乳がんのステージ4とは?標準治療以外のアプローチも解説
女性のがん疾患1位である乳がんは、年々罹患する人数が増えています。乳がんは、働き世代から多く発症し誰にでも起こりうる可能性を持っているため、女性にとって決して他人事ではありません。日常において充分に注意する必要がある病気となっています。
この記事では、乳がんの特徴的な症状や、乳がんのなかで最も進行した状態であるステージ4とはどんな状態なのか、最新の治療方法も含めてご紹介します。乳がんについて理解し、将来的な予防のためにぜひ役立ててください。
目次
乳がんについて
乳がんとは、乳房にできる悪性腫瘍のことです。発症すると特徴的な所見がみられることがあります。多くの場合、乳房の「しこり」や違和感・痛みによって、がんが発覚するケースが多い疾患です。
この項目では、乳がん特有の身体的変化について、発覚から治療方針決定までの流れや主な治療方法について解説をします。まずは、乳がんとは一体どのような病気であるのか、その実態についてご紹介します。
乳がん特有の特徴とは
乳がんによって起こる身体的な変化は主に4種類あります。
1.乳頭陥没
腫瘍が広がることにより乳頭直下の組織の収縮や牽引が起こります。その結果、乳房の皮膚が引っ張られて乳頭が凹んだ状態になります。もともと乳頭に陥没はなかったが、少しずつ凹んできている、または明らかな凹みがあるといった場合は注意が必要です。
2.皮膚陥没
乳頭と同様のメカニズムで、乳房の皮膚が腫瘍により引き込まれ凹みが生じている状態です。正面から鏡を見て、どちらかの乳房に凹みがある場合は注意しましょう。
3.乳頭分泌(血性)
乳管内にがんが発生した場合、乳頭から血性の分泌物が出ることがあります。しかし、これは他の乳腺疾患(乳腺症や乳管乳頭症)でも起こりうる症状のため、決してがんによって起こるものであるとは断定できません。いずれにしても速やかに医療機関を受診するようにしましょう。
4.皮膚発赤(橙皮様変化)
主に炎症性の乳がんに起こることがあります。左右どちらかの乳房が炎症を起こし、強い赤みや腫れが起きている状態です。
このような身体的所見は、明らかに出ている場合もあれば、気付かない程度の場合もあり、人によって出現の仕方はさまざまです。それでも、乳がんは他のがん疾患と比べて身体的な変化が多い病気といえます。
早期発見のためには何よりも健診を受けることが重要ですが、普段から乳房の状態を知っておくことも大切です。「乳房の状態がいつもと何か違う」と気付けるようにしておくことで、早期発見に繋がります。特に好発年齢(40~50歳代)に入っている方は、定期的なセルフチェックを習慣づけておくこともおすすめです。
乳がんのサブタイプとは
乳がんにはさまざまなタイプがあり、比較的大人しい性質のがんもあれば、増殖が活発な性質を持つがんもあります。これらのがんの性質によって再発や進行のペースは異なります。
臨床では乳がんの治療を実施するにあたり、がん細胞のタイプに応じた適切な治療ができるように検査で評価し、サブタイプ分類表という指標を用いて4つのタイプに分類したうえで治療方針を検討しています。
出典:乳がんinfoナビ
乳がんのステージ分類
一般的にがん疾患は、進行状態を表す指標として、それぞれの発生部位に応じた「ステージ」という評価分類法が用いられています。乳がんの場合は「TNM分類」という評価指標をもとにステージの状態が判定されます。TNM分類は以下の3つの要素を組み合わせて判定されています。
- Tumor(腫瘍):しこりの大きさ
- Lymph Node(リンパ節):リンパ節への転移状況
- Metastasis(転移):多臓器への転移
乳がんのステージ判定は0〜Ⅳで表します。厳密にはしこりのサイズやリンパ節の部位によってさらに細かく分類されますが、主に以下のような状態をそれぞれ表しています。
ステージ0:早期のがん。症状はほとんどなし。適切な治療を受けることで転移や再発の可能性はなく、根治率の高い状態。
- ステージⅠ:腫瘍の大きさが2cm以下で転移のない状態。
- ステージⅡ:腫瘍が2〜5cmに育っている状態。脇の下のリンパに転移を来たしている状態。
- ステージⅢ:腫瘍の大きさがさらに増大し転移する場所も増えている状態。
- ステージⅣ:全身の臓器に転移している状態。
診断から治療方針を決定するまでの流れ
さまざまな精密検査を経て乳がんと診断された後は、以下のような考え方で治療方針を決定しています。
1.根治を目指すことができるか
画像検査などで転移の有無やリンパ節転移の有無を評価し、現状として根治することが可能であるかを診断します。
2.乳房温存療法をおこなうか
適応かを判断し患者本人の意向を確認します。
3.リンパ節郭清を行う必要はあるか
画像診断やセンチネルリンパ節生検の結果で、郭清(がんだけでなく、周りのリンパ節も切除すること)をしたほうが良いかを判断します。
4.術後に薬物療法を追加するか
腫瘍の大きさや、リンパ節転移の有無、ホルモン受容体などで再発のリスクを評価し、中〜高リスクであった場合、術後に薬物療法が必要か否かを判断します。
5.どのような薬物療法が必要であるか
リンパ節転移の数や腫瘍の特徴などにより検討します。
このように、乳がんは治療方法によっては乳房を全摘することもあり、整容面の変化が大きく現れます。このようなボディイメージの変化は、女性にとって大きな喪失体験となり、精神的にも強い影響が及びます。
そのため、医師はさまざまなリスクを評価したうえで、患者にとって何が適切であるのかを考慮し方針を決めています。一般的な治療経過とは異なり、場合によっては個別的な治療方針の決定も重要となるがん疾患だといえるでしょう。
主な治療方法
乳がんは各ステージの状況に応じて、手術療法のみをおこなう場合もあれば、他の治療と組み合わせて治療を実施することもあります。個人の状態によっても異なりますが、主にステージⅠ〜Ⅲは手術療法が基本となります。
乳がんは転移性が高く、早期であっても微小転移の可能性があることから、手術療法を実施した後に全身療法として薬物療法も併用します。ステージⅣは転移性のがんであるため、手術によって根治を目指す治療法ではなく、生存期間の延長や緩和を目的とした薬物療法が中心となります。
乳がんのステージ4について
乳がんのステージ4とは、がんの発生部位が乳房だけに留まらず、全身の各部位に転移している状態のことを示します。転移する部位や数は個人差が大きく、一箇所だけ他臓器に転移している場合もあれば、数箇所に転移していることもあります。症状の程度や予後、治療経過は転移部位や数によっても異なり、個人の状態に応じた治療計画が求められます。
なぜ転移しやすいのか
乳がんはがん疾患のなかでも、再発や転移が起こりやすい病気です。がん細胞が広がるスピードも早く、発覚した時にはすでに転移していたというケースも少なくありません。
なぜ他のがん疾患に比べて転移率が高いかというと、発生部位である乳房の近くには上肢・腋窩リンパ管や肺・縦隔リンパ管など大きなリンパ菅が隣接しているからです。リンパは血管と同様で全身のあらゆる部位を巡っています。小さながん細胞はこれらのリンパ管や血管を介して全身へと広がり、微小転移という形であらゆる部位へと増殖していくのです。
乳がんの好発転移部位と症状とは
乳がんの進行によって、転移しやすい他臓器の場所と引き起こす症状があります。
肺への転移
息苦しさや咳き込みなど、呼吸器の症状が起こります。
骨への転移
腰や背中の痛みが生じることがあります。また、日常動作において負荷がかかりやすい部位の骨に転移した場合、骨折を起こしやすくなります。脊椎に発生すると、がん細胞の増殖により腫瘍が増大し、骨を圧迫することで神経麻痺や、脊椎骨折を起こすこともあります。
肝臓への転移
肝臓にがん細胞が増殖することで、肝臓が増大し、お腹の張りや食欲不振、黄疸や痛みが起こることがあります。
ステージ4の乳がんの予後・生存率について
近年の乳がんのステージ4の生存率は約40%となっており、他のがん疾患と比べると生存率が比較的高い状況となっています。「ステージ4」は末期であるというイメージを持たれている方が多いですが、生存率が示しているように決して将来性がないというわけではありません。
転移性であるため完全にがんを治すということは難しいですが、個人の状態によっては、がんと共に長く生きていくことはできます。ステージ4の乳がんは、いかに症状や進行を抑えながら、生活の質を維持できるか、がんと共にどのように生きていくかという点が非常に重要になってきます。
ステージ4の治療方法とは
本来、乳がんは手術療法が基本となりますが、ステージ4の場合は全身のがんに対応できる薬物療法や放射線療法が基本となります。根治を目指すのではなく、がんの進行を抑え症状が出ないようにすることを目的としています。場合によっては、がんと共に生きることを選択し緩和ケアを希望される方もいます。
ステージ4は今後どう過ごしていきたいか、治療を継続するのか、がんと共に自分らしく生きることを望むのかという患者本人の意思が重視されます。このような点を医師としっかり話し合い、なるべく希望が叶う方針を選択していきましょう。
乳がんの先端治療
近年では乳がん治療に関する研究が多く実施されており、有効性が高いと期待される新たな治療法が発表されています。この項目では、乳がんに適した先端治療の種類とアプローチ方法についてご紹介します。
凍結療法
凍結療法とは、金属製で先端のみ-170度に凍結できる直径約3.7mmの特殊な針を使用し、がん細胞を凍結させて破壊する治療法です。
<適応条件>
- がん組織の直径が1.5cm以下であること
- リンパ節転移がないこと
- ルミナルAタイプがんであること
<メリット>
- 傷跡が小さく目立たない
- 痛みや身体的負担が少ない
- 日帰り手術が可能
<デメリット>
- 費用負担が大きい(保険適用外:約38万円〜)
- 乳がんの性質によっては適応となることがある
重粒子線治療
重粒子線治療とは、最先端の機器を使用した放射線療法の一種です。従来の放射線治療はX線を使用していますが、X線は主にレントゲン撮影などで使用されているように体を通り抜ける性質があります。また、エネルギーのピークは照射してから身体の表面にX線が到達したときで、その後の効果は弱まるという特徴を持っています。
一方で重粒子線の場合は、照射して体内に重粒子線が到達する頃に最大効果を発揮し、その後低下するという性質(ブラッグピーク)を持っており、X線よりもより高い効果を得られる治療法となっています。重粒子線治療はあらゆるがん疾患に対応できます。乳がんの場合は早期乳がんのみに対して治療が可能であり、従来の治療が可能な場合でも、より負担が少なく効果が高いものを希望される方が治療に臨まれています。
<適応条件>
- 転移性がなく限局しているがん
- 30分程度安静な状態ができること
<メリット>
- 身体的負担が少なく日帰りで可能
- 痛みを伴わない
<デメリット>
- 実施場所が少なく限定された場所でしか治療を受けることができない
光免疫療法
光免疫療法とは、がん細胞のみに吸着し、近赤外線に対する反応が強い性質を持つ薬剤を点滴で投与した後、外部から近赤外線を照射することでがん細胞を直接的に攻撃する治療法です。破壊したがん細胞の破片を免疫細胞が取り込むことで免疫細胞が活性化され、再発や転移の予防にも効果が期待できるとされており、直接的かつ間接的な治療を実現できる方法です。
<適応条件>
- 薬剤アレルギーがないこと
- 部位によって保険適用と適用外があり費用負担が異なる
(乳がんの場合は現段階では保険適用外です。)
<メリット>
- 副作用が少ない
- 短時間で治療可能
- 再発リスクの低減を目指せる
<デメリット>
- 照射後、1週間程度は直射日光を避けて過ごすこと
- 即効性が出る治療法ではない
このように、乳がん治療は標準治療以外にも多くの先端治療を受けることが可能になっています。しかし、適応条件が治療法によって異なることや、保険適用外のため経済的負担が大きくなること、必ずしも治療効果や安全性に関しては保証されていないということを前提として治療を受けなければなりません。それぞれにメリットやデメリットもあるので、治療の概要を十分に理解したうえ、希望する場合は主治医に相談してみましょう。
乳がんの治療方法の変革と将来的な治療の可能性について
乳がん治療は、以前までは切除によって回復を目指すことが主流でしたが、手術でがん細胞を切除する治療から、身体にメスを入れずにがん細胞を破壊する治療法が増えています。最近では、2022年までは先端治療として乳がんに実施されていたラジオ波(RFA)は治療効果の有効性や安全性が国に認められ、早期乳がんの治療の一環として標準治療の仲間入りを果たしました。
現段階では対象が早期乳がんに限局していますが、早期乳がんの第一治療は手術が主流であったところにラジオ波治療が加わることにより、治療の選択肢が増え、ボディイメージの変化による喪失体験をなくすという意味でも大きな一歩となりました。
このように、新たな治療方法は身体的負担が少ないだけではなく、整容面を保護することもでき、女性にとって安心できる治療法であることが特徴です。現在でも多くの先端治療が臨床試験に臨んでおり、将来的には切らない治療がステージ4の乳癌にも適応するかもしれません。
まとめ
乳がんは女性のがん疾患で、最も罹患率の高い病気であり、とくに働き世代である30代から徐々に発症率が高まります。転移性が高く進行が早いという特徴があり、発覚したときにはすでにステージ4であったということも少なくありません。しかし、早期発見し適切な治療を受ければ根治を目指すことも可能です。
そのためには、積極的にがん検診を受けることが何よりも大切です。仕事や育児で忙しい世代だからこそ、検診は健康を見直す一つの機会と捉え、予防的行動に努めましょう。