前立腺がんの末期・ステージ4における治療の選択肢について

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前立腺がんの末期・ステージ4における治療の選択肢について

前立腺がんの末期・ステージ4における治療の選択肢について

前立腺がんは進行がとても遅いがんで、5年生存率はステージ全体で95.1%と予後が良好です。しかし、末期・ステージ4まで進行すると、リンパ節や他臓器に転移してしまい、生活の質が低下することもあるでしょう。

今回は、前立腺がんの末期・ステージ4における標準治療や、自由診療でおこなえる可能性のある治療方法について解説します。世界で有用性が認められている、前立腺がんに特化した検査方法も紹介するので、ぜひ最後までお読みください。

前立腺がん末期・ステージ4の余命

前立腺がん末期・ステージ4の余命

前立腺がん末期(ステージ4)における5年生存率や、生存期間に影響を与える要因について解説します。

前立腺がん末期の5年生存率

前立腺がん末期といわれるステージ4の5年生存率は60.1%で、全部位のがんのなかで5年生存率は極めて良好です。

男性がかかるがんにおいて、前立腺がんは罹患者数がもっとも多く、2020年には87,756人と報告されました。前立腺がんは進行が非常にゆるやかで、治療が必要な状態になるまで数十年かかります。死亡後の病理解剖で初めてがんが見つかる「ラテントがん」が多いのも前立腺がんの特徴です。

参考:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
   国立がん研究センターがん情報サービス「院内がん登録生存率集計」

前立腺がんの余命に影響を与える要因

前立腺がん末期の余命は、転移した場所に大きく影響されると海外の論文で報告されています。

リンパ節に転移したケースがもっとも生存期間が長く、平均で2年8ヶ月です。以降、転移した場所による生存期間の長さは、骨が1年9ヶ月、肺が1年7ヶ月、肝臓が1年2ヶ月の順となります。

前立腺がん末期でみられる症状

前立腺がん末期でみられる症状

前立腺がん末期でみられる主な症状や、転移した場所によって現れる症状について確認しましょう。

前立腺がん末期の主な症状

前立腺がんの早期のうちは、自覚症状がほとんどみられません。進行してくると、排尿痛・頻尿・残尿感などの排尿障害がみられるようになります。

そして末期まで進行するころには、尿や精液に血液が混ざるようになるのです。末期ではリンパ節やほかの臓器に転移しており、転移した臓器によってさまざまな症状が現れます。

骨に転移したときの症状

前立腺がんの末期では、骨転移を起こすケースが多くみられます。腰椎や骨盤への転移が多く、なかには肋骨へ転移することもあります。

骨転移でよくみられる症状は、痛み・麻痺・高カルシウム血症です。転移したがんによって骨がもろくなり、少しの外力でも骨折しやすくなります。高カルシウム血症による吐き気や意識障害が起こることもあるでしょう。

リンパ節に転移したときの症状

前立腺の近くにあるリンパ節は転移しやすい部位です。転移したがん組織が大きくなると、リンパの流れが悪くなります。リンパ節転移でよくみられる症状は、下半身のむくみ・しびれ・排尿障害です。

肝臓に転移したときの症状

肝臓に転移した場合、初めのうちは症状があまり目立ちません。転移したがんが大きくなってくると、腹痛・背中の痛み・食欲低下・体重の低下がみられるようになります。がんによって肝臓の機能が障害されると、黄疸・むくみ・腹水などの症状も現れます。

脳に転移したときの症状

前立腺がんが脳に転移するケースは非常に少ないとされています。脳転移したときにみられる症状は頭痛・めまい・麻痺です。がんが生じた場所によっては、意識障害や言語障害が起こる可能性があります。

前立腺がんの末期・ステージ4における標準治療

前立腺がんの末期・ステージ4における標準治療

前立腺がん末期・ステージ4の標準治療は、全身にがんが広がっていることから主に薬物療法がおこなわれます。薬物療法は、ホルモン療法と化学療法に大別されます。それぞれの治療について特徴をみていきましょう。

ホルモン療法

前立腺がんは男性ホルモンの影響を受けて進行するため、ホルモンの分泌や作用を抑える薬が使用されます。ホルモン療法は長く続けていると、効果がだんだん弱くなり、薬を使用していてもがんの勢いを抑えられなくなることが分かっています。ホルモン療法で使用される薬についてみていきましょう。

LH-RH作動薬

LH-RH作動薬は、LH-RH(黄体形成ホルモン放出ホルモン)によく似た性質の薬剤で、投与すると脳下垂体に働きかけ、男性ホルモンの1つであるテストステロンの分泌を抑える作用があります。

投与して間もないときに、一過性で血液中のテストステロン量が増えることがあります。主な副作用は性欲減退・勃起障害・女性化乳房です。

LH-RH遮断薬

LH-RH遮断薬は、薬剤がLH-RH受容体に直接結合し、LH-RHの分泌を抑えます。LH-RHには、精巣からテストステロンの分泌を促す働きがありますが、LH-RH遮断薬により分泌量が減るため、最終的にテストステロンの生成を抑えるのです。

LH-RH作動薬より効果が早く現れる特徴があります。性欲減退・勃起障害・女性化乳房などの副作用が起こりやすいでしょう。

抗男性ホルモン剤

男性ホルモンは精巣のみならず、副腎からも分泌されています。抗男性ホルモン剤は、副腎から分泌された男性ホルモンが、アンドロゲン受容体に結合するのを阻止することでがんの増殖を抑えるのです。

抗男性ホルモン剤は、ステロイド系と非ステロイド系の2つに分類されます。主な副作用は、性欲減退・勃起障害・女性化乳房です。

アンドロゲン受容体シグナル阻害薬(ARSI)

アンドロゲン受容体シグナル阻害薬(ARSI)は、LH-RH作動薬・LH-RH遮断薬・抗男性ホルモン剤による治療をおこなっても、がんが増えてしまう場合に使用されますが、最近は早い段階から使用開始されることもあります。

アンドロゲン受容体シグナル阻害薬は、アンドロゲン生成にかかわる酵素を阻害したり、アンドロゲン受容体に結合して情報伝達を阻害したりして効果を発揮するのです。主な副作用は疲労で、薬剤の種類によって高血圧・悪心嘔吐・皮疹などもみられます。

エストロゲン製剤

エストロゲン療法は、ほかのホルモン療法で効果が得られない場合におこなわれます。女性ホルモンのエストロゲンを投与すると、前立腺や精嚢の重さを減らし、男性ホルモンの分泌量を抑えることでがんが増殖するのを防ぐのです。まれに血栓症・心不全・狭心症の副作用が起こることがあります。

化学療法

化学療法は、ホルモン療法で効果がみられない場合におこなわれますが、近年はホルモン療法と併用するケースも増えてきました。前立腺がんでは主にタキサン系抗がん剤が用いられています。

タキサン系抗がん剤は、がんの細胞分裂を妨げることで効果を発揮するのです。副作用は、食欲不振・全身倦怠感・脱毛・骨髄抑制などがよくみられます。

そのほかの治療

前立腺がん末期・ステージ4ではホルモン療法や化学療法のほかに、以下の治療をおこなうことがあるでしょう。

ホルモン療法が効きにくく転移が骨のみであれば、骨転移したがんが増殖するのを抑えるために放射性医薬品のラジウム-223(商品名:ゾーフィゴ)が選択肢になります。また、ホルモン療法で効果が得られず、遺伝子変異がある場合には、免疫チェックポイント阻害薬やPARP阻害薬が使用できる可能性があります。

がんによる出血や痛みがある場合は、症状をやわらげるために放射線の緩和照射がおこなわれることがあるのです。

前立腺がんの末期・ステージ4の標準治療以外の方法

前立腺がんの末期・ステージ4の標準治療以外の方法

前立腺がん末期・ステージ4では、標準治療をおこなってもなかなか改善しないことがあります。自由診療のなかで、前立腺がん末期・ステージ4でも適応する治療を2つ確認していきましょう。

免疫BAK療法

免疫BAK療法は、自分の免疫細胞(ガンマデルタT細胞・NK細胞)採取し、 約1000倍まで培養してから体内に戻す治療方法です。免疫BAK療法は、自然免疫応答によりがん細胞を直接攻撃する特徴があります。放射線治療と一緒におこなうと、NK細胞のがんを攻撃する力が高まるため、効果を得られやすいというデータがあります。

治療にかかる費用は1クール約280万円〜400万円で、自由診療のため全額自己負担となります。

PSMA治療

PSMA治療は、前立腺がん細胞に結合するPSMA抗体に、α線やβ線を放つ放射性物質を付けた放射性医薬品を使用します。PSMA治療のメリットは、がんに対して至近距離から高エネルギーの放射線を打てることです。50%以上がん組織が減った割合は、化学療法が37%であるのに対しPSMA治療は66%で、より多くの患者に効果があると海外の論文で報告されています。

PSMA治療を受けたい場合は、国内の治験に参加する、もしくは海外で治療を受けることになるでしょう。海外で治療を受ける場合、治療費が150万円~250万円、そのほかに滞在費などがかかります。

前立腺がんの末期・ステージ4の治療方針を決める注目の検査

前立腺がんの末期・ステージ4の治療方針を決める注目の検査

前立腺がんに対して特異的に反応するため、がん検出率が高い「PSMA-PET検査」が近年登場し、国内外で注目されています。PSMA-PET検査について、基本情報やほかの検査との違いについてみていきましょう。

前立腺がんの診断に有用なPSMA-PET検査

PSMAとは「前立腺特異的膜抗原」のことで、前立腺細胞の表面に多く出現しています。前立腺にがんが発生するとPSMAは増加する性質を持っています。増殖スピードが速かったり、悪性度が高かったりするほどPSMAが出現しやすく、通常の数千倍にまで増えることがあるのです。

PSMA-PET検査は、PSMAに結合する性質を持つ放射性医薬品を体内に投与し、特殊なカメラで撮影する方法です。前立腺がん細胞の活動がさかんなところや、悪性度の高いところに薬剤が集中するため、がんを検出しやすくなります。

1mm程度の小さながんや骨転移したがんを発見しやすい特徴があり、がんのステージ診断や治療効果の判定に有用です。さらに、PSMA治療がおこなえるか否かの判断材料として利用されることもあります。

PSMA-PET検査と一般的なPET検査や骨シンチグラフィとの違い

一般的なPET検査ではPSMA-PET検査と異なり、ブドウ糖に似た性質を持つ放射性医薬品を検査薬として使用します。前立腺周辺は、体の機能的にブドウ糖が集まりやすい性質があるため、一般的なPET検査では検査薬が集中しすぎてしまい、前立腺にがんがあっても発見しにくいことがあるのです。

骨転移を調べる場合、骨シンチグラフィ検査と比べて、PSMA-PET検査は感度と特異度に優れています。前立腺がんの骨転移の検出において、両者を比較した海外の論文では以下のとおり報告されました。

  • PSMA-PET検査:感度98.7~100%、特異度88.2~100%
  • 骨シンチグラフィ:感度86.7~89.3%、特異度60.8~96.1%

「感度」はがんである人を検出する能力のこと、「特異度」はがんではない人を割り出す能力のことを指します。

PSMA-PET検査を受けるには

PSMA-PET検査を希望する場合、国内で受診できる施設は2024年11月時点で数ヶ所です。欧米やオセアニア諸国ではPSMA-PET検査が承認されており、ステージ診断や転移の有無を確認するのに活用されていますが、日本国内ではまだ承認されていません。そのため、検査にかかる費用は全額自己負担となり、相場は25万円前後です。

前立腺がん末期・ステージ4では適切な治療方針を決定するために、精度の高いPSMA-PET検査は非常に有益で、早期の保険適用が期待されています。

まとめ

前立腺がん末期・ステージ4の標準治療は、ホルモン療法や化学療法が中心

前立腺がん末期・ステージ4の5年生存率は、ほかのがんと比べて非常に良好ですが、がんの転移した臓器によって、余命に影響を及ぼすことがあります。

前立腺がん末期・ステージ4の標準治療は、ホルモン療法や化学療法が中心です。ただし、ホルモン療法は徐々に効果が弱くなる傾向があったり、化学療法には脱毛や血液障害などの副作用があったりして、標準治療が思うように進まないこともあります。自由診療には、免疫BAK療法やPSMA治療など効果が見込まれる治療があるため、選択肢の1つとして挙げられるでしょう。

前立腺がん末期では、適切な治療方法を決めるために、病巣の勢いや転移の範囲を見極めることが肝心です。前立腺がんにおいて精度の高い情報を得られるPSMA-PET検査は、世界的にも有用性が認められています。国内で受診できる施設は2024年時点で数ヶ所ですが、個々に合った治療の選択肢を見つけるためにPSMA-PET検査の受診を視野に入れましょう。

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