前立腺がんのステージや初期症状・治療法などを解説

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前立腺がんのステージや初期症状・治療法などを解説

前立腺がんのステージや初期症状・治療法などを解説

主に50歳以上の男性にしばしば見られる前立腺がん。前立腺がんの進行はわりと緩やかだといわれていますが、進行がんになると転移を起こすため油断は禁物です。

「気がかりな症状が出ているが、前立腺がんか知りたい」
「前立腺がんと診断されたが、どういった治療方法があるか知りたい」

今回は前立腺がんについて、ステージの判断基準や初期症状、治療方法について解説します。ぜひ最後までご覧ください。

前立腺がんとは

前立腺がんとは

前立腺がんは、膀胱のすぐ下にある男性独持の臓器「前立腺」に発症するがんです。日本人男性が罹患するがんの中で、前立腺がんは一番多く、2019年には9万人を超えました。

前立腺がんの罹患率は50歳以降から急激に増え始め、70歳代後半がピークになります。

前立腺がんを引き起こす原因はまだ解明されていませんが、動物性脂質の過多摂取・肥満・糖尿病・メタボリックシンドロームなどが考えられています。

罹患リスクには、血縁者に前立腺がんの既往歴があることが挙げられ、2.4~5.6倍に高くなると知られています。

前立腺がんは、わりと緩やかに進むケースが多く、ステージが早ければ治癒が見込めます。

前立腺がんのステージ別5年生存率

2000年代に入ってから、前立腺がんの5年生存率は大幅に上がってきました。ステージ別の5年生存率は以下の通りです。

  • がんが前立腺内に収まっている「限局性がん」:100%
  • がんが前立腺の被膜を超えて大きくなった「領域がん」:98.5%
  • リンパ節や遠くの臓器へ転移している「転移性進行がん」:60.1%

前立腺がんは、転移する前のステージで見つかり治療が行えれば、5年生存率は98%を超える高い値になります。

近年は検診技術と治療方法の発展により、ステージが限局性から領域の範囲で見つかるケースが7割以上を占めています。

前立腺がんのステージ別の症状について

前立腺がんのステージ別の症状について

前立腺がんはどういった症状が現れるのか、ステージ別に詳しく解説します。

初期症状

早いステージの前立腺がんは、自覚症状がほとんど見られません。

前立腺がんの生じる場所の多くは、前立腺の中を通っている尿道から離れた辺縁領域であるため、前立腺肥大症のような排尿障害の症状が現れにくいといわれています。ステージが進まないうちに前立腺がんが確認されるのは、他の病気の組織検査によることが大半です。

前立腺がんが大きくなってくると、がん細胞が尿道を圧迫するため次の症状が出てきます。

  • 尿が出にくくなる
  • 尿の回数が増える
  • 排尿が終わるまでに時間がかかる

上記の症状は、違う泌尿器系の病気でも生じるため、自覚症状だけで前立腺がんか否か鑑別するのは難しく、精密検査が必要となります。

進行がんの症状

前立腺がんのステージが進み、隣接する臓器(膀胱・尿道・精のう)へがん細胞が到達すると、次の症状が現れます。

  • 血尿が出る
  • 精液に血液が混ざる
  • 尿が漏れる

がん細胞が、膀胱からさらに進展して上部の尿管を塞いでしまうと、腎臓に尿が溜まって膨張する水腎症を引き起こし、腎不全や尿毒症につながる可能性があります。

ステージが相当進み、リンパ節や骨へ転移すると現れる症状は以下の通りです。

  • 下肢のむくみ
  • 下肢の痺れ
  • 腰痛
  • 背部痛

骨転移すると痛みがだんだん強くなり、疼痛コントロールが必要となります。がん細胞によって骨がもろくなると骨折の恐れもあります。

前立腺がんのステージと悪性度とは

前立腺がんのステージと悪性度とは

前立腺がんにおいて、ステージと悪性度の判断は、治療方法を検討するのに必要です。ステージはがんの進展した範囲を表し、悪性度はがん細胞が増殖する速さを表したものになります。それぞれの判断基準について詳しく解説します。

ステージはTMN分類で判断

前立腺がんのステージは、TMN分類を用いて判断します。TNM分類は3つの要素で構成されています。

1つ目のT(tumor)因子は、前立腺がん自体が進展した範囲を表したものです。がん細胞が前立腺内に収まっているか、周辺の臓器まで進展しているのかなどを分類しています。T因子の大きな分類は以下の通りで、T1~T3はさらに細かく項目が分かれています。

  • T1:直腸診や画像診断では認められず、他の手術でたまたま見つかったがん
  • T2:前立腺内に収まっているがん
  • T3:前立腺の被膜を超えて進展しているがん
  • T4:隣接している組織(膀胱・直腸・骨盤壁)へ進展したがん

2つ目のN(lymph node)因子は、がん細胞が前立腺と直結しているリンパ節へ転移しているか否かを表したものです。

  • N0:前立腺と直結しているリンパ節へ転移なし
  • N1:前立腺と直結しているリンパ節へ転移あり

3つ目のM(metastasis)因子は、前立腺から遠い臓器やリンパ節へがん細胞の転移があるか否かを表したものになります。

  • M0:前立腺から遠い組織やリンパ節への転移なし
  • M1:前立腺から遠い組織やリンパ節への転移あり

例えば、T3-N0-M0と表記されたら、前立腺がんが被膜を超えて進展しているが、転移は認められないというステージになります。

悪性度はグリソンスコアで判断

前立腺がん細胞の悪性度はグリソンスコアを用いて、進行が遅いおとなしい性質か、進行が早く勢いのある性質かを判断します。同じ前立腺がん細胞の中でも、性質の異なるがん細胞が存在していることがあります。

検査で採取したがん細胞の組織型を調べて、悪性度に応じて5段階に分類します。もっとも面積の多い組織型(第1パターン)と2番目に多い組織型(第2パターン)のパターンの点数を合計したものがグリソンスコアです。

パターンは1から5まであり、パターン5がもっとも悪性度が高くなります。グリソンスコアをもとにした基準は次の通りです。グレード1は進行がわりと緩やかながんで、グレードが上がるほど悪性度の高いがんと評価されます。グリソンスコア7では、第1パターンの点数によってグレードが変わります。

  • グレード1:グリソンスコア6以下
  • グレード2:グリソンスコア7(第1パターン3)
  • グレード3:グリソンスコア7(第1パターン4)
  • グレード4:グリソンスコア8
  • グレード5:グリソンスコア9~10 

転移が認められない前立腺がんは、グリソンスコア・T因子・PSA値を用いて、3段階にリスク分類します。

前立腺がんの検査方法について

前立腺がんの検査方法について

前立腺がんの検査方法は大きく4種類あります。それぞれの検査方法について詳しく解説します。

PSA検査

PSA検査では、前立腺で作られるたんぱく質「PSA」の血中濃度を測定します。がんが発生して前立腺に炎症が起こると、PSAの血中濃度が上がるため、値が高くなるほど前立腺がんの疑いが高くなります。

PSAの基準値は0~4ng/mLです。PSA値が4〜10ng/mLほどのわずかな上昇でも、精密検査を行うと20〜40%の割合でがんが見つかります。一方で、基準値を大きく超えてもがんが見つからないケースもあります。

直腸診・エコー

直腸診は、肛門から指を入れて前立腺の表面の様子や硬さなどを調べる検査です。前立腺の左右の大きさが違ったり、表面に凹凸が見られたりする場合は、前立腺がんの疑いがあります。

経直腸エコーは、肛門から専用の器具を挿入し、超音波を用いて前立腺の内側の様子を調べる検査です。場合によっては、後述する前立腺生検と同時に行われます。

前立腺生検

前立腺生検は、組織を採取し、顕微鏡でがん細胞の有無を確認する検査です。経直腸エコーで前立腺の様子を観察しながら、針型の器具を用いて、10〜12ヶ所の組織を採取します。前立腺生検は原則的に短期入院で行います。

画像診断

前立腺がんで行われる画像診断には、MRI検査・CT検査・骨シンチグラフィ検査があります。画像診断は、前立腺がんの進展状況を確かめる目的で行います。

MRI検査では、前立腺がんが生じている部位や周囲への進展などを調べます。CT検査はリンパ節や他臓器へ転移の有無を確認するために行います。骨シンチグラフィは骨転移の有無を調べる検査です。

前立腺がんの治療方法とは

前立腺がんの治療方法とは

未治療の前立腺がんで行われる一般的な治療方法と、ステージ別の治療の選び方について解説します。

監視療法

監視療法は、早いステージでリスクが低く、すぐに治療を開始しなくても命の危険がないと判断されたときに選択されます。

PSA検査と直腸診を3~6ヶ月ごとに行い、1~3年ごとに前立腺生検を実施するのが一般的です。定期的に検査を続けて、状況の悪化が見られたタイミングで治療を開始します。監視療法の利点には、過剰な治療を防ぎ、治療による苦痛やQOL低下を回避できることが挙げられます。

フォーカルセラピー

フォーカルセラピーは、がんの病巣を治療しつつ正常な組織を極力残す治療方針です。がん治療と患者のQOLを両立させることを目的としています。

具体的な治療方法には、高密度焦点超音波療法(HIFU)・凍結療法・小線源療法などが挙げられます。現時点ではフォーカルセラピーに確立されたエビデンスが揃っていないため、主治医と十分な話し合いの上で実施します。

手術療法

手術では前立腺と精のうを摘出して、膀胱と尿道をつなぐ処置が施されます。手術方法には、開腹手術・腹腔鏡下手術・ロボット支援下手術があり、近年ではロボット支援下手術が主流となってきました。

腹腔鏡下手術やロボット支援下手術は、開腹手術に比べて出血量が少なく手術創が小さいため、体への負担が少なく回復が早いです。またロボット支援下手術は、腹腔鏡下手術より繊細な手術が可能です。

手術後の合併症には、尿失禁や性機能障害があります。尿失禁は大半の人が3~6ヶ月で日常生活に困らない程度に回復します。神経と血管を温存できれば、性機能の回復も見込めます。

放射線療法

放射線療法は、放射線を前立腺がんに当てて、がん細胞の分裂や増殖を抑えてがんを減らす方法です。放射線療法の治療効果は手術療法に匹敵すると考えられています。手術療法より体への負担が少なく、高齢者や他の疾患を持っている人でも行えます。

放射線療法には、体の外側から放射線を当てる外照射療法と、前立腺内に放射線源を埋め込む組織内照射療法があります。一部の放射線治療は実施できる施設が限られます。

主な合併症で、治療後まもない頃には頻尿・排尿困難・血尿が見られます。治療後しばらくしてから直腸出血が起こることがあります。手術療法と比べると性機能障害は少ないですが、放射線療法後にほとんどの人で精子は作られなくなります。

ホルモン療法

前立腺がんは、男性ホルモンの刺激を受けて増えるがんです。ホルモン療法は、薬剤や去勢によって男性ホルモンの分泌や働きを妨げて、がんが増殖するのを阻止します。ホルモン療法に使われる薬剤には、LH-RH製剤や抗アンドロゲン薬があります。

ホルモン療法は長期間続けていると治療効果がだんだん弱くなり、がんの勢いが再び強くなってしまうのが問題点です。主な副作用には、ほてり・女性化乳房・骨密度低下があります。

ステージ別の治療方法

前立腺がんはステージとリスク分類によって選べる治療方法が変わってきます。ステージ別の治療方法の目安は下表の通りです。実際には、患者さんの全身状態・年齢・治療に対する希望なども考慮して決定します。

監視療法フォーカル
セラピー
手術療法放射線療法ホルモン療法
限局性がん
低リスク
×
限局性がん
中リスク
局所浸潤がん
高リスク
××
周囲臓器浸潤がん××
リンパ節転移・
遠隔転移したがん
×××

○:選択可 △:条件によって選択可 ×:選択対象外

監視療法が対象となるステージは、がんが前立腺内に収まり、リスクが低いケースです。フォーカルセラピーが対象となるステージは、がんが前立腺内に収まり、低~中リスクの場合になります。

手術療法が一番推奨されているステージは、がんが前立腺内に収まり、期待余命が10年以上あると判断されたケースです。条件によっては、がんが被膜を超えて進展していても転移が認められなければ手術を行うこともあります。

放射線療法は、がんが前立腺内に収まる状態から、被膜を超えて周囲の臓器へ進展した状態まで幅広いステージで適用されます。また手術療法が行えない高齢者にも適用しやすいです。条件によっては転移が認められた前立腺がんでも放射線療法を行います。

ホルモン療法の対象となるステージは、リンパ節や他の臓器へ転移しているケースです。全身状態などにより他の治療が難しい場合や、放射線治療の効果を高めるため併用する場合にも選択されます。

ステージ別の一般的な治療方針を紹介しましたが、納得のいく治療を受けるためには、主治医の説明を十分聞くことが大切です。それでも疑問があったり判断に迷ったりしたときは、違う医療機関の医師の意見を聞くセカンドオピニオン制度があります。

主治医と異なる目線で診断や治療方法について話があるため、病状や治療方法について、理解が深まったり選択肢が増えたりとメリットがあります。必要に応じてセカンドオピニオンの利用を検討しましょう。

まとめ

前立腺がんのステージや初期症状・治療法などを解説まとめ

前立腺がんは、日本人男性がかかるがんで最も多いがんです。進行がわりと遅いがんであるため、転移する前のステージで見つけて、治療ができれば5年生存率は100%近くあります。

ところが前立腺がんはステージが進むまで自覚症状はほとんど見られず、症状が出るころにはがんが進んでいることが多いのも事実です。
前立腺がんの治療は根治を目指す治療からがんの増殖を抑えるものまでさまざまあり、ステージだけではなく患者さんの年齢や全身状態などを考慮し最終決定します。

納得のいく前立腺がん治療を受けるためには、患者さんにも知識と理解が必要です。今回の記事がお悩みの解消につながれば幸いです。

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