健康診断と人間ドックの違いを分かりやすく解説
「そろそろ人間ドックを受けたほうが良いのだろうか?」と考える一方で、「毎年健康診断を受けているからまだ必要ないだろう」と後回しにしている方は多いのではないでしょうか。
健康診断も人間ドックも、自身の健康をチェックするという意味では同じですが、両者にはっきりとした違いがあります。そのため、「健康診断を受けていれば人間ドックを受ける必要はない」というのは、間違った判断だといえるでしょう。
ここでは、健康診断と人間ドックの特徴から、両者の違いをわかりやすく解説します。人間ドックを受けるべきか迷っている方や、受けないほうが良いのではと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
目次
健康診断と人間ドックの違い
健康診断と人間ドックの大きな違いは「法的義務」にあります。
「労働安全衛生法第66条」に基づいて、会社は従業員に対して年1回の健康診断を実施する義務があり、また従業員は会社の実施する健康診断を受けなければならない、とされています。つまり、会社側も従業員側も、健康診断に対する法的義務があるということになります。
一方、人間ドックには法的義務はなく、受診するかどうかは任意です。ご自身で必要性を考えて申し込みをしなければなりません。
法的義務以外にも、健康診断と人間ドックには様々な違いあります。それぞれの特徴について、詳しく解説していきましょう。
健康診断の特徴
それぞれの違いを知るために、まずは健康診断について整理していきましょう。
健康診断は、ご自身の健康状態について大まかに知るための検査です。普段の生活には支障をきたしていないものの、検査してみると実は血圧が高めだったという方や、採血の結果血糖値やコレステロール値が高かったという方も少なくありません。
年に1回は健康診断を受診し、健康状態を確認して、生活習慣病の予防や健康に対する意識を高めるきっかけにしましょう。
健康診断の受診対象者
健康診断には様々な種類があり、保険証の種類によって受けられる検査内容が異なります。
保険証 | 受診対象者 | 検査内容 |
健康保険 | ご本人(被保険者) | 一般健康診断
(各健康保険者によって名称が変わります) |
ご家族(被扶養者)【40~74歳】 | 特定健診 | |
国民健康保険 | 個人事業主など【40~74歳】 | 特定健診 |
一般的に「健康診断」とは、会社に勤めている方が受診する一般健康診断を指している場合が
多いでしょう。一般健康診断には以下の5種類があり、年に1回受診する健康診断を定期健康診断といいます。
- 雇入時の健康診断
- 定期健康診断
- 特定業務従事者の健康診断
- 海外派遣労働者の健康診断
- 給食従業員の検便
定期健康診断を実施することで、会社は従業員の心身の健康状態を把握し、就業の可否や適正配置について検討できます。
労働環境上有害なものにさらされる可能性のある職業や、海外派遣に就く従業員については、年に1回の定期健康診断とは別のタイミングで健康診断を実施しなければなりません。給食業務に就く従業員については、食中毒予防のために検便も実施します。
また、40~74歳で、会社に勤めている方のご家族や個人事業主の方は、特定健診という健康診断を受診できます。
健康診断の費用
会社に実施が義務付けられている健康診断では、労働安全衛生法に基づく項目は職場負担で、それ以外の検査は職場によっては一部自己負担の場合もあります。
特定健診の場合、健康保険者や自治体によって補助額や自己負担額が違ってきます。気になる方は、受診の前に確認してみましょう。
健康診断の検査項目
会社に実施が義務付けられている健康診断では、主に以下の11項目について検査します。
- 既往歴及び業務歴の調査
- 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
- 身長(※)、体重、腹囲(※)、視力検査、聴力検査
- 胸部エックス線検査(※) 及び喀痰検査(※)
- 血圧測定
- 貧血検査(血色素量、赤血球数)(※)
- 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GPT)(※)
- 血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪)(※)
- 血糖検査(※)
- 尿検査(尿蛋白、尿糖)
- 心電図検査(※)
定期健康診断においては、(※)の項目について、それぞれの基準に基づき、医師が必要でないと認めるときは省略できることになっています。
健康診断の結果の受け取り方
健康診断の結果は、医療機関よりメールや郵送にて診断結果が送られ、本人に通知されます。
また、医療機関から本人へ直接渡されるケースもあります。その場合は、会社に実施が義務付けられている検査項目について、従業員は提出・報告をする必要があります。
厚生労働省:「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう~労働者の健康確保のために~」
特定健診と一般健康診断に違いはある?
特定健診と一般健康診断には違いはあるのでしょうか?その目的と受診対象者について比較してみましょう。
目的
特定健診の主な目的は、生活習慣病の予防です。生活習慣病に着目した検査項目が多く、リスクのある方には生活習慣の改善を促します。特定健診の検査項目は、次の7項目になります。
- 身長、体重、BMI、腹囲
- 血圧測定
- 肝機能(GOT、GPT、γ-GTP)
- 血中脂質検査(HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪)
- 血糖検査(空腹時血糖またはHbA1c)
- 尿検査(尿蛋白、尿糖)
- 診察
一般健康診断よりも検査項目が少なく、高血圧・糖尿病・高脂血症といった生活習慣病をスクリーニングするための検査がほとんどです。必要に応じて、以下の検査も実施されます。
- 心電図検査
- 眼底検査
- 貧血検査(血色素量、赤血球数)
- 腎機能検査(クレアチニン、eGFR)
一方、一般健康診断の目的は、従業員の健康状態を原因とする業務上の事故の防止や病気の早期発見です。従業員の健康上の不安が、業務中の事故に結びつく可能性があります。会社も従業員も、自分の身を守るために、一般健康診断を受けるようにしましょう。
受診対象者
特定健診の受診対象者は、40歳以上74歳の医療保険加入者です。会社に勤めている方は一般健康診断を受診するため、特定健診を受診する必要はありません。従業員の家族や個人事業主などは、加入している医療保険者(保険組合や市区町村など)から特定健診の受診券や案内が届きます。
会社に勤めている方ご本人以外は、受診券を利用して、特定健診を受診するようにしましょう。
人間ドックの特徴
次に、人間ドックについて整理していきましょう。
人間ドックは、病気の早期発見だけでなく、将来の病気のリスクを知るための検査です。健康診断より多数の検査項目があり、詳しく検査することでご自身の健康管理を見直すきっかけになる可能性もあります。
人間ドックの受診対象者
人間ドックは任意の検査のため、希望すれば誰でも受診できます。
20代で人間ドックを受けるのは早すぎると思うかもしれませんが、人間ドックの基本コースを一度受診しておくと安心です。とくに子宮頸がんは20代後半になると急激に罹患率が上昇し、出産年齢の頃に発症のピークを迎えます。子宮や卵巣の病気に特化した「レディースドック」もありますので、併せてそちらの受診もおすすめします。
30代に入ると、胃がんや大腸がん、乳がんなどのリスクが高くなります。人間ドックの検査項目を調べ、自分に必要と思われる検査が含まれているか確認しましょう。コースが複数あったり、オプションを検査を組み合わせたりできるケースもありますので、迷ってしまう場合には医療機関に問い合わせてみてください。
40代以降は、生活習慣病やがん、脳卒中など様々な病気の発症が増えてきます。1年に1回は人間ドックを受診し、健康診断よりも詳しく健康状態をチェックすることをおすすめします。
人間ドックの費用
人間ドックは任意で受診する検査のため、健康保険は適用されません。また、医療機関や検査内容によって費用は大きく異なります。
一般的な医療機関で人間ドックを受診した時の費用相場は、下記のとおりです。
コース | 費用相場 |
基本コース | 3~5万円 |
基本コース+脳ドック | 5~8万円 |
基本コース+心臓ドック | 6~9万円 |
基本コース+レディースドック | 5~8万円 |
PET検査 | 10~20万円 |
(オプション)肺がん検査 | 約3万円 |
(オプション)腫瘍マーカー検査 | 約1万円 |
(オプション)胃カメラ+ピロリ菌検査 | 約0.5万円 |
(オプション)骨粗しょう症検査 | 約1万円 |
(オプション)大腸内視鏡検査 | 約3万円 |
昼食付の1日コースと、忙しい方向けの半日コースを設けている医療機関もあります。
さらに、最近は会員制メディカルクラブの高級人間ドックに注目が集まっています。会員制メディカルクラブでは、入会費と年会費を支払うことで、医療に関わる会員制のサービスが受けられます。その中で最も有益なサービスが、年1~2回受診できる高級人間ドックです。PET/CTやPET/MRIといった最新の医療機器を使用して、一般的な人間ドックよりも精度の高い検査が可能です。
会員制メディカルクラブの費用相場は、入会費が100~300万円、年会費は50万円程度になります。会員制メディカルクラブでは、人間ドック以外にも顧問ドクターやコンシェルジュがついていたり、24時間体制の電話相談ができたり、会員だけの様々なサービスを提供しています。
会員制メディカルクラブについて興味のある方は、ぜひこちらの記事「会員制メディカルクラブが求められている理由」も参考にしてみてください。
人間ドックの検査項目
人間ドックの基本コースに含まれる検査項目の一例をお示ししましょう。
- ・既往歴及び業務歴の調査
- ・自覚症状及び他覚症状の有無の検査
- ・身長、体重、腹囲、
- ・視力検査、聴力検査
- ・胸部エックス線検査、心電図検査
- ・血圧測定
- ・貧血検査(血色素量、赤血球数)
- ・肝機能検査(GOT、GPT、γ-GPT)
- ・血中脂質検査(LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪など)
- ・血糖検査(空腹時血糖またはHbA1c)
- ・尿検査(尿蛋白、尿糖)
- ・便検査
- ・肺機能検査
- ・胃バリウム検査(もしくは胃カメラ検査)
- ・腎機能検査(尿素窒素、クレアチニン、Na、K、Cl、eGFR)
- ・尿酸代謝検査(尿酸値)
- ・肝炎ウイルス検査(HBs抗原、HCV抗体)
これらを組み合わせて、医療機関ごとに基本コースが作られています。人間ドックを受診する方は、ご自身の判断でこれ以外のオプション検査を追加する場合もあります。気になる病気に特化した検査や、男性の場合は前立腺がん、女性の場合は子宮頸がんや乳がんに対する検査の追加を検討してみましょう。
人間ドックの結果の受け取り方
人間ドックの結果は、郵送されてくる場合もありますが、ほとんどは医師と対面する形で解説してもらえます。必要に応じて、保健師、栄養士による専門的なアドバイスも受けられるため、不安な点などがある場合には気軽に相談できます。
人間ドックのオプション検査
人間ドックで一般的に用意されているオプション検査は以下のとおりです。
※医療機関によっては対応していない場合もあります。
- ・胃カメラ検査
- ・ピロリ菌検査
- ・頭部MRI検査
- ・甲状腺検査
- ・骨粗しょう症検査
- ・腫瘍マーカー検査
- ・肺がん検査
- ・大腸内視鏡検査
- ・アレルギー検査
さらに詳しく検査するためにPET検査を希望する方もいます。PET検査とは、がんの有無を調べるための方法で、高額ではありますが病気の早期発見に非常に有用です。
導入している医療機関はまだ少ないものの、最近では、PET/CTやPET/MRIのような、PETとCT、MRIを組み合わせてより詳しい検査結果が得られる最新の医療機器も使用されるようになってきました。
オプションがたくさんありすぎて迷うという方は、かかりつけの医師に相談してみてください。家族歴・生活習慣・年齢などを加味して、必要なものは追加で検査しておきましょう。
健康診断と人間ドックは両方受けるべき?
結論として、健康診断と人間ドックは両方受けるべきです。
健康診断は、会社や医療保険者、自治体からの補助により、無料もしくは自己負担を抑えた金額で受診できます。一方、人間ドックは保険も適用されないため、高額な費用がかかってしまいます。
しかし、人間ドックでは、健康診断ではわからない「がん」「心疾患」「脳卒中」などの病気がわかる可能性があります。これらの病気は、自覚症状が出る頃には病気が進行している場合が多く、早期発見・早期治療が重要です。
様々な病気にかかるリスクが増加し始める40代からは、ぜひ人間ドックを年に1回は受診することをおすすめします。
まとめ
健康診断と人間ドックの違いについて、それぞれの特徴を比較して解説してきました。健康診断には「法的義務がある」のに対し、人間ドックは任意で受診できるという点が大きな違いです。
そして最も重要なのは、健康診断と人間ドックの「検査項目の数と種類」です。健康診断は主に生活習慣病のリスクを見つけるために受診しますが、人間ドックではがんや心疾患、脳卒中などの病気を見つけられる可能性があります。
「健康診断と人間ドックは、どちらを受ければいいですか?」という質問を受けることがあります。どちらか片方しか受診しないのであれば、人間ドックの受診をおすすめします。ほとんどの人間ドックは、健康診断の検査項目を網羅しているので、生活習慣病のリスクを見つけることも可能です。
1番のおすすめは、健康診断と人間ドックの受診時期を半年程度ずらし、年に2回健康状態を確認するタイミングを設けることです。生活習慣を見直す機会を増やし、がんなどの病気についても予防につなげられます。
寿命が延びて健康寿命に注目が集まるようになり、医療は治療と予防の両方に力を注ぐべき時代になっています。健康診断と人間ドックの違いを理解し、病気の予防・早期発見のために上手に利用していきましょう。