NK療法(細胞免疫療法)とは?効果や費用、治療の流れなどを解説
がんの治療方法にはさまざまな選択肢がありますが、できるだけ副作用や生活への影響が少ない方法を選びたいと考える方も多いのではないでしょうか。
そんな方に知っていただきたいのが、免疫療法の一種である「NK細胞療法」です。
NK細胞療法では、自身の体内にもともと存在するNK細胞を利用して、さまざまな種類のがんに対して攻撃します。
本記事では、NK細胞療法の概要や効果、治療の流れ、注意点などについてお話しします。
治療にかかる費用まで解説していますので、NK細胞療法について知りたい方や、これから治療を検討している方はぜひ最後までご覧ください。
目次
NK細胞療法について
NK細胞療法は攻撃力の高い体内のNK細胞を利用したがん治療で、国内では先進医療として扱われています。
NK細胞の特徴とNK細胞療法の概要について、詳しく解説していきます。
NK細胞とは
NK細胞療法で利用されるNK(ナチュラルキラー)細胞は、体内でがん細胞やウイルスに感染した細胞を攻撃するリンパ球の一種です。
NK細胞の特徴として以下の点が挙げられます。
- 生まれながらにして強い殺傷能力を持っている
- リンパ球全体の約10〜20%を占め、血液や脾臓、扁桃腺、骨髄、リンパ節などに存在する
- T細胞やB細胞と異なり、抗原抗体反応(※)を必要としないため、過去に認識したことのない異常細胞でも攻撃できる
- がん細胞の表面に現れる分子を認識して攻撃する
- グランザイム(細胞死を誘導させる酵素)やパーフォリン(細胞膜に穴を空けるタンパク質)などの物質を分泌して標的細胞を破壊する
- 抗体依存性細胞障害作用(※)を持つため、抗体医薬と併用すると相乗効果が得られる
(※)抗原抗体反応:過去に異常と認識した細胞のみに攻撃をしかけるはたらきのこと
(※)抗体依存性細胞障害作用:抗体に対する薬物に結合してがんに攻撃する作用のこと
他のリンパ球は抗原抗体反応により、認識していない異常細胞に対する攻撃が制限されますが、NK細胞は認識していない異常細胞に対しても直接的な攻撃が可能です。
NK細胞にはさまざまながん細胞に自由に攻撃できる能力があるため、他のリンパ球よりも殺傷能力に優れ、体内の免疫機能をより高める効果があります。
NK細胞療法とは
NK細胞療法とは細胞免疫療法の一種で、自身のNK細胞を利用して身体の免疫機能を高めるがんの治療法です。
採取した血液からNK細胞を取り出して体外で培養・活性化させます。
その後、点滴によって体内に戻すことで免疫力を強化し、がん細胞に対する攻撃力を高めます。
NK細胞療法は保険適用外の先進医療であり、自由診療として提供されているため、費用は高額になりやすいです。
国内ではNK細胞を数百~数千倍に増殖・活性化させる高度活性化NK細胞療法などが取り入れられています。
NK細胞療法の効果
NK細胞療法は、原発がんや転移性のがんを小さくしたり、進行を遅らせたりするだけでなく、がんの転移や再発を防ぐ効果が期待できます。
培養されたNK細胞が全身にいき渡って免疫機能を高めるため、体内に存在するあらゆるがん細胞を攻撃できるのです。
NK細胞療法の特徴
NK細胞療法をおこなうと、他のがん治療よりもがん細胞に対する高い殺傷能力が得られます。
NK細胞療法は他のがん治療と異なり副作用が少なく、生活の質を保ちやすいことも魅力です。
放射線治療や化学療法などと併用すると、より高い効果も得られやすくなります。
殺傷能力の高いNK細胞が培養可能
NK細胞はもともと殺傷能力の高いリンパ球ですが、特殊な培養技術によりさらに攻撃力を高められます。
培養ではIL-2というサイトカイン(免疫細胞から分泌されるタンパク質)を用いて、NK細胞を数百〜数千倍に増やすことが可能です。
培養と同時にNK細胞の活性化もおこなわれるため、がん細胞に対する攻撃力が大幅に向上します。
培養されたNK細胞はさまざまな種類のがん細胞に対して効果的に作用し、認識していない異常細胞にも真っ先に反応できます。
がん細胞に対する攻撃力が上がるため、より短期間で高い効果が期待できるのです。
副作用が少ない
自身の血液から採取したNK細胞を使用するため、アレルギー反応や拒絶反応などの副作用の心配が少なくなるのもNK細胞療法の利点です。
NK細胞療法は抗がん剤治療や放射線治療と比較して、重篤な副作用がほとんど報告されていません。
副作用の発生によりさまざまながん治療を懸念していた方でも、適応できる可能性が高いでしょう。
生活の質(QOL)を維持できる
NK細胞療法は、抗がん剤治療や放射線治療でみられやすい吐き気や脱毛、倦怠感などの副作用がないため、身体的・精神的な負担が少ない治療です。
抗がん剤や放射線治療では副作用により長期間の入院が必要になることがありますが、NK細胞療法では通院で治療できるケースも多いです。
仕事や家事、趣味などの活動も維持しやすくなるため、社会生活への影響を最小限にできるでしょう。
NK細胞療法は免疫機能を高める効果もあるため、全身の健康状態の改善も期待できます。
がんの治療中でも体力や活力を維持しやすくなり、良好な生活の質を実現しやすいでしょう。
他の治療と相乗効果が期待できる
他のがん治療との併用で相乗効果が得られるのもNK細胞療法の特徴の一つです。
NK細胞には抗体依存性細胞障害作用があるため、抗体医薬を用いた分子標的薬治療(※)との相乗効果が期待できます。
樹状細胞ワクチン療法(※)が効かない症例に対しては、NK療法と抗体医薬との併用で更に効果が高まる可能性があるといわれています。
また、NK細胞療法は放射線治療や化学療法とも併用するケースが多いです。
臨床研究では、大腸がんや卵巣がん、肝臓がんなどで化学療法との併用効果が報告されており、今後さらなる研究期待されています。
(※)分子標的薬治療:がん細胞を増殖させるタンパク質や、がんを攻撃する免疫を抑制するタンパク質、がんに栄養を運ぶ血管などを標的にしてがんを攻撃する治療法のこと
(※)樹状細胞ワクチン療法:樹状細胞(体内のあらゆる場所に存在する免疫細胞)のもととなる細胞を取り出し、樹状細胞へ育てた後に標的のがんを認識させ、ワクチンとして体内に戻す治療法のこと
NK細胞療法の治療の流れ
NK細胞療法は、血液の採取とNK細胞の培養、培養・活性化させたNK細胞の投与の順番におこないます。
これらの手順を3〜6回繰り返すのが1クールです。
治療期間の前後に画像診断や腫瘍マーカーの検査などをおこなって、効果が得られているか確認します。
培養されたNK細胞の投与回数は、全身状態や治療効果に応じて調整されます。
NK細胞の採取
NK細胞療法では、はじめに血液を30〜50mlほど採取します。
採血量は一般的な健康診断よりもわずかに多いですが、体への負担を最小限に抑えています。
採取された血液の品質を保つため、採取から培養までの時間を可能な限り短くするのが重要です。
血液は無菌的に処理された後、医療機関から細胞培養施設へ速やかに搬送されます。
NK細胞の培養
採取された血液から、無菌状態に保たれた細胞培養施設でNK細胞を取り出して培養し、サイトカインを用いながら培養と活性を促します。
培養では定期的にNK細胞の状態をチェックし、必要に応じて培養条件を調整しながら、2〜3週間ほどかけて慎重に処理しなければなりません。
治療を受ける方の全身状態やそれまでの放射線治療などによっては、大きな培養の効果が得られない可能性もあります。
NK細胞の投与
培養・活性化されたNKの細胞を医療機関に戻し、静脈からの点滴投与を開始します。
点滴投与は1回30分ほどで、2〜3週間に1回の頻度でおこないます。
医療機関によっては治療を受ける方の都合に合わせて、培養したNK細胞の冷凍保存も可能です。
指定の期間に来院できず治療のタイミングが送れる場合でも、柔軟にスケジュールを調整できます。
NK細胞療法の適応可能ながん
NK細胞療法は多くのがんに対して適応可能です。
主に以下のがんに対して効果が期待されています。
- 消化器系:胃がん、大腸がん、膵臓がん、食道がん、肝臓がん、胆嚢がん
- 呼吸器系:肺がん
- 生殖器系:子宮がん、卵巣がん、前立腺がん
- 泌尿器系:腎臓がん、膀胱がん
- その他:乳がん、口腔がん、咽頭がん、脳腫瘍、メラノーマ
NK細胞はさまざまながん細胞に対して攻撃できるため、幅広いがんの種類に対する効果が期待できます。
しかし、白血病などの血液がんの場合は適応外です。
がんの進行度や患者の全身状態によっては適応できない可能性もあります。
NK細胞療法の注意点
NK細胞療法で注意すべき点は以下の3つです。
- 治療後に発熱や感染症が起こるケースがまれにある
- 治療が適応されない疾患がある
- 治療の開始と終了までに時間がかかる
以下に詳しく解説していきます。
まれに発熱が起こる
NK細胞療法は治療後の副作用が少ないですが、一部の方は発熱することがあります。
この場合、治療後48時間以内に38度ほどの発熱が見られますが、すぐ解熱することがほとんどです。
投与後38.5度以上の発熱が2日以上続くようなら、他の原因も考えられますので、必ず担当医師の診察を受けてください。
また、NK細胞療法ではまれにアルブミン製剤(細胞を安定化させる目的で点滴に添加される成分)による感染症によって血液低下や蕁麻疹などの過敏症が起こる可能性があります。
治療の適応にならない疾患がある
NK細胞療法には治療が受けられない、もしくは慎重な判断が必要な疾患があります。
以下の疾患にかかっている方やリスクがある方は治療の安全性が不明確であったり、病状が悪化したりするおそれがあります。
- T細胞やNK細胞由来の悪性リンパ腫
- B型肝炎・C型肝炎
- 間質性肺炎
- 自己免疫疾患(リウマチや膠原病など)
- 白血病
- HIV感染症
これらの疾患がある場合、NK細胞療法を受ける前に必ず申告し、担当医師と詳細な相談が必要です。
治療を受ける場合は、血液検査や画像診断で身体の状態を定期的に確かめる必要があります。
治療を始めるまでに時間がかかる
NK細胞は初診から治療を始めるまでの時間が他の治療より長いです。
医療機関や培養施設によって異なりますが、血液を培養させる期間が必要となるため、最低でも初診から治療開始に2週間以上は待つ必要があります。
1クールの治療を完了するには3ヶ月以上かかるのが一般的です。
治療開始までの期間が長いため、治療を受ける方の状態によっては他のがん治療を先におこないながらNK細胞の培養を進めることもあります。
治療計画については担当医師と十分に相談することが重要です。
NK細胞療法の費用
1クール(6回の採血・培養・投与)のNK細胞療法にかかる費用の相場は以下のとおりです。
- 初診料(感染症検査費用などを含む):3万〜5万円
- NK細胞治療費:200~300万円
初診料や治療費は医療機関によって異なります。
治療費以外にも定期的な検査費用が必要になったり、放射線治療や化学療法を併用したりする場合は、さらに高額になる可能性が高いです。
患者の状態や治療系計画によっては、1クール以上の治療が必要となる場合もあります。
NK細胞治療では費用面での負担が大きい治療です。
治療を検討するときは担当医師と十分に相談したり、医療ローンなどの支払いを検討したりするのも良いでしょう。
まとめ
本記事ではNK細胞療法について解説しました。
- NK細胞療法はTリンパ球やBリンパ球よりも殺傷能力が強いNK細胞療法を利用した治療法である
- NK細胞は抗原抗体反応を必要としないため、体内にあるさまざまながんに直接的に攻撃できる
- NK細胞療法をおこなうと体内のがんを小さくしたり、進行を遅らせたりする効果が期待できる
- NK細胞療法は他のがん治療よりも副作用が少ないため、日常生活の質を保ちやすい
- 放射線療法や化学療法、分子標的薬治療などとNK細胞療法を併用すると相乗効果が得られやすい
- NK細胞療法は「血液の採取」「NK細胞の培養」「培養したNK細胞の投与」の流れでおこなう。これらを3〜6回繰り返した状態が1クールになる
- NK細胞療法を検討するときは、適応されない疾患があったり、治療の開始や終了までの期間に時間がかかったりする点に注意する
- NK細胞療法の治療費は高額となりやすいため、担当医師との十分な相談や医療ローンの検討をすると良い
NK細胞療法によって、さまざまながん治療で効果がなかった場合でも新たな道が切り開けるかもしれません。
他のがん治療による重い副作用に日々悩んでいる方にも適しているでしょう。