免疫チェックポイント阻害薬の種類・製品名の早わかり一覧表
「がんの免疫療法」と言えば、従来は「免疫細胞の力を高める」という点に焦点を当てたものでした。
ただし、一定の効果はあったものの、何か今一つ力が及ばない……。
試行覚悟が行われるなか、発見されたのが、「がん自身が、免疫にブレーキをかける能力を持っている」ということです。
免疫のブレーキは、専門用語で「免疫チェックポイント」です。
免疫チェックポイントが踏まれることを防ぐ薬を総じて「免疫チェックポイント阻害薬」と言います。
そこで免疫チェックポイント阻害薬の種類と概要、そしてどんな種類のがんに使用されるのかをまとめました。
免疫チェックポイント阻害薬とは?
免疫チェックポイントは、本来、免疫の暴走と事故への攻撃を防ぐために免疫に備わっている仕組みです。
がんは、この仕組みを悪利用します。
様々な手法でこの免疫チェックポイントにアプローチし、自分が攻撃されないように、免疫を抑えてしまうのです。
がんが免疫チェックポイントにアプローチする仕組みについてはこちらの記事に詳しくまとめていますので、ご覧ください。
『がん細胞が免疫にブレーキをかける? 「免疫チェックポイント」とは』
がん患者さんの免疫力が落ち、がんが増殖し、さらに免疫力が落ちる、という悪循環に陥ってしまうと、治療は大変困難になります。
がんが、免疫チェックポイントを作動させないようにするために開発された薬を総じて「免疫チェックポイント阻害薬」と言います。
がんが免疫にブレーキをかけないようにし、免疫細胞が十分に働けるようにする薬です。
免疫チェックポイント阻害薬の種類
免疫チェックポイントを阻害するという、従来の免疫療法とは全く異なる画期的なコンセプトは、多くの製薬会社を魅了しているようで、現在多くの会社で開発が進んでいます。
日本国内で免疫チェックポイント阻害薬と言えば、大きく分けて次の3種類があります。
- 抗PD-1抗体
- 抗CTLA-4抗体
- 抗PD-L1抗体
「抗PD-1抗体」と「抗CTLA-4抗体」は承認済み、「抗PD-L1抗体」は承認申請中です。
治療薬の承認とは?
薬を国内で使用するためには、国によって「承認」される必要があります。
承認は、薬自体にOKが出るというような大雑把なものではなく、Aという病気にだけ適応、Bという病気のこんな状態にだけ適応、といったような細かいものです。
がんであれば、部位や状態によって承認の状況が異なります。
免疫チェックポイント阻害薬に関する一覧表
種類 | 抗PD-1抗体 | 抗CTLA-4抗体 | 抗PD-L1抗体 | |
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一般名 | ニボルマブ | ペムブロリズマブ | イピリムマブ | アテゾリズマブ |
製品名 | オプジーボ | キイトルーダ | ヤーボイ | テセントリク |
仕組みのイメージ | T細胞のカギ穴を塞ぐ =がんがカギをさせなくなる |
T細胞の連絡口を塞ぐ =樹状細胞からの抑制命令を回避できる |
がんのカギに蓋をする =T細胞にカギをさせなくなる |
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主な適応 | メラノーマ 非小細胞肺がん 腎細胞がん ホジキンリンパ腫 |
メラノーマ 非小細胞肺がん(PD-L1陽性) |
メラノーマ | 申請中のみ |
今後の適応に期待 | 頭頚部がん 胃がん 食道がん 胃食道接合部がん 食道がん 肝細胞がん 膠芽腫 尿路上皮がん 悪性胸膜中皮腫 卵巣がん等 |
ホジキンリンパ腫 膀胱がん 乳がん 胃がん 頭頚部がん 多発性骨肉腫 食道がん 肝がん 腎細胞がん等 |
非小細胞肺がん 小細胞肺がん FDA(アメリカ食品医薬品局)では、未治療の進行期メラノーマ、切除不能や転移性のメラノーマにおいて、抗PD-1抗体と併用治療が承認 |
非小細胞肺がん 膀胱がん 乳がん 腎細胞がん |
特筆事項 |
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オプジーボとキイトルーダの相違点とは?
オプジーボとキイトルーダ(もしくはニボルマブとペムブロリズマブ)はどちらも同じ仕組みで働く抗PD-1抗体です。
この2つは何が異なるのでしょうか?
先に承認されたのは、オプジーボです。
非小細胞肺がんの患者さんに対する臨床試験に参加したのは、「抗がん剤治療を受けたものの効果の無かった」患者さんたちでした。
治療効果が認められ、承認へとつながりました。
しかし、その後、従来型の抗がん剤を使用せずに、治療開始の最初からオプジーボを使用してもらおうとして臨んだ臨床試験では有意な効果を得ることができなかったのです。
オプジーボは非小細胞性肺がんに対して、従来型の抗がん剤である程度弱らせた後でなければ、効果的に治療できないということがわかりました。
一方、後発のキイトルーダは、がん細胞側のPD-L1発現率が50%以上もある症例に絞り込んだ状態で臨床試験を行いました。
PD-L1発現率が50%以上というのは、「抗PD-1抗体が効く確率が高いがん」です。
しかも、抗がん剤治療を行なうことなく、がん治療開始当初から投与する形の臨床試験でした。
その結果、肺がんの病態進行リスクを半減させ、延命効果もある、という大成功と言える試験結果を得ることになりました。
実は、これには、がん細胞がどの程度PD-L1分子を発現しているかを検査する診断薬の開発が大きく関係しています。
日本では2016年11月25日に承認されているアジレント・テクノロジー社の「ダコ」という薬が診断薬として使える状態になっていたのです。
この診断薬のおかげで、キイトルーダが効く確率が高い患者群をあらかじめ絞り込んだうえで臨床試験を行うことが可能になり、臨床試験の成功につながったのです。
臨床試験の結果、キイトルーダはオプジーボと異なり初回治療から使用できる第1選択薬となりました。
もしこの薬を使えるならば、患者は従来型抗がん剤治療による副作用の心配をする必要はなくなったのです。
しかし、代償として、臨床試験で対象の症例を絞り込んだために、キイトルーダが使えるがんの種類は少なくなってしまいました。今後の承認に期待です。
まとめ
現在がん治療の新薬開発で、最も熱い話題が免疫チェックポイント阻害薬です。
日本の小野薬品工業、アメリカのブリストル・マイヤーズスクイブ社、アメリカメルク社、イギリスアストラゼネカ社、スイス・ロシュ社、米ファイザー社、ドイツメルク社など、そうそうたる世界の製薬ビッグネームが、日々がん治療薬の開発でしのぎを削っています。
それにつれてさまざまな免疫チェックポイント阻害薬の研究が加速しています。今後、順次承認・商品化されると期待されています。
進行がんの治療では、免疫チェックポイント阻害薬の複数種類の併用、また免疫細胞療法を併用するケースが今後ますます増えていくでしょう。