抗体薬物複合体(ADC)とは?「がん細胞を狙って薬を届ける」新しい治療

がん治療のセカンドオピニオンNIDCのサイトメニュー

1

抗体薬物複合体(ADC)とは?「がん細胞を狙って薬を届ける」新しい治療

抗体薬物複合体(ADC)とは?「がん細胞を狙って薬を届ける」新しい治療

がん治療においては、がん細胞を攻撃する一方で、正常な細胞への影響をできるだけ抑えることが重要です。このような課題に対する新たなアプローチとして、近年注目されているのが「抗体薬物複合体(ADC)」です。

ADCは、がん細胞の目印を認識する「抗体」と、がん細胞を攻撃する「薬物」を組み合わせた治療薬です。抗体の働きを利用し、薬物を標的となる細胞へ届けることで抗がん作用を発揮します。

すでに、乳がん・胃がん・肺がんなど、さまざまながんの治療にADCが活用されており、新たな治療の選択肢として大きく期待されています。

本記事では、抗体薬物複合体(ADC)の仕組みや従来の抗がん剤との違い、代表的な薬剤、副作用や注意点、今後の展望などについて詳しく解説していきます。

抗体薬物複合体(ADC)とは

抗体薬物複合体(ADC)とは

抗体薬物複合体の略称である「ADC」は、Antibody-Drug Conjugateの頭文字をとったものです。はじめに、ADCとはどのような治療薬なのか、基本的な仕組みについて解説していきます。

「抗体」と「薬物」を組み合わせた治療薬

抗体は、特定の抗原を認識して結合するタンパク質です。抗原には、がん細胞の表面に多く発現しているタンパク質などがあり、ADCはこれらを目印として利用します。

一方、ADCに結合される薬物には、がん細胞の増殖を抑えたり、細胞を死滅させたりする作用があります。一般に「ペイロード」と呼ばれており、強い細胞攻撃作用を持つ薬物が用いられます。

抗体薬物複合体(ADC)は、抗体ががん細胞の目印を認識し、結合した後に薬物を作用させることを狙った治療薬です。従来の細胞障害性抗がん薬とは異なり、抗体による標的(がん細胞)認識の仕組みを活用している点が特徴です。

ただし、ADCが必ずがん細胞だけに作用するわけではありません。標的となる抗原が正常細胞にも存在する場合は、薬物が標的以外の細胞に影響を及ぼす可能性もあります。

抗体薬物複合体(ADC)を構成する3つの要素

ADCは、おもに「抗体」「リンカー」「薬物(ペイロード)」という3つの要素から構成されています。それぞれが異なる役割を担い、組み合わせによって薬剤の特徴や効果、副作用などが変わってきます。

抗体

抗体は、ADCを標的となる細胞へと導く役割を担います。がん細胞の表面に発現する特定の抗原を認識して結合することにより、薬物を届けるための目印となります。

どの抗原を標的にするかは、ADCの薬剤ごとに異なります。そのため、治療に使用できるがんの種類や患者さんの条件も薬剤によって変わってきます。

リンカー

リンカーは、抗体と薬物をつなぐ部分です。血液中を移動している間は薬物を保持し、標的となる細胞に到達した後に適切なタイミングで薬物を放出できるように設計されています。

リンカーの安定性や薬物を放出する仕組みは、ADCの効果や安全性に関わる重要な要素です。リンカーの設計によって、薬物が体内でどのように放出されるかが決まります。

薬物(ペイロード)

ペイロードは、がん細胞を傷害する作用を持つ薬物です。細胞分裂を妨げたり、DNAに関わる働きを阻害したりするなど、薬剤によって作用機序が異なります。

ADCでは、抗体によって標的となる細胞へ運ばれた後、ペイロードが作用することを狙います。どのような薬物を搭載するかによっても、期待される効果や注意すべき副作用が変わります。

抗体薬物複合体(ADC)はどのようにがん細胞を攻撃するのか

抗体薬物複合体(ADC)はどのようにがん細胞を攻撃するのか

ここからは、抗体薬物複合体(ADC)がどのようにがん細胞を攻撃するのか、基本的な作用の流れを解説していきます。

①抗体ががん細胞の標的に結合する

ADCを投与すると、薬剤は血液中を移動し、抗体部分が標的となる抗原を認識します。抗原はがん細胞の表面に発現するタンパク質などで、ADCはその目印に結合することで標的となる細胞を認識します。

ただし、すべてのがん細胞が同じように抗原を発現しているわけではありません。標的となる抗原の発現状態は、がんの種類やそれぞれの腫瘍によって異なります。

そのため、ADCによる治療では、薬剤が標的とする抗原や、対象となるがんの種類などを踏まえて治療方針が検討されます。

②ADCががん細胞内に取り込まれる

抗体ががん細胞表面の抗原に結合すると、ADCが細胞内に取り込まれます。細胞内では、ADCの構造やリンカーの性質などに応じて抗体やリンカーが分解され、結合していた薬物が放出されます。この過程により、薬物(ペイロード)ががん細胞内で作用できるようになるのです。

なお、抗体薬物複合体(ADC)の種類によって、細胞内への取り込まれ方や薬物が放出される仕組みは異なります。すべてのADCが同じ経路をたどるわけではなく、薬剤の構造や特性によって作用の仕方が変わる点も特徴です。

③薬物ががん細胞を傷害する

がん細胞内で放出された薬物は、それぞれの作用機序に応じて細胞を攻撃します。たとえば、細胞分裂に必要な仕組みを妨げたり、DNAに関わる働きを阻害したりすることでがん細胞の増殖を抑え、細胞死を引き起こします。

一部のADCでは、放出された薬物が周囲の細胞にも作用する「バイスタンダー効果」が認められます。この作用により、標的抗原の発現が比較的少ない周辺のがん細胞にも影響を及ぼす可能性があります。ただし、バイスタンダー効果の有無や程度は、薬剤によって異なります。

抗体薬物複合体(ADC)が注目されている理由

抗体薬物複合体(ADC)が注目されている理由

次に、なぜ抗体薬物複合体(ADC)が注目されているのか、その理由についてみていきます。

がん細胞を標的として強力な薬物を届けられる

抗体によって標的となるがん細胞を認識し、細胞障害作用のある薬物を届けるという作用の仕組みは、ADCのもっとも大きな特徴です。

従来の抗がん剤(細胞障害性抗がん薬)は、がん細胞だけではなく、正常な細胞にも影響を及ぼすことがあります。一方でADCは、がん細胞に発現する特定の抗原を目印として利用することにより、薬物を標的となる細胞に作用させることを狙っています。この仕組みにより、薬物の作用をがん細胞に集中させ、正常組織への影響を抑えることに期待できます。

ただし、ADCでも正常細胞への影響を完全になくせるわけではありません。効果と安全性は薬剤の種類や患者さんの状態によって異なるため、治療のメリットとリスクを考慮する必要があります。

従来の抗がん剤とは異なる作用が期待される

従来の抗がん剤(細胞障害性抗がん薬)による治療は、細胞分裂を妨げることによってがん細胞の増殖を抑えることを目的としています。しかし、分裂の活発な正常細胞にも作用してしまうため、治療によって脱毛や血球減少などの副作用があらわれることがあります。

抗体薬物複合体(ADC)は、このような細胞障害作用のある薬物に、抗体による標的認識の仕組みを組み合わせた治療薬です。抗体が標的となる抗原を認識することで、薬物をがん細胞へ届けることを目指しています。

また、ADCは分子標的薬の一種として位置づけられますが、一般的な抗体医薬とは異なり、抗体そのものの作用だけではなく、結合された薬物による細胞障害作用も利用します。ただし、従来の抗がん剤よりも必ず効果が高い、副作用が少ないというわけではなく、薬剤や病状に応じた評価が求められます。

さまざまながん種への応用が進められている

ADCは、乳がんをはじめとして、胃がん・肺がん・尿路上皮がんなど、さまざまながんの治療に活用されています。がん細胞に発現する抗原を標的とするため、薬剤ごとに対象となるがんの種類や使用条件が異なります。

また、現在使用されている薬剤に加え、新しい標的や薬物を用いたADCの研究開発も進められています。標的となる抗原の発現状態などを調べることにより、これまで治療の選択肢が限られていた患者さんに対しても、新たな治療の可能性が生まれることが期待されています。しかし、ADCはすべてのがんに使用できるわけではなく、薬剤ごとに承認された適応、がんの性質、これまでに受けた治療などを踏まえて検討されます。

抗体薬物複合体(ADC)の種類と代表的な薬剤

抗体薬物複合体(ADC)の種類と代表的な薬剤

抗体薬物複合体(ADC)には複数の種類があり、標的となる抗原や抗体、リンカー、薬物の組み合わせがそれぞれ異なります。ここからは、実際のがん治療で使用されている代表的な薬剤を紹介していきます。

乳がんなどに用いられるADC

乳がんの治療で使用される代表的なADCとして、トラスツズマブ エムタンシン(商品名:カドサイラ)やトラスツズマブ デルクステカン(商品名:エンハーツ)などがあります。

これらは、いずれもHER2というタンパク質を標的とするADCです。HER2は細胞の増殖に関わるタンパク質で、一部の乳がんでは多く発現がみられます。

トラスツズマブ エムタンシンは、抗HER2抗体にエムタンシンという薬物を結合させた薬剤です。一方、トラスツズマブ デルクステカンは、抗HER2抗体にトポイソメラーゼI阻害作用のある薬物を結合させています。

同じHER2を標的とするADCであっても、結合されている薬物や特性は異なります。また、実際に使用できる患者さんや治療のタイミングは、それぞれの薬剤の適応によって変わってきます。

胃がん・肺がんなどに用いられるADC

ADCは、乳がん以外のがんにも使用されています。たとえば、トラスツズマブ デルクステカンは、一定の条件を満たす胃がんや肺がんなどにも使用されています。また、尿路上皮がんなどでは、エンホルツマブ ベドチン(商品名:パドセブ)が用いられています。この薬剤は、Nectin-4というタンパク質を標的として細胞障害作用のある薬物をがん細胞へ届けます。

ADCは標的とする抗原や搭載されている薬物により、対象となるがんの種類や治療上の特徴が異なってきます。また、同じがん種であっても、すべての患者さんに同じADCが使用できるわけではありません。治療を検討する際は、薬剤ごとの適応や患者さんの状態を慎重に確認する必要があります。

ADCは薬剤ごとに標的や特徴が異なる

抗体薬物複合体(ADC)は、共通の仕組みを持つ治療薬の総称ですが、薬剤にはそれぞれ異なる特徴があります。なぜなら、標的となる抗原の種類や発現状態、リンカーの設計、薬物の作用機序などに違いがあるからです。

そのため、ADCによる治療を検討する際には、承認されているがん種であるのか、適応となる症状であるのかをはじめとして、進行度やこれまでの治療歴、全身状態などを踏まえて慎重に判断が下されます。

抗体薬物複合体(ADC)の副作用・注意点

抗体薬物複合体(ADC)の副作用・注意点

ここでは、抗体薬物複合体(ADC)による治療で起こりうる副作用や、注意点について解説していきます。

ADCでも正常な細胞への影響が起こり得る

ADCは、がん細胞を標的として薬物を届けることを目指していますが、正常な細胞への影響を完全に防ぐことはできません。なぜなら、標的となる抗原が正常細胞にも発現している場合があるからです。

また、血液中で薬物が放出されたり、細胞内で放出された薬物が周囲の細胞に作用したりすることもあります。さらに、薬物に強い細胞障害作用があるため、薬剤の特性によっては正常な組織にも影響が及ぶ可能性があります。

副作用は私用する薬剤(ADC)によって異なる

ADCで起こり得る副作用には、吐き気・食欲低下・脱毛・血球減少・末梢神経障害・肝機能障害などがあります。ただし、すべての薬剤で同じ副作用が起こるわけではなく、あらわれる症状や頻度、重症度は薬剤によって異なります。

特に注意したい副作用として、間質性肺疾患などの肺障害が挙げられます。トラスツズマブ デルクステカンなど、一部のADCでは間質性肺疾患が報告されており、治療中は呼吸器症状や画像検査などに注意を払う必要があります。

また、血球減少による感染症のリスクや、末梢神経障害による手足のしびれなど、薬剤によって注意すべき症状も異なります。そのため、気になる症状があらわれた場合は、速やかに医療機関へ相談することが大切です。

抗体薬物複合体(ADC)の課題と今後の展望

抗体薬物複合体(ADC)の課題と今後の展望

抗体薬物複合体(ADC)には、がん治療の選択肢を広げる可能性が期待できる一方で、解決すべき課題も残されています。最後に、ADCの課題と今後の展望について考えていきます。

ADCが効きにくくなる「耐性」が課題

ADCによる治療についても、がん細胞が薬剤に反応しにくくなる「薬剤耐性」が生じることがあります。

たとえば、がん細胞の変化によって標的となる抗原の発現量が低下すると、ADCが結合しにくくなる可能性があります。また、ADCが細胞内に取り込まれにくくなったり、細胞内で薬物が放出される仕組みが変化したりすることも、効果が弱まる要因だとされています。さらに、薬物が作用する仕組みに対して、がん細胞が抵抗性を獲得することも明らかになってきました。

このように、ADCに対する耐性には複数の要因が関係しており、すべてをひとつの方法で解決できるわけではありません。今後は、耐性が生じる仕組みを解明し、標的や薬物の選択、治療の組み合わせなどを工夫することで治療効果を高める研究が重要になると考えられます。

次世代型ADCの開発の進展

抗体薬物複合体(ADC)の研究開発では、抗体やリンカー、薬物の設計を改良し、より効果的で安全性の高い薬剤を目指す取り組みが進められています。

研究課題の例としては、標的となる抗原の適切な選択や、血液中では薬物を安定して保持し、標的となる細胞に到達した後に放出されるリンカーの開発などが挙げられます。

また、搭載する薬物の種類や作用機序を工夫する研究も進んでおり、複数の薬物を搭載する設計など、新たな技術を用いたADCの開発が検討されています。

これら研究により、従来の薬剤では十分な効果が得られなかった患者さんへの治療の可能性が広がることに期待できます。

ADCとほかの治療法の併用についての研究

ADC単独での治療だけではなく、免疫チェックポイント阻害薬や従来の化学療法など、ほかの治療法との併用についての研究もおこなわれています。複数の治療法を併用し、異なる仕組みでがん細胞にアプローチすることにより、治療効果の向上を目指しています。ただし、併用によって副作用のリスクが高くなることも考えられるため、有効性と安全性の両面から検証することが求められています。

また、これまでおもに進行したがんの治療で用いられてきたADCですが、より早い段階のがんに対する適応を検討する臨床試験もおこなわれています。今後、研究によって有効性や安全性が確認されれば、ADCを活用できる場面がさらに広がる可能性があります。

まとめ

抗体薬物複合体(ADC)は、がん細胞の目印を認識する抗体と、細胞を攻撃する薬物を組み合わせた治療薬

抗体薬物複合体(ADC)は、がん細胞の目印を認識する抗体と、細胞を攻撃する薬物を組み合わせた治療薬です。抗体・リンカー・薬物(ペイロード)という3つの要素の連携により、標的となるがん細胞へ薬物を届けることを目指します。

ADCは、従来の細胞障害性抗がん薬とは異なるアプローチとして注目されており、乳がんをはじめに、胃がん・肺がん・尿路上皮がんなど、さまざまながんの治療に活用されています。また、新しい標的や薬物を用いたADCの開発、ほかの治療法との併用に関する研究も進められています。

一方で、正常な細胞への影響や副作用、薬剤耐性などの課題もあり、すべての患者さんに同じような効果が得られるわけではありません。使用できる薬剤や治療の条件も、がんの種類や性質、患者さんの状態によって異なります。

がん治療では、治療法の新しさだけで判断するのではなく、それぞれの治療の特徴や期待される効果、副作用などを理解したうえで、自分に合った選択肢を検討することが大切です。抗体薬物複合体(ADC)においても同様に、まずは主治医に相談し、必要に応じてセカンドオピニオンを求めるなど、医師の適切な診断のもとで納得できる選択をするようにしましょう。

がん治療一覧へ