乳がん治療のために誕生したトモセラピーの固定多門照射モードとは?
トモセラピーには二種類の照射モードが搭載されています。初期型から搭載されている「ヘリカル回転照射モード」と最近追加された「固定多門照射モード」です。
今回は二回に分けて、「ヘリカル回転照射モード」と「固定多門照射モード」それぞれについて説明します。
ここでは「固定多門照射モード」についてお話しましょう。
固定多門照射モード
固定多門照射モードは、トモセラピー独自の技術ではありません。実は他のIMRT機でも使われている照射方法です。
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トモセラピーはこのような外観をしており、患者さんが寝る部分は「カウチ」、ドーム状の部分は「ガントリー」と呼ばれています。
患者さんが仰向けになった状態でカウチに横になると、患者さんはカウチごとガントリーへと移動します。
360度回転できるガントリーは、適切な位置で止められ、がんに放射線を照射します。
ガントリーを回転させて位置を変えることで多方向からの放射線照射が可能になる――、これが「固定多門照射」の「多門照射」です。
位置を固定した状態で多門照射を行う、それが固定多門照射モードという呼び名の由来です。
固定多門照射モードは乳がんのために搭載された
初期のトモセラピーには、ヘリカル回転モードしかありませんでした。そこに固定多門照射モードが追加されたのは比較的最近の出来事です。
トモセラピーに固定多門照射モードが追加された理由は「乳がん」でした。
実は、ヘリカル回転照射モードを使って、乳がんにしっかりと放射線を照射しようとすると、肺や心臓に不必要な低線量が照射されることが避けられません。
もちろん、良いことではありませんね。
しかし、肺や、心臓への照射を避けようとすれば、放射線の照射に制限ができてしまい、乳がんを治療する効果は低下してしまいます。
固定多門照射モードが追加されたおかげで、トモセラピーは乳がんも強い放射線治療装置となりました。
固定多門照射モードが適する治療
トモセラピーの二つの照射モード、「ヘリカル回転照射モード」と「固定多門照射モード」はそれぞれ適応される部位や状態が異なります。
固定多門照射モードが適当とされる病変や部位には以下のようなものがあります。
- 骨転移
- 全脳照射
- 乳房
- T1喉頭
骨転移
がんの種類に限らず起こる骨への転移です。溶骨型と造骨型があり、溶骨型は骨折や麻痺のリスクを増大させます。
全脳照射
文字通り脳全体に放射線を当てる治療法です。例えば、脳転移と診断された患者さん対して、目に見えない脳転移までまとめて治療する目的で行われます。
乳房
固定多門照射モードは乳がんをはじめとする乳房への照射に向いているモードです。心臓や肺への悪影響を最小限に抑えられます。
T1喉頭
咽頭がん(声門がん)のうち、がんが声帯に限られているがんのことをT1と分類します。声門がんT1aでは声帯の片側まで、T1bでは声帯の両側までがんが広がっています。どちらも声帯の機能は正常な状態です。
固定多門照射モードが使われるのは、リンパ節転移の無い場合が主です。
ヘリカル回転照射モードと組み合わせれば、これに加えて、体幹部定位照射やマルチ転移、部分的乳房照射、前立腺、肺などにも適応されます。
ちなみに、固定多門照射モードではなく、ヘリカル回転照射モードが適すると言われている治療には以下のようなものがあります。
- 全身照射
- SRS(定位放射線治療)
- 前立腺+リンパ
- 頭頚部
- 胸壁+リンパ
- 全脳SIB(海馬を避ける照射法)
- 全脳全脊椎
まとめ
今回取り上げた固定多門照射モードともう一つのヘリカル回転照射モード、両者を合わせると、トモセラピーは非常に広い適応範囲を持ちます。
最新鋭の装置ですから、臨床結果はこれから積み重なっていきます。
今後、広い適応範囲とピンポイント照射、そして二つの照射モードによって、トモセラピーの高い治療成績がさらに証明されていくことでしょう。