免疫チェックポイント阻害薬とは?わかりやすく解説

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免疫チェックポイント阻害薬とは?わかりやすく解説

免疫チェックポイント阻害薬とは?わかりやすく解説

がん治療における新たな選択肢として注目されているのが、患者さん自身に備わる免疫システムを利用した免疫療法です。免疫細胞の働きを活性化させるために、免疫チェックポイント阻害薬という薬剤が使われます。

その中にはどのような種類があるのか、期待できる効果やリスクのある副作用などが気になっている方も多いのではないでしょうか。この記事では、免疫チェックポイント阻害薬について解説しますので、ぜひ参考にしてください。

がん免疫療法とは

がん免疫療法とは

がん免疫療法とは、私たちの体内に本来備わっている免疫の力を高めることでがんを排除していく治療方法です。従来の外科手術、抗がん剤による化学療法、放射線治療と並ぶ「第4の選択肢」として注目されてきました。

人間の身体は約60兆個もの細胞でできており、分裂・増殖を繰り返しながら様々な組織を作り上げています。その過程はDNAの働きによって正常に管理されているものの、DNAが突然変異を起こすことも珍しくありません。結果として生み出されるのが、「がん」の原因となるがん細胞です。

健康な人でも、体内では毎日2,000~3,000個のがん細胞が誕生しているといわれています。これに対抗するための仕組みが、免疫です。通常、免疫はがん細胞のような異物を攻撃し、私たちの健康を守ってくれています。

しかし、体内の免疫バランスが崩れてしまうと、免疫はがん細胞を排除することができません。生き残ったがん細胞は分裂・増殖を繰り返し、やがて病気として「がん」を発症するまでに成長してしまいます。弱った免疫力を回復させ、がん細胞の発生や増殖をさせない状態に導くための治療が、免疫療法です。

免疫チェックポイント阻害薬とは

免疫チェックポイント阻害薬とは

免疫チェックポイント阻害薬とは、免疫細胞の一種であるT細胞というリンパ球にアプローチして機能をコントロールする薬剤のことです。「チェックポイント」は「検問所」を意味するので、免疫チェックポイントとは免疫反応を強めるかストップさせるか判断する砦といえるでしょう。

一般的に免疫細胞は体内の危険を察知すると働きが活性化し、異物に対して攻撃を加えます。ここでいう「体内の危険」とは細菌や病原体ウイルスのことであり、がん細胞も危険分子として攻撃の対象です。ところが、免疫細胞の異物を排除する力があまりにも強いと、自分の身体そのものも傷付けてしまいかねません。

自己を守るために、免疫細胞には自発的に攻撃力を抑える機能も備わっています。そこに目を付けたがん細胞が免疫細胞の働きにブレーキをかけ、排除されないように仕向けていることが研究によりわかってきました。がん細胞が免疫細胞にかけているブレーキを外し、再び免疫細胞の反応を活性化させるために生まれたのが免疫チェックポイント阻害薬です。

免疫チェックポイント阻害薬の効果が出やすい人

様々ながんに対して免疫チェックポイント阻害薬の有効性が確認されていますが、特に効果が出やすいのはホジキンリンパ腫やメルケル細胞がんといわれています。免疫チェックポイント阻害薬を使用した結果、約90%の患者さんでがんが縮小したという報告がありました。腎臓がんや悪性黒色腫(メラノーマ)でも、約40%の患者さんで有効性が確認されています。

同様に肺がん、胃がん、肝細胞がん、悪性リンパ腫、乳がんや卵巣がんなどの患者さんのうち、20~30%程度の方に効果が見られたとの報告がありました。膵臓がんや胆道がんについては、目ぼしい効果は確認されていません。

大腸がんの場合、免疫チェックポイント阻害薬で得られる効果は5%以下であることがわかっています。ただし、免疫チェックポイント阻害薬の一種であるオプジーボの臨床試験では、大腸がんの患者さんで最初にがんの消失が確認されました。今後の報告が期待されています。

免疫チェックポイント阻害薬による効果の持続性

免疫チェックポイント阻害薬の治療効果を得られた患者さんが、長期にわたって生存できたという研究報告があります。そのため、免疫チェックポイント阻害薬の効果には持続性があると考えて良いでしょう。

悪性黒色腫の患者さんの例を考えてみます。投与したのは、免疫チェックポイント阻害薬の一種であるヤーボイと呼ばれる薬剤です。ヤーボイは、体重1kgあたり3mgの薬剤を3週間ごとに4回注射することになっています。規定通りに投与を続けた結果、約20%の患者さんが10年以上にわたって生存できたということでした。

そもそも悪性黒色腫とは、いわゆる「ほくろのがん」のことです。放置しておくとやがて全身に転移し、その生存率は数%ともいわれています。ヤーボイの投与による10年以上もの延命は、従来の薬物療法では考えられませんでした。投与回数が少なく、患者さんの身体にそれほど負荷がかからない点も、大きな特徴といえるでしょう。

免疫チェックポイント阻害薬の種類

免疫チェックポイント阻害薬の種類

では、免疫チェックポイント阻害薬にはどのような種類があるのでしょうか。主に使用されている以下の3つについて、それぞれ詳しく解説していきます。

  • CTLA-4阻害剤(抗CTLA-4抗体)
  • PD-1阻害剤(抗PD-1抗体)
  • PD-L1阻害剤(抗PD-L1抗体)

なお、上記以外にも、様々な免疫チェックポイント阻害薬を研究・開発中です。たとえば、活性化T細胞に注目した抗LAG-3抗体薬、Th1型CD4T細胞/CD8T細胞にアプローチする抗TIM-3抗体薬、T細胞やNK細胞に働きかける抗TIGIT抗体薬などが挙げられます。

CTLA-4阻害剤(抗CTLA-4抗体)

CTLA-4阻害剤(抗CTLA-4抗体)とは、がんを攻撃する主細胞であるT細胞や制御性T細胞の表面に発現するCTLA-4(細胞殺傷性Tリンパ球抗原4)という分子に注目した薬剤です。通常、CTLA-4は木の枝のような形をした樹状細胞に発現するB7(CD80/CD86)という分子と結合し、T細胞ががん細胞に攻撃しないようにしています。

そこで登場するのが、CTLA-4阻害剤です。本剤を投与すると抗CTLA-4抗体がCTLA-4と結合するため、CTLA-4とB7(CD80/CD86)との結合は阻止されます。そのB7(CD80/CD86)はT細胞にあるCD28という分子と結合し、T細胞の働きを活性化させるという仕組みです。がん細胞を異物と認識したT細胞は攻撃を開始し、体内からの排除を目指します。

イピリムマブ(ヤーボイ)

一般名
(薬剤の有効成分名)
イピリムマブ
製品名(販売名)ヤーボイ
薬効分類名ヒト型抗ヒトCTLA-4モノクローナル抗体
効能または効果
  • 悪性黒色腫
  • 腎細胞がん
  • 結腸・直腸がん
  • 非小細胞肺がん
  • 悪性胸膜中皮腫
  • 食道がん

イピリムマブ(ヤーボイ)は抗CTLA-4抗体を用いた世界最初の免疫チェックポイント阻害薬で、2011年にアメリカで承認されました。悪性黒色腫の他、腎細胞がんや結腸・直腸がんなど様々ながんに適用可能です。その範囲は今後も広がっていくでしょう。

PD-1阻害剤のオプジーボと併用することで、より高い治療効果を得られるという研究結果も出ています。

トレメリムマブ(イジュド)

一般名
(薬剤の有効成分名)
トレメリムマブ
製品名(販売名)イジュド
薬効分類名ヒト型抗ヒトCTLA-4モノクローナル抗体
効能または効果

<イジュド点滴静注25mg>

  • 非小細胞肺がん
  • 肝細胞がん

<イジュド点滴静注300mg>

  • 肝細胞がん

トレメリムマブ(イジュド)は、2022年に日本で承認されたばかりの抗CTLA-4抗体による免疫チェックポイント阻害薬です。PD-L1阻害剤であるイミフィンジとの併用を想定して生み出されました。

25mgと300mgとで適用できるがんが異なることに注意してください。25mgは非小細胞肺がんと肝細胞がん、300mgは肝細胞がんのみ使用可能です。

PD-1阻害剤(抗PD-1抗体)

PD-1阻害剤(抗PD-1抗体)とは、CTLA-4と同様にT細胞に発現するPD-1と呼ばれる分子にアプローチする薬剤です。がん細胞はT細胞からの排除攻撃を回避するため、PD-L1やPD-L2などの分子を提示してT細胞のPD-1と結合しようとします。

そこに本剤を投与するとどうなるのでしょうか。まず、抗PD-1抗体がPD-1と結び付くことにより、がん細胞のPD-L1やPD-L2などが発している免疫抑制信号をシャットアウトできます。その結果、T細胞にかかっていたブレーキが外され、T細胞によるがん細胞への攻撃が開始される仕組みです。

ニボルマブ(オプジーボ)

一般名
(薬剤の有効成分名)
ニボルマブ
製品名(販売名)オプジーボ
薬効分類名ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体
効能または効果
  • 悪性黒色腫
  • 非小細胞肺がん
  • 腎細胞がん
  • ホジキンリンパ腫
  • 頭頸部がん
  • 胃がん
  • 悪性胸膜中皮腫
  • 結腸・直腸がん
  • 食道がん
  • 原発不明がん

ニボルマブ(オプジーボ)は抗PD-1抗体を用いた免疫チェックポイント阻害薬で、2014年に日本で承認されました。悪性黒色腫を始めとする様々ながんの治療薬として広く使用することが可能です。また、非小細胞肺がんの術前補助療法、食道がんおよび尿路上皮がんの術後補助療法としても活用されています。

ペムブロリズマブ(キイトルーダ)

一般名
(薬剤の有効成分名)
ペムブロリズマブ
製品名(販売名)キイトルーダ
薬効分類名ヒト化抗ヒトPD-1モノクローナル抗体
効能または効果
  • 悪性黒色腫
  • 非小細胞肺がん
  • ホジキンリンパ腫
  • 尿路上皮がん
  • 固形がん(標準的な治療が困難な場合に限る)
  • 腎細胞がん
  • 頭頸部がん
  • 食道がん
  • 結腸・直腸がん
  • 乳がん
  • 子宮体がん
  • 子宮頸がん
  • 原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫

ペムブロリズマブ(キイトルーダ)も抗PD-1抗体を用いた免疫チェックポイント阻害薬の一つです。オプジーボの後発品ですが、キイトルーダの登場によってがんへの適用範囲が広がりました。

オプジーボと同様に、キイトルーダも悪性黒色腫を筆頭に様々ながん治療に効果的です。また、乳がん、子宮体がんや子宮頸がんなど、女性特有のがんにも使用されています。

セミプリマブ(リブタヨ)

一般名
(薬剤の有効成分名)
セミプリマブ
製品名(販売名)リブタヨ
薬効分類名ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体
効能または効果
  • 子宮頸がん

セミプリマブ(リブタヨ)は、2022年に日本国内で承認されたばかりの免疫チェックポイント阻害薬です。子宮頸がんの治療薬として有効性があることがわかっており、今後の活用に期待されています。

PD-L1阻害剤(抗PD-L1抗体)

PD-L1阻害剤(抗PD-L1抗体)とは、がん細胞が提示する分子であるPD-L1に働きかける薬剤です。まず、抗PD-L1抗体がPD-L1と結び付きます。

その目的は、PD-L1とT細胞の表面にあるPD-1との相互作用の阻害です。これにより、T細胞に対するがん細胞からの攻撃抑制信号が解除されます。T細胞はがん細胞を異物と認識できるようになり、攻撃を加えることが可能です。

アテゾリズマブ(テセントリク)

一般名
(薬剤の有効成分名)
アテゾリズマブ
製品名(販売名)テセントリク
薬効分類名抗PD-L1ヒト化モノクローナル抗体
効能または効果

<テセントリク点滴静注840mg>

  • 乳がん

<テセントリク点滴静注1,200mg>

  • 非小細胞肺がん
  • 進展型小細胞肺がん
  • 肝細胞がん

アテゾリズマブ(テセントリク)は、抗PD-L1抗体を用いた免疫チェックポイント阻害薬です。840mgと1,200mgの2種類があり、840mgは主に乳がん治療に使われます。1,200mgは非小細胞肺がんを始めとする肺がん治療に使われる他、非小細胞肺がんの術後補助療法としても使用可能です。

アベルマブ(バベンチオ)

一般名
(薬剤の有効成分名)
アベルマブ
製品名(販売名)バベンチオ
薬効分類名ヒト型抗ヒトPD-L1モノクローナル抗体
効能または効果
  • メルケル細胞がん
  • 腎細胞がん

アベルマブ(バベンチオ)も、抗PD-L1抗体を用いた免疫チェックポイント阻害薬の一つです。主にメルケル細胞がんや腎細胞がんの治療薬として使われています。また、尿路上皮がんにおける化学療法後の維持療法としても使用可能です。

デュルバルマブ(イミフィンジ)

一般名
(薬剤の有効成分名)
デュルバルマブ
製品名(販売名)イミフィンジ
薬効分類名ヒト型抗ヒトPD-L1モノクローナル抗体
効能または効果
  • 非小細胞肺がん
  • 進展型小細胞肺がん
  • 肝細胞がん
  • 胆道がん

デュルバルマブ(イミフィンジ)も、抗PD-L1抗体を用いた免疫チェックポイント阻害薬として知られています。非小細胞肺がんや肝細胞がん、胆道がんなどの治療薬として使用可能です。他にも、非小細胞肺がんにおける根治的化学放射線療法後の維持療法としても使われています。

免疫チェックポイント阻害薬の副作用

免疫チェックポイント阻害薬の副作用

免疫チェックポイント阻害薬によって起こりうる副作用について解説します。

そもそも免疫チェックポイント阻害薬の目的は、がん細胞に対するT細胞の攻撃力を高めることです。免疫が過剰に反応した結果、身体に様々な不調を来すリスクを考えておかなければなりません。

その中には自己免疫疾患と似たような症状を持つケースが多いことから、免疫チェックポイント阻害薬による副作用は免疫関連有害事象(irAE)と呼ばれるのが一般的です。特に重篤な副作用として知られるものを以下に挙げました。

  • 間質性肺炎
  • 大腸炎(下痢や黒い便を含む血便、腹痛など)/消化管穿孔
  • 1型糖尿病(口渇、水分を多く摂りたがる、尿量増加など)
  • 甲状腺機能障害などホルモン分泌障害
  • 腎機能障害/腎炎/急性腎不全
  • 肝機能障害
  • 皮膚障害
  • 重症筋無力症(まぶたが下がったまま戻らない、手足に力が入らないなど)
  • ギラン・バレー症候群
  • 筋炎/心筋炎(疲れやすい、だるい、筋肉の痛み、発熱、咳、胸の痛みなど)
  • ブドウ膜炎
  • 心不全
  • アナフィラキシー性ショック
  • 血小板減少症
  • 脳炎/脳症

免疫関連有害事象は、重症化すると生命に関わることもあります。身体の様子が普段と違うと感じたら、すぐに担当医師に相談しましょう。免疫チェックポイント阻害薬を使うことでどのような副作用が出るのか、患者さん自身だけではなく周囲の方も理解を深めておくことが大切です。

免疫チェックポイント阻害薬は保険適用できるのか

免疫チェックポイント阻害薬は保険適用できるのか

免疫チェックポイント阻害薬で保険が適用できるがん種は、悪性黒色腫、非小細胞肺がん、腎細胞がん、頭頸部がんや胃がんなど様々です。保険適用範囲は今後も広がっていくと考えられます。

一方で、保険が使えないがんに対して免疫チェックポイント阻害薬を投与した場合、副作用の発現リスクが高まることを覚えておきましょう。

保険適用外のがんに対して免疫チェックポイント阻害薬の投与を受けたいときは、自由診療の医院で診てもらうことになります。その医院が、発現リスクのある副作用についてきちんと説明してくれるとは限りません。また、入院施設や緊急事態への対応が整っていないケースもあります。

そんな中で重篤な副作用が発現すると、最悪の場合は生命を落としかねません。大切な生命を守るためにも、万全の設備と体制を整えた医療機関で相談することをおすすめします。

まとめ

免疫チェックポイント阻害薬は、患者さんの体内にある免疫細胞の働きを活性化させることを目的として生み出されました。主に使用されているのは、CTLA-4阻害剤、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤の3種類です。

投薬によって免疫の働きが過剰になると副作用を起こす恐れがあり、その中には重篤なものも報告されています。どんな副作用が起こりうるか、しっかり医師に確認しておきましょう。万が一の際にきちんと対応してもらえる設備と体制が整っているかどうかも大切なポイントです。

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