免疫放射線療法とは?最新がん治療について

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免疫放射線療法とは?最新がん治療について

免疫放射線療法とは?最新がん治療について

がんの新しい治療法として、「免疫放射線療法」が注目されています。この治療方法のポイントとなるのは、放射線を照射していない部位にあるがんも縮小する「アブスコパル効果」です。この効果を用いれば、全身にがんが転移しているケースでも治癒が期待できます。

この記事では、免疫放射線療法の効果や特徴、デメリットなどについてまとめました。ぜひ最後まで読んでみてください。

免疫放射線療法とは

免疫放射線療法とは

免疫放射線療法とは、がんの存在する箇所に放射線を当てる「放射線治療」と、がん細胞が免疫にブレーキをかける作用を阻止する「免疫チェックポイント阻害薬」を併用することにより、体の免疫力を高めてがんを攻撃する治療です。がんの最新の治療方法として注目されています。まずは、免疫放射線療法の考え方や期待できる効果を解説します。

放射線治療における免疫への効果

放射線治療とは、がん細胞のある部位に機械で放射線をあてることにより、がん細胞を破壊する治療法です。放射線を照射されたがん細胞は、DNAが切断されます。DNAが切断されると、その細胞は最終的にアポトーシス(自殺)に追い込まれ、破壊されます。

しかし、一部の細胞は放射線により破壊されず、ダメージを受けたまま体内に残ってしまうことがあります。残った細胞は、体内の免疫を司る細胞により攻撃され、最終的には消滅します。

がん細胞は、それぞれ「抗原」と呼ばれる目印を持っています。免疫細胞は、弱ったがん細胞を破壊する際にこの抗原を記憶します。

そして、同様の抗原をもつがん細胞を攻撃することに役立てるのです。このように、放射線治療はがん細胞への免疫機能を活性化する働きがあることが判明しています。

全身のがんに効果のある「アブスコパル効果」

放射線治療によりがんへの免疫が活性化すると、放射線を照射していない、離れた組織もがん細胞を攻撃する効果を発揮します。この現象は「アブスコパル効果」と呼ばれています。

アブスコパル(abscopal)とは、ラテン語で「遠く」という意味を示す「アブ」、古代ギリシア語の「狙う」という意味の「スコパル」を組み合わせた言葉です。かつてごく一部のケースのみで認められる珍しい現象として知られていました。しかし近年、その効果を発生させるメカニズムが徐々に明らかになり、注目されるようになってきたのです。

アブスコパル効果は、放射線治療をおこなった全ての人に出現するわけではありません。しかし、最近の研究で放射線治療と免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせることにより、アブスコパル効果の出現率がより高まることがわかってきています。アブスコパル効果を発現させる免疫放射線療法は、全身に転移がある状態であったとしてもがん細胞を消滅させ、がんを治癒することができる大きな可能性のある治療方法として期待されているのです。

がんの三大治療のひとつ「放射線療法」

がんの三大治療のひとつ「放射線療法」

免疫放射線療法でも使用される「放射線療法」は、がんの三大治療のうちのひとつとされています。放射線をがんに照射し、がん細胞を破壊する治療方法です。

放射線は、細胞分裂が活発な細胞ほどダメージを与えやすい性質を持ちます。そのため、細胞分裂の活発ながん細胞は他の正常な細胞と比較し放射線の影響を受けやすく、周辺の臓器へは最小限の影響のみで治療を進めることができるのです。

消化管への照射では下痢・嘔吐が起こったり、頭部の照射では部分的に脱毛したりと、照射した箇所に限定した副作用が発生することがありますが、抗がん剤のような大きな副作用症状は少ない傾向にあります。また、現在では放射線療法の技術が向上し、より負担の少ない効果的な治療ができる機器が出てきています。たとえば、次のような装置です。

  • サイバーナイフ
  • トモセラピー
  • メリディアン など

それぞれの特徴を簡単に紹介します。

動体追尾照射が可能な「サイバーナイフ」

サイバーナイフは、腫瘍にピンポイントで放射線を照射することに特化した機器です。海外では「ラジオサーフェリー(放射線による外科手術)」とも呼ばれています。

ロボットアームが設置されており、360度、さまざまな箇所からの照射が可能であることが大きな特徴です。また、呼吸による体の動きに合わせて照射位置を調整する「動体追尾照射」ができるため、胸部をはじめとする呼吸と共に動く部位もピンポイントで狙えます。

サイバーナイフについているロボットアームは、360度、最大で100ヶ所から、それぞれが12方向に照射可能です。とくに頭頸部のがんや、肺、肝臓の治療で威力を発揮します。

線量分布を細かく設定できる「トモセラピー」

トモセラピーは、放射線治療装置とCTが一体となったものです。トモセラピーでの放射線療法は、照射する放射線ビームの強弱や、最適な線量分布を細かく設定できること、360度方向から連続回転しながら治療ができるという特徴があります。がんの形や大きさ、周囲の臓器の位置などについてCT画像により正確に測定し、確実にがん細胞の存在する部分に放射線を照射します。

MR画像がリアルタイムに確認できる「メリディアン」

メリディアンは、放射線治療と強力な磁石と電波を使用して体をさまざまな断面から画像を映し出すMRIとが組み合わさった装置です。放射線治療中にリアルタイムでMR画像が確認できるため、治療中に腫瘍の位置や周囲の組織の位置関係や動きを把握し、より的確に治療をおこなうことができます。

MRIは、CTと比較すると画像上で臓器の境界が分かりやすいというメリットがあります。治療用途以外の放射線被曝をすることなく、画像でがんや臓器の位置を確認しながら安全に放射線治療を実施できるのです。

がん治療の「第4の選択肢」として注目される免疫療法

がん治療の「第4の選択肢」として注目される免疫療法

免疫療法は、従来「がんの三大治療」と呼ばれていた外科手術、化学療法、放射線療法と並ぶ「第4の選択肢」として注目されている治療方法です。通常、私たちの体には免疫機能が備わっています。外部から侵入してきた病原菌や、DNAの突然変異により体内に発生したがん細胞のような異物を免疫細胞が攻撃し、体を病気から守ってくれているのです。

しかし、体内の免疫バランスが崩れ、発生したがん細胞が排除できないままになってしまうことがあります。残ったがん細胞が分裂や増殖を繰り返して大きくなると、病気としての「がん」が発生するのです。弱った免疫機能を回復させ、がん細胞の増殖や発生を抑えるための治療法が免疫療法です。

がんに対する免疫を維持する「免疫チェックポイント阻害薬」

免疫療法の中でも注目を集めているのが「免疫チェックポイント阻害薬」による治療です。がん細胞は、自身が攻撃を受けないようにするため、がんを破壊する免疫細胞(T細胞)にブレーキをかけ、免疫機能に排除されないような仕組みを自ら作り出します。この仕組みは「免疫チェックポイント」と呼ばれます。

免疫チェックポイント阻害薬は、T細胞やがん細胞に働きかけ、免疫機能にブレーキがかかることを防ぐ薬です。つまり、免疫チェックポイント阻害薬を投与すると、免疫ががん細胞を攻撃する力を維持することができるのです。日本国内で使用される免疫チェックポイント阻害薬には、大きく分けて次の3種類があります。

  • 抗PD-1抗体(オプジーボ・キイトルーダ)
  • 抗CTLA-4抗体(ヤーボイ)
  • 抗PD-L1抗体(テセントリク・バベンチオ・イミフィンジ)

それぞれの種類により、アプローチ方法が異なります。一般的に免疫チェックポイント阻害剤は、メラノーマ(悪性黒色腫)、非小細胞肺がん、腎細胞がん、胃がん、悪性胸膜中皮腫などに利用されています。

治療ができるがんの種類はそれぞれの薬剤により異なります。また、単剤で使う場合、他の薬剤と組み合わせて使用する場合など使用方法もさまざまです。現在も活発に研究が進んでおり、今後もよりさまざまな薬の開発・承認が期待されています。

免疫放射線療法が効果を発揮するがんとは

免疫放射線療法がどのがんに効果を発揮するのか、気になる方も多いでしょう。免疫放射線療法は、基本的に全てのがんに適用可能です。なお、とくに次のがんには大きな効果があるとされています。

  • 悪性黒色腫
  • 泌尿器系のがん
  • 肺がん
  • 頭頸部がん

ステージ3、ステージ4の進行がんや、全身に転移のあるがんであったとしても、免疫放射線療法を適切におこなえば、治療効果を得られるでしょう。従来、全身にがんの転移がある場合には、抗がん剤による治療が主な選択肢でした。ところが、免疫放射線療法であれば、全身に転移があったとしても、体になるべく負担をかけずに治療できるのです。

免疫放射線療法でがんの治療成功させた事例

免疫放射線療法でがんの治療成功させた事例

実際に、免疫放射線療法によりがんが治癒した患者さんの事例を紹介します。直腸癌、骨転移のある患者さんの事例です。恥骨、坐骨、リンパ節、皮膚に転移を認めていました。

恥骨と坐骨にサイバーナイフで1回照射後、オプジーボ・ヤーボイにて免疫療法を実施。サイバーナイフ施行後7ヶ月のPET検査にて、治療した箇所のがんの消失を認めました。それだけでなく、治療前に認められていた複数の転移病巣も一緒に消失していました。

免疫放射線療法により強化された免疫細胞が、放射線を照射していない部分のがんに対しても攻撃をしたことでがん細胞が消えたのです。放射線治療、免疫療法を適切におこなったことにより、患者さん自身の自然治癒力が引き出され、がんを治したと言えるでしょう。

出典:YouTube 佐藤俊彦医師による セカンドオピニオン情報サイト

免疫放射線療法の課題点

免疫放射線療法の課題点

新しい治療法である免疫放射線療法には、課題点も複数存在します。たとえば、次の3点が現時点での課題といえるでしょう。

  • 限られた医療機関でしか実施されていない
  • がんの種類により保険適応可能かどうかが異なる
  • 狙った効果を完全に起こすことは難しい

それぞれ解説します。

限られた医療機関でしか実施されていない

免疫放射線療法は、限られた医療機関でしか受けることができません。免疫放射線療法は、新しい治療の考え方のひとつです。

適切に治療をおこなうためには、専門知識を持つ放射線医師と臨床医との連携が必須です。たとえば外科の医師ががんを見ている場合、主治医の免疫や放射線への考えが合わなければ、この治療法は選択されません。

また、免疫放射線療法をおこなうためにはサイバーナイフによる照射が適切です。しかし、サイバーナイフを設置している医療機関は現時点では少数であり、治療のボトルネックとなることも多いでしょう。

がんの種類により保険適応可能かどうかが異なる

治療に際し、費用の面も重要です。標準治療のなかで実施される一般的な放射線治療は、2020年4月より保険適応となっており、3割負担で受けられます。また、免疫チェックポイント阻害剤にも、公的医療保険を適用できるものが増えてきました。

すなわち、必ずしも自由診療でなくても、がんの種類や程度によっては保険診療の範囲内で治療が可能であるといえます。しかし、全てのがん、全てのパターンで保険が適用される訳ではありません。大部分のがんに対しては自由診療の範囲となるため、治療のデメリットといえるでしょう。

狙った効果を完全に起こすことは難しい

放射線と免疫を組み合わせた治療をすることで、アブスコパル効果により、全身にがんの転移がある患者さんも完治したという症例が発表されています。しかし、現在の技術では、この効果を100%出現させることはできません。今後の研究や治療技術の向上により、やがては確実な治療法として選択される時代が来ると考えられています。

まとめ

最新のがん治療である「免疫放射線療法」の効果や特徴、デメリットについて解説

この記事では、最新のがん治療である「免疫放射線療法」の効果や特徴、デメリットについて解説しました。放射線療法には、全身のがん細胞への免疫力を高める作用があります。放射線療法と免疫チェックポイント阻害剤を併用することにより全身の免疫機能を強化する治療法が、免疫放射線療法です。

免疫放射線療法により免疫機能が強化されると、放射線を当てていない全身のがん細胞に対しても免疫細胞が攻撃し、がん自体を消滅させる「アブスコパル効果」を従来よりも高い確率で起こすことが可能となるのです。免疫放射線療法が実施可能な施設は限定されていますが、今後、新しいがんの治療法として今後ますます発展を遂げることが期待されています。

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