAK療法を受けられるのは仙台微生物研究所・免疫療法センターだけでしたが、現在では多くの医療機関で治療を受けられるようになっています。

石田 名香雄博士により設立

創設者である石田 名香雄博士は、1953年に「センダイウイルス」を発見し、大変有用なウイルスであることが多くの研究者により証明されました。センダイウイルスの発見は、ウイルス学はもちろんのこと、細胞遺伝子学やそのほかの分野の研究発展にも大きく貢献しています。さらに、1965年には制がん抗生物質「ネオカルチノスタチン」を発見、その特許をもとに同年(1965年)仙台微生物研究所が設立されました。

海老名 卓三郎博士の代表理事就任

1989年、「財団法人 仙台微生物研究所」への移行と同時に海老名 卓三郎博士が副理事長に就任し、石田博士とともに研究所の運営に尽力されました。その後、2014年には公益法人 仙台微生物研究所 代表理事に就任しています。

海老名博士は、「キラー活性を増強したリンパ球の発明(2000年)」「新免疫細胞BAK療法の開発(2005年)」「活性化されたキラー細胞を含むリンパ球の製造方法の発明(2021年)」など、長年にわたる研究活動で数多くの実績を残してきました。なかでも、海老名博士の開発したBAK療法は、仙台微生物研究所における研究の中心でもあり、第4のがん治療法として期待が高まっています。

仙台微生物研究所の功績

仙台微生物研究所のもっとも大きな功績は、「がんと共生して長生きすること」を目的としたBAK療法の研究開発・技術開発を一貫しておこなうことで、臨床現場へのBAK療法普及に貢献してきたことです。従来の標準治療は重い副作用をともなうことも多く、患者さんのQOL(生活の質)が低下することを避けるのは困難です。しかし、BAK療法は副作用も極めて少なく、患者さんの苦痛をできるかぎり取り除いた治療法であるため、新たながん治療法として注目を集めています。

また、2009年12月に石田博士が逝去されたことをきっかけに、微生物学・免疫学・腫瘍学・公衆衛生学の分野において、卓越した業績を挙げた東北の若手研究者を顕彰する「北斗医学賞」を創設しました。この賞を通じて若手研究者の活動を支援してきたことは、東北地方の疾病対策の推進と公衆衛生の向上にも大きく寄与したといえるでしょう。なお、仙台微生物研究所は解散いたしましたが、石田博士・海老名博士の遺志は共生医学研究所へと受け継がれています。

BAK療法について

BAK療法について

免疫細胞療法のひとつであるBAK療法は、自己免疫を強化することにより、正常な細胞を攻撃せずにがん細胞だけを駆除する治療法です。BAK療法では、自分の血液から自然免疫を担当する細胞を採取し、人工的に1000倍の量まで増やしてから体内に戻します。1cmの大きさのがん組織には、約10億個の細胞が存在していますが、BAK療法により、免疫細胞をがん細胞の10倍量の100億個まで増やすことを目指します。

治療で使用する免疫細胞は、おもにNK細胞とγδ(ガンマデルタ)T細胞の2つです。

NK(ナチュラルキラー)細胞

血液中のリンパ球に10%〜30%存在している細胞です。常に体中をパトロールしており、細菌やウイルスに感染した細胞やがん細胞などの異常な細胞を発見すると、すぐに攻撃するという働きがあります

γδ(ガンマデルタ)T細胞

リンパ球に分類されるT細胞のうちのひとつで、異物を認識するアンテナ(T細胞受容体)に、γ鎖とδ鎖を持っている細胞です。γδT細胞が存在する割合はとても少なく、T細胞のなかでも数%以下といわれています。ほかの細胞からの指令がなくても、病原体の侵入やがん化によって細胞が受けたストレスを感知でき、異常な細胞をすばやく攻撃する働きがあります。

NK細胞とγδT細胞の特徴

NK細胞とγδT細胞はCD56陽性細胞に分類されます。CD56陽性細胞には、「がんを直接攻撃する」「βエンドルフィンを産生する」「神経を保護する働きがある」という特徴があり、なかでもβエンドルフィンは鎮静・鎮痛作用をもつため、痛みが和らぎ気分が安定するという効果も期待できます。

BAK療法のメリット

第4のがん治療法と呼ばれるBAK療法には、以下のようなメリットがあります。

  • がん細胞を殺す能力が高い
  • 副作用がほとんどない
  • 延命効果が高い
  • 治療が難しい肺がんにも効く
  • 治療が楽で負担が少なく、外来で治療できる
  • 患者さんのQOL(生活の質)が高い

副作用として一過性の発熱がみられることはありますが、それ以外の副作用はほとんどないため、QOLを低下させることなく治療を続けることが可能です。以上のメリットからも、BAK療法は「がんと共生して長生きすること」の実現に大きく寄与しているといえるでしょう。また、BAK療法は自己免疫を向上させるため、がんの予防にも効果的です。

BAK療法が目指すがん治療

海老名博士は、その著書でたびたび「キュアからケアへ」について述べられています。また、厚生労働省は「保健医療2035」のなかで、2035年までに実現するべき保健医療のパラダイムシフトのひとつとして、以下のように「キュア中心からケア中心へ」を掲げています。

『疾病の治癒と生命維持を主目的とする「キュア中心」の時代から、慢性疾患や一定の支障を抱えても生活の質を維持・向上させ、身体的のみならず精神的・社会的な意味を含めた健康を保つことを目指す「ケア中心」の時代への転換』
出典:厚生労働省 保健医療2035

BAK療法が標準治療(外科的手術・抗がん剤治療・放射線治療)と大きく異なるのは、標準治療ががんを治癒することを目的とするキュアであるのに対し、BAK療法は「がんと共生して長生きする」ためのケアを目的としているということです。

標準治療による治癒が期待できず「がん難民」となった患者さんや、何らかの理由で標準治療を受けたくないと思われている患者さんであっても、治療を受けることで生活の質を落とすことなく生きていくことができるというのがBAK療法の目指すがん治療だといえます。

まとめ

仙台微生物研究所のこれまでの功績やBAK療法を紹介

今回は、佐藤俊彦医師が仙台微生物研究所の代表理事を退任したことにともない、仙台微生物研究所のこれまでの功績や、研究の中心であったBAK療法についてご紹介してきました。

BAK療法では、自己免疫を強化することにより、正常な細胞を傷つけることなくがん細胞だけを駆除します。がんの転移や再発を予防することにつながる治療法でもあり、放射線治療やそのほかの治療法との併用による相乗効果も見込めます。また、副作用が極めて少なく外来で治療ができることから、新たながん治療の選択肢として期待が高まっています。

仙台微生物研究所とBAK療法については、動画も公開されています。BAK療法を受けた患者さんの症例についてもご紹介していますので、これからBAK療法を受ける方やご興味のある方はぜひ一度ご視聴ください。

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