最新の放射線治療でがん患者さんのQOLが向上する理由とは?

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最新の放射線治療でがん患者さんのQOLが向上する理由とは?

今回は、生活のなかの様々な分野で使われるようになってきた用語「QOL」と放射線治療についてのお話です。

がんには三大治療法「放射線治療」「手術」「抗がん剤治療」があります。それぞれの治療法には得意分野とある種の役割分担が存在しています。
しかし日本は長きに渡って「手術ファースト」で、放射線治療と抗がん剤は、手術後の補足的な治療にすぎないという考え方が、がん医学界での主流でした。欧米とはかなり事情が異なります。
そのため、「放射線治療は延命だけが目的」というようなマイナスイメージを持たれる方がまだまだ少なくありません。でも放射線治療は本来、外科手術と同等かそれ以上のポテンシャルを持つがんの治療法です。

放射線治療の大きな利点、それはがん治療中の患者さんの毎日の暮らし、またがんを治して通常の生活に戻った方の毎日の暮らしのレベル向上を見据えた治療ができることです。それが今回お話するQOLの向上です。

QOLの向上

QOLって何ですか?

QOLは英語の「Quality of life」の頭文字を取った略で、直訳すれば「生活の質」です。
ただ生きているというだけでなく、精神面を含めて、人間らしい生活を送り、人生に幸福を見出しているか、ということを尺度としてとらえる概念です。

QOLの歴史的背景

QOLは元々はどちらかというと老人福祉やリハビリテーションの分野で注目され始めた考え方です。

1960年代までは、リハビリや高齢者介護の目的は、患者が物を噛んで飲み込めること、服を着て脱ぐこと、入浴できること、トイレで用をたせることといった日常生活の基本的な身体動作機能さえ回復させれば目的達成でした。
しかし、1970年代以降、高齢者のターミナルケアの発展や障害者の自立生活運動の発展により、基本的な身体動作機能を回復させるだけでなく、当事者が希望する自分らしさを実現する生活の質を確保することに、徐々に目が向けられるようになったのです。

今では医療界全体で患者のQOLの確保と向上に重きが置かれるようになりました。がんの治療は、他の病気に比べ治療が長期間に渡ることが多いため特に重要視されています。

がん患者にとって「QOLが高い」とは?

「生活の質」という言葉では、少し具体性に欠けるかもしれません。生活の質、つまりQOLが高い状態とはどんな状態でしょうか?
生活の質が高い、つまりQOLが高い状態とは、私たちが心身ともに健康で、痛みや苦痛がなく普通に生活している状態です。

では逆に身体の不調があったり、精神的にふさぎ込んでいる状態はどうでしょうか?
それは生活の質が悪い状態、つまりQOLが低い状態と言い換えることができます。

がん患者にとって、がん細胞による直接的な身体的な痛みは、もちろんQOLを低くする大きな要因になりえます。
つまりがん患者のQOLはがんになった時点で簡単に低下しやすい傾向にあるわけです。それに加えて様々ながんの治療に伴う痛みや苦痛もQOLを低くしかねません。

QOLの低下

がん医療には、治療による痛みや苦痛はある程度受け入れるしかないとされてきた歴史がありました。
とにかくがん細胞をなくすのが先決で、手術や治療の際の患者の痛みやつらさは我慢してもらおう、という考え方です。あまりQOLは考慮されてなかったのですね

しかし最近は、できるだけ痛みや苦痛を和らげる方が、がん患者が治療に専念でき、治療効果が高いことがわかっています。

そしてケアすべき患者さんの「苦痛」には、身体的な痛みだけでなく、精神的なストレスなども含まれるようになりました。
治療中、また治療が終わって通常生活に戻ったときに精神的、社会的活動を含めた総合的な活力、満足度を高めようという考え方が広がっているのです。

具体的な処置の例として一つ挙げられるのが「縮小手術(温存手術)」です。
縮小手術(温存手術)というのは、がん手術後の苦痛を和らげ、日常生活のQOLを高めるために、切除範囲を小さくする手術法です。手術する部位によっては、縮小手術でも、5年後生存率は変わらないことが分かっています。

また早期がんでは、内視鏡や腹腔鏡を用いる手術も普及してきています。
これは胸開や開腹しない、最小限の切開で終わる手術法で、患者さんへのダメージが少なくて済みます。

最近は「ダ・ヴィンチ」という精度の高いロボット手術治療器も、登場しています。
また激しい副作用が予測される抗がん剤療法には、投与法を変えてみたり、副作用を抑える薬剤が使われたりします。

これらはすべて、がん患者さんのQOLを維持すること、つまりは人間らしい身体状態、精神状態を維持して、満足感の高い生活を続けていっていただくために行われるものなのです。

ロボット手術

放射線治療とQOLの関係

ピンポイント照射による高度放射線治療には、手術や抗がん剤治療にはない大きな利点があることを、私はこのブログを含めていろいろな場で発表させていただいています。
そして高度放射線治療は、今日お話しているQOLの確保についても実はすばらしい威力を発揮します。

もちろん前述の通り、手術法は日々進歩しています。その進歩によって、かつては手術が難しかったものの、現在は手術が可能になっているものもあります。
それでも、結局手術は臓器の一部を切り取ることに変わりはありません。切り取った分だけ臓器の機能は低下し、術後のQOLが低下するリスクが常にあります。

QOLを保つ

手術の後遺症は、臓器の変形や機能を失ったことから生じるのです。
このことを考えると、手術の後遺症は一生の間残ることが分かると思います。

一方、放射線治療は、がんのできた臓器でもほぼ機能を維持できます。身体の機能や外見上の変化もほとんどありません。
麻酔も、薬も、注射も必要ありません。なので後遺症を心配する必要はほぼありません。

放射線治療、特にピンポイント照射による高度放射線治療は治療中と治療後の患者のQOLを確保しつつ、がんを根治する最も有効な方法なのです。

まとめ

私は、放射線治療もがん根治を目ざす治療法であることをもっともっと多くの人に知ってほしいと思って、微力ながら医学界で力を尽くしています。

今回のお話で、「放射線治療は延命だけが目的」というような、間違ったイメージを持たれている方が、高度放射線治療は外科手術と同等か、それ以上のポテンシャルを持つがんの治療法であることを知っていただければうれしいです。

高度放射線治療は、がん治療中の患者さんの毎日の暮らし、またがんを根治して通常の生活に戻った際のQOL向上を見据えた治療方針を立てることができる治療法なのです。

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