原発不明がんとは?原発巣がわからない理由や治療方法について解説

どのようながんであっても、最初にがんが発生した「原発巣」が存在します。しかし、その原発巣がわからない「原発不明がん」というがんがあることをご存じでしょうか。
本記事では、原発不明がんについて、原発巣がわからない理由や診断方法・治療方法などについて解説していきます。
現在、ご自身やご家族が原発不明がんを疑われている方、あるいは原発不明がんについて詳しく知りたいという方はぜひご一読ください。
目次
原発不明がんとは

がんは、初めに発生した部位(臓器)から、血管やリンパ管などを経由してほかの臓器やリンパ節に転移する性質をもっています。しかし、転移したがんが臓器やリンパ節で発見されたにもかかわらず、精密検査をおこなっても最初に発生した部位=原発巣がわからないがんを総称して「原発不明がん」といいます。
原発不明がんが発見されやすい部位には、リンパ節・腹膜・胸膜・肺・肝臓・骨などが挙げられます。また、原発不明がんの場合、通常のがん転移とは異なる特徴がみられ、病状も一人ひとり異なります。
日本における年間の罹患数は約7,000人といわれており、がん全体の1~5%を占めると推定されています。発症するのは男性よりも女性のほうがやや多い傾向にあり、65歳以上の方に多くみられます。
一般的に、ほかのがんと比べると予後が不良であることが多く、原発巣がわからないことから、診断や治療も難しいといわれています。
原発不明がんの症状

原発不明がんの症状は、がんが転移している部位や臓器によってそれぞれ異なります。
ここからは、原発不明がんにみられる代表的な症状について説明していきます。
リンパ節の腫大
原発不明がんがもっとも多く発見される部位はリンパ節です。
わきの下・首の周り・太もものつけ根付近のあるリンパ節は、体の表面に近い部分にあります。リンパ節に転移がある場合、これらの部分に触れると、痛みをともなわないしこりが見つかることがあります。
腹水・胸水
腹膜や胸膜(腹部・肺を覆っている膜)にがんが転移することで、腹水や胸水が溜まってしまうことがあります。
腹水でいちばん多くみられる症状として、腹部が膨れたり張ったりする腹部膨満感が挙げられます。また、胸水がたまると、心臓や肺が圧迫され、息苦しさや胸痛の症状があらわれます。
肝腫瘍・肺腫瘍
肝臓に転移すると、上腹部に膨満感や不快感を覚えたり、しこりを触れたりすることがあります。また、肺への転移では、声のかすれや胸痛・咳などの症状がみられます。
一般的に、肝臓や肺への転移は進行するまで目立った症状があらわれないため、健康診断や人間ドックを受診した際、X線検査や超音波検査などで偶然発見されることもあります。
骨の症状
骨転移があると、骨そのものに痛みが生じたり、がんが神経を圧迫することで麻痺やしびれを引き起こしたりします。
骨への転移は、痛みの自覚症状で気づくこともありますが、骨折(病的骨折)をきっかけに発見されるケースが多いとされています。
脳の症状
脳にがんが転移した場合、頭痛や吐き気、四肢の麻痺・痙攣、話すときにろれつが回らないなどの症状があらわれる場合があります。
全身の症状
がんによる炎症が原因で、全身症状があらわれることがあります。たとえば、原因不明の体重減少や食欲不振・倦怠感・発熱などが代表的な症状として挙げられます。
原発巣がなぜわからないのか

なぜ原発巣がわからないのか、おもな原因として以下のようなことが考えられます。
- 原発巣である病巣が極めて小さく、検査で見つけることができなかった
- 原発巣が検査で見つけづらい部位にある(小腸がん・盲腸がんなど)
- 原発巣が自然に消えてしまい、転移したがんだけが残った
(精巣原発胚細胞腫瘍・腎細胞がんなど) - 広範囲にがんが転移しているため、原発巣を見つけるのが困難である
(膵臓がん・胆道がんなど)
原発不明がんの発症頻度には、CT・MRI・PET-CTなどの画像診断や、病理学的な組織診断の技術も大きく関係しています。近年では、画像検査の技術の進歩により、これまでは発見が難しいとされていた体の奥にあるがんや、小さながんが見つかることも増えてきました。そのため、原発不明がんの発症頻度も徐々に減少する傾向がみられます。
原発不明がんの診断とおこなう検査

原発不明がんが疑われた場合、その診断はどのようにおこなわれるのでしょうか。
ここでは、原発不明がんが診断されるまでの流れと、診断に必要な検査について解説していきます。
原発不明がん診断までのプロセス
原発不明がんであることが疑われた場合、以下のプロセスを経て診断が確定されます。
- 問診・診察
はじめに、問診で詳しく病歴や家族歴の聞き取りをします。また、診察で現在の身体所見を詳しく確認し、原発巣の推測をおこないます。診察には、頭頚部・乳房と婦人科領域(女性)・泌尿器科領域(男性)・直腸診が含まれます。
血液検査(腫瘍マーカーを含む)や尿検査・便潜血検査などの一般的な検査は、この段階でおこなわれます。 - 画像検査
次に、画像検査によりがんの転移の状況を確認します。
X線検査やCT・MRIなどの画像検査に加え、必要に応じてPET-CTや内視鏡検査(上腹部・下腹部消化管)、さらに女性の場合はマンモグラフィ検査や乳房超音波検査などがおこなわれます。 - 病理検査(病理学的組織診断)
画像検査とほぼ並行して実施されるのが、病理検査です。
病理検査では、病巣の一部を採取してがんの性質やタイプ(組織型)を詳しく調べます。また、必要に応じて、染色体検査や遺伝子検査がおこなわれることもあります。
以上のプロセスを経ても原発巣が特定できなかった場合は、原発不明がんと診断されます。
原発不明がんの診断に必要な検査
原発不明がんの診断に必要なおもな検査は、以下のとおりです。
- 血液検査
血算・生化学検査
腫瘍マーカー(CEA・CA19-9・β-HCG・NSE・CA125・NCCST439・PSAほか) - 尿検査(一般検尿・細胞診)
- 便潜血検査
- 画像検査
胸部X線・頚部~骨盤CT・MRI・骨シンチ・ガリウムシンチ・マンモグラフィ
PETまたはPET-CTなど - 内視鏡検査
部消化管内視鏡検査・下部消化管内視鏡検査 - 病理検査(病理学的組織診断)
なかでも、原発不明がんの診断では、がんの組織型や状態を詳しく調べる「病理検査」が重要な役割を果たします。
組織型とは、がん細胞の形やがん細胞が集まった組織の状態をタイプ別に分類したものです。原発不明がんの場合は、以下の5つのタイプに分類されます。
- 高・中分化腺がん
- 低分化腺がん・未分化がん
- 扁平上皮がん
- 神経内分泌腫瘍
- 低分化悪性新生物
これらの組織型のなかでもっとも多いのは「高・中分化腺がん」で、原発不明がんの約60%を占めています。一部の腺がんでは、組織型を調べることで原発巣を特定できる場合があるため、病理検査はどのような場合でも必ずおこなわれます。
また、原発巣の推測のためには、組織特有の抗原物質を染色する免疫組織染色マーカーが用いられ、必要に応じて染色体検査や遺伝子検査がおこなわれます。
原発不明がんの治療

原発不明がんと診断された場合、最初にあらわれた症状や病理検査で調べた組織型から、もっとも可能性の高い原発巣を想定して治療方針が決められます。
すでに転移した状態で発見される原発不明がんは、ほとんどが「進行がん」であるため、抗がん剤などの薬物療法が治療の中心となることが一般的です。
ただし、なかには特定の治療方法に反応するケースも存在するため、その場合は外科的治療や放射線治療などの局所治療をおこないます。
ここでは、特定の治療の方法が考えられる場合と、考えられない場合の2つのケースに分けて治療方法を説明していきます。
特定の治療方法が考えられる場合
特定の治療方法が考えられる原発不明がんは、全体の約20%だとされています。
このケースに当てはまる場合は、推測されるがんの種類に応じて、外科手術・放射線治療・抗がん剤治療を用いた標準治療をおこないます。
たとえば、女性で原発不明の腋窩リンパ節転移(腺がん)の場合、乳がんと同様に外科手術を中心とした治療をします。また、原発不明の頸部リンパ節への転移(扁平上皮がん)では、リンパ節の転移巣が比較的小さく、転移した腫瘍の数が少ない場合には、単独での放射線治療や、放射線治療と抗がん剤を併用した治療をおこないます。
特定の治療方法が考えられるケースでは、これら標準治療を組み合わせた治療による効果が期待できるといわれています。
特定の治療方法が考えられない場合
原発不明がんの約80%には、がん病変の分布と組織型の組み合わせに特徴がなく、特定の治療方法もありません。
原発不明がんは、すでに進行して転移した状態で診断されるため、外科手術で完全に病巣を取り除き、完治を目指すことは極めて困難です。そのような場合は、がんを小さくすることを目的に、抗がん剤治療などの薬物療法をおこないます。
また、腫瘍が大きくなり消化管の通過障害で食事ができなくなった場合などは、QOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)の維持をするため、腫瘍摘出や人工肛門造設などの緩和的手術をおこなうことがあります。同様に、骨への転移による痛みに対しては、痛みを緩和するための放射線治療をおこないます。
このように、特定の治療方法が考えられないケースにおいても、緩和ケアとして標準治療の方法が用いられることがあります。
原発不明がんについてよくある質問

最後に、原発不明がんについてよくある質問にお答えしていきます。
原発不明がんを疑われたらどうすればよい?
原発不明がんを疑われたときには、原発不明がんの診療を専門におこなっている医療機関を受診しましょう。また、すでに医療機関を受診していて病理検査の結果が出ていたとしても、原発不明がんを専門にしている医療機関にセカンドオピニオンを求め、病理医に再度組織を見てもらうことをおすすめします。
どの医療機関を受診すればよいのかわからない場合は、各都道府県のがん拠点病院の相談支援センターで探してもらうこともできます。
また、国立がん研究センター中央病院の希少がんセンターが設置している「希少がんホットライン」でも、原発不明がんの初診・セカンドオピニオンに関する相談を受け付けています。
原発不明がんの生存率は?
一般的に、原発不明がんの予後はほかのがんに比べると不良で、1年生存率は25%未満、5年生存率10%未満といわれています。しかし、原発不明がんのなかにも、予後が良好なケースがあることがわかっています。
予後が良好な原発不明がんの例は、以下のとおりです。
- 女性で腋窩リンパ節への転移(腺がん)のみ
- 女性でCA125が上昇しているが、腹膜転移(腺がん)のみ
- 男性でPSAが上昇しているが、造骨性転移のみ
- 頸部リンパ節転移(扁平上皮癌)のみ
- 鼠径部リンパ節転移(扁平上皮癌)のみ
- 転移している臓器が1か所のみ
- 肝転移していない
近年では、がん細胞の遺伝子検査による原発巣を推測の方法や、免疫チェックポイント阻害薬・分子標的治療薬などの新しい薬剤を使用した治療法の研究が進んでいるため、原発不明がんの予後改善も期待されています。
原発不明がんのステージはどのように決まる?
ステージ(病期)は、がんの進行状況をあらわす指標で、適応する治療方法を選択するために用いられています。しかし、原発不明がんの場合、現在のところステージは設定されていません。
そのため、原発不明がんにおいては、それぞれの患者さんの状態や症状を総合的に判断し、日本腫瘍診療学会による「原発不明がん診療ガイドライン」をもとに最適な治療方法が決められます。
まとめ

本記事では、原発不明がんについて詳しく解説してきました。
原発不明がんは、原発巣を確定することが非常に難しいため、その治療も困難であることが多いがんです。また、がんがすでに転移している状態で見つかるため、ほかのがんに比べると予後は不良だといわざるを得ません。
しかし、近年では、遺伝子検査や染色体検査による原発巣推測の方法や、免疫チェックポイント阻害薬・分子標的治療薬などの新しい薬剤を用いた治療も用いられており、今後の予後改善が期待されています。
原発不明がんは診断や治療の難しいがんではありますが、この記事を参考に、セカンドオピニオンやがん支援相談センターなどを活用して適切な診断・治療を受けていただけると幸いです。