がん放射線治療の基礎知識:シーベルト・グレイ・X線・γ線とは?
がん患者の数は年々増加していますが、がん治療としての放射線治療について誤解している人がとても多く、正しい認識を持っている人が少ないという状況があります。
そこで放射線治療についての基礎知識と、放射線治療と被ばくのことについてなどご紹介します。
目次
放射線治療とは
放射線治療とは、細胞に放射線を照射する治療法です。
放射線ががん細胞へアプローチする際は、直接作用と関節作用があります。
放射線治療の直接作用
細胞に強い放射線を照射すると、正常な細胞、がん細胞にかかわらず、細胞の中にある分子に放射線が当たります。
放射線が当たった分子からは、電子が弾き飛ばされ、この作用を「電離」と言います。
電離が直接DNAに影響すれば、放射線治療の「直接作用」となります。
放射線治療であれば、がん細胞のDNAがダメージを受け、細胞分裂ができない状態になります。
分裂できなくなったがん細胞は、最終的に「アポトーシス」と呼ばれる“自殺状態”になるのです。
放射線治療の活性酸素が間接作用に
放射線治療において、重要な役割をするのが「活性酸素」です。
放射線が細胞内の水分子に当たり電離の作用が起こると、水分子は活性酸素へと変化します。
活性酸素は、放射線治療の間接作用となり、DNAを破壊する効果があるのです。
活性酸素といえば、美容やアンチエイジングの大敵として知られていますが、がんの放射線治療においてはがん細胞を破壊する役割をしてくれるのです。
線量制限とは
放射線はがん細胞を退治するのに役立ちます。
しかし、放射線を正常な細胞に当て続ければ、正常な細胞もダメージを受け破壊されてしまいます。
そのため、放射線の影響を最小限にするために、体の部位ごとに放射線を照射する量の制限が設けられており、これが放射線治療における「線量制限」です。
放射線に関する単位について
シーベルトとは
放射能(放射線を発する能力)を受ける影響量を表す単位で、「実効線量」のこと。
人体への影響を加味して計算するときに使われます。
グレイとは
グレイとは「吸収線量」で、人体が受ける放射線のエネルギーを示す単位で放射線の線量を物理的に測る時に使わる単位です。
がんの治療には50Gy(グレイ)程度の放射線を照射することになります。
例えば、乳がんの再発予防などでしたら、1回あたり2Gyの放射線を25回照射し、合計50Gyという具合になります。
人間は「全身」に4Gyの放射線を浴びると、1カ月以内に50%の確率で死亡すると言われています。
すると「がんの治療で50Gyも使って平気なのか」という疑問が湧きませんか?
放射線治療ではピンポイントでがん細胞だけを狙って放射線を照射するので、死に至ることはないのです。
放射線のX線とγ線とは
放射線のX線やγ線は電磁波の一種です。
電磁波というと、健康に害がある危険なものというイメージがありますが、電磁波にはたくさんの種類があります。
放射線は、α線、β線、X線、γ線の4つに分類され、その中でもα線とβ線は粒子線、X線とγ線は電磁波に区別されます。
X線は、物質を透過する性質があり、医療器具のレントゲンはX線装置です。
レントゲンとはX線の発見者の名前で、X線は別名「レントゲン線」とも呼ばれています。
放射線治療で使われる放射線には、大きく分けて「光子線」と「粒子線」があります。
放射線治療の最前線に立つ放射線治療装置であるサイバーナイフやトモセラピーで使われるものはX線で、ガンマナイフで使われるガンマ線は「光子線」になります。
X線使用のサイバーナイフ
定位放射線治療装置であるサイバーナイフは、搭載されたロボットアームで、あらゆる角度からピンポイントでがん細胞を狙って放射線を照射することができます。
動体追尾システムで、動き続ける臓器への照射も可能です。
X線使用のトモセラピー
トモセラピーはCTと一体になった放射線治療装置で、強度変調放射線治療と画像誘導放射線治療を併せ持っています。
放射線の照射前後にCTを撮影することから、極めて高い精度でがんを狙って放射線を照射することが可能です。
トモセラピーのヘリカル回転照射モードと固定多門照射モードの二種類を使い分けることによって、幅広いがん治療に対応できるようになりました。
ガンマ線使用のガンマナイフ
ガンマナイフは、サイバーナイフの全身である定位放射線治療装置です。
主に脳に使われる装置で、頭部にヘルメット状の器具を固定してビーム状の放射線照射を行う装置です。
放射線治療の被ばくは問題ない?
放射線治療は、ダメージを受けたがん細胞のみ消滅させるために、最適な量の放射線を照射します。
放射線治療を行わずに放っておいた場合、がん細胞が増殖し他のところの細胞も悪くなるリスクもあります。
このリスクを加味して、放射線治療を行ったほうが患者さんにとってメリットである場合は、放射線治療を実施します。
放射線治療における線量制限により、体の部位ごとに放射線を照射する1日あたりの量には基準値があります。
線量制限内であれば、放射線治療による被ばくは問題ありません。
放射線治療は、人体に安全ながん治療法です。
放射線治療や医療機器に対して正確な知識を持つことも、治療を受ける側としては必要ではないでしょうか。