ヤーボイとは?副作用や効能効果について解説
免疫療法で使用する薬剤「免疫チェックポイント阻害薬」の一種であるヤーボイ。痛みや身体的負担が少なく画期的な治療法として注目されていますが、ヤーボイはどのように作用し治療効果を発揮するのか気になっている方もいるのではないでしょうか。
今回は、ヤーボイにフォーカスした内容をお届けします。ヤーボイの効果や副作用、治療にかかる費用や期間について解説します。免疫療法の仕組みについても解説していますので、がんの治療法をお探しの方はぜひ参考にしてください。
目次
免疫療法について
まずは免疫療法のメカニズムや主な種類、がん細胞と免疫システムの関係について解説します。
免疫療法とは
<メリット>
- 全身に効果を発揮することができ、転移性のがんや再発予防にも期待できる
- 痛みや身体的負担が少ない
<デメリット>
- 治療効果は個人差が大きい
- 効果の発現に時間がかかり長期的な治療法である
免疫療法の種類
免疫療法はさまざまな免疫細胞の特徴を生かした治療方法であり、アプローチの方法も特徴によって異なります。
免疫療法とは、免疫監視機構を担うさまざまな免疫細胞や物質を活用し、がんに対する免疫応答をコントロールすることで治療に役立てる方法です。
大きく分類すると以下になります。
1.免疫細胞のブレーキを薬剤によって取り外す方法
- 免疫チェックポイント阻害療法
免疫細胞にブレーキをかけている各分子に対して、薬剤を使用しブレーキ機能を外して免疫細胞の活性化を目的とした治療方法です。
2.免疫細胞そのものを活性化させ治療効果を高める方法
- エフェクターT細胞療法
患者さん本人の免疫細胞を取り出し、外部でがん細胞を見分けることができる遺伝子(キメラ抗原受容体遺伝子)を加えて増殖させ、再び体内に戻して効果を発揮させる方法です。
このように、体内に投与する物質や使用する薬剤によって、さまざまな方法で自己の免疫細胞へアプローチし、がん細胞の排除を促せる治療法となっています。
がんと免疫システムの関係
がん細胞は突然出現するものではなく、体内では日々数千個に及ぶがん細胞が作られているといわれています。多くのがん細胞が体内で発生しているにも関わらず、全ての人にがん疾患が発生しない理由は、体内の免疫システムが常に作動し排除しているからです。
ではなぜ、免疫システムによってカバーされているはずのがん細胞が悪性腫瘍として出現するかというと、がん細胞が持つ免疫回避機構という働きによって体内の免疫システムを潜り抜け、増殖を可能にしていると考えられています。
がん細胞は、細胞の表面に「がん抗原」という特有のタンパク質を持っています。免疫システムは、この特徴を目印にし、がん細胞を見つけ出し攻撃しています。
そのため、がん抗原が見えなくなると免疫システムは有害物質であるのか判別することができなくなります。がん細胞はこの特徴を応用し、免疫システムから逃れるために、自らがん抗原の表出低下を行い、体内に紛れ込みます。
また、もう一つの手段として、侵入してきたがん細胞を排除しようと働きかける免疫細胞に対して、がん細胞が免疫抑制物質を作り出し、免疫細胞を休息状態へと導くことで攻撃されるのを避けるという手段で体内に残存することもあります。
このように、がん細胞はあらゆる形で免疫システムを潜り抜け、体内に潜り込んで増殖し、悪性腫瘍として身体を蝕んでいるのです。
免疫チェックポイント阻害薬について
免疫チェックポイント阻害薬とは
がん細胞は、免疫チェックポイント分子を発現または利用して、免疫システムからの攻撃を回避しています。免疫チェックポイント阻害薬はこの特徴を応用し、薬剤によってがん細胞の攻撃回避手段を阻害することで、普段はバランスを保つために抑制されている免疫抑制機能を活性化させてがん細胞と闘えるようにする治療薬です。
がん細胞が発現する分子はそれぞれ異なるため、分子ごとに適用する薬剤の種類が分かれています。
免疫チェックポイント阻害薬の種類
免疫チェックポイント阻害薬の種類は主に3種類あります。
- 抗CTLA-4抗体薬
(ヤーボイ:イピリムバブ) - 抗PD-1抗体薬
(ニボルマブ、ペムブロリズマブ) - 抗PD-L1 抗体薬
(アテゾリズマブ、アベルマブ)
それぞれ結合する分子が異なりますが、さまざまな結合のアプローチによってがん細胞が免疫機構から逃れようとする働きを防ぎ、免疫細胞の活性化によって治療効果を発揮します。
ヤーボイについて
免疫チェックポイント阻害薬の一種である「ヤーボイ」とは。一体どのような薬剤であり、どんな治療効果を発揮できるのでしょうか。この項目では、ヤーボイの治療期間や費用についてご紹介します。
ヤーボイとは
ヤーボイとは免疫チェックポイント阻害薬の一種です。主に「CTLA-4」という分子に結合し、免疫反応のブレーキを外す役割を果たします。過剰にはたらくことのないよう、普段は抑制されバランスが保たれている免疫機構の働きを最大限に引き出し、がんと闘う力に変換させる働きを持っています。
ヤーボイの治療期間
ヤーボイの治療期間は、投与日と休薬期間を合わせた合計21日間を1サイクルとし、全部で4サイクルです。初日は点滴注射でヤーボイを投与し、翌日から20日間は休薬期間となります。全ての治療が終了するまでの期間は開始から約2ヶ月要します。
ヤーボイの適応疾患と費用負担
ヤーボイの適応疾患は徐々に拡大されてきています。現在、臨床で使用されている適応疾患は以下になります。
- 非小細胞癌
- 腎細胞がん
- 直腸がん(MSI-High)
- 悪性胸膜中皮腫
- 食道がん
- 悪性黒色腫
ヤーボイ点滴静注液(20mg)の1瓶あたりの薬価は170,598円です。非常に高額ですが、現在は保険適用となっているため、それぞれの健康保険が定める負担割合で治療を受けることができます。
ヤーボイの副作用について
免疫療法はがん治療のなかでも副作用が少ないといわれていますが、まれに重篤な副作用が発生する場合もあるため十分な注意が必要です。この項目では、ヤーボイを使用することによって引き起こされる副作用としてどのような症状が起こるのか、各臓器の炎症反応に伴う症状変化について解説します。
irAE(免疫関連有害事象)とは
免疫チェックポイント阻害薬を使用することによって引き起こされる副作用のことをirAE(免疫関連有害事象)といいます。免疫抑制機能は本来、過剰な炎症や自己組織の免疫反応のバランスを保つために備わった生理的機能です。
この機能を応用し、がん細胞と闘う治療法として確立されたのが免疫チェックポイント阻害薬になります。そのため、治療目的で免疫チェックポイント阻害薬を使用すると、がんと闘うために普段は抑制されている免疫細胞の働きも解放され強い攻撃力を持ちます。つまり体内の免疫細胞が制限なく最大の力を発揮します。
がんに対する高い治療効果を得ることができますが、一方でこの反応によって免疫細胞はコントロールが効かなくなると正常な細胞まで傷つけてしまうことがあります。
その結果、体内の各部位で炎症反応が起こってしまい副作用という形であらゆる部位へ症状が出現します。このメカニズムによって引き起こされる症状のことirAE(免疫関連有害事象)といいます。
ヤーボイの主な副作用
免疫チェックポイント阻害薬を使用すると主に以下のような臓器障害と症状が起こることがあります。
消化管障害
消化管に炎症反応が起こることで大腸炎の症状が起こることがあります。炎症が強い場合は消化管に穴があく消化管穿孔という病気を起こすこともあります。
<出現しやすい腹部症状>
- 排便異常(便の色が黒いまたは、血液様のものが混じっている状態)
- 複数回の下痢や軟便
- 排便回数の増加
- お腹の痛みやお腹を押した時に感じる鋭い痛み
- 持続する吐き気や嘔吐
肝障害
肝臓に炎症が起こると、血液中の肝臓酵素であるAST,ALT,総ビリルビンの数値が高くなります。肝臓に影響が生じていても症状として出現しにくい傾向があるため、定期的な採血を実施し評価していきます。
<出現しやすい症状>
- 採血結果で肝臓酵素の値の上昇
- 皮膚や白眼が黄色味を帯びる(黄疸)
- 疲れやすく倦怠感がある
皮膚障害
皮膚障害はかゆみを伴うものと、かゆみはないが水ぶくれや皮膚が向けるといったスキンコンディションのトラブルが起こることがあります。炎症反応が強いと、熱を伴う全身性の発疹などが出現することもあるので皮膚状態に違和感を感じたら医師に相談しましょう。
<出現しやすい症状>
- 皮膚のかゆみ
- 発疹や赤みの出現
- 皮膚トラブル(水ぶくれや皮膚むけ)
神経障害
免疫療法による副作用は神経にも影響を及ぼすことがあります。炎症がさらに強く出ると、髄膜炎や炎症性筋疾患など重篤な症状を引き起こすこともあります。
<出現しやすい副作用>
- 手や足に痺れや鋭い痛みがある
- 歩行時に違和感がある
- 手足や顔に力が入りづらい
- めまいや失神
内分泌障害
ホルモン分泌を行っている器官である甲状腺や下垂体、腎臓に炎症が起こると甲状腺機能低下症や副腎機能不全、下垂体機能低下症といった症状を起こすことがあります。そのなかでも起こりやすいのが糖尿病です。もともと糖尿病ではなかったが免疫療法による内分泌機能の炎症反応によって1糖尿病と診断されることもあります。
<出現しやすい症状>
- 眠気が強い
- 倦怠感の持続
- 精神不安定(イライラや抑うつ傾向)
- 頭痛
- 低血圧
- 視界がぼやけて物が二重に見える
- 血糖値の上昇
腎障害
腎機能が低下すると排尿が上手く行われず、むくみ(浮腫)や濃縮尿が出たりします。
<出現しやすい症状>
- むくみ(浮腫)
- 血液中のクレアチニンの上昇
- 尿の色が赤褐色など濃い色になる
間質性肺炎
肺に炎症が起こり、空気を取り込む肺胞という部位が固くなることで呼吸が上手く行われなくなる「間質性肺炎」を起こすことがあります。間質性肺炎は重症化すると生命に危険を及ぼす可能性もあるため症状の出現には十分な注意が必要であり、免疫療法においても最も注意すべき症状といえるでしょう。
<出現しやすい症状>
- 息苦しさや息切れ
- 空咳(痰のない乾いた咳)の頻発
- 発熱
- 倦怠感
筋炎
筋肉にも炎症が起こると、以下のような症状が起こることがあります。
- 発熱
- 筋肉の痛み
- 身体に力が入りにくい
その他の出現しやすい症状と副作用
- 食欲の減退
- 眼の症状
眼の痛みや霧がかかったような見え方が起こることがあります。ブドウ膜炎を生じることもあり、強い眩しさや虫が飛んでいるように見える症状が出ることもあります。ブドウ膜炎は重症化すると失明のリスクもあるので眼に気になる症状がある場合は早めに診察してもらいましょう。 - 関節痛
骨に炎症が起こり関節の痛みが生じることがあります。 - リンパ球の減少や貧血リスク
血液中に含まれているヘモグロビンやリンパ球が減ることがあります。ヘモグロビンの低下は貧血を起こし、倦怠感も持続します。リンパ球の減少が起こると、抵抗力が弱まり風邪をひきやすくなり、感染症の罹患率が高まります。
ヤーボイ治療中または終了後、このような症状が出現した場合は状態によっては重篤する可能性もあります。速やかに医療スタッフに相談、もしくは医療機関を受診しましょう。
副作用の出現時期
免疫療法の副作用は、他の治療法のように治療後早期に出現するものばかりではありません。副作用の出現が早い場合もあれば、治療終了後数ヶ月または1 年後に出現することもあります。副作用の出現は個人差によるものが大きいため、治療が問題なく終了したとしても長期的に注意が必要となります。また、場合によっては副作用が重篤化する可能性もあるため、何かしらの身体の異変を感じた場合は一過性のものである楽観せず、速やかに担当医に相談するように心がけましょう。
まとめ
免疫療法で用いるヤーボイは、CTLA-4という分子に作用して自己免疫にアプローチし、がん細胞を攻撃できるようにする薬剤です。免疫療法はがんの標準治療のなかでも、痛みや副作用が少なく身体の負担も少ない画期的な治療方法です。一部のがんだけでなく全身性のがんにも対応が可能であり、がん患者にとってメリットの多い治療法であるといえます。
しかし、免疫療法の効果の発現には個人差があることや、副反応には重篤な症状が起こる可能性があることを十分に理解したうえで治療に臨むことが大切です。ヤーボイによる癌治療を検討されている方は、主治医に相談のうえ、自身の状況に合っている方法なのかをよく確認しましょう。第三者の意見を聞きたい場合にはセカンドオピニオンの活用も有効です。納得のいく治療法を選択できるよう、十分に情報収集することをおすすめします。