甲状腺がんの原因とは?症状や生存率について解説
甲状腺は、ホルモンを分泌する重要な臓器です。甲状腺に発生するがんは「甲状腺がん」と呼ばれ、女性に多く発生します。その原因は現在のところはっきりとは判明していません。しかし、関連する因子がいくつか明らかになっています。
この記事では、甲状腺がんの原因や症状、生存率について解説しています。ぜひ最後まで読んでみてください。
目次
甲状腺がんとは
甲状腺がんは、のどの下あたりに位置するホルモンを分泌する臓器である、甲状腺に生まれるがんです。まずは、甲状腺のはたらき・甲状腺がんの特徴について解説します。
甲状腺のはたらき
甲状腺は、喉仏のすぐ下に位置する羽を広げた蝶のような形をした小さな臓器です。次の3つの部分で構成されています。
- 峡部(きょうぶ):中央部分
- 右葉(うよう):左の羽の部分
- 左葉(さよう):右の羽の部分
甲状腺の主な働きは、ホルモンを作り出し、血液中に分泌することです。分泌されたホルモンは「甲状腺ホルモン」と呼ばれ、脂質や糖の代謝などを促進したり、脳や骨を成長させたりと、体にとってなくてはならない重要な働きを担います。
甲状腺がんの特徴
甲状腺がんの特徴について見ていきましょう。
甲状腺がんと診断される方は、年間約18,800人(2019年)です。人口10万人あたりの男女別罹患率は男性が8.0 例、女性が21.5 例であり、男女比べると女性の罹患率が高くなっています。また、人口あたりの死亡率は1.5人(人口10万対)であり、死亡率は他のがんと比べて低いことから、比較的予後がよいがんといえるでしょう。
甲状腺がんの種類
がん細胞の形や増殖の特徴によるがんの分類は「組織型」と呼ばれます。甲状腺がんの主な組織型は次のとおりです。
- 乳頭がん
- 濾胞がん
- 低分化がん
- 髄様がん
- 未分化がん
- 悪性リンパ腫 など
これらの組織型には特徴があり、それぞれ治療方法・予後も変わってきます。ここからは甲状腺がんの種類別の特徴を解説します。
乳頭がん
乳頭がんは甲状腺がんのなかで一番多く、全体の約90%を占めます。非常にゆっくりと進行し、適切に治療をすれば生命に関わることは少ないでしょう。ただし、乳頭がんはリンパ節に転移しやすいことが特徴です。
なかには再発を繰り返すケースや、別の種類のがんに変化することもあるため定期的な経過観察が必要です。女性に多く、10代から80代まで、幅広い年代の女性に発症することも特徴のひとつです。
濾胞がん
濾胞(ろほう)がんは甲状腺がんの約5%を占めています。乳頭がんと比較するとリンパ節転移は起こりにくいですが、がん細胞が血流に乗り、肺や骨など離れた部位に転移しやすい特徴があります。遠隔転移が起こらなければ、治療後の予後はおおむね良好です。
低分化がん
低分化がんは、分化がん(乳頭がん・濾胞がん)と比較すると進行しやすく、転移が起こりやすいがんです。乳頭癌や濾胞癌から変化することもあります。甲状腺がんのなかでは全体の1%未満と、珍しい組織型です。
髄様がん
髄様(ずいよう)がんは、甲状腺の細胞のひとつである「傍濾胞(ぼうろほう)細胞」から発生します。1~2%程度と比較的少ない組織型です。乳頭癌や濾胞癌と比べて進行しやすく、リンパ節や肺、肝臓など他の部位に転移するケースもあります。髄様がんのうち、約40%は遺伝により発症することが判明しています。
未分化がん
未分化がんは進行が速く、甲状腺がんのなかで悪性度が最も高いがんです。甲状腺の周りにある気管や食道に広がりやすく、全身に転移を起こしやすい予後の厳しい組織型です。
甲状腺がん全体の1〜2%を占めており、60歳以上の方の発症が多くなっています。未分化がんは男女比ほぼ1対1の割合で発生します。
悪性リンパ腫
悪性リンパ腫は、甲状腺内のリンパ球に関連する血液のがんです。甲状腺がんの1~5%を占めており、橋本病と関連することがわかっています。進行すると声がれや呼吸困難が起こることもあります。進行は早いですが、化学療法や放射線療法による治療をおこなうと、比較的効果が出やすいことが知られています。
甲状腺がんの原因
甲状腺がんの原因の大部分は、はっきりとは判明していません。しかし、次のように一部の組織型の発がんと関連のある事項が明らかになっています。
- 乳頭がん:小児期の放射線被曝により発生率が上がる
- 髄様がん:40%が遺伝的要因により発生
- 悪性リンパ腫:橋本病から発生
小児期に放射線被曝を受けると、5〜30年後に乳頭がんの発生率が上がると考えられています。また、髄様がんはその40%程度が遺伝的要因、残りの60%は遺伝と関係なく発生します。
橋本病とは、細菌やウイルスから体を守るための免疫が、自分の甲状腺を攻撃する自己免疫疾患です。甲状腺に慢性的に炎症が生じるため、「慢性甲状腺炎」とも呼ばれます。橋本病では、リンパ球が腫瘍化し、悪性リンパ腫を発症することがあります。
甲状腺がんの症状
未分化がんを除き、甲状腺がんの進行は緩やかであることが多く、初期には無症状の場合が一般的です。そのため、自覚症状のない段階で、健康診断や他の病気の検査などの機会に発見されるケースが増えています。がんが進行してくると、次のような症状が見られる場合があります。
- 首にできるしこり
- 声のかすれ
- 血痰
- 首の痛み
- 飲み込みにくさ
- 呼吸困難
初期に認められる症状として、首の喉仏の下あたりにできるしこりが挙げられます。とくに乳頭がんはゆっくりと大きくなるため、しこりの程度が何年も変わらず、大きくなっている自覚がないこともあるかもしれません。大きさが変わっていないとしてもがんではないと言い切れないため、早めに検査を受けることが大切です。
甲状腺がんのステージ分類
甲状腺に限らず、がんの進行の程度は、ステージ分類により判断されます。がんの大きさや浸潤の程度に応じてステージⅠ〜Ⅳ期に分類され、がんの進行度が大きくなるにつれ、数字も大きくなります。
甲状腺がんは、がんの組織型により進行の度合いや悪性度が大きく異なるがんです。分化がん・髄様がん・未分化がんのそれぞれに異なるステージ分類の基準があります。ここでは、組織型ごとのステージ分類について紹介します。
乳頭がん・濾胞がん・低分化がんのステージ分類
乳頭がん・濾胞がん・低分化がんは、一般的に年齢が若いほど予後がよいとされています。そのため、55歳を境にステージの分類方法が変わります。55歳以下の場合、他の臓器に転移していなければステージⅠ、転移があればステージⅡです。
55歳以上の場合の分類は、次のようになります。
- ステージI:がんが甲状腺の中にとどまり、大きさが4cm以下、リンパ節に転移がない
- ステージII:ステージIにリンパ節転移がある状態、または大きさが4cm以上、または前頸筋群にのみ浸潤
- ステージIII:がんが甲状腺の皮膜を超え、皮下軟部組織・喉頭・気管・食道・反回神経のいずれかに浸潤
- ステージIV:がんが甲状腺の外部に広がる、または頸動脈の全体を取り囲んでいる
髄様がんのステージ分類
髄様がんのステージは、年齢にかかわらず、がんの大きさや広がり、別の部位への転移の有無により分類されます。
- ステージI:がんが甲状腺の中にとどまり、大きさが2cm以下、リンパ節に転移がない
- ステージII:がんが甲状腺の中にとどまり、大きさが2cm以上、または前頸筋群にのみ浸潤
- ステージIII:がんが甲状腺周囲のリンパ節に転移している
- ステージIV:がんが甲状腺周囲以外のリンパ節に転移、または甲状腺の皮膜を超え外部組織に浸潤している
未分化がんのステージ分類
悪性度の高い未分化がんでは年齢にかかわらず、すべてステージⅣです。がんの浸潤の程度により、ⅣA、ⅣB、ⅣC期に分類されます。
- ⅣA期:がんが甲状腺ないにとどまっており、リンパ節転移がない
- ⅣB期:がんが領域リンパ節、近くの組織に浸潤している
- ⅣC期:がんが遠くの臓器に転移している
甲状腺がんの5年生存率
5年生存率とは、診断されてから5年経過したときに生存している患者の比率です。甲状腺がん全体の5年生存率は80%を超え、他のがんと比較しても予後が良好ながんであるといえます。
なかでも乳頭がん・濾胞がんなど「分化がん」と呼ばれるものは進行が遅く、場合によっては積極的に治療せず、経過観察のみを続けることもあるでしょう。ところが未分化がんの場合には進行が早く、5年生存率は6%前後とされており、予後は厳しい状況です。
甲状腺がんの検査方法
甲状腺がんの検査方法について紹介します。甲状腺がんに疑いがある場合、診察時には症状やこれまでにかかった病気、過去に放射線の被ばく経験があるどうかなどについての問診や、視診・触診が実施されます。また必要に応じて次の検査がおこなわれるでしょう。
超音波検査
超音波検査(エコー検査)は、超音波を体の表面に当て、体内から返ってくる反射により体の中の様子を観察する検査です。首に超音波のプローブを当て、甲状腺のサイズやしこりの性質、リンパ節の腫脹などを観察します。放射線の被曝や痛みがないため、最初に実施されることの多い検査です。
穿刺吸引細胞診
触診でしこりが認められ、超音波検査にて甲状腺がんの疑いがあると判断された場合には、穿刺吸引細胞診が実施されます。超音波で甲状腺の位置を確認しつつ、しこり部分に細い針を刺し、細胞を直接採取します。採取された細胞は顕微鏡で観察し、病理学的に判定をします。
血液検査
血液検査は、がんの診断や病気の進行度合いの確認、治療後の経過を見るために実施されます。ただし、血液検査の値のみではがんがあるかどうかや進行の程度は確定しません。他の検査と組み合わせることにより、総合的に判断されます。
甲状腺がんの検査に用いられる項目は、次のとおりです。
- 甲状腺ホルモン(Free T3、Free T4)
- 甲状腺刺激ホルモン(TSH)
- サイログロブリン
- カルシトニン
- CEA など
CT・PET-CT
CTは、X線を利用して体の内部を輪切りのような画像として表し、がんの広がりや転移があるかどうかを観察する検査です。頸部のCT検査では、腫瘍の位置や大きさ、甲状腺周囲のリンパ節の腫脹の様子を観察します。胸部のCT検査で肺への転移を確認する場合もあります。
また、「PET」は細胞の代謝の様子を画像で観察することができる検査です。CTとPETを組み合わせた「PET-CT」では、がん細胞の成長・増殖や転移などを効率的に把握可能です。
MRI
MRIは、強力な磁石と電波を使用して体の断面を撮影できる検査です。CT検査と異なる情報が得られるため、それぞれの検査を組み合わせることで総合的にがんを観察することが可能となります。
シンチグラフィ
シンチグラフィは、放射性物質を内服または注射し、体内から放出される微量の放射線を検出して体の様子を知るための検査です。甲状腺の機能の確認や、離れた臓器への転移の確認、再発のチェックに使用される場合があります。
甲状腺がんの治療方法
甲状腺がんの治療方法は、がんの種類やステージ分類、患者の状態などを考慮しつつ決定します。がん自体が小さくリスクが低いと考えられる場合には治療をせず、定期的な経過観察を続けるケースもあります。
治療には手術、放射線治療、薬物療法などが選択されます。また、診断された時点より、がんに伴う心身の苦痛を和らげるための緩和療法を開始します。
具体的な治療方法について紹介します。
手術
甲状腺がんの治療は、手術によりがんを除去する方法が一般的です。がんや体の状態により術式は異なります。
- 甲状腺全摘術
- 甲状腺片葉切除術 など
甲状腺全摘術は、甲状腺を全て摘出する手術です。甲状にあるがん細胞を全部取り除けることや、再発の発見がしやすいというメリットがあります。ただし、甲状腺をすべて取れば甲状腺ホルモンが分泌されなくなるため、術後はずっとホルモンの薬を内服しなければならないというデメリットもあります。
甲状腺片葉切除術は、がんのある側のみ甲状腺を取り除く術式です。術後にホルモン薬の内服が必要ない場合が多いことはメリットですが、残存した甲状腺にがん細胞があった場合、再発のリスクが高まります。
放射線治療
甲状腺がんに対する放射線治療は、体の中から放射線を照射する「放射性ヨウ素内用療法」と、体の外から照射する「外照射」とがあります。それぞれ解説します。
放射性ヨウ素内用療法
放射性ヨウ素内用療法は、「Ⅰ-131」という放射性ヨウ素のカプセルを服用し、放出される放射線によりがん細胞を内側から破壊します。アイソトープ治療とも呼ばれています。
- アブレーション:術後に残ったと思われる組織を取り除く
- 補助療法:全摘後に残存したがん組織を取り除く
- 治療:手術ができないケースに施行される
上記のように、さまざまな目的で利用されています。
Ⅰ-131を服用すると、排泄物や体液に放射性ヨードが排出されます。専用の部屋がある施設で治療を受けなければならなかったり、治療後も周囲の人への被ばくを防ぐための配慮が必要であったりと条件があるため、医師と相談しながら進めていくことが重要です。
外照射による治療
外照射では、放射線を体の外から照射します。術後に補助療法としておこなったり、骨への転移による痛みを緩和する目的でおこなったりすることがあります。
薬物療法
甲状腺がん治療で用いられる薬物療法は、次の3つです。
- 分子標的薬
- TSH抑制療法
- 化学療法
それぞれ解説します。
分子標的薬
分子標的薬は、がん細胞に栄養が供給させることを阻害することにより、腫瘍を小さくする作用のある薬です。手術・放射性ヨウ素内用療法の効果が乏しいときや、それらの治療が選択できない場合に利用されます。がんの組織型により、使用される薬の種類は異なります。
TSH抑制療法
TSH抑制療法は、TSH(甲状腺刺激ホルモン)を抑える治療方法です。「TSH」は、甲状腺を刺激することにより、甲状腺ホルモンを分泌させるホルモンです。がんがあると、甲状腺がんの細胞も刺激するため、結果的にがん細胞を増やしてしまいます。
とくに術後は甲状腺ホルモンが減少し、TSHが増えやすい状態となります。そのようなケースには甲状腺ホルモンを内服薬で補い、TSHの分泌を抑えます。
化学療法
化学療法は、抗がん剤によりがん細胞を死滅させる治療方法です。抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常な細胞も攻撃するため、副作用が出やすいことが特徴です。
まとめ
この記事では、甲状腺がんの特徴や原因、症状、治療法などについて紹介しました。甲状腺がんは、その大部分が乳頭がん・濾胞がんであり、比較的予後がよく、進行も緩やかです。
しかし、確率は少ないですが悪性度の高いがんに変化したり、他の臓器に転移が起こったりする場合もあるため、気になる症状は担当医に相談し、納得のいく検査や治療を受けましょう。診断や治療に疑問があったり、決断を悩んだりする場合には、別の病院の医師から意見が聞けるセカンドオピニオン制度の利用もおすすめです。