がん標準治療とは?メリット・デメリットについて解説
近年、がんの新しい治療法が増えていくと共に、標準治療の効果と比較されることが多くなりました。そのため「標準治療よりも最先端治療のほうが優れている」というイメージを持っている人もいるのではないでしょうか。
また、医師から標準治療を勧められたものの、それが正しい選択なのか迷っているという人もいるでしょう。がんの標準治療は、果たして信頼できる方法なのでしょうか。この記事では、標準治療とは何か、どのような特徴があるかをメリットデメリットに分類し具体的に解説します。
目次
がんの標準治療について
がんの代表的な治療方法である標準治療は、手術療法・薬物療法・放射線療法の3本柱で構成されています。これらの治療方法はご存知の方も多いと思いますが、医師は治療方針を決定するにあたり、何を考慮し確定に至っているのでしょうか。この項目では。治療方針を確定するまでの経緯の実際や、治療法ごとの目的について詳しくご紹介します。
標準治療とは
標準治療とは、科学的根拠に基づき、現時点で最良とされる治療法のことです。大規模な臨床試験や多くの研究データ、長年に渡る治療実績によって、科学的に効果が証明され、安全性が保障されている方法なのです。そのため保険診療として治療を受けられます。
標準治療の種類
標準治療には3種類の方法がありますが、それぞれ目的が異なります。その理由は、がん疾患は治癒を目指すだけでなく、状況によっては緩和か寛解かといったように、目指すべきゴールが人によって異なるからです。ここでは、標準治療の種類と目的を解説します。
手術療法
手術療法は、主に以下の目的で実施されます。
- 根治手術:がん組織を全て摘出し治癒を目指す目的。
- 減量手術:体内のがん組織の量を減らし、放射線療法や薬物療法の効果を高める目的。
- 緩和手術(姑息手術):がんによる症状の改善や、生活の質の向上を目指す目的。
放射線療法
放射線療法は早期から進行期の全ての段階で実施が可能な治療法です。
がんの進行度や種類によっても異なりますが、主に3つの目的で実施されます。
- 根治照射:転移がなく限局したがんのうち、放射線が効きやすいがんの治癒を目指す目的。
- 予防照射:転移や再発予防の目的。
- 緩和照射:進行性のがんで治癒が目指せない状態の時、がんによる様々な症状の緩和を目指す目的。
薬物療法
薬物療法は、根治を目指す場合と延命・症状緩和を目指す場合で実施されます。
- 薬物療法単独:薬物療法が効きやすい一部のがんに対して単独で投与し根治を目指す目的。
- 術後補助薬物療法:術後の転移、再発を予防する目的。根治の可能性を高める。
- 術前補助薬物療法:術前に投与しがんの縮小を目指す。それに伴い、根治立の上昇と転移や再発を予防する。
- 延命・症状緩和
がん病巣の増殖や縮小を抑制し、生存期間の延長や症状の改善、生活の質の向上を目指す目的。
治療方針の決定と標準治療を開始するまでの流れ
がんの標準治療を始めるとき、医師は各検査データや病態、治療の目的などを総合的に判断して方針を決定しています。主な流れとしては、がんが発覚した場合、まずは様々な検査をして全身状態を評価します。
主に画像検査(CTやMRI)で、がんがどれくらい広がっているか、どこに発生しているか、転移はないかをチェックし、がんの状態を総合的に評価します。また、採血や心電図などの生理的検査を実施し、体そのものの状態を評価します。
これらのデータや状態評価を基に、手術療法・放射療法・薬物療法のうち、どれがが有効で最も適しているのかを評価していきます。例えば手術を検討する場合は、転移がないか、手術で取り除くことが可能であるか、手術に耐えられる身体状態であるかという要素のほか、術後の状況も想定したうえで判断します。
手術が難しいと判断された場合、放射線療法を検討します。全身に広がりのあるがんの場合は、全身作用効果のある薬物療法で進行を遅らせながら、状況に応じて治療方法を随時検討していきます。また、複数の治療法を組み合わせることもあります。
がんの標準治療におけるメリット・デメリット
標準治療の概要については理解したものの、実際に治療を受けるには、まだまだ不安がある方も多いのではないでしょうか。この項目では、標準治療のメリットとデメリットを解説します。
標準治療のメリット・デメリット
1.手術療法
<メリット>
- 根治を目指せる
転移がない場合、がん病巣を手術によって取り除くことで完治の可能性を高めることができます。 - 副作用が少ない
手術による身体的負担は大きいですが、症状も限局しています。手術に伴う痛みなどはあるものの、他の治療法と比べて付随する影響がないため、副作用が非常に少ない治療法といえます。
<デメリット>
- 術後の合併症のリスク
手術でがん細胞を切除するにあたり、体にメスを入れるため傷口ができることになります。術後は傷口の感染リスクや出血などが起こる可能性があります。 - 適応対象が限られる
手術では、麻酔を使ったりメスを入れたりするため、体に大きな負担がかかります。そのため対象患者が手術に耐えられる状態である必要があります。
高齢者や長期の治療によって体力が低下している人などは、適応外となることがあります。
また、微小がんや深部のがんは手術で摘出できない場合があります。がん細胞の部位や状態によっても適応が限られます。
2.放射線療法
<メリット>
- 生活の質(QOL)を維持できる
放射線療法は、がんの病巣に放射線を照射して治療するため他の場所への影響が少ない治療法です。
副作用による身体機能の低下の心配もなく、体力を温存できるので、治療を受けても治療前と変わらない生活を目指すことができます。
また、他の治療と併用せず放射線療法を単独で受ける場合、入院をせずに外来で実施が可能であるため、通院で治療を続けることが可能です。仕事や家庭への影響も少なく、スケジュールが組みやすい治療法でもあります。 - 手術が困難な部位の病巣にアプローチできる
放射線療法は、手術で切除することのできない微小ながん細胞や、深部にあるがん細胞にも治療効果を発揮します。
<デメリット>
- 全身治療が困難である
放射線療法は、特定の部位に発生したがん細胞に放射線を照射する治療法であるため、全身へ照射することはできません。がんの病巣が1つではなく、すでに転移がある場合は適応外となることがあります。 - 副作用のリスク
放射線療法はがん病巣に焦点を当てて照射しますが、方法によっては周辺臓器の正常細胞も一緒に照射されてしまうため、副作用が起こることがあります。
症状の程度は軽度なことが多いですが、主に皮膚のかゆみや頭痛、脱毛、吐き気や倦怠感などが出現する可能性があります。
3.薬物療法
<メリット>
- 全身への効果が期待できる
薬物療法の最大の特徴は、局所的ではなく全身的に治療効果を得ることができる点です。そのため、すでに転移してがん病巣が2つ以上ある場合でも治療を受けることが可能です。
また、がんの再発や転移の予防にも有効です。
<デメリット>
- 副作用が強く出ることがある
薬物療法は全身に作用することから、他の正常な細胞にも影響を及ぼしやすくなっています。それに伴い、副作用が出現しやすい治療法でもあります。 - 入院が必要な場合がある
薬剤投与による副作用の影響や、体力が低下していて状態変化に注意が必要な場合などは、入院して治療を受けなければなりません。最近では通院での加療も積極的に実施されていますが、その時の状態によって加療場所は異なります。
標準治療に対する社会的な認識について
近年、がん治療に関する研究や論文発表には目覚しいものがあり、数々の治療方法が発表されています。標準治療以外にも、先進医療や先端治療といった言葉を多く耳にするようになりました。それに伴い、標準治療に対する社会的な認識というものにも変化が出てきています。
この項目では標準治療に対する世間的なイメージと治療の実際についてご紹介すると共に標準治療は先進治療に比べて本当に劣っている治療法であるのか?という視点から標準治療の重要性について解説します。
標準治療に対する誤認識の増加
「標準治療」とは科学的な根拠に基づいた治療法であり、現時点で利用できる最良の治療のことをいいます。長年の治療実績と多くの症例や研究データが反映されているものですが、世間的な認識の実情はどうでしょうか。
ある調査では、一般の人2,400人を対象に標準治療の意味について調査したところ、「意味を知っている」もしくは「何となく知っている」と回答した人が22.5%、つまり4人に1人という結果でした。そして、意味を知っていると回答した人のうち実際の正答率は45.7%であり、残りの約半数は標準治療に対して誤解していたという現状が報告されています。誤答した内訳は、標準治療を「普通や並、一般的」と回答した人が3割近く、「基本的な治療で長い間変わらない治療」と回答した人が2割近くとなっています。
これらの結果から、「標準」という言葉の先行するイメージにより、多くの人が標準治療に関して正しく理解できていないということが明らかになりました。誤った解釈は、治療を選択するうえで大きな損失を生むことになりかねません。いかに正しく認識し理解するかが何よりも重要であるといえます。
標準治療を受けないという選択
標準治療を医師から勧められたが、治療を受けずに先進治療を受ける、または希望する人が増えているというのも実情です。先進治療は、基本的には標準治療を実施して効果が期待できなくなった場合や、今後の方向性について悩んだときに次のステップとして選択することが多く、治療開始の第一選択としての位置付けではありません。
しかし、体にメスを入れたくない、できるだけ痛みや副作用を伴わない治療を受けたい、最新の治療に期待したいといった思いから、標準治療を受けないという選択をされる方が増えています。一例ですが、アメリカ国立がん研究所の調査によると、1995年から2008年までにがんと診断された92万5,127人の患者を対象に手術を拒否した人の生存期間を比較調査した結果、がんによる死亡リスクが2.8倍高まっていたという結果が出ています。
つまり、医師から現段階での最善策は手術であると勧められたものの、手術ではなく他の方法を選択することにより「生存率」という点においては差が出ていたのです。この結果から、まずは推奨された標準治療を受けることも悪い選択ではないといえるでしょう。
最善の治療を選択するためには
それでは、一体何を重視することが最善の治療を選択することに繋がるのでしょうか。今後を左右する大切な選択だからこそ。誰もが迷い不安になります。この項目では、治療選択における大切なポイントについてご紹介します。
情報に左右されない
情報化社会の現代では、病気や治療に関する情報が溢れています。しかし、その情報はあくまでも一例に過ぎません。
有力な情報に思えても、それぞれ病状が異なるため、誰もが記載されているような経過を辿るとは限りません。情報をそのまま受け入れるのではなく、ひとつの知識として理解したうえ、気になる場合は医師の見解も聞いてみましょう。
重視したい点や、最終的な目標を明確にする
がん治療の目標は病状によって異なります。治療を受けるにあたり、何を1番尊重したいか、何を避けたいか、最終的な目標としてどこを目指すのかを明確にすることが、治療法を選択するときの重要な指針となります。
セカンドオピニオンを活用する
セカンドオピニオンとは、病状や治療について主治医とは別の医師に見解を聞くことをいいます。治療に関して迷いが生じたときや、現在の方針に不安を抱えたときに、誰もが活用できる方法です。別の医師の見解を聞くことで、不安の解消や納得、新たな選択肢を見つけることができる場合があります。
まとめ
標準治療は、多くのエビデンスを基に構築された治療方法です。以前までは標準治療の枠組みの中で治療法を選択することが一般的でしたが、医療の革新と共に先進治療の種類が豊富になることで、がん治療の選択肢が多くなりました。
この変革は希望をもたらす一方で、標準治療のあり方についても問われることが増え、社会的な標準治療への認識も、変化を遂げている現状があります。医療に関する知識は重要な判断材料のひとつとなりますが、誤った認識が自身にとって不利益を生じることがあります。まずは正しい知識を身につけるために、情報を見極める力を身につけましょう。
気になる治療法を見つけ、迷いが生じたときはまずは主治医に随時相談することが大切です。第三者の公平な意見を聞きたい場合や、標準治療で思ったような効果が得られない場合は、セカンドオピニオンを活用するのも良いでしょう。ご自身やご家族が納得したうえで治療方法を選択できるよう、今回の内容を参考にしていただければ幸いです。