オプジーボとは? ノーベル医学生理学賞の受賞と免疫細胞療法
2018年10月、京大特別教授・本庶佑(ほんじょ・たすく)氏は、がんの免疫細胞療法の研究でノーベル医学生理学賞を受賞しました。
本庶佑氏は、PD-1を発見、オプジーボ開発に寄与しており、ノーベル賞受賞で今後のがん治療は大きく変わっていく可能性があります。
がんと免疫の関係
私たちの体にはもともと免疫が備わっており、外部から侵入してくる細菌やウイルス、異物と戦ってくれています。
私たちの体には37兆億個もの細胞があり、毎日3,000~5,000個ものがん細胞が生まれています。
しかし体の免疫ががん細胞と戦ってくれているので、全員ががんにかかるわけではないのです。
しかし、免疫が戦ってくれていてもがんにかかる人がいるのはなぜでしょうか?
免疫チェックポイントとは
私たちの体にある免疫は、ときどき健康な細胞までも攻撃してしまうことがあるのです。
この状態は自己免疫疾患という状態で、リウマチや膠原病などは自己免疫疾患によって起こる病気です。
しかし、私たちの体には、自己免疫疾患にストップをかけるための「免疫反応にブレーキをかける仕組み」も備わっており、免疫細胞の代表とも言えるT細胞はこの役目をしています
この仕組みのことを「免疫チェックポイント」と呼んでいます。
T細胞はがん細胞を攻撃してくれるのですが、がん細胞はT細胞の「免疫にブレーキをかける仕組み」を利用して、T細胞ががん細胞を攻撃しないようにブレーキをかけることができるのです。
これにより、がん細胞はT細胞からの攻撃を回避して生き延びてしまいます。
通常、免疫に異物と戦うように指令を出すのは「樹状細胞」です。
樹状細胞はがん細胞を認識すると、攻撃役のT細胞にがんの特徴を伝えて攻撃するように命令します。
しかし、がん細胞がT細胞に攻撃しないようにブレーキをかけてしまうと、免疫としての働きをしなくなるのです。
そこで、がん細胞によるブレーキを解除すると、再び免疫細胞の働きとしてがん細胞を攻撃できるようになります。
この、がん細胞がT細胞にかけたブレーキを解除する薬が「免疫チェックポイント阻害薬」です。
免疫チェックポイント阻害薬の開発経緯
1992年、本庶氏が「PD-1」というタンパク質を発見しました。
本庶氏が進めてきた実験の結果、この「PD-1」は、がん細胞が免疫にブレーキをかけさせないようにする役割を果たすことが分かりました。
そしてこの「PD-1」は免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」の開発に繋がったのです。
日本で承認されている免疫チェックポイント阻害薬
免疫が十分に働くことができるようにするための「免疫チェックポイント阻害薬」は、現在以下の3種類が承認されています。
- 抗PD-1抗体(2種類)
- 抗CTLA-4抗体(1種類)
- 抗PD-L1抗体(1種類)
免疫細胞の表面にあるPD-1は、免疫細胞にがん細胞への攻撃をストップさせるようにブレーキをかける働きを持つ分子です。
がん細胞は免疫細胞からの攻撃を受けると、免疫の働きにブレーキをかけるための分子を出します。この分子が、PD-L1です。
がん細胞が免疫細胞による攻撃を避けながら、どんどん増殖していくことができるのは、免疫細胞にブレーキをかけられるからなのです。
しかし、免疫細胞にブレーキがかからないようにできれば、免疫はがん細胞に対してもっと攻撃ができます。
そこで、がん細胞が免疫にブレーキをかけられないようにブロックするのが、抗PD-1抗体であるオプジーボです。
小野薬品工業から2014年に発売が開始されたオプジーボは、一般名は「ニボルマブ」という名前で、「抗PD-1抗体」という種類の免疫チェックポイント阻害薬です。
がん細胞の出すPD-L1と、抗PD-1抗体(オプジーボ)
がん細胞はPD-L1というタンパク質を発します。
PD-L1が、免疫細胞の表面にあるカギ穴のような場所に入り込むと、免疫細胞の働きはストップがかかってしまい、がん細胞は免疫細胞からの攻撃を避けることができます。
しかし、オプジーボなどの抗PD-1抗体は、がん細胞の出すPD-L1が免疫細胞に入り込む前に、免疫細胞のカギ穴のような場所に入りこむことで、がん細胞が免疫細胞にストップをかけることを阻害します。
オプジーボの現在と今後
オプジーボは現在悪性黒色腫(メラノーマ)、非小細胞肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、頭頸部がん、胃がんで使用が承認されており、悪性黒色腫と悪性胸膜中皮腫の術後補助療法での適応が申請中です。
オプジーボは高価ながん治療薬でしたので、一部からは「夢の薬」とも言われていました。
しかし、「アメリカと比較すると価格が高すぎる」という批判を受けて、日本の厚生労働省は、2017年2月にオプジーボの価格を50%引き下げました。
そしてさらに、2018年11月には現行より40%引き下げとなることが決定しています。
まとめ
現在がん治療の新薬開発で、最も熱い話題が免疫チェックポイント阻害薬ですが、世界中の製薬会社が日々研究を進めている分野です。
京都大学特別教授の本庶佑氏のノーベル医学・生理学賞を受賞のきっかけとなった、がん細胞を攻撃する免疫細胞にブレーキをかけるタンパク質「PD-1」の発見は、がん免疫療法に大きく貢献するものでした。
免疫細胞療法や免疫チェックポイント阻害薬は、どちらも入院を必要としないがんの治療法ですから、患者さんは負担なくがん治療を受けることができます。
がんの三大治療法である「手術療法」「抗がん剤療法」「放射線療法」とはまったくアプローチの異なるがんの治療法である免疫細胞療法や免疫チェックポイント阻害薬は、今後のがん治療において大きな希望の光となっています。